僕は、剛君や白木、大場が驚愕の声をあげている最中にも、匂いの正体を探っていた。やがて、小学生の頃、工作の授業でペンキを使ったことを思いだし、匂いの謎が解けた。そして、僕の視線は自然と空き缶に向かっていく。
「あぁ!?一毅よぉ、見たことあるって言ってんだろがぁ!」
ガクガクと髪が揺らされる度に、痛みで新山の表情が歪んでいく。すいません、すいません、と鬼山に謝っているが、僕らには理由が分からなかった。見たことがある、それが怒りの原因だとすれば、新山自身もなにがどうなっているのか、理解できていないだろう。
単純に鬼山は、シンナーを吸い、いわゆる、ラリっているんだ。缶の中身、あれはラベルの通りじゃない。
「すいませんでした鬼山さん!僕ら、もう出ていきますから!出ていきますから勘弁して下さい!お願いします!」
大場が鬼山の腕に飛び付くも、新山ともども軽く振り払われた。トイレに転がった二人は、恐々と鬼山を仰ぐ。
「あ?本当に悪かったと思うなら、どうすれば良いか教えたよなぁ?一毅ィ……」
新山は、ピクリ、と震えた後で、白木と大場、僕達のことすらも視認して唇を噛み、膝を立てて正座する。そして、腰を曲げると頭をトイレの床につけた。
これがなんていう態勢か知っている。土下座ってやつだ。新山は鬼山達に旋毛を晒した直後、拳を握った。
「自分のツレが迷惑をかけて申し訳ありませんでした……今後は、このようなことがないようにします……」
新山の声は、どんどんと曇っていった。その悔しさを圧し殺すために、拳を握ったのだろう。
「そうそう、分かってきたじゃねえの一毅」
僕らには新山の顔が見えないけど、きっと泣いているのだと思った。
僕らだって、学校だけじゃなく、さっきだって泣きたいときは山程あった。けど、どうしてか、新山の背中に対して、ざまあみろって気持ちがもてない。
機嫌を戻したらしい鬼山が、白木と大場に目を配る。
「おう、お前ら一毅に感謝しろよ。もう行って良いぞ」
「はい……」
返事のあと、大場が新山の肩を叩いて立ち上がらせようとしたけど、二人の間に鬼山の怒号が飛んだ。
「おい!一毅まで連れていって良いなんて誰も言ってねえだろうが!殺すぞボケ!」
白木が短く悲鳴をあげる。大場はびくつきながら新山から手を離した。
「なあ……頼むから、行ってくれよ……これ以上、鬼山さんの機嫌悪くしないでくれ……お前ら、邪魔なんだよ」
新山は、また頭を鬼山に下げて言った。