火竜誕生祭本陣営に参加可能なすべてのコミュニティが集結する。
ペストの声とともに、
「ゲーム再開」
中断されていたゲームが再び始まり参加者が一斉に駆けだす。
「ネズミの描かれたステンドグラスは偽りの伝承です! 見つけたら砕いてください! 」
ジンが指示を出し、発見された偽りの伝承が次々に砕かれていく。
上空からその様子を観察するラッテンはおどけて言う。
「あららら? どうやら連中、私たちの謎を解いちゃったみたいですね? 」
チッ、と舌打ちをするヴェーザーとは対照的にペストは涼しげに見降ろし
「構わないわ。いざとなったら皆殺しにすればいいだけ」
伝承を砕こうとする者が
「そのためにもヴェーザーには神格を与えてあるんだから」
「…なんでヴェーザーにー」
ラッテンはそっぽむいてぶー垂れる。
それに構わずペストは
「さて、謎が解かれた以上温存しておく必要はないわね。
―――ハーメルンの魔書を起動する」
右手を空に向ける。するとペストから黒いナニカが放出され、散らばったステンドグラスと共鳴し、町を一瞬にして変貌させる。
「な、なんだこれは?! 」
マンドラが驚愕の声をあげる。
それに答えるようにジンがつぶやく。
「ハーメルンの街を召喚した……? 」
「何ッ!? 」
「これじゃステンドグラスの場所なんてわからないぜ…」
戸惑いの声をあげる参加者たち。
ジンは意を決し声をあげる。
「落ち着いてください! まずは教会を探してください! ここがハーメルンの街であるならば縁のある場所にステンドグラスが隠されているはずですっ! 」
「よし…! 教会だ! 境界を探せ! 」
ジンとマンドラの声で捜索隊が一斉に動き出す。
一方、集団から離れた十六夜は建物の屋根の上から変化を見下ろし笑った。
「地殻変動…? 面白くなってきやがった…ッ! 」
「なら俺を楽しませろよッ! 」
声とともに降ってきたのはヴェーザー。
跳躍して回避する十六夜だが、一瞬前まで足をつけていた屋根は粉々。
確認のため目を向けた。その一瞬で空中の十六夜に飛び迫るヴェーザー。
あっという間に追いつき、ヴェーザーは十六夜の頭を押さえる。
「テメェ! 」
「前回のお返しだ! 」
頭を軽く押し出し、ヴェーザーは棍の様な笛を構えフルスイング。
空中でよけようのない十六夜はなすすべなく吹き飛ばされる。
1、2、3、
水面を三回バウンドし、対岸に着地。
―――ぽたり、ぽたり
十六夜はここに来て初めて出血。
ペッ、と血反吐を吐き捨てヴェーザーを睨む。
「効いたぜ、ヴェーザー。なんだよ、ちょっぴり派手になってねぇか? 」
「当たり前だ。こちとら“神格”を得たんだからな。
しかも
叫び、ヴェーザーが突撃、
「ハッ! テメェこそなっ! 」
迎え撃つ十六夜。拳と笛がぶつかり合う。衝撃は拡散し大地を耕していく。
*********************
「あったぞ! ネズミが描かれていないステンドグラスだ! 」
捜索隊の一人が声をあげる。
「確保してください! 十六夜さん達が魔王を引き付けている隙に、僕たちは本物のステンドグラスを! 」
ジンが冷静に指示を出す。
「はーい。其処までよ♪ 」
ハッ! と声のする方を見上げるとそこには火蜥蜴たちを従えたラッテンの姿が。
「現れたな! ネズミ使い! 」
すでに戦闘形態をとったレティシアが敵を睨む。
「だけじゃないのよ? 」
パチン、と指を鳴らすとどこからか陶器の巨人が降ってきた。
「シュトロムがこんなに…?! 」
驚きを隠せないジン。
「行け、ジン」
「でも…! 」
心配だ…という様子のリーダーにレティシアは強く言う。
「早く行けッ! 」
「…皆さん、行きましょう! 」
ジンが参加者を連れ反対方向に駆けだす。
「そうはさせないわよ? 」
ラッテンが笛を口に当てる。奏でられるのは支配の音色。
支配を受けた火蜥蜴が炎を吐く。
レティシアは影を操り、炎を防御する。
「(チッ! こいつらを殺してしまえば同士討ちになる…っ! )」
改正されたルールによって、同士討ちは失格。操られているとはいえ火蜥蜴たちはいまだ“
走るジンたち。その行く手にも一体のシュトロムが降ってくる。
「っ! まだいたのか…! 」
シュトロムが手を伸ばす。
「ジン! 」
レティシアは動けない。
絶体絶命。リリは目に涙を浮かべ、ジンは目をつぶって下を向く。
その時、横合いから紅色の巨椀が突き出て、シュトロムを粉砕した。
「あれは…」
ラッテンのつぶやきは小さく消えた。
「あ! ジンくん、あれ! 」
「え? 」
リリが何かに気づき、ジンもつられてリリの指さす先を見上げる。
そこには、
「飛鳥さんっ!? 」
腕を組み、不敵に笑う同士の姿があった。
*********************
十六夜とヴェーザー、二人の戦いは余波だけでも街を揺らし、屋根を跳躍し駆け巡る十六夜をヴェーザーが巨大な笛でもって叩き潰さんとする。
「ヘッ! 」
足を止め、笑みを浮かべた十六夜は腕を交差させ一撃を受け止める。
「ウォォ! 」
気合一喝。足場となった屋根は吹き飛び、家屋は倒壊する。笛の一撃ではダメージを負わなかった十六夜も、空中では身動きが取れず蹴り飛ばされる。
「っ………」
吹き飛ばされた先、大した傷ではないが膝をつかざるを得ない。
ふわりと地上に降りてきたヴェーザー。クックッと牙をむいて笑う。
「そうだ。これが“神格”を得た悪魔の力……ッ! 130人ぽっちの死の功績なんかとは比較にならねぇ!」
「来いよ、人間。お楽しみはここからだぜ! 」
「―――ったく。ずいぶん俺好みのバージョンアップをしてきたじゃねぇか。嬉しいぜ,
ヴェーザー河の化身。
いや、本物の“ハーメルンの笛吹き”」
立ち上がった十六夜は笑みと共にこのゲームの解を示す。
ふん…と息を吐いてヴェーザーも笑みを返す。
「やはり謎を解いたのは貴様か」
「ああ。お前以外の全員が、黒死病を元に後付けされた偽モンだ」
―――1284年 ヨハネとパウロの日 6月26日 あらゆる色で着飾った笛吹き男に130人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され丘の近くの処刑場で姿を消した―――
「例の碑文には、ネズミを操る道化師“ラッテンフェンガー”は出てこない。
「ハーメルンの笛吹きにネズミを操る道化師が現れるのは、黒死病の最盛期である1500年代以降…。
「これでネズミを操る『ラッテン』と黒死病を表す『ペスト』が除外される。
「嵐の意味を持つ『シュトロム』も本物と見せかけてフェイク。
「碑文にある丘とは“ヴェーザー河”に繋がる丘を示し、天災で子どもたちが亡くなった象徴とされる。
「つまり『シュトロム』もまた、“ヴェーザー河”の存在を示す」
「―――とまぁ、以上の結果からお前が本物って答えが導き出されるってわけだ」
考察を聞き終えたヴェーザーは深いため息をついた。
「なんだ? 訂正があるなら聞くぜ? 」
「いやぁ全然? つーかお前、やっぱこっち側に移籍しろよ。お前は絶対“魔王側”のほうが舞台映えするぜ」
「悪いがお断りだ。魔王も面白そうだが、今は他に目標があるからな」
まっすぐ前を見据えた拒否。
それに対し、さほど落胆した様子もなく、
「…そうかよ、じゃあしょうがねぇ。
やっぱ死んどけ坊主ッ‼ 」
ヴェーザーは鬼気迫る表情で笛を掲げ突撃する。
「こっちの台詞だ、木っ端悪魔ッ‼」
逃げることなく、十六夜は正面から受け止め笛に拳をたたき込む。
激突の衝撃波周囲に広がり破壊がまき散らされる。
*********************
「いったい今までどこに隠れていたのかしら? 私の可愛い赤ネズミさん♪ 」
背後に3体のシュトロムを従えつつ、ラッテンは突然現れた紅い巨兵と、その肩に乗る少女に問いかける。
「“ラッテンフェンガー”に匿われていたのよ。
貴女を倒すためにね」
巨人の右肩に少女が乗り、少女の右肩に精霊が乗る。
自身に満ち溢れた表情で飛鳥は宣言し、長い髪と赤いドレスが風に揺れる。
“ラッテンフェンガー”の名を聞き、ラッテンは表情を変える。
「そう…ついに姿を現したのね『偽物』………! 」
はぅぅ…っ! と精霊が震える。
「借りを返すわ」
「やれるものならやってみなさい? 」
「砕きなさい! ディーンッ! 」
主の命令を受け、紅の巨人は一つ眼を輝かせながら答える。
「ディィィンッ………! 」
「潰せ、シュトロムッ! 」
先頭のシュトロムが体当たりのように襲い掛かる。
「ディィィン! 」
ディーンは体をひねり、右こぶしを叩き込む。
それはシュトロムの陶器のような体を貫通し、打ち砕いた。
「なッ!? 」
ラッテンが驚く間も巨兵たちは止まらない。
ブォォォォッ! と低く鈍い音を響かせながらシュトロムの一体が風を吸い込む。
ディーンは小動もしないものの、肩に乗る飛鳥は吸い寄せられないようにしがみついて耐える。
「っ! ううう…っ! 」
と、右から最後の一体が奇襲を仕掛けてきた。
「! 右よッ! 」
飛鳥が気付き、ディーンに知らせる。するとディーンは風をものともせず体を回し、左拳で一撃。
シュトロムはそれだけで粉々になってしまった。
「ちッ! シュトロムッ! 」
ラッテンが叫ぶと、今まで風を起こし、瓦礫をためていた残った最後のシュトロムが岩石砲を撃ちだした。
撃ちだされた岩石塊はディーンに向かって高速で迫る。
「! ディーンっ! 」
飛鳥が気付き声を上げる。
ディーンが反応し振り向く。
迫る岩塊、それに向かって巨人は剛腕を叩きつける。
ドゴァァンッ!
岩石では鋼を傷つけられず、振り向きざまに延ばされた拳は、そのまま
「(すごい…! )」
自分の新たなギフトの力に驚き興奮する飛鳥。
「―――もらったッ! 」
ラッテン、空からの奇襲。飛鳥は気づいていない、しかし
ディーンが飛鳥の命なく動き、ラッテンを握りつぶした。飛鳥の“威光”により、強化されたディーンは主の命がなくとも動き、敵を捕らえる。
「ギッ、ヴゥッ! 」
巨人の拳に握り込まれ、潰されたラッテンは苦悶の声を漏らした。
「もういいわ! ディーン」
命令を受け、ディーンは拳を開く。
解放されたラッテンは吐血し、せき込みながら飛鳥を睨みつける。
「これで蹴り上げられた借りは返したわ………。
でも、このままじゃ気が収まらない…―――ゲームをしましょう」
何を言っているの? と言わんばかりに見上げるラッテン。
「貴女に一曲分の演奏を許可します。
私に服従しているディーンを魅了してみなさい」
片手を腰に当て、挑発的な目で勝負を持ち掛ける。ただ勝つだけ―――『武器が強いから勝った』―――では気が収まらない。自分の支配に相手が及ばないのを確かめてこそ、勝利と言えるのだと。
「………なるほど、ね……いいわ、一曲奏でましょう…」
飛鳥の気高い覚悟を感じ取ったラッテンはよろよろと立ち上がり、笛を構える。
口の端に血をにじませながら挑発的にウインク。
「幻想曲“ハーメルンの笛吹き”……どうか、ご静聴のほどを♪ 」
*********************
戦いを続けるヴェーザーと十六夜。
ヴェーザーは大地を操り水柱を立たせ、地面を割り、追い詰めようとする。
一方の十六夜は黒ウサギに比肩する俊足をもってそれを回避し跳躍。振りかぶり殴る。
殴る十六夜、受け止めるヴェーザー。空中では、浮けるヴェーザーの方に分がある。笛を振りかぶり、お返しと言わんばかりに殴る。
十六夜はガードしたものの衝撃で落下、地面に激突する。
「………」
十六夜はついさっきまで叩いていた軽口を止め無言でたたずんでいる。
「おいおいどうしたよ。ずいぶんおとなしくなっちまったじゃねぇか」
「…気に入らねぇ」
「なに…? 」
「出し惜しみはやめようぜ、ヴェーザー。
持ってんだろう? 俺が懐に飛び込むたびに狙ってた隠し玉…! 」
「…! 」
息をのむヴェーザー。十六夜は声を荒げながら続ける。
「この一撃が当たれば勝てる―――っていうお前の目がッ! あァ! 気に入らねぇッ! 」
十六夜のその物言いに、呆れたような疲れたような。
「はぁ………………OK…
―――死ね糞ガキ! 」
血走った目で。
おらぁぁぁぁッ!
巨大な笛を掲げ、頭上で円を描くように回し始めるヴェーザー。
それに応じ、風と揺れが今までにない規模で吹き荒れる。
「よしよし、いいぜ! かなり期待できそうだ! 」
溜めに溜めた力を笛に宿し、構える。
それに応じ、腰を落とし右腕を引き絞るように構える。
「いくぜ………! 」
二人は今出せる全力をもって激突した。
*********************
ラッテン、“ハーメルンの笛吹き”が全霊を込め曲を奏でる。
(………ああ。これは、少しずるいわ)
飛鳥と精霊が目を閉じ聞き惚れる。
(すべてを捨てても、この甘美な音色に酔いしれたくなる………でも)
飛鳥の瞼の裏に“ノーネーム”の仲間の姿が浮かぶ。
そして
―――「じゃあ俺たちが最初に主催するギフトゲームはハロウィンで予約しとこうぜ。箱庭で過ごす以上、やっぱり
(………そうね、私たちのハロウィンを実現させなければね…! )
曲が終わる。ゲームが終わる。飛鳥は自然とラッテンに拍手を送っていた。
「とても素敵な曲だったわ」
「あーあ、負けちゃった。…ま、さっきの一撃で、ほとんど致命傷だったんだけど」
ラッテンは素直に敗北を認め、足先から粒子となって消えていく。
「じゃあね、可愛いお嬢さん。マスターによろしくね」
消えた。
「………。
……行くわよディーン! 魔王を倒すために! 」
決着。そして次の戦場へ。
*********************
「……おい坊主」
「なんだ? 」
「お前、本当人間か?」
座り込んだままのヴェーザーに対して、立ち上がる十六夜。
「分類学上ではそうなっているけどな」
しかし十六夜の右腕はボロボロだ。治りはするだろうが無茶は出来ない。
「さ、続けようぜ。まだ戦えるだろ」
ボロボロで、痛みが凄まじいはずなのに気丈に傲慢に続行を促す。
「……いや、そうでもないらしい」
ヴェーザーの視線の先には、砕けた十六夜の右腕と同じように、砕けてしまった笛があった。
「召喚の触媒が壊れれば…そりゃあこうなるよな」
ラッテンと同じように、ヴェーザーも粒子になって消えていく。
「―――消えるのか? 」
「ああ。………くそっ、くだらない挑発なんぞに乗るんじゃなかったぜ」
「つれないこと言うなよ」
あん? という顔。
「こっちは結構楽しかったんだぜ? 俺と真正面から殴り合える奴なんて今までいなかったしな」
「………お前みたいな人間が、ホイホイいてたまるかよ。
………ま、達者でな」
消えた。
*********************
時間は少し、巻き戻る。
*********************
ハーメルンの街を縦横無尽に駆ける3つの人影。
一つは雷鳴轟く三又の金剛杵“
一つは“龍角”荒ぶる紅蓮の炎を放出させるサンドラ。
一つは黒い風を操るペスト………ではない。
ペストは3つの人影の近くで、退屈そうに、でも少しだけ愉快そうに浮かんでいる。
ゲーム開始からずっと、神格級のギフトを持つ実力者二人と戦い続けている者、その姿は一言語るなら異形。
牛の骨の様な頭部に怪物のような巨体、その全身は鱗でおおわれ不気味に光り輝いている。両腕は触手、蠢きのたうち飛び回る二人に襲い掛かる瞬間を今か今かと待っている。
「サンドラ様! 」
「ああ! 」
固まっていた二人が左右に分かれ、左右から天雷と灼炎が彼を挟み込む。
「………ッ! 」
攻撃が当たる刹那の瞬間、怪物は自爆した。
内側から破裂するようなその自爆は、攻撃の範囲外に肉片を飛ばし、それを基点に超速再生。二人に向け触手を伸ばす。
「くっ! 」
「サンドラ様! 」
黒ウサギは自慢の収束と反射神経で触手を切り払った。しかしサンドラは自爆の衝撃で飛んできた肉片を焼却していたためワンテンポ気づくのが遅れ巻き付かれてしまった。
「大丈夫です! 」
サンドラは触手を燃やし拘束を解く。
何度も繰り返されてきたことだった。目的は明白。時間稼ぎだ。
「なぜ、どうして、魔王に味方しているのですか…ッ! 」
「奴良さん!! 」
怪物は、ぬらりひょんは、何も言わず、触手を伸ばす。
戦闘は続く。
アニメ最終回の次回予告↓
十六夜「面白い展開だ!終わらせるのが惜しいくらいだぜ!」
黒ウサギ「魔王との決戦です! ここは一気に―――」
十六夜「―――待てよ? ………面白展開としていきなり敵に寝返るのもアリか…?! 」
黒ウサギ「はうぁあッ‼ この問題児様ーっ! 」
はい。