「そういえば、五、六年……おや、七、八年くらい前だったかねぇ、僕達よりも、ちょっとだけ年上の女の子が遊びに来てたかねぇ……」
おばあちゃんは、首を傾げて考えている間も僕らは待ち続けた。それでも、ハッキリと思い出すことは出来なかったようだったけど、おばあちゃんは細い記憶を頼りに言った。
「最初に会ったときより、見た目が変わっていたけど、すぐにその娘だって分かって……そうそう、確か、名前が美しい海で、みか、って言ってたねぇ」
「美海さん……ですか?」
その名前は、僕も耳にしたことがあった。近所でも可愛いって有名な女の子だったけど、あるときから、ぷっつりと聞かなくなっていた。同時に、僕の中で何か引っ掛りができる。なんだろう、不意に顔を出した違和感の正体に気づけないうちに、僕らとおばあちゃんの会話は、ひとまず区切りがつく。僕らが店の出入り口を開けると、鈴の音に混じっておばあちゃんの、また来てね、って声がした。剛君が、また絶対に来ると残して扉を閉める。
暑い日射しに晒された僕らだったけど、来たときとは違って、ほんの指先程度だけど、涼しく感じる。その理由はわかっていたから、戸惑いはなかった。アーケードに向かって歩き出すと、剛君が空を仰ぐ。
「なあ、豊」
「なに?」
「また、絶対に来ような」
「うん、そうだね……あのさ、剛君」
「なんだよ」
「おばあちゃんと最初に会ったとき、泣きそうな顔になってたけど、どうして?」
僕の質問で、剛君は両手を頭の後で組んだ。
「んーー、別に理由はないよ。ただ、なんとなく……さ」
「そうなんだ」
そう言っていた剛君の頰と目が紅くなっていることに、僕は気付いていたけど、それだけを返した。それは、おばあちゃんの話しを訊いて、黒崎までの坂で考えていたことの答えが、一部だけ見つけられたからだ。
カッコつけたいい方だと笑われそうだけど、歴史はいろんな場所で繋がるんだから、僕らの繋がりも、いつかどこかで繋がる。だから、剛君がいずれ話してくれる、そう思えたからだ。今日、おばあちゃんと会えて話しが出来たことは、これから先もきっと活きてくる。そう考えていた矢先、僕らにとって最も最悪な事態が訪れた。
僕と剛君が黒崎駅の歩行者デッキに戻る為にエスカレーターで登りきったとき、中央広場に白木弘人、大場直人、僕らに対してのイジメ主犯格の二人がいた。こういうとき、正面にいたらすぐに目が離せなくなってしまうし、足が自然と止まってしまう。
二人も僕らに気付いたらしく、憂さ晴らしの相手でも発見したように、ニヤツキながら近寄ってくる。