シリの情報を持つ帝国の諜報員――ヘンドリックがいる十字路の宿屋についた災禍の顕主一行。宿屋に入る前、エレノアは壁に貼られている貼り紙に気づいた。女性の似顔絵が描かれており、その下にこう書かれていた。
“訪ね人
血まみれ男爵の娘 タマラ・ストランカー
誘拐されたと思われる。
彼女を発見したか、連れてきた者には莫大な報酬が与えられる”
ライフィセット「血まみれ男爵……ここを治めてる人だよね。娘さんがいなくなっているんだ」
アイゼン「別の貼り紙には妻も行方不明のようだ。不幸な男爵だ」
ベルベット「あたし達には関係ないわ。さっさとヘンドリックに会うわよ」
エレノア「……そうですね。私達はシリを探さないといけません」
宿屋に入店し、食器を拭いている店主に尋ねた。
ゲラルト「ヘンドリックという男を探している」
「何の用だ?」
ゲラルト達が入ってからコップを拭き続ける手を止めずに聞き返す店主。
ゲラルト「話がしたい」
「何について?」
答えようとしない店主の態度にアイゼンがゲラルトに助言する。
アイゼン「ゲラルト、注文ではなく質問ばかりの客は追い払いたいだろうな」
ゲラルト「そうだな。何か強い酒を、それと子供が飲めるモノも頼む」
そうして注文したのを差し出され、ゲラルト、ロクロウ、アイゼン、マギルゥは酒を、ベルベットとエレノアとライフィセットとビエンフーは果汁を口につけた。その時、外から何頭かの馬の足音が聞こえ、宿屋近くで止まると同時に他の客が立ち去っていく。
その様子にゲラルト達が謎の来客者が入るだろう扉を見つめる。
エレノア「何なのでしょう?」
「お前ら、出ていってくれ! 裏口を開けてやる、子供を巻き込みたくない」
店主の言葉に動こうとせず、ベルベットが口を開く。
ベルベット「あんたと喋るために注文した物をまだ飲み終わってないわ」
アイゼン「全くだ。あれこれ注文させてそれは無いはずだ」
それに店主は何も言えず、店の入り口に目を向ける。扉を開けて入ってきたのは鎧を身に着け、剣を携えた兵士達だ。ニルフガードでも北方諸国でもない格好だ。
「おい、ウォッカだ!」
そう注文するも、ゲラルト達に気づいて口々にこう言った。
「こいつらは誰だ?」
「剣を二本差す勇敢な戦士様二人に、鋭い目の紳士様、小せえ魔女様にちっせえ使い魔、純白な修女様と子供、そして盗賊の女か」
「おい、白髪と黒髪の兄ちゃん! 剣を二本差す意味はあるのか?」
その質問に答えたのは黒髪の兄ちゃん――ロクロウだ。背を向けていた彼は明るい表情で答える。
ロクロウ「おう! 普段はこの小太刀二刀流で戦ってるが、本気を出すときはこの征嵐一刀流、更に本気の場合は號嵐を加えて二刀流で戦うぞ」
エレノア「ちょ、ちょっとロクロウ!」
他人がいる宿屋では穏便に済ませたいエレノアが注意するが、兵士達の次の言葉が災禍の顕主一行を怒らせかける。
「あいつ、ナニも二本ついてるんじゃねえのか?」
「そうかもな! 男三人に女4人だと余りが出るが、二本もあれば合わせて四本でピッタリだな! ははは!」
その言葉の意味を察したベルベット、アイゼンの目つきが鋭くなる中、怒りと恥ずかしさで赤い顔のエレノアに耳を塞がれていたライフィセットは破廉恥な発言と自分が女と見なされたことが聞こえず、首を傾げていた。
エレノア「何を言うんですか!? 幼い子供がいるんですよ!」
「女子供を引き連れて……何者なんだ。教えねえなら口をナイフでこじ開けてやるぞ!」
兵士の脅しに笑みが消えたロクロウは小太刀に手を伸ばし、アイゼンは拳を握りしめ、ベルベットは刺突剣が納められる籠手を振ろうとする。それに気づいたエレノアとライフィセットが止めようとする中、黙って酒を飲み続けていたマギルゥが口を開いた。
マギルゥ「繁盛しとるのう、この店は。祝いに酒を振る舞ってやるぞ、ウィッチャーの金での♪」
「……どういうつもりだ?」
ゲラルト「そうだな……金が余ってるからな」
そう言って永遠の炎の司祭から受け取った金が入った小袋を取り出すゲラルト。兵士は警戒を解かずに言い放つ。
「よそ者とは飲まないんでね」
マギルゥ「一杯だけでいいじゃろ。飲んだら皆バラバラに散っていくんじゃろうし」
「どこへ行くつもりだ?」
ゲラルト「ノヴィグラドへ向かうところだ」
「娼婦とエロ男の街か」
兵士の言葉に再びライフィセットの耳を片方ずつ塞ぐベルベットとエレノア。店主は酒と飲み物を用意してくれた。兵士達、災禍の顕主一行の両者も手に飲み物を持った。
ゲラルトがコップを掲げて言った。
ゲラルト「この出会いを祝して」
「乾杯」
ベルベット「……乾杯」
ライフィセット「乾杯!」
ロクロウ「おう、乾杯!」
アイゼン「乾杯だな」
エレノア「ええっと、乾杯です」
マギルゥ「乾杯じゃ!」
ビエンフー「乾杯でフー!」
ベルベットとエレノアとアイゼンはその場に合わせ、ライフィセットとロクロウとマギルゥとビエンフーはノリで祝杯をあげた。その様子を見た店主は安心し、ゲラルトたちにこう言った。
「休みたいなら来てくれ。寝床を用意できる」
マギルゥ「気が利くのう♪ 儂らはあっちに行くのじゃあ」
先頭を歩くマギルゥの後を追い、兵士から離れる一行。離れた場所で待っている店主に近寄ると感謝してきた。
「ありがとう。豚どもと騒ぎを起こさないでくれたな」
ゲラルト「人の事情に首を突っ込むつもりはない」
「確かヘンドリックを探していたな。そいつならヘザートンにいる」
ベルベット「それはどこよ」
「丘の向こう側だ。今朝、おかしな光が見えた。もしかしたら帝国が襲ったのかもな」
店主の言葉にゲラルトたちは顔を見合わせた。ヘンドリックはニルフガード帝国の諜報員だ。帝国の攻撃に巻き込まれるのはおかしい。例の光は帝国とは別かもしれない。
更に情報を集める。
ゲラルト「他に、ヘンドリックについて何か知らないか?」
「妙なやつだ。どこからどんな理由で来たのか、誰も知らない。パン一切れのために旦那を殺された女と一緒に住んでる」
アイゼン「そんな怪しい奴を男爵の手下が黙るわけがねえ」
「奴は身を隠すのが上手なんだ。まるでいつ来るか知ってるみたいに、うまく消えるんだ」
ゲラルト「そうか」
店主に感謝を伝え、宿屋を出ていく。ヘンドリックがいるヘザートンへ向かう途中、エレノアはベルベット、ロクロウ、アイゼンを叱った。
エレノア「さっきのは何なんですか!? 確かに卑猥なことを言われて私も怒っていましたが、剣を抜いて戦うことではないでしょ!」
ベルベット「フィーをあんな目で見たなんて許せなかったわ」
ロクロウ「大太刀を二本差してる理由があれだと流石にカッとなるぞ」
アイゼン「あれ以上舐められねえようにするつもりだった」
エレノア「だからって!!」
エレノアの説教はしばらく続いた。
to be Continued