「わー、すごーい! 」
高台から北側の様子を眺める。景色は最高、目に映るものすべてが新鮮で、吹き抜ける風も匂いも、さっきまでいた東のものとはどこか違っていて、思わず叫びたくなる。
「へー、東とはずいぶん文化様式が違うんだな」
「やっほー!! ところ変われば文化も変わるってことかね? 」
「今すぐ降りましょう! あのガラスの歩廊に行ってみたいわ。いいでしょ? 白夜叉! 」
わくわく飛鳥さんかわゆい。
「かまわんよ。続きは夜にでも」
「見ィつけたのですよぉ………っ! 」
白夜叉の言葉を遮り空から何かが降ってきた。
「…ふふふふふふ………よぉやく見つけましたよ。
問題児様方! 」
腰に手を当てて、そのポーズはっ!
『アームアキンボー』!!
なんかの漫画で見た!親が子を叱るときにもみられる、威嚇ポーズ!!
「逃げろっ! 」
十六夜さんが飛鳥さんを抱えてジャンプ! 逃走!
ズルい!!飛鳥さんの柔らかい体に―――じゃなくて、お姫様抱っこまじか! くっそこのイケメンめ! するのもされるのも羨ましいじゃねーか!
落ち着け、思考を加速させろ、『HUNTER×HUNTER』並みに!
黒ウサギはこちらに駆けてきている。自分の足では多分ぎりぎりだ。
耀さんは反応しても溜が遅れている。捕まる。
自分が耀さんをお姫様抱っこ…無理だ、そして無意味だ。位置関係的に耀さんの方に行けば捕まる。人一人抱えて逃げられるほど黒ウサギは易しくない。くっ…! 耀さんの服装的に暖かさや柔らかさが、お姫様抱っこすれば直に味わえるのに…っ! 惜しい…惜しいが仕方ない。身代わりになるのは自分にメリットがないから無しであるし、ここは逃げよう。
ここまで『10月18日に生まれた1人』十の十八乗分の一、すなわち刹那の時間しかたっていない
…というかっこつけ。
実際は一秒未満程度だね。その、それでもごくわずかな時間で黒ウサギは耀さんを捕まえ、自分の方に来ようとしている。箱庭の貴族は伊達じゃない。
もっとも自分だって普通じゃない。とっくに逃走準備は済んである。
肉体変化の応用、オマージュ技。
『あ』『それではみなさん ご唱和ください―――』
『
「―――離脱版」
脚部を巨大化させ反動で大ジャンプ。十六夜さんが飛んで行った方向めがけて念動波でドン! 肉体がちぎれそうだが大丈夫! スピードは出た、追いつける!
「む……。耀さん? 後でたぁっぷりお説教タイムなのですよ…!」
「りょ、了解…」
耀さんを白夜叉に放り投げダッシュ! 半端ねぇ。あばよ~。
「どうぇ! コラ黒ウサギ! 最近おんし、いささか礼儀を欠いていると思わんかっ! 」
「耀さんをお願いします! 黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので! 」
「…そか、がんばれー」
「はいッ!」
*********************
「どう? 」
「いねぇみたいだな。出てきていいぜ」
「まさかこんなに早く追いつかれるなんて…」
「黒ウサギを炊きつける餌としちゃあ冗談でも効果抜群だったってことだ」
「黒ウサギはトラウマがあるからねぇ…怒ってる以上に焦ってたんじゃない? 」
ナチュラルに会話に参加する自分。案の定気づいていなかった飛鳥さんはビクッとなった。
「きゃっ! 誰?! 」
「落ち着け。姿見せろよ奴良」
「なっはっは。十六夜さんはやはり気づかれていましたか」
ぬるりと変身、飾り紐から人になる。
「奴良くん? 驚かせないで頂戴…。捕まってなかったのね」
驚いた様子が心地よい。ぞくぞくする、むしろ『じゅんっ…!』ってなる。何の効果音かって? 言わせんなよ♥
「ま ね。耀さんは残念ながら捕まっちゃったみたいだったけど」
「そう…耀さんとも町を見て回りたかったのだけど…。黒ウサギに見つかる前に、町を散策しましょう。二人とも、エスコートして下さる? 」
「へぇ、野蛮で凶暴そうだと思われていたはずだけどなあ? 」
「細かいことを気にしていては、素敵な紳士になれなくてよ? 」
うっはー…こういう会話憧れるなぁー。軽口たたき合う感じ? なんていうか、こう…双方含み笑いな感じ。自分には無理だわー。
「ではでは自分は、付き人役で」
変身。といっても服と年齢だが。服を執事的な燕尾服にして、今の自分の肉体を若返らせ少年にしたような姿に変身。ちなみにどの入ってない片眼鏡装備だ。かっくいいぜー自分。
「あら、雰囲気あるわね。でも少し違うわ」
「え、そうなの? 」
飛鳥さんに正しい付き人感のある格好を指導してもらい、いざ出発。
尊い…。なんかなー、美男美女が腕を組んで歩いてる姿、絵になるわ~。後ろから見ているだけでもニマニマしてしまう。オタク心が満たされていくぜ。
*********************
一方その頃、一人捕まった耀さんは脱退脅迫諸々を白夜叉から叱られ、ギフトゲーム“造物主たちの決闘”への参加を勧められていました。
黒ウサギと仲直りするため、賞品の“恩恵”を求め、参加を決意する耀さんでした。
*********************
「見て見て! 歩くスタンドと歩くランタン! かぼちゃのお化けはいないのかしら! 」
飛鳥お嬢様うっきうきである。
「ハロ…何とかというお祭りに出てくる」
「オイオイかぼちゃのお化けって『ジャック・オー・ランタン』のことだろ? 今どきハロウィンくらい………ってそうか、お嬢様は戦後間もない時代から来たんだっけ? 」
「自分の時代でも『かぼちゃのお化け』って呼ぶ人いるよ。意味が分からなくても盛り上がれるのはさすが日本人だよねー」
「…そう、十六夜君たちは少し未来から来たのね。
私のいたところは本当につまらなかったわ。人心を操るなんて力を持って生まれたせいで、隔離のような形で寮生の学校に閉じ込められていたもの」
「そうか…」
「でもっ、私箱庭に来てよかった! こんな素敵なことに出会えたんだから」
お、おおお…。
「その『素敵なこと』には自分らとの出会いも入っているので? 」
「あら、言わないとわからないかしら? 」
ありがとうございますっ!
「さっき奴良も言ってたが、お嬢様。ハロウィンが元々は収穫祭だってのは知ってるか? 」
「え? 」
うんうん、と頷いてみる。
見られた。なに? ドキがムネムネするからやめてほしぃ。
「ついでに言うと、“ノーネーム”の裏手には莫大な農地跡があって、あの土地を復活させられりゃコミュニティも大助かりだと思うんだが………いかがなもんかね」
「え、ええ…そうね」
「知らんかった。さっすが十六夜さん、よく見てますなぁ~」
「どうも。―――要するにだ、いつか農地を復活させて、俺たちの
「素敵ね!」
「うんうん。実にロマンティックな提案だと思う! 」
「じゃあ俺たちが最初に主催するギフトゲームはハロウィンで予約しとこうぜ。箱庭で過ごす以上、やっぱり
は~、不覚にもときめいてしまったゼ」
「ええ、ええ! 素晴らしい提案だわ。それならコミュニティも助かるし、とても楽しそうだもの! 」
「そのためにもコミュニティ復興させないと。ノーネームのままじゃ参加者も集められんよ」
「だな、名を売っていくのと並行して」
「農地を復活させないといけませんね………♪」
…んー?
「そうね、それから! 」
「ホストを務めるには皆さんが必要なので、おとなしく捕まってくれますよね…」
黒ウサギキター!!
「「断る!」」
逃げ―――れない⁈
服を、掴まれている? いや抱き着かれている!!
リリちゃん、いかんですよ。自分はロリコンではないので!
見れば飛鳥さんは足をレティシアさんに掴まれてベチャッってなってた。南無(合掌)
逆じゃね? 能力的にいざとなれば振りほどいて逃げられる自分には、元魔王のレティシアさんが対応するのが正解じゃね?
まさか自分、ロリコンだと思われてる? おーまいがっ!
「ふふ、逃がさないぞ飛鳥」
「十六夜君! 簡単に捕まったら許さないわ! 」
「了解、任せとけお嬢様! 」
「逃がさないのです! 今日という今日は―――」
声が遠くなっていく。
「放しませんっ」
かわいい…(^ω^)
ハッ! いかんいかん。しがみつくようにするリリが可愛くて昇天してしまうところだった。あれだな、美幼女がくっついてくれるのは良いね。自分の今の少年体形だと身長同じくらいだから全身に柔らか幸せな感触がね、うん。
うん。
「すまんね、飛鳥さん。簡単に捕まってしまいました」
「はぁ…まぁ仕方ないわ。リリを振りほどいて逃げろとは言えないもの」
「で、レティシアさん黒ウサギの手伝いに行かなくてもよろしいので? 」
ぐぐぐっ、と元の姿に戻り、努めて優しくリリの拘束()から逃れる。
「黒ウサギなら大丈夫だろう。それよりも私は飛鳥たちを逃がさないと約束したからな」
「逃げないわよ。一度捕まった以上、コミュニティ脱退もなし。普通にお祭りを楽しむわ」
立ち上がり服に着いた砂埃を払いながら言う。自分が代わりに…! いや、やましい気持ちは微塵もナイデスヨ?
「えっと、あの…」
「どしたのリリちゃん」
リリ嬢が何だかもじもじしだした。お小水でござりまする…?
「ああ、これからジンがサラマンドラに挨拶に行くから、ついていきたいのだろう」
「サラマンドラに挨拶? ああ、確か頭首のサンドラって子」
「友達なの? それで会いに…? 」
自分らの言葉に頷くリリちゃん。うむ、うむ。
「なら会ってらっしゃいな。自分らはレティシアさんがついててくれるし」
「頭首になったというなら、これからますます会えなくなるはずよ。会えるなら会って話すべきよ、友達なんでしょ? 迷惑に思われたり、そんなことはないはずよ」
「大丈夫だリリ。この二人は私が見ておく」
リリちゃんはぺこりと頭を下げて行ってしまった。
「さてじゃあどこに行こうかしら。レティシアは行きたいところとかある? 」
「そうだな………」
なんだかんだあったが、今はお祭りを楽しむとしよう。
そういう感情がないとはいえ、美少女二人とのお祭りデート(同行してるだけ)だ。テンションが上がらないわけがない! 今この瞬間を楽しみつくすぜ!
次回戦闘(ちょっぴり)。