WITCHER Ⅲ BERSERIA   作:影絵師

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第四話

 

 恋人のイェネファーを探すゲラルトの旅に付き合っている老いたウィッチャー――ヴェセミル。ホワイト・オーチャードの宿屋の外にいたところ、ゲラルトが戻ってきた。見知らぬ少女と共に。

 首に掛けているメダルが震える中、ゲラルトが話しかけた。

 

ゲラルト「ヴェセミル。良い知らせと悪い知らせがある」

 

ヴェセミル「ゲラルト……イェネファーはどうした? その子を連れ歩いてることは――」

 

ゲラルト「勘違いするな、グリフィン狩りの手伝いをしてもらっているだけだ。腕はいいさ」

 

ベルベット「ベルベット・クラウ、災禍の顕主とも呼ばれてるわ。時間つぶしに付き合ってるのよ」

 

ヴェセミル「正気か、ゲラルト? この娘を危険な目に合わせるつもりか」

 

ゲラルト「どうかな。俺は修羅場をくぐってきたと見るが、見込み違いだったが」

 

 彼の言葉にベルベットを見るヴェセミル。

 確かにゲラルトの言う通り、彼女は多くの戦いを経験してきている。そして怪物や魔法に反応するメダルが震えている。

 ゲラルトの見込みに納得するヴェセミル。

 

ヴェセミル「わかった。だが、足を引っ張られるのは勘弁だ」

 

ベルベット「そうね。命がけの狩りに信用できない者が一緒だと、気が気じゃないわね」

 

 彼女はそう答える。

 ゲラルトはヴェセミルに説明した。

 

ゲラルト「ニルフガード駐屯軍隊長が、イェネファーの行方を知ってる。グリフィンを倒すことを条件にな」

 

 ゲラルトとベルベットの調べで、グリフィンのことがわかっていた。

 グリフィンは雄で、森に巣があった。ニルフガード兵が森を焼き払い、寝ていたグリフィンのつれあいを殺し、卵を潰した。それに激怒した雄のグリフィンが巣を捨て、人々を襲うようになった。

 そんなグリフィンをおびき寄せる為にクロウメモドキを集めた。ちなみに悪臭を放つこれを集めていたのはゲラルトであり、ベルベットはしばらく彼から離れていた。

 小川の向こうに存在する畑と果樹園の広がる場所に罠を仕掛け、やってきた所を襲撃する作戦で行くことになった。

 罠を仕掛けに先に行くヴェセミル。ゲラルトも霊薬(肉体を強化する劇薬。人間にとっては毒)を調合してから行こうとする。

 だが、動こうとしないベルベットに気づき、声をかけた。

 

ゲラルト「どうした?」

 

ベルベット「……別に。少し考えてただけよ」

 

 愛する者と、まだ産まれていない子供を殺された……

 アーサー義兄さんが導師アルトリウスになったきっかけと同じだ。アバル村の人々に裏切られ、業魔化した盗賊に、妻のセリカ姉さんと、そのお腹にいた子――フィーを殺された。

 ……アーサー義兄さんとグリフィンは全く別よ。頭の中で否定する。

 

ベルベット「行くわよ」

 

 ゲラルトと共に指定した場所に向かうベルベット。

 先に着き、クロウメモドキを詰めた羊の模型を設置しているヴェセミルがやって来る二人に気づき、立ち上がる。

 

ゲラルト「小川が流れ、黄金色に波打つ畑……いい所だ。待ち伏せに最適だ」

 

ヴェセミル「場所選びなら任せろ。準備はいいか?」

 

ゲラルト「始めよう。風向きもいいし、臭いはすぐに拡がるだろう」

 

ヴェセミル「よし……あとは待つだけか。来い、身を隠してグリフィンを待つんだ」

 

 木陰に身を隠す3人。ゲラルトがベルベットに尋ねる。

 

ゲラルト「ところでベルベット、君はどういう武器を持ってるんだ? 剣を持ってるようには見えんが」

 

ベルベット「これよ」

 

 右腕の篭手から刺突刃を出し、ブーツに仕込んだ刃を見せた。

 それを見たヴェセミルは呆れた表情をする。

 

ヴェセミル「やれやれ。最近の若い者は風変わりな武器を使いたがる。それは銀で出来ているだろうな」

 

ベルベット「少なくとも、怪物に通用するわ。それに奥の手があるし」

 

ゲラルト「ほう、それは見ものだな」

 

 そういった会話を最後に皆は黙り、グリフィンが来るのを待った。

 

――――

 

 時間がある程度経った時、猛禽類に似た鳴き声が耳に入った。

 

ヴェセミル「聞こえたか? 近いぞ」

 

ゲラルト「じゃあ、暖かく歓迎してやろう」

 

ヴェセミル「待て……これを」

 

 ヴェセミルから受け取ったものを見つめるゲラルト。ベルベットから見ればボウガンと呼べるものだ。

 

ゲラルト「石弓?」

 

ヴェセミル「お前がいなかった間に、グウェント(カードゲーム)の勝負で手に入れた。役に立つはずだ」

 

ゲラルト「おやおや。いつも悪徳について説教していたお方が、賭け事とは」

 

ベルベット「そこまでよ。グリフィンがすぐ来るわ」

 

 彼女がそう言った直後、羊の模型のそばにグリフィンが着地した。大きなライオンと鷲をかけ合わせた姿の怪物だ。

 狩るか、狩られるかの時間だ。木陰から飛び出すゲラルト、ベルベット、ヴェセミル。

 

ヴェセミル「行くぞ!」

 

 銀の剣を抜刀し、素早く接近するゲラルトとヴェセミル。ゲラルトがグリフィンの頭に振り下ろす。羽根が生えている前足で防ぐグリフィン。

 もう片方の前足でゲラルトを裂こうとするグリフィンだが、左手を突き出したゲラルトがクエン(魔法の障壁)を張っていて防がれた。その隙にゲラルトは脇腹を斬りつけた。それでグリフィンが倒れるわけではなく、一旦前足を広げて飛び、ゲラルトから離れた。

 それを見たヴェセミルがゲラルトに助言する。

 

ヴェセミル「ゲラルト! 石弓を使え!」

 

 すぐさま石弓を片手で構え、矢を放つゲラルト。グリフィンの前足に刺さり、落下していく。

 地面に叩きつけられたグリフィンの眼の前にはベルベットが構えており、グリフィンは前足で薙ぎ払う。それを回避するベルベットはその後の連撃を躱し続け、篭手から出した刺突刃で疲れ切ったグリフィンの顔を斬りつける。

 大きく怯んだグリフィンにヴェセミルがアード(衝撃波)を放ち、更に体勢を崩す怪物にイグニ(火炎)を浴びせる。

 全身の羽が燃え上がる中、グリフィンは耐えながら空に飛んてゲラルト達から離れ始める。

 

ゲラルト「逃げる気か!」

 

ヴェセミル「逃がすなよ!」

 

 すぐに追い始める二人。しかし、その必要はなかった。

 ベルベットが包帯を巻いている左腕を地面に叩きつけた直後、グリフィンの真上に跳んだ。その光景に思わず足を止めるゲラルトとヴェセミル。

 ベルベットの左腕は悪魔のように禍々しく巨大化していた。その“業魔手”でグリフィンの頭をワシ掴みし、飛べなくなったグリフィンが落下する際、地面に思いっきり叩きつけた。

 それからグリフィンは少しも動くことなく絶命した。

 本来ならここで狩りは終了だ。ただし、新たな怪物が出たとなれば別だ。ゲラルトとヴェセミルは剣を鞘に戻さず、業魔手をそのままにしているベルベットに問う。

 

ゲラルト「まさか、それが奥の手だったとはな。君は何の怪物だ?」

 

ベルベット「喰魔、この左腕であらゆるものを食い殺して力を奪う業魔よ……どうせ、あの宿屋で会った時から気づいてたでしょ」

 

ゲラルト「ああ。首に掛けているこのメダルが振動してたからな、怪物や魔法に反応する物だ」

 

ヴェセミル「喰魔か……聞いたことのない名前だな。業魔という呼び名も」

 

ベルベット「知っても知らなくても、あんた達はどうでもいいでしょ。ウィッチャーとやらは怪物狩りを専門にしてるようだし。あたしは無抵抗でやられないわ」

 

 そう身構えるベルベットに対し、ゲラルトの頭に次の選択肢が浮かんだ。

 

・ああ、君も化け物だから狩るさ。

・危険とは思えんな。

 

 ゲラルトが選んだのは……

 

ゲラルト「君を倒すように依頼されたわけでもないし、危険そうに思えないがな」

 

 そう言いながら納刀する。ヴェセミルは少々驚きながらも剣をしまい、ゲラルトの言葉に同意する。

 

ヴェセミル「そうだな。人は善、怪物は悪とされてきたが、今は複雑だからな」

 

 そんな二人に驚きと呆れを見せながらも、業魔手を包帯に巻かれた状態に戻す。

 

ベルベット「多額の賞金があたしの首に懸かってると知っても?」

 

ゲラルト「君がいた世界とやらでだろ? そこまで行く暇はないさ」

 

 彼の言葉にやれやれと返すベルベット。

 ヴェセミルは先に宿屋へ戻り、ゲラルトとベルベットは倒したグリフィンの首を駐屯軍隊長に見せに行くことにした。

 

――――

 

 二人が駐屯地についた時、何やら揉め事が起こっていた。

 農民がニルフガード軍への食料を差し出したようだが、その食料の中身に問題があったらしい。

 駐屯軍隊長が問い詰める。

 

「これは一体何だ!?」

 

農民「ライ麦です」

 

「俺を騙せるとても思ったか? こいつは腐ってる」

 

農民「そ……そんな」

 

「馬鹿め、クソ、いつになったら覚える……軍規第2条第3項、不良品を納入した者は、革の鞭で鞭打ち15回とする。連れて行け!」

 

農民「嫌だ……頼む! やめてくれ!」

 

 そう悲願するも、兵士に連れて行かれる農民。それを見ていたゲラルトとベルベットに隊長が怒鳴る。

 

「なんだ!?」

 

ゲラルト「人のいいおじさんを演じるのはやめたのか」

 

「演じたのではない。手を差し伸べたのだ……その手に唾を吐かれてはな」

 

ベルベット「その手があの人達の家族の血で汚れてるからでしょ」

 

「くだらん! 貴様らが私の立場ならどうするんだ?」

 

ゲラルト「その立場にはならん」

ベルベット「あたしもね」

 

「役目は果たしたんだろうな」

 

 その言葉を肯定するゲラルト。

 

ゲラルト「役目は果たした。次はそっちの番だ。イェネファーはどこにいる?」

 

「ヴィジマ(テメリアの首都)だ。MGMの奴もそこに行った」

 

ゲラルト「馬なら1日で行ける……すぐそばじゃないか、なぜ黙っていたんだ」

 

「先に話してたら、グリフィンを退治してくれなかったかもしれんからな」

 

 その答えに何も言わず、立ち去ろうとするゲラルト。ベルベットも後を追うが、隊長に止められた。

 

「まだ話は終わってない。報酬を受け取れ、不当な条件で働かされたなどとは言わせんぞ。ウィッチャーと分けていろ」

 

 金を差し出されたベルベット。ここでの通貨は必要になるだろう。

 でも、もしアバル村の人々が一生懸命育てた作物が軍に取り上げられ、何かあってひどい目に合わされたら……

 

「いいわ。彼がその気だったらね」

 

 隊長から金を受け取り、ゲラルトの後を追う。アバル村はもうない。今は元の世界に戻れることに集中しなければ。

 ゲラルトとベルベットが駐屯地から去る中、農民の悲鳴が恐ろしく響いていた。

 

to be continued 




うーん……ベルベットがお金を受け取った理由がこれで納得できますかな?

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