「ところで、紅き翼に入るのはいいんだけど。」
「あん? なんだよ。」
「当然、リーダーは私よね?」
「あー、もう一回言ってみ?」
「だから、紅き翼のリーダーの座は、当然! 私のものよ」
「悪化してやがる……!」
アスナと別れを告げた帰り道。地平線の向こうに明かりが見え始め、その輪郭が徐々にハッキリと形を成してきた時間帯。
空を飛び平原の上を何処かに向けて進んでいた一行だが、レミリアは突然こんなことを言い出した。
「ヘッ、まぁ丁度いいや。レミリア、テメーと俺どっちが強えか、ハッキリさせようと思ってたんだ。」
「私と? ナギが? ……へぇ。」
ナギが宙に停止し杖を構え、レミリアが大きく翼を広げ減速する。アルビレオと詠春はヤレヤレといった面持ちで距離を取る。
「じゃあまぁ、レミリアが勝ったらリーダー交代っつーことで。受けてたってやるよ、挑戦者。」
「ふん。私相手に虚勢を張れるのは褒めてあげる。」
「ハッ、手加減いるか? 月ねーし。」
「日光が無ければいいよ。」
今、紅き翼のリーダーの座をかけた戦いが、始まる。
レミリア様がネギま世界に行かれたようです
第5話 リーダー
先手を取ったのはナギだ。宙を蹴ってダッシュした後、レミリアの間合いに入る直前で再度宙を蹴り、レミリアの頭上を通り抜ける。
レミリアがナギを仰ぎ見た後振り返るが、すでにそこにナギは居ず。
三度宙を蹴ったナギはレミリアの真下へと行き、頭上のレミリアへと視線を向ける。
そうしてレミリアが振り返る様を見つつ――
「来れ虚空の雷 薙ぎ払え! 雷の斧!」
魔法を、繰り出した。
薙ぎ払われたレミリアは水平に飛んで行く。しかし羽を広げながら体制を整え、どうにか制動をかけようとしているようだ。
「雷の精霊1001柱 集い来りて敵を射て!」
そこへナギが追撃する。1001の弾丸と化した精霊がレミリアに殺到する。
大きく広げていた羽に当たったのを皮切りに、次々に着弾し大爆発を起こす。
通常なら一旦様子を見るところだが、ナギはここで更に追撃する。
「まだまだいくぜ! 来れ雷精風の精!! 雷を纏いて吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風!!!」
大爆発の中心地、レミリアが居るであろう場所を、ナギの手から放たれた巨大な雷が貫いた。
「さぁ、どこから……!」
しばし様子を見て、ナギが独り言を呟こうとしたとき。突如、杖を背後に突き出す。
と、そこには紅い光を振りまきながら、爪を振りぬこうとしているレミリアの姿があった。
ナギの杖と、レミリアの爪により鍔迫り合いとなる……、そう思っただろうナギをあざ笑うかのように。
レミリアの爪は杖とぶつかり尚止まることをせず、そのままナギを杖諸共弾き飛ばす。
「意外と楽しいかも。次は私だよ!」
奇しくも先ほどとは全く逆の立場になった二人、今度はレミリアがナギに向かい光弾を打ち出す。
ナギの魔法の射手程の速さは無いが、100程の小さな光弾と、10程の大きな光弾が絶えずナギへと向かう。それらは正しく弾幕だった。
「ち、うざってぇ!」
上下左右至る方向から連続して飛来する小さな光弾にばかり気を取られては、正面からは自身へ向け真直ぐ大きな光弾が飛来する。
光弾に誘導性は無いが、視界の光弾全ての動きを見切ったと油断すれば、避けた大弾の裏から無数の小弾が自身へ向け進路を変える。
ナギは障壁の範囲を最小にまで押さえると共に、強度を高める。そして弾幕の向こうに時折見えるレミリアに向かい徐々に接近して行った。
「むむ、非常に上手い誘導ですね。」
「誘導されてることに気付いてないのか? あいつは……」
傍目から見ていたアルビレオと詠春だからこそ気付いたが、レミリアの弾幕には規則性があった。
偶然弾幕の切れ目が出来たように見せかけ、その実それらは全て計算通り。ナギの動きは全てレミリアに決定付けられる。
それはまるで指揮者のように、羽をタクト変わりに振りつつ、左手でスペルカードを用意したレミリアは、フィナーレへ向け加速する。
そして来るべきその瞬間に出口を開き、そこへ向けスペルを叩きこむ……そのつもりだった。
「だあぁぁぁあああ!! しつけぇーー!!」
だが大人しく誘導されているナギではない。誘導されてることに気付いたか、それともイライラが最高潮に達したか。
とにかく、レミリアの思考なんてそっちのけ、弾幕の壁を障壁任せに突き抜ける。
「えぇっ!?」
はたして弾幕ルールに馴れてしまった代償か、ボムも順路も使わず弾幕を突き抜けてくると思っていなかったレミリアは、突然のことに虚をつかれる。
「うらぁ!」
「きゃぁぁ!!」
そして、ナギの蹴りを顔にまともに食らい、地面に向かって落ちていった。
「ふむ……神槍『スピア・ザ・グングニル』 オーディンは吸血鬼との間に子を成したのですか?」
「しらん。」
アルビレオは思いっきり蹴られて落ちて行ったレミリアを意外に思いつつ、風に流れて飛んできたカードをキャッチし、そんな疑問を呈す。
グングニルといえばオーディンの持つ槍。オーディンといえば旧世界の北欧神話における主神。ナギはそれなりに知ってそうだが、日本生まれの詠春は良く知らないようである。
まぁ大方、単にモチーフにしただけかとは思うが、悪魔を呼び出す吸血鬼が神の槍を投げる、というのも可笑しな話である。
「ところで、レミリアのこれは符術の一種なんでしょうか?」
思い起こせば、レミリアは大技を使う際ほぼ必ずカードを取り出していた。
最初はパクティオーカードかとも思ったが、絵柄を見るに違うようである。
となるとカードに魔力を封印し、何らかのトリガーを引いて開放する所謂符術かと思い、そちらに縁のある詠春に聞いて見たのだが――
「少なくとも、あれほどの魔力を封じた符なら、持ってそれに気付かないということは無いな。」
そう、あまりにもカードから魔力を感じない。鬼神兵との戦いで使っていたスターオブダビデにしろ、ハートブレイクにしろ、並の魔法使いでは発動の兆しすら……いや、使おうと考えることすら馬鹿らしいほどの魔力を放っていた。
「ええ。それに、ダビデやレッドはどうか解りませんが、ハートブレイクよりグングニルのほうが圧倒的に強いでしょうし。名前的に。」
「名前的にって……。いや、否定はせんが。」
まるでカードをただのポーズで使っているかのような、そんな錯覚を覚える――と、思ったアルビレオだった。
さて、レミリア達の方はというと。
「……ねぇ、ナギ。あとどのくらいで拠点につくの?」
地面から飛び上がってきたレミリアを見て、さぁ続きか! と思ったナギだったが、レミリアが空を見ながらソワソワした様子でそんなことをナギに問う。
「あー、1時間も飛べば着くけど?」
「1時間も経てば……朝よね?」
空を見やれば、徐々に白んできており、確かに1時間後にはしっかり朝になっていそうな雰囲気だ。
と、そこでナギがあることを思い出す。
「ああ、そういや日光だめなのか。」
どうやらレミリアは時間を気にしているようだ。なんだ、折角熱くなって来たところだったのになぁ、と思うナギだったが……
「まぁそう言うなら、俺の勝ちってことで。」
「ちょ! 負けてないよ!?」
「んー、でも最後に攻撃決めたの俺じゃねーか。」
「あんなの痛くない! びっくりしただけよ!」
「じゃあ、決着つけるか? 俺はこのまま続けたっていいんだぜ?」
「う……」
日光に当たれないというレミリアの弱点を、ナギは実に良い笑顔で責める。
その反面レミリアは顔をふせプルプルと震えるが、そんな事は構わずさらに言葉を重ねるナギ。
「それとも何か、昼も夜も戦う『紅き翼』のリーダーは、昼に攻められたら夜まで待って貰うってか?」
「えっと……」
「夜移動して昼は寝るか? いつ戦うんだ?」
「それは……」
「それに確か、レミリアが勝ったらリーダー交代、だったな。精々引き分けじゃあリーダーになるなんて言えねーわな。」
「……」
とうとう悪魔の契約まで持ち出して責めるあたり、外道である。もちろんニヤニヤいい笑顔だ。
言葉を重ねられるたびにレミリアの翼は角度を下げ、とうとう完全にしおれてしまった。
そして徐々に明るくなる空に照らされたレミリアの顔。その表情は見えないが、頬から顎にかけて何か光る物が見え。
流石に言い過ぎたかと慌てて言葉を考えるナギだったが……
「私の……」
「ん?」
「私の方が強いんだもんーーーーー!!!」
そう叫び、レミリアは再度地上へと降りて行ってしまった。
「思春期ですか? ナギ」
「好きな子をいじめる年頃か」
「なんでだ!?」
かわりにアルビレオと詠春がナギの許へ来る。どうやら会話は殆ど聞こえていたようだ。
「あれは完全に拗ねたな。」
「ええ。ナギのせいですね。」
「で、でも! 間違ったことは言っちゃいねーぜ!?」
「この場合悪いのは男って決まっている。」
うがー! っと叫ぶナギに対して詠春が追い討ちをかける。
だが、先ほどナギが言ったことの他にも、そもそも吸血鬼が紅き翼にいることが既にギリギリアウトである。
その吸血鬼がリーダーとなったら、今度は追われる側となるのは間違い無いだろう。ただでさえ最近軍規を無視していて肩身が狭いというのに……。
頭の片隅でそんなことを思いつつ、ナギをからかう二人であった。
「ところでナギ、レミリアの強さはどうでしたか?」
詠春は引き続きナギをからかっていたが、唐突にアルビレオがナギに問う。
レミリアが強いことはよくわかるが、直接戦ったナギに感想を聞こうというわけだ。
「あー……あいつは強ぇ。雷の斧と魔法の射手、あと蹴りはモロに入れたんだけどピンピンしてやがる。光弾の量も異常だし、その上、技なんかノータイムで撃ってたよな?」
たぶん再生してるんだとは思うけど、反則くせーな。などとぼやくナギであった。
普段ならナギの弱気な態度なんて見ればこいつ偽者か、などと思う詠春であったが、相手がレミリアなら納得するしかない。
「たぶん詠春なら切れると思うぜ? アルは決め手に欠けそうだな。」
「おや、手厳しい。」
「仲間を切ろうなんて思わないよ。」
ナギにここまで言わせるとは思っていたよりずっと強い味方になりそうだ、そう思う詠春であった。
「うー、どーしてあんな人間なんかに……」
一方地上に舞い降りたレミリアは、盛大に拗ねていた。
時間さえあればナギなんて倒せるのに。なんて思うも、それで拠点に着く前に朝になったら最悪である。
野宿なんて御免だし、聞いてみたら後に引けなくなっちゃったし。
「うぅ……早く帰ってフランに会いたいよー」
フラン分が足りない、そう深刻に思うレミリアだった。
「おい、レミリア」
と、そこへナギ達が降りてくる。
「……なによ。」
ギロリ。そう音がしそうな勢いでにらみつけるレミリアに対し、ナギは苦笑するしかない。
「さっきも言ったようにリーダーをさせるのは無理だが……。でも、お前が強いっていうのはよくわかった。」
「っ……ふ、ふん。当然じゃない。」
予想外の言葉をかけられたレミリアは一瞬困惑するも、気を取り直し翼の角度を上げ、カリスマを復活させていく。
まだグッと胸を逸らしすまし顔をする――までは行かないが、大分気を取り直してきたようだ。
そんなレミリアを見て、ナギは笑みを零しながら次の言葉を放つ。
「そこでだ。レミリア、お前を……紅き翼の『名誉顧問』としたい。」
「え? ……えぇ!?」
どーだ? やるか? などと問うナギに対して、レミリアが訳を問うと、
「お前は強い。強い奴がチームにいると修行が捗る。な? 顧問みてーだろ?」
はっきりと強いといわれ、レミリアは満更でもない様子だ。そして、ナギに「やってくれるか?」 と問われ――
「し、しかたないわね。どうしてもというなら引きうけてあげる!」
そっぽを向きつつ、そう答えた。
「いやー、助かったぜアル」
「ふふふ、『名誉』顧問ですしね。」
ここに、『紅き翼 名誉顧問』 レミリア・スカーレットが誕生した。