ベッドの上で、むくり、と起き上がり、壁時計を一瞥する。今は、夜の十一時半、夜も充分に深まった。二人が来る一時間前、僕は簡単な工作に取りかかる。本をなるべく人型にして布団に敷き、掛け布団で隠す。出来るだけリアルに、そして、慎重にだ。僕の部屋と両親の寝室はそれほど離れていない。つまり、もしも、ここで覗かれてしまえば、全てが水の泡になる。約十五分を費やして作業を終えると、あとは、ひたすら息を殺して両親が寝静まるのを願うだけだ。
それから、二十分ほど空けて聞こえてきたのは、お母さんがお父さんに明日の予定を確認する声だった。ここまでくれば、あとは寝るだけだろう。更に十分ほど間を置いて、部屋の扉を開き両親の寝室を見た。明かりは漏れてきていない。
僕は心の中で小さくガッツポーズをして、ゆっくりと扉を閉める。いよいよ、決行だ。あと、十分足らずで光君と剛君がここにくる。
閉めたままにしていたカーテンを分けた先には、僕の家を囲う塀がある。そこから、二人の内、どちらかが顔を出せば、今度は僕が抜け出す番だ。
時刻は十二時二十七分になり、僕の心臓が跳ねた。
予定の三分前に、塀の奥でなにかが蠢いていたから蝉か大きな虫かと思っていたけれど、目を凝らすと鼻まで顔を出した剛君だった。僕は、すぐに窓の鍵をあげると、お腹を壁に着けたまま外に着地して中腰で塀に近付く。頭を引っ込めた剛君が右手だけを見せて、早く来るよう手招きをしてるけど、焦って走るとお父さんやお母さんに見付かってしまうかもしれない。テレビでやっていた海外の脱獄ドラマの主人公にでもなったつもりで、僕は塀に手を掛けると、全身に力を込めて塀を乗り越えた。
そこは、まるで別次元にでも落とされたような世界だった。昼間には、あれだけ見渡せていた世界が、月の光だけで照らされる鍾乳洞のように暗く思える。
心許ない街灯の明かりの下に、大きく手を振る剛君と、不安に押し潰されそうになるのを必死に耐えているのか、忙しく首を振って周囲を窺う光君がいた。
二人とも来てくれて良かった、なんて胸中で呟いた僕は、塀に手を掛けたまま、音をたてないよう、静かに降りて二人へ言った。
「集まれて良かった。剛君はともかく、光君は心配だったよ」
消え入りそうなほど震える声で光君が返す。
「あんまり、僕はいれないよ……いまも、不安で不安で怖いくらいなんだから……」
「いつまで言ってんだよ光、もう、ここまで来たんだから、引き返すなんてさせないからな」