色眼鏡なしに接してくれる両親意外の大人の存在が単純に嬉しかったんだ。少なくとも、僕らにとって救いの一端にはなりえる。
僕は、真美さんを裏切ろうとしていた。ここまで信用を向けてくれる女性を、自分の都合だけで離れてしまおうと思っていたんだ。曇空の代わりに、押し寄せてきた激しい後悔の念を喉の奥へ追いやると、頭にある真美さんの手を掴んで両手で握り返す。
「ごめんなさい……僕は真美さんを……」
僕の言葉を遮った真美さんが、くすり、と笑う。
「もう充分だから、ね?それから先は言わないで」
違うんです、と首を振れば良かったのだろうけど、僕はそれっきり何も続けなかった。真美さんの手を放すと同時に、僕の部屋の扉がノックされる。シャワーを終えて入ってきた剛君は、澱んでいた表情のまま、真美さんに言った。
「あの、真美さん……俺……」
目を丸くして剛君を迎えいれた真美さんは、剛君の声に反応して、君達って似た者同士だね、と笑い出す。すると、自然と僕も笑っていた。置いてきぼりになった剛君には悪いけど、笑っていたら、あれだけの出来事も大したことじゃないように思えてくる。
そう言えば、三國志に梅干しの話しがあったはずだ。確か、喉が渇いた大勢の兵士に、この先に梅の林があるぞ、と指をさす。すると、大軍は一時の間、渇きを忘れて再び、行進を始めた。後に英雄と呼ばれるようになる将軍の逸話なのだれど、このときの真美さんは、そういう思惑があったのかもしれないと思うときがある。
人って、意外と単純なのかもしれないなぁ……
※※※ ※※※
「そうなってくると、ちょっと不都合があるかもしれないね」
僕と剛君の説明を受けた真美さんは、ベッドの上で深刻そうな顔つきをしたまま足を組んだ。
白木と大場が僕らから奪った晒をどのように扱うかっていう話しだったのだけれど、大きな問題が浮上した。
白木と大場が晒を持っていったこと。それを前提として置いておき、二人が新山に渡してしまうパターンがあった場合、鬼山にも知られてしまうかもしれない。ナップサックを作るなんて出鱈目を伝えてはいるが、普通は晒なんか使わない。一つの嘘が、大きな不都合に派生してしまうと、鬼山が新山になんらかの指示を出すだろう。
例えば、晒をなんの為に使うのか、とか……
僕らの話しを聞いた真美さんは、すぐにその可能性に気が付き、なにか対策を立て始める。備えあれば憂いなし、どんな不安要素も先に潰してしまえば押さえつけることができるらしい。真美さんからの受け売りだ。