「ちッ……気に入らねぇぜ!」
森と雲の海に囲まれたウェスペルタティア王国。ある夜、そこは戦場となった。
侵略するは数十を超える戦艦、それぞれの戦艦からぶらさがる巨大な人型、そして無数の空飛ぶ兵士。
巨大な戦艦が吐き出す光弾が、轟音を響かせながら空を駆け巡り、まるで昼間のような照度を作り出し。
それらが通った道筋は、海は割れ、森は捲れ、炎が上がり、悉く焦土と化していく。
まるで幼子が砂の城を突き崩すかのごとく一方的に蹂躙しつくすかと思われた光弾は、しかし見えない壁に阻まれる。
防衛するは小国ウェスペルタティア王国。
いや、防衛しているのは国ではない。
一人の少女を鎖に繋げ、まるで生贄に捧げるかのように魔方陣の中心に置く様をみれば、光弾を消したのはこの少女だとわかるだろう。
これは国対国の戦争ではなく、国対一人の戦争である。
しかし、その少女が国の『所有物』だとするならば、やはりこれは国対国となるだろうか。
その証拠に魔方陣を囲む人々は、若干名を除きこれが当然という面持ちである。
そして、まるで動揺する若干名に言い聞かせるように、老人たちが口々に言う。
『この少女は化け物である』
と……。
レミリア様がネギま世界に行かれたようです
第2話 紅き翼
絶対的かと思われた見えない壁も、それは光弾に対してだけであった。
戦艦から解き放たれた人型は壁があったはずの地点を悠々と通過し、市街地へと雪崩れ込もうとしていた。
さして抵抗を受けることもなく、いや、抵抗する間も手段も与えないまま、戦艦や兵士達を引き連れて、人型達は行進していく。
エリコの門は開かれた。その行進を遮るものは何もなく、目指す勝利は手中も同然。
やがて先頭の人型は、尖塔へとその手を伸ばす。塔の中では少女が繋がれたまま、己の運命を受け入れる……。
そう、思われた。
ドンッ!
突然右から光の柱が出現し、人型の体を上下に別つ。
光が消えた時、そこには杖を持った赤毛の青年が浮いていた。
「そんなガキ担ぎ出すこたねぇ。後は俺にまかせときな。」
唯一逃げずにその場に残っていた人物――生贄とすることに戸惑っていた若干名の一人である――が、驚愕の声を上げる。
「お、お前は……紅き翼、千の呪文の!」
「そう!! ナギ・スプリングフィールド! またの名をサウザンドマスター!」
その声を認識するや、回りの人型や兵士は、ナギ、それにナギと共に現れたもう二人へ殺到しはじめる。
それを見て黒髪の男は刀を構え、目深にローブを被った人物は魔法球を生み出す。
そして……
「百重千重と重なりて走れよ稲妻…千の雷!!!!」
刀の男の技、ローブの男の魔法球、ナギの呪文が炸裂する。
ナギの手から5体の人型の中心付近へ青白いパルスが走ったかと思うと、千本の雷が同時発生したかのような剛雷が発生し、空気の振動に押しつぶされるほどの轟音が辺りに轟く。
そして5体の人型は、幾度かのパルスだけを残し、存在を抹消された。
そう、ここにいる3人はそれぞれが一騎当千。
個対軍の戦争を可能とし、一人の戦力すら戦略級の扱いを受ける。
メセンブリーナ連合の『紅き翼』である。
「安心しな、俺達が全て終わらせてやる」
そう言い、ナギが振り返る。その目には絶対的な自信が宿っていた。
と、そのとき。
ピシィッ……
「ん?」
ピキピキピキィ……
「空間に……」
ピリ……ピリ……
「「亀裂とリボン?」」
「いけない、転送です!何か来ます!」
ローブの男がそう言い、二人が刀と杖を構える。
空間の亀裂はまるで口のようにモゴモゴと蠢いている。
そして、
「来ます!」
ペッ! っと、コウモリの翼を生やした少女を吐き出し、消えた。
「ちょ、まて! 紫!! てキャアァぁぁああかる!? 外!? お昼!? 咲夜! 傘ぁ! もうイヤぁここどこなの~~!? 知らない天井……って誰か居る!!」
翼の生えた少女――もちろんレミリアである――は乙女座りで何度か天井を見た後、回りを見渡し、ギャラリーに気付く。
慌てて立ち上がり、帽子を被りなおし、服装を整える。
そして一度深呼吸をし、無い胸を張り、
「ここは何処だ、人間」
涙目で、そう、のたまった。
「「「なんだこいつ……」」」
「……」
「これはまた弄り甲斐がありそうな……」
だれがどう思ったかは定かでは無い。ないったら無い。
……
外では未だ人型や戦艦、兵士達が近づいて来ている。
…………
このままでは数分としないうちに再度この塔で接敵するだろう。
………………
しかし
……………………
塔の空気は固まったまま動かない。
…………………………
レミリアは自分から次の言葉を発するつもりは無いようだ。胸をはったまま軽く目を瞑り、一切体は動かない。そう、体は。
残念ながら、この固まった空気に押されているのか、段々と羽の角度が落ちていく。
このままでは羽が完全にしおれるのが先か、接敵が先かといったところだ。ひょっとしたらレミリアの目に溜まった涙が零れ落ちるのが先かもしれない。
さすがにそんなレミリアを居た堪れなく思ったのか、刀を持った男がレミリアに話しかける。
「羽がある……君は亜人か? 帝国の兵士ではないのかい?」
やっと動ける……そう思ったかは定かではないが、話しかけられたレミリアは帽子を被りなおす。わざわざ帽子を取り、内側を近くでよく見てから。
決して涙をふいているわけではない。
ローブの男が残念そうにしていたが。
「亜人? この私を亜人なんかといっしょにしないで。」
「亜人じゃないなら、テメーは何だ? 帝国の兵士じゃないのか?」
「帝国?」
レミリアが答え、ナギが再度問う。帝国とはなにか、レミリアが問い返すと
「あの方達の仲間ではないのか、ということです。」
ローブの男が外を指差す。そこには既に先ほど倒した数以上の敵が迫ってきていた。
「仲間ではないわね。あれは敵なの?」
レミリアの目には沢山のハエと、神モドキが写っていた。
神の気配こそするが、御柱数本分の神力程度だろうか。魔力の気配もするが、自分やパチェに遠く及ばない。
ハエの方は……小悪魔よりは強いのが数匹いるだろうか。
「ええ、あれは私達の敵です。」
「へぇ、そう……。じゃあ、見ていなさい。貴方の願い、叶えてあげる。」
元来、悪魔とは代価と引き変えに召喚者の願いを叶える存在である。
レミリアは痴態を見られた恥を、その場のノリでやり過ごすことにした。もちろん自分の力を見せ付ければ畏怖も沸くだろう、という思惑もある。
だがそれ以上に、こんな訳のわからない場所に投げ出されたことへの怒りがたまっていた。八つ当たりである。
「質問に答えてなかったわね。」
塔の淵から羽を広げ、夜空へと飛び出す。とりあえずここは幻想郷でも、その外でもないことは既に判っている。ルールは適用されない。
「私はツェペシュの末裔。紅い悪魔……」
とにかく数が多い。雑魚ばかりだが、久しく出していない全力を、出して見るのもいいだろう。
「最強の吸血鬼」
巨大な六芒星が空に展開される。レミリアには大量の雑魚相手には丁度良いスペルがあった。
「レミリア・スカーレットの力。とくと御覧なさい。」
必要ないが、スペルカードを取り出す。すでに癖のようなものだ。
「な、これは……召喚?」
「チートがもう一人、ですか」
「吸血鬼、レミリア・スカーレット……」
幻想郷では力のみ召喚していた。しかし、全力と言うからには力だけでは物足りない。
ゆえに……
「天罰『スターオブダビデ』」
悪魔の軍勢を呼び出す!!
「さぁ、暴れて来なさい!!」
今宵、小さな悪魔は再臨する。
かつて妖怪が跋扈する幻想郷を恐怖の底に落としいれた、レミリア・スカーレットのその力。
活目し、その強大さの前に絶望せよ。
背を見せて逃げるには既に遅く、そこに広がる絶望達に咀嚼される。
跪き、許しを請えば、せめて苦しまずに逝くだろう。
剣を持ち立ち向かえば、そのとき運命の歯車は狂いだす。
その先は更なる絶望か、絶望すら見えない闇か、はたまた安寧たる平穏か。
ただ一つ言えることは、神の運命すら操る彼女の力、抗うことなど叶わない……。