お付き合いいただき、ありがとうございました。
ぐちゃ、ぐちゃ、
崩れる音が、ハーメルンの街のあちこちで連鎖する。
参加者が恐る恐る近づくと、そこには持ち去られたはずのステンドグラスがあって、それ以外には何もなかった。
人気のない路地裏の奥で、レティシアは無言のまま立ち尽くしていた。
ステンドグラスを身の内に埋め込み逃げる怪物を追いかけ、この路地裏に追い込んだ。
狭い場所で、逃げ場を無くし、龍の遺影でもって刈り取ろうとしていた、そうしたら怪物は突然苦しみだし、崩れて消えた。
「あれは…」
崩れる瞬間、一瞬見えたあの顔は、消えた同士の物だった。
少し考えて、忘れて。ステンドグラスをもって飛び立った。
まだゲームは終わってはいないのだから。
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『なにかしら、これ』
『…へぇ、あなた、おもしろいわね』
『魂が折り重なって反発せずにまとまっている…歪に見えて精巧な組み上げ方、素敵ね』
『あなた、どうしたい? 私に協力するなら、助けてあげてもいいわよ』
………。
放っておいてくれ/助けてくれ
もう死んでもいいんだ/まだ生きたいんだ
………………。
ああ、自分はもう壊れてしまったのか。
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魔王を打倒し、月から戻った黒ウサギたちだったが、勝利を喜ぶことはできなかった
「………」
「………」
「………」
「………」
「………よくもやってくれたな。よくも…自分たちを、殺したな」
地に伏せ、起き上がることすらできないぬらりひょんは、弱々しく恨み言を口にした。
地上に残されたぬらりひょんの大群はすでに消滅し、血の一滴さえ残っていない。彼らはペストが月につれていかれた時点で、すでに抑えを失い呪いが一気に進行していた。
月に行っていた時間は一分もなかったはずなのに、彼らは全員死んで消えている。
このぬらりひょんももうすぐ死ぬ。
黒ウサギが、駆け寄り所持する治癒のギフトを使う。
「…無駄だよ、そういうのいらないよ」
「そんなこと言わないでください! 奴良さん…死なないで…っ! 」
ぬらりひょんの死がほんの少し遠のいた。
「…っ! 『奴良くん! 生きなさい! 死んではだめ! 』」
飛鳥が“威光”でもって、延命を試みる。
死にかけの体が一時的に力を与えられる。
「………やめてくれよ、無駄なんだ…無意味なんだよ…」
ぬらりひょんの死がほんの少し遠のいた。
力を振り絞り、体を起こし仰向けになる。
体を動かすたび、呼吸するたび、死が身近に感じられる。なんでもない動作が激痛を伴い彼の心を掻き毟る。
さっきまで、痛みはまるで感じなかったのに。焼かれても、弾けても、殴られても、蹴られても。痛みはなかったのに。
今は痛くて痛くてたまらない。手の平に食い込む砂利や小石が、硬い地面の感触が痛くて痛くてたまらない。
中身もだ。表面上取り繕っているだけで、ぬらりひょんの中身はどろどろだ。脳は蕩けて、内臓は腐り始めている。骨は砕けて筋は千切れて力が抜ける。それでも何とか目を開けて、皆を見上げる。
―――ごめんなさい、ありがとう。こんな自分を仲間に入れてくれて。この一ヶ月は自分にとって最高に幸せな日々だった。本当にありがとう。楽しかったよ。
口を開く。
「死にたくない」
はれ?
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない! いやだいやだ誰か助けて助けて! 死にたくない! 」
はれはれ…?
ぬらりひょんは驚く4人を順繰りに睨んで
「(羨ましい…妬ましい…なんで生きてるんだ、こいつらは…! 自分等は死んでこいつらが生きる…ふざけるな! ふざけんな! )」
「なんで俺が死ななきゃなんないんだ! 僕はまだ2か月しか生きれてないんだぞ! 」
揺れる、揺れる。ぬらりひょんの体が揺れる。
激情が込められた叫びは崩れかけたぬらりひょんの体を揺らし崩壊を加速させる。
泡を噴き、血を垂らしながら訴える。
「死にたくないよぉ…、死にたくないぃ…なんでなんだよ、なんで、なんで! 」
「自分は何も悪い事なんてしてないのに!! 」
脳が崩れる。記憶が崩れる。再生はのろのろで、戻るまで五秒もかかった。
走馬灯が巡る。忘れたことがたくさんで、たいして残ってはいないけど、今までぬらりひょんが体験したすべてが瞼の裏に映される。
―――『っと。ぶつかっちゃった。あーあ、血で服が汚れちゃったよ』
………………。
「―――ごめんなさい」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい………っ」
この世界に来る前、人を殺したことを思い出した。
こんなに痛いなんて思わなかった。
こんなに苦しいなんて思わなかった。
こんなに寂しいなんて思わなかった。
こんなに、こんなに
死ぬのが怖いだなんて、生きられないのが悲しいだなんて思わなかった。
「死にたくない」
「助けて」
「いたい」
「くるしい」
「寒い」
「さびしい」
「怖い」
ごめんなさい。
ぬらりひょんは崩れていく。黒ウサギが泣いて名前を呼ぶ。飛鳥が生きろと命じる。サンドラが駆けだす。十六夜は目をそらさない。
ごめんなさい。
仲間の声は彼の耳にはもう届かない。
ごめんなさい。
「生まれてきて、ごめんなさい」
べちゃ、
ぬらりひょんだった肉塊は活動を停止した。
すべて消えて、後には何も残らなかった。
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ゲーム再開から9時間後。
ネズミ捕りの男と、黒死病によって倒れた者たちが描かれているステンドグラスが全て砕かれ、ヴェーザー河を描いたステンドグラスを一斉に掲げる。“偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ”の一文が成された直後、参加者達の視界は砕けた様に開けた。
見渡せば、舞台区画の尖塔群とペンダントランプの灯火が見える。
黄昏時を彷彿とさせる街並みが、そこにはあった。
呆然とする参加者達の前に、サンドラと共に現れた白夜叉。
恥ずかしそうに頭を掻くその姿は、外見の年齢相応に見えなくもない。
「皆、よく戦ってくれたの。東のフロアマスターから礼と………詫びを告げねばならん。偉そうにふんぞり返っておきながら、私は終始封印されたままだった」
目を閉じ恥じ入る白夜叉。それに対して非難の言葉はない。
「故に最後の台詞はこの者に譲ろう」
促され、サンドラが一歩前に出る。一瞬迷いを感じさせる表情を浮かべたものの、フロアマスターとしての使命感から、表情を引き締める。
「………魔王のゲームは終わりました。我々の勝利です!」
歓声が上がる。マスター達の言葉を聞いてようやく勝利を実感することができたのだろう。
呪いから解放されたもの。同士の命が救われて涙するもの。魔王の脅威が去った事で安堵するもの。それらを温かく見回した白夜叉は、“ノーネーム”の面々を見て、何かに気づいたように遠くを見つめる。
「奴良さんが…」
「そんな…」
ジンとリリが言葉を失い、レティシアが手で顔を覆う。
「………」
耀は病室を抜け出し、ゲームに参加していた。天地を覆う怪物の群れも、それが苦しみ悶えて消えていくのも見ていた。もしかしたらと思っていた。
みゃー、と三毛猫が慰める。
「うん、友達が死んじゃうのは、やっぱり悲しいね…」
三毛猫を抱きしめ、涙を流す。
十六夜は無言のままどこかへと行こうとする。黒ウサギが呼び止める。
「十六夜さん! どこに…? 」
「なんでもねぇよ、ただちょっと、礼を言いに行こうと思ってな」
冷たい怒りをにじませた十六夜に、黒ウサギは何も言えずに見送るしかなかった。
後日、宮殿の執務室から轟音が聞こえたので衛兵が駆け付けると、そこには顔を腫らし血を吐くマンドラの姿があった。何事かと尋ねるものの、彼は何も語らなかった。
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『ぴんぽんぱんぽーん♪ 』
『転移開始一分前~』
ここは飛鳥たちが訪れた洞穴の展覧会場。ペストたちがゲーム中断後、無聊を慰めるために一時滞在していた場所でもある。
ゲームがクリアされ、勝利に沸く参加者たちは祝勝会を兼ねた宴が開催され、展示会場には今人の姿は皆無だった。
………人の姿は。
「(何とか生き残れたわー)」
ふぅ…というように動くそれは生き物ではなかった。
パンツだった。
耀のギフトゲームの前に、白夜叉に渡したパンツ(黒ウサギのに変身)。
「(まさか、黒死病の呪いが自分には効果抜群だとはねー。ホント焦ったわー)」
ペストの呪いは、無機生物には効果を発揮しない。ぬらりひょんは、霊格が極端に低く特殊な成り立ち故にペストの死の呪いが効果抜群だったが黒死病の病原菌を散布される前に無機物へと変わっていた
白夜叉の側で情報を収集し、黒死病が消えるのを待ち続けていた。
自分がまさかコミュニティを裏切って敵対するシナリオになるのは彼にとっても予想外だったが。
「(何を思ってそんな真似をしたのやら…汚染された自分と同機するわけにはいかんし、結局何を思っていたのかはわかんなかったなぁ)」
『転移スタートー♪ 』
ぬらりひょんは回収したものを
それはギフトカードだった。乳白色のギフトカード。
町中を探して見つけた自分のカード。前のオリジナルは落としていったらしい。
きらきらと無駄に光り輝いて消えていく。
「(次の世界はどんなだろうな…楽しい所だといいな…)」
きらきら、ひゅーん
これにて終了。
・『自分』
オリジナルのぬらりひょんが死んだから、パンツぬらりひょんがオリジナルとしての意識を継いだよ。別に記憶とかは受け継いでないよ。ただ認識の問題だよ。
ぬらりひょんはオリジナルも分身も、平等で同格だから頓着しないよ。小学生の学級委員長と同じレベルだよ、大差ないよ。仮に二人いるぬらりひょんのうち、どちらかが人質に取られて「動くな! こいつぶっ殺すぞ! 」と言われても(替えがいるならどうでもいいな)と二人とも思うよ。
ちゃんちゃかちゃん。
次章もお楽しみに。