この日は、僕らにとってチャレンジの一日になった。それは、本当にいろんな意味を含んでいるのだけれど、詳しくは書き表せられない。
僕は、いつものようにベッドの上で目覚め、まだ開いてない押し入れの扉を見てから部屋を出た。時刻は、朝の七時半、この時間だと、そろそろお父さんが仕事にいく頃だろう。
居間から聞こえてくるのは、今朝のニュースだ。なにやら、ホテルで死体が見つかっただの、芸能人が結婚しただの、キャスターの女性が原稿に目を落としながら喋っていた。毎回、思うのだけど、こんな似た内容のニュースを飽きもせずに毎日流していて、嫌にならないのかな。
僕は、台所に立って朝御飯の用意をしているお母さんに欠伸混じりで声を掛けた。
「朝御飯なに?」
「豊、その前に、言うことがあるだろ」
テーブルに座ったまま、新聞を顔の前で広げていたお父さんの地の底から響いてきたような声に、朝から肩を固めてしまう。僕は、出来るだけお父さんに視線を合わせずに言った。
「おはよう、お母さん、お父さん」
朝から怒られるのはごめんだ。それに、なにやら、今日はお父さんの機嫌が悪いみたい。恐る恐る食卓につくと、お母さんが味噌汁とご飯、目玉焼きをテーブルに置いていく。その様子を黙って眺めていた僕に、お父さんが少し冷えた口調で言う。
「豊、お前、夏休みだからといって気を緩めすぎているんじゃないか?」
ガサリ、と新聞を畳んでテーブルの隅に寄せ、お父さんがメガネを取った。
最近、老眼っていうのがキツくなってきたと買い替えたメガネは、畳んで胸ポケットに納める。
「学校があるときは、六時半には起きてきていただろう。それに、お前、昨夜も遅くまで起きていたみたいだな」
僕は、なんだか箸を持つことが出来なくて、俯いた。昨夜どころか、僕はここ数日間で、とんでもないことに巻き込まれている。それに、真美さんとも、ちょっとだけ、話しをしたりもしていた。
まさか、それを聞かれてしまったのか、と心配した矢先、味噌汁を啜っていたお母さんが僕に柔らかく言った。
「あのね、豊、長いお休みだから、ちょっとだけ普段とは違うことがしたいって気持ちは分かるの。けどね、もしも、このまま続けてたら、学校が始まったとき大変なことになっちゃうわよ」
お父さんが手を合わせて茶碗を持ち上げた。どうやら、ここから先は、お母さんの出番みたいだ。
「大変なことって?」
お母さんは、横目でお父さんを盗み見て微笑んだ。
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