決行の日は、意外と早く訪れた。
あれから、二日後、ベッドで何をするでもなく寝転がっていた僕のスマートフォンが揺れたのは、昼過ぎだった。LINEのポップアップに打たれていた文字は、
「今日、親の帰りが早いみたい。それに明日は、仕事が休みみたいだから、起きるのも遅いはずだよ」こんな内容で、送信主は、もちろん、光君だ。
僕は、すぐに短く、了解と返信して寝間着から白の半袖シャツとジーンズに履き替えて剛君の家に自転車で向かった。
二日間、外に出ていなかった僕には、夏の昼間に注ぐ日射しは少しだけ厳しかったけれど、今日の深夜に、僕らは英雄への一歩を踏み出せるのだと思えば、そんなことを気にしている余裕なんてない。
短い橋を越えて坂道が現れると、自転車のギアを六速から一速にする。そして、僕らが通っていた小学校を横目に、真っ直ぐ一気にペダルを回して、見えてきた鉄塔を左に曲がれば、軒が繋がる古い木造長屋がある。そこの右から二番目が、剛君の家だ。
僕は、玄関の脇に剛君の青い色の自転車が止まっているのを確認してから、扉を遠慮ぎみに一回だけノックする。これは、僕ら三人で決めたことだ。剛君のお父さんは、強面で体格も良いけど、近所での評判は良くない。前に、何度も怒鳴られたこともある。
緊張しながら待っていると、足音が聞こえ始め、扉の手前で止まりノブが回る。少しだけ開いた扉から顔を出したのは、剛君だったけど、どこか暗い顔をしている。僕には、その理由がすぐにわかった。
「今日、おじさんがいるの?」
目を強張らせて、声も出さずに頷いた剛君は、出来るだけ音をたてないように、ゆっくりと玄関を閉じた。寝ている間に無理矢理起きると、すごく機嫌が悪いらしい。
外に出ても、剛君はヒソヒソ声だ。
「どうしたんだよ、あんまり話せないから短くな」
頻りに玄関へ目線を送る剛君の耳に口を寄せて、光君からの連絡を伝えると、喉を小さく鳴らして、徐々に表情から影が無くなっていった。
「今日の夜、十二時半くらいはどう?」
「ああ、わかった」
少しだけ弾んだ声に熱がある。
僕や光君よりも、この瞬間を待ち望んでいたのは、やっぱり剛君だった。短いやり取りを交わした僕は、剛君と別れて光君にLINEを送ると、自転車を降りて押しながら帰る。
久しぶりの晴れやかな気分を少しでも残しておきたかった。学校ではイジメを受け、家では引き込もっている僕には、懐かしい感覚だ。普段、やらないことをやりたくなるこの感じ、わかるかな?
胸がドキドキして、口から出てきそうで、でも、足だけは軽いし、頭の中はフワフワしてる。