「このお店って昔からあるんですか?」
僕の質問に、おばあちゃんは指折りしながら頷いて言った。
「そうねぇ、まだ黒崎に駅ができるより前からだねぇ……おばあちゃんのお父さんのお父さん、そのまたお父さんの頃からあるみたいだから……」
「すごく永いですね……」
僕は純粋に凄いと思った。だって、僕の身近にいる誰もが、一度はこのお店を見たことがあるってことがしれないんだ。いや、きっと、黒崎近辺に住んでいた人達は、入ったことはないにしても目にしたことはあるだろう。僕達が住む令和の世の中よりも、四百年も昔からあるのなら、きっとそうだ。
歴史って本当に深くて、広くて、高いものだ。世界から見て、こんな小さなところにも歴史は存在する。僕はおばあちゃんとの会話が楽しくなってきていた。
「おばあちゃん、黒崎って昔は工業地帯だったんでしょ?」
「詳しいねぇ……そうだよ、戦争中なんか武器を作ったりもしていて、空襲にもあってるよ」
「え?黒崎でも?」
「そうだよ、大戦中にね。今じゃ八幡空襲なんて名前もついてるくらいだよ。おばあちゃんの孫は、小学校で古い写真な展示があったから知ってたみたいだけど、今もそうなのかい?」
「ううん、そんなのは無かったよ。けど、僕のおじいちゃんが言ってたんだ」
あの頃は、大変だったらしい。
夜中に僕のおばさんを背中に抱えて列車に乗っては、食べ物を買いに行って、帰ってくるのは翌日、なんてこともざらだったみたい。病気になっても病院に行けなかったから、病院が嫌いになったとも言っていた。そのときは笑っていたけど、きっと、あれは本心だったんだろう。
「そうかい。最近は、そんなことも無くなってしまったんだねぇ……ほんの二十年前くらいまでは、近所の小学校が教育の為にって話しをしてくださいって来てたけど、それもめっきり無くなってしまってねぇ、寂しくなったものだよ」
冷房の音が大きくなった気がした。もっと明るい話題にしたかったのに、僕が昔の話しをしてしまったからかもしれない。途端に、喋らなくなった僕に、おばあちゃんは、短く笑ってから店の出入り口を眺めて目を細めた。
「それでもね、今日は僕達が来てくれたし、こうして話しもしてくれた。だからねえ、おばあちゃんはすごく嬉しいんだよ。近頃じゃあ、近所付き合いも薄くなって、こんな老人の話しには誰も付き合ってくれないからねぇ」
「あの、俺達以外、来てた人っていないんすか?」
剛君が遠慮ぎみに尋ねると、おばあちゃんは少しだけ黙ったあと、ああ、と思い出したように続けた。