レミリア様がネギま世界へ行かれたようです   作:メル

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魔法少女レミま!  3話 紅い悪魔

「非力だねぇ……人間って奴は。可哀相になってくるよ。」

 

 悪魔、悪魔、悪魔。

 塔から見渡す限り、数百の悪魔達が飛び回る兵士を相手に殺戮を繰り広げる。

 その中の一匹、黒い羽を生やし、唇を縫いつけ、腹部に口がある明らかに異形の悪魔は、その腹部の口で兵士達を次々と喰らう。

 槍を持ち突撃してきた兵士がいれば、その槍の先端を掴み、操り手を引き寄せ、喰らう。

 離れて魔法を打ち込む兵士がいれば、食いかけの体を引き裂き、臓物を散らせながら投げつけ、怯む隙に近づき、喰らう。

 

「うおおぉぉぉーーー!!」

 

 食われた兵士の中に仲の良い戦友が居たのか、兵士の一人が涙を流しながら剣を構え、悪魔の背後から決死の覚悟で突撃する。

 そしてその突撃はあっさりと……実にあっさりと、悪魔の右腕を攫って行った。

 

「や、やった!?」

 

 突撃した兵士の顔に喜色が入る。鎧裂く右爪を失い、あとは左爪。この悪魔を殺す光明が見えた。

 そう思い振り返った時、その顔は絶望に彩られる。

 なんと悪魔は食いかけの兵士の右腕を千切り取り、己の右肩に当て、元の腕へと変化させたのだ。

 さらに、兵士の剣に引っかかっていた腕――つい先ほどまでは確かに悪魔の腕であった――が、肌色のどこかほっそりとした人間の腕へと変わっている。

 それの意味する所を悟った兵士は慌てて人間の腕を振り払う。悪魔から目を離し……。

 爪で切り裂き、腹で喰らい付く悪魔の姿からか、彼は失念していた。相手は『魔を操る悪』であることを。

 近づかなければ大丈夫、そう思っている兵士へ向けて、初めて異形の悪魔の顔にある口がブチブチと音を立てながら開かれる。

 兵士が剣を振り回し、落下して行く腕を見届けた時。彼は黒い炎に包まれた。

 

「こ、こんなやつらとやってられるか!!」

 

 多数の兵士達が戦線を離れ、空を飛び後ろへ下がって行く。すると帝国軍衛生兵の服を着た女性数人が、彼等を出迎えた。

 

「戦線の状況は!?」

「ダメだ、戦線は鬼神兵に任せろ! 悪魔どもが召喚されたんだ!」

 

 そういい、逃げる兵士は衛生兵を連れて下がろうとする。

 

「そうですか……。あ、貴方達怪我を!? 一度森へ降りましょう、治療します!」

 

 衛生兵は兵士達をつれ、出来るだけ戦火から離れた森へ向かう。

 いけない、早く戦艦に戻るんだ! そう訴える兵士達に対して、悪魔達に傷を受ける事の危険性を説きながら。

 

「いいですか? 悪魔は地獄や魔界の住人。致死毒を持つ悪魔もいれば、傷口から石化、悪魔化、魔獣化、例を上げたら切りが無いんです。一刻も早い治療が必要なの!」

 

 また別の衛生兵は、戦艦まで行ってからでは最低でも不能くらいにはなるかもしれない、などと更に脅しをかける。

 不能は勘弁である、などと思ったかは定かではないが、兵士達は大人しくされるがままだ。

 先ほどまでの地獄絵図から一転、可愛い女の子が献身的に傷を見てくれる、という状況に酔っている者もいるかもしれない。

 

「やっとついた。さぁ、傷を見せて。」

 

 そう、正常な精神状態なら気付けたはずだ。一刻も早い治療と言いながら、最初に空中で応急処置すらしない不自然さに。

 

「ああ、こんなに深い傷が……! 他には? 服を全て脱ぎなさい!」

 

 いや、そもそも後ろから衛生兵"だけ"が来るという不自然さに気付くだろう。

 伝令か、救援か、増援か。何にしても戦力持たない衛生兵だけで行動できる状況では無いのだ。

 

「さぁ、下着も脱いで。生まれたままの姿になりなさい。」

 

 まぁ、例え正常な精神状態でも。彼らに悪魔のテンプテーション――誘惑――に抵抗する術はないので、詮無きことではあるのだが。

 

「身も心も私達にまかせ、快楽へ溺れなさい……。」

 

 既に衛生兵の姿は無い。兵士の目の前には一糸まとわぬ絶世の美女達。

 ここは淫魔達の酒池肉林。兵士達に明日は、来ない。

 

 

 

レミリア様がネギま世界に行かれたようです

第3話 紅い悪魔

 

「おいおい……おっかねぇ嬢ちゃんだな。」

 

 ナギは眼下の惨状に冷や汗を垂らす。

 呼び出された悪魔は確かに強いが、自分達と比べたら雑魚ではある。

 だが、ここまで"悪魔らしい"戦い方で、ここまで多くの悪魔が戦っている状況は初めて見たのだ。

 さらに、この数を平然と呼び出し、この惨状をつまらなさそうに見ているレミリアをみて、相手が吸血鬼であると納得してしまう。

 

「数を呼んだから下級悪魔が大勢来たようだけど……やっぱり下品ね。」

 

 レミリアは不機嫌だ。

 数を相手にするのが面倒だから悪魔を召喚したが、自らも血を流しながら喰い散らかす悪魔や、裸で飛び回る悪魔を見せられる。

 食べるならもっと相手を厳選するべきだ。やはり罪に囚われる程度の悪魔はたかが知れる……。

 これなら自らの大技で殲滅したほうが気晴らしになったかもしれない。

 

「しかしこれほどの力があるなら名前が通っているはず。吸血鬼レミリア・スカーレット、という名前は聞いた事がありませんね。」

 

 ローブの男は思考する。

 吸血鬼といえば『エヴァンジェリン』を思い浮かべるが、彼女とは全く違う外見である。幼女だが。

 吸血鬼には幼女しか居ないのでしょうか? などと思うも、そういえば目の前のレミリアは日光を嫌うような素振りを見せたことを思い出す。

 真祖ではない生粋の吸血鬼だろうと結論付ける。実力からして成り立てということは無さそうだ。

 

「……」

 

 刀の男は蹲る。耳まで真っ赤にして。森の外れを見たようだ。

 

「さて、悪魔達が遊んでいるうちにここがどこか教えてくれない?」

「どこってお前、ここはウェスペル……」

「ああ、いいわ。もっと大きな単位で言ってくれない? 『ヨーロッパ』とか、なんなら『地球』とかでもいいわ」

 

 レミリアは地球とは言ったが、ここが地球では無いことは一目瞭然だった。なんせ月が2個あるのだから。

 いや、『月』などと呼ぶべきではない。あれは単なる衛星だ。なんかゴツゴツしてるし。

 レミリアはそんな事を考えつつも、ではここが何処か思考してみる。

 衛星が2個あるのを無視すれば、なんとなく見覚えのある星座が空に並んでいるが、どれもこれも少し違う気がする。

 紫の式や永遠亭の薬師ならここが何処か計算で出せるかしら? などと思う。

 

「ヨーロッパねぇ……その基準で言うならここは『魔法世界』だ。あんたは地球にいたのか? どうやって来たんだ?」

「魔法世界、ねぇ。」

 

 やはり聞いた事がない。ただ、まぁ……

 

「どうでもいいわね、場所なんて。」

 

 どうせ1週間程居るだけだし、あまり気にする必要は無さそうだ。

 

「お前! 自分で聞いておいてどうでもいいは無いだろう!?」

「あら? 私の自己紹介、聞こえなかったの? 生姜頭。」

 

 てめぇ絶対イギリス生まれだろ!? などと叫んでいるナギに対し、レミリアはこれ見よがしにため息をつく。

 これだから人間は……などと呟きながら。

 

「自己紹介がまだでしたね。こちらの生姜頭はナギ・スプリングフィールドです。」

「おいアル! てめーまで!」

「そしてあっちで蹲ってるのが青山詠春、わたしはアルビレオ・イマと申します。」

 

 ローブの男改め、アルビレオが自己紹介をする。叫んでいるナギは徹底無視だ。

 レミリアは未だナギに対して呆れた視線を向けながらだが、その自己紹介へ静かに耳を傾ける。

 

「私達3人、現在は『紅き翼』として戦地を巡っているところです。主にレミリアさんの悪魔が相手をしている彼らの敵として。」

「紅き翼……ねぇ。気に入らないわね。」

「はぁ? 何が気に入らねえってんだ。」

 

 しかし黙ってアルビレオの話を聞いていたレミリアだが、紅き翼の名前を聞いたとたん顔を顰めて不愉快さを露にする。

 だがそれはレミリアを知る者にとっては至極当然のことだ。なぜなら彼女は誇り高き……

 

「私の名前はレミリア・スカーレット。つまり紅といえば私。そして翼といえば吸血鬼たる私。つまり紅き翼とは私の事じゃない。勝手に使わないでよね。」

 

 ……そう、余りにも高すぎてワガママとよく言われる吸血鬼なのだから。

 

「ふ、ざ、けんじゃねーぞ! テメーの翼は黒いじゃねーか!」

「私は象徴として『紅い』のよ? 翼の色は関係ないわ。貴方達こそ『生姜色の羽』で十分ではなくて?」

「意味わかんねー!?」

 

 レミリアは腕を組み仁王立ち。 やれやれと肩を竦めて溜息を吐き、馬鹿にするような、いや、蔑むような視線をナギへと送る。

 ナギは額に血管を浮かべ杖を構える。その周囲には風が舞い、紫電が光り、見る見るうちにその密度が濃くなっていく。

 いまにもナギがキレて魔法が飛ぶか、と思われたとき、この睨みあいにアルビレオが割って入る。

 

「まぁナギ、いったん落ち着いてください。」

「おいアル! テメーさっきからどっちの味方だ!?」

「もちろん貴方ですよ、ナギ。ところでレミリアさん、ひとつゲームをしませんか?」

「ゲーム?」

 

 言って見なさい、とレミリアが促す。アルビレオはいつもの何を考えているのかよくわからない笑みだ。

 

「ええ、単純な話です。見たところ先ほどの悪魔達は鬼神兵と戦艦相手に責めあぐねている様子。そこで私達『紅き翼』と最強の吸血鬼たる貴方とで、撃墜数勝負といきませんか?」

 

 その言葉を聞き、レミリアは改めて塔の外、戦場の様子を見る。そこではアルビレオが言った通り、膠着状態となっていた。

 人間や亜人の兵士は悪魔により撃墜されるか追い返されたようで、すでに殆ど飛んでいない。

 しかしほぼ残り全ての巨大な人型――おそらくアレが鬼神兵だろう――に対して悪魔達は分が悪いようだ。

 更には戦艦も援護射撃をしており、悪魔は徐々にその数を減らしている。

 下級ばかり来ているようだし、大技を持っていない悪魔ではこの程度か……と、レミリアは呟いた。

 

「そのゲーム、乗るわ。私が勝ったら『生姜色の羽』に改名ね?」

「ええ、私達が勝ったら……そうですね、あなたが紅き翼に入る、なんてどうでしょう?」

「「誰がこんなやつと仲間になるか!!」」

「ちょっと、人の言葉に被せないでよ!」

「んだとテメー! そりゃこっちの台詞だ!」

 

 紅き翼に入る……その言葉を聞いたとたん、ナギとレミリアが同時にアルビレオに噛み付く。

 するとアルビレオは笑みを消し、まずナギに振り向いた。

 

「ナギ。あなた個人の力が強大であろうと、世界を変えることなど到底不可能。ですがその不可能を可能にしたいなら、戦力の増強は貪欲に行うべきです。」

「ちっ……るせーな、んなことはわかってるよ……。」

 

 ナギの方は不満ながらも、とりあえず黙ったようだ。そしてアルビレオは、レミリアに振り返り笑みを復活させる。

 

「レミリアさん、先ほど貴方は『願いを叶える』と言いました。私達の誰も貴方に敵を倒してほしい、なんて願ってません。」

「う……。」

「さらに、ゲームに勝ったら、という条件付きで願うのです。誇り高き悪魔たる貴方が約束を違えるのですか?」

「で、でも! 私には迎えが……」

「でしたら、その迎えが来るまでで構いません。」

 

 ユカリさん、でしたか? と、アルビレオは笑みを濃くする。

 そこまで言われては、もう既に引くに引けないレミリアである。

 

「わ、わかったわよ! それに私が勝てば良いのでしょう!?」

「ええ、頑張ってください。」

 

 まんまとアルビレオの口車に乗せられたレミリアであった。

 ナギはそんなレミリアをどこか哀れみの目で見つめていたが、ふと、いままで横で見ていた鎖で繋がれた少女に目を向ける。

 

「よう嬢ちゃん。名前は?」

 

 口から垂れる血を拭い、少女を捕らえる鎖を千切る。

 

「アスナ…アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア」

「なげーな、おい…。けどアスナか、いい名前だ。」

 

 ナギは立ち上がり、ローブを翻し、杖を手に外へ向かう。

 

「よし、アスナ。まってろ、俺達『紅き翼』が外のやつら倒してやるからな。」

「『生姜色の羽』の間違いでしょう。それに、倒すのも私。」

 

 レミリアは既に翼を広げて塔の外円部に立っており、準備万端である。

 

「さぁ詠春、寝てないで鬼神兵と戦艦を落としてください。」

 

 アルビレオは魔法球一発、蹲っていた詠春をたたき起こす。

 

「「さぁ、ゲームの始まりだ!」」

 

 こうして。正しくワンサイドゲームが始まった。

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