僕が焦ってしまっただけだったけど、結果として周囲の目に晒された二人は、目に見えて狼狽え始め、急いで僕の口を塞ぎ、大人達にぎこちない笑顔を振り撒く。そして、白木が剛君の肩に腕を回して僕にも聞こえるような小声で言った。
「ちょっと、こっちこいよ」
僕には大場がついた。
仲良し四人組が中学生ならではの奇妙な結託を示しながら歩く、そんなじゃれあいにも見えるだろう。
だけど、大人達、これは全くそんなことじゃないんだ。そもそも、本当に仲良しなのだとしたら注がれる視線だって、子供はさほど気にしないのに、二人の様子をよく眺めてみてくれよ。口元や言葉だけで体裁を保っているだけじゃないか。僕らの姿勢にも気づいてくれよ。こんなに肩を落としていることもおかしいとは思わないか。テレビで地域の交流が、なんて口にしてるのは、大人なのに、どうして気付いてくれないんだ。
黒崎駅を正面に歩行者デッキを左へ進み、エスカレーターを使ってバスターミナルに降りた僕らは、まっすぐに通路を突き抜けた先にある古いトイレに連れ込まれた。
こんな場所にトイレがあるなんて、僕も知らなかった。
「ほら、入れよ」
白木が剛君の肩を押せば、それほど広くないトイレの壁に身体をぶつけて、小さく呻いていたけど、白木は構わずに僕に詰め寄る。
「なあなあ、お前さぁ、なんであんな大きい声だしたの?大袈裟なくらいのさぁ!」
途端、息苦しさと鈍痛がお腹から込み上げてきた。堪らず、膝を折りかけた僕は、ここがトイレだってことを思い返して両足に力を入れる。それが、気に障ったのか、白木は、もう一度、今度は前のめりになった僕の背中に肘を下ろした。
「うぅっ!」
こればかりは耐えきれない。
背中から腰に伝わった振動は、痛みと一緒に僕の両足から力を軽々と奪いさっていった。汚れたタイルに膝をつけば、足下で袋の音がする。
「おい、根性なしが何を耐えようとしてんの?お前みてえな奴に、一発でも耐えられたら、一毅君と直人君に何を言われるかわかんねぇだろうが!」
直後に、タイル張りの床から白木の左足が浮かび、僕のお腹に二度目の攻撃が入った。スニーカーの爪先が内蔵に悲鳴をあげさせる。
どうにか涙を見せないようにしていたけど、場所と、いまの僕の現状を考えてしまうと、我慢の限界だった。
知らない誰もが用を足す公衆トイレで膝ま付いて、お腹を抑えながら、顔を床のタイル近くまで下げた情けない恰好……だけど、こんなとき、いつも脳裏を過るのは、もっと悲惨な目にあった自分の姿だ。そのイメージへの恐怖により、僕はやり返すっていう選択肢を選べないんだ。