「ふふふ、これよこれ!」
とある郊外の草原で。レミリアは非常に上機嫌だった。
レミリアの手の中には先日発行されたメセンブリーナ新聞があり、その一面トップにはこのような見出しが躍っている。
「『吸血鬼、レミリア・スカーレット 超弩級戦艦2隻撃墜!』さすがにこれは一面に持ってくるしかなかったのでしょう。」
そう、先日の幾度目かになる帝国との戦闘時、レミリアは紅き翼で初めて超弩級戦艦の撃墜という快挙を成し遂げていた。
しかも1戦闘で2隻の撃墜、これだけで帝国にとっては壊滅的と言っても過言ではないほどの損害であり、それを1面に持ってこないのは余りにも不自然に過ぎる話であった。
以前から微妙に本意ではない扱い方をされていたレミリアは、新聞の一面に自分の名前が大々的に載っているのを見てから子供のような喜び様である。
「ふふん。リーダーのナギより目立っちゃったわね。これも私の持つ業故にかしら?」
「けっ、夜だけじゃねーか……。」
「何か言った? 遠吠えは聞こえないわねー。」
ニコニコと笑顔を振りまき、クルクルと傘を回し、翼をはためかせるレミリア。その傍らにはふて腐れるナギ。その様子を、アルビレオら他のメンバーは夕食の準備をしながら微笑ましそうに眺めている。
「嬉しそうですねぇ。」
「じゃのう。あの様子を見ていたら、とても二つ名とは結びつかんの。」
レミリアには多くの二つ名が付けられていた。
接近して爪で裂くという戦闘スタイルから、戦場では常に返り血で濡れている故に付けられた『紅い悪魔』
そこにレミリアの幼い外見と、旧世界の吸血鬼のイメージである月を重ねた、『永遠に紅い幼き月』
しかしこれらは――これらでさえも――レミリアのイメージアップを図って後から付けられた二つ名である。
悪魔を多数召喚した最初の戦場で既に呼ばれ始めた、レミリアの残虐性をそのまま表した二つ名は別にあり、いま現在も連合・帝国を問わず多く見受けられるのが……
「『殺戮猟奇-ジェノサイドブラッド-』か。今こうして見ると唯の子供ですけどね。」
「ナギのそれと違って、戦場でのレミリアを見ていると素直に頷ける二つ名じゃのう。」
「ナギはアンチョコなしでは5-6個しか呪文覚えてないですからね。それで『千の呪文の男』とは……ククク。」
まるで敵につける二つ名のようじゃ、とはゼクトの談である。もっとも新聞社もそう思ったからこそ、別の二つ名を広めようと躍起になっているようではあるのだが。
そんな外野を他所に何度も新聞を読み返すレミリアと、ムスッとしながら睨み続けるナギ。放っておくといつまでも戻って来そうにない。
「レミリア、ナギ! そろそろ夕食にするぞ!」
あきれ顔の詠春が二人を呼び戻す。今日の夕食は詠春の担当のようだ。
呼ばれた二人は言い合いながら詠春の許へ寄って行く。いまの紅き翼には弛緩した空気が流れていた。
レミリア様がネギま世界に行かれたようです
第7話 話題の剣闘士
「あら、鍋ね。」
「む? レミリアは鍋料理を知っているのか?」
コンロの上に置かれた鍋の中では既に様々な野菜が入っている。
豆腐はグツグツと煮え、白滝、キノコには火が通り、ネギ、白菜は色鮮やかだ。
残るは水菜など火が直ぐに通る野菜と、先ほど狩って来たトカゲの肉だ。
「神社に行った時はよく霊夢が作ってたわね。トカゲ肉は初めてだけど。簡単なのよね。」
「神社? 霊夢? あと決して簡単じゃないぞ。」
レミリアの鍋料理を馬鹿にした発言に対し、詠春は肩を落して反論しながら食べる準備をする。
詠春は醤油をそれぞれに渡し、アルビレオは大根を下ろす。ゼクトとレミリアは箸を用意して準備万端。
ナギは用意してある肉のうち半分を一気に鍋へ投入した。
「ば、馬鹿ナギ! 食べる分だけ入れないと硬くなるだろ!」
「だから食べる分だけ入れたんじゃねーか。ホラホラ食え食え!」
「だからって一気にいれたらアクだらけに……あーちょッ!」
詠春を無視して次々肉を投入するナギである。
「フフ、詠春。知っていますよ、日本では貴方のような者を『鍋将軍』…と呼び習わすそうですね。」
「ナベ・ショーグン!?」
「つ…強そうじゃな」
「鍋奉公じゃないかしら……?」
なんだかんだ言いつつ肉にも火が通り、一同手元に行き渡る。
そして全員で声をそろえて。
「「「「「いただきまーす!」」」」」
「うぐっ!?」
「おお、なんじゃこのソースうまいぞ?」
「ホントだうめぇ!?」
「ナギお前は日本に来た時寿司食べただろ。大体同じ醤油だよ。」
「醤油すげぇ!」
食事を開始し、全員口々に詠春の料理(と醤油)を褒め称える。一名を除いて。
「ん? どーしたレミリア、突っ伏して。」
そう、レミリアは最初の一口を食べた途端、まるで気を失うかのように地面へと突っ伏して、そのままワナワナと震えていた。
「口に合わなかったか……?」
「……詠春。あなた……」
そして顔だけ上げたかと思うと、まるで親の仇を見るかのような形相で詠春を睨み付ける。
睨まれる覚えがない詠春は困惑気だ。他のメンバーもレミリアの様子を見やる。
ひょっとして入れた野草の中に毒草でも混ざっていたか、誰とも無くそんな予想が駆け巡るが、しかしそれならば吸血鬼であるレミリアだけに効果が出ているのも妙な話だ。
だが、その答えは直ぐにレミリアの口からもたらされた。
「鍋にニンニクいれたでしょう!! どーゆうことよ!?」
「あ……!? すす、すまん! 忘れてた! 精がつくかと思って……!」
「あー、吸血鬼だもんなー。」
「美味しいのにのう。もったいない。」
体内にニンニクが入った事でのたうち苦しむレミリアを他所に、原因がわかったと詠春以外のメンバーは食事に戻る。
「お前らが精をつけてどうするのよ!? ニンニク入りの鍋なんて聞いた事がないわ!」
「精って、そういう意味じゃないぞ!? いや本当にすまない!!」
対する詠春はレミリアに平謝りだ。
レミリアが吸血鬼であることはともかく、吸血鬼の弱点の一つにニンニクが上げられる――しかも代表的な――ことをすっかり失念していた詠春である。
レミリアは横たわりダラダラと脂汗を流しながらも、詠春に対する怒りを抑えられないのか牙をむき出して怒鳴り散らしている。
その迫力たるや、近くに放していた騎乗用の竜が遠くの大木の裏へ隠れつつ様子を伺っているほどだ。
「いやー吸血鬼がニンニク食べるとああなるんだな。」
「苦しそうじゃのう。アル、解毒をかけてみたらどうじゃ?」
「面白そうですし、もう少し様子を見ましょう。」
残念だなー、こんなに美味いのになー、などと言いながら食事を続けるナギ。先ほどまで戦艦撃墜の事で自慢されていた事に対する意趣返しのようだ。
と、そんな紅き翼の許へ――
ドカッ !
巨大な剣が降って来て、鍋を吹き飛ばした。
「食事中失礼~~ッ! 俺は放浪の傭兵剣士ジャック・ラカン!! いっちょやろうぜ!」
近くの崖の上から、巨大な剣を持った日焼けした大男が叫んでいる。
「何じゃ? あのバカは」
「帝国のって訳じゃなさそーなだ。 レミリ……むお!?」
ナギがレミリアを振り返ると、吹き飛んだ鍋の中身がレミリアに降り注いでいた。
肉は髪に張り付き、白滝は顔から垂れ下がり。幸運にもニンニクそのものは傘によって防がれているようだが。
「フ…フフフフ……こんなにコケにされたのは初めてよ……」
「どーしたー来ねーのかぁー? 来ねーならこっちから‥いッ」
「殺す!!」
レミリアはすっくと立ち上がり、崖の上まで一息で飛び上がる。
そして片手で爪を振り、ラカンが持っていた剣を真っ二つに叩き斬った。
振り切った爪を翻し、今度は下から振り上げる。ラカンに直撃こそしなかったが、その余波だけでラカンの立つ崖を切り崩す。
「おお? レミリアの攻撃凌いでるぜ。ニンニク食った後で傘持ってるけど。」
「あの大男やりますよ。見た事があります。ちょっと前、南で話題になった剣闘士ですよ。」
ナギの言うとおり、片手は傘を持ちニンニクを食べた直後であるレミリアの動きは精彩を欠いているようだ。
しかし気迫はすさまじく、あふれ出る魔力で辺りはどんどんと濃密な紅い霧に包まれ始める。
そしてラカンに対し次々と爪を振るい、ラカンは折れた剣でなんとかそれを受け止める。
「ちょっ! タンマタンマ! あんたマジでつええぇな、ちょい待たね?」
「ミイラになるまで血を吸ってあげるわ!」
「おお、おっかねぇ! けど5対1だし本気出す訳にはいかんのよね。あんた達の情報はリサーチ済みだぜっ!?」
そう言うとラカンは片手を懐の中に忍ばせる。そして……
「情報その5。レミリア・スカーレットは弱点の多い吸血鬼。くらえ十字架ー!」
銀色に光り輝く巨大な十字架を繰り出し――
「吸血鬼の弱点って言えば十字架! ハッハッハ! どうだひれふげぽあっ!?」
――レミリアは十字架をラカンごと殴り飛ばした。
「ふん。何でそんなもんにやられなきゃいけないの?」
殴り飛ばされ、倒れ付すラカンに向けてレミリアは一歩一歩近づく。
霧の濃度もみるみるうちに濃くなっている。日の光が届かなくなるのも時間の問題だろう。
「く、傘を手放されると不味いな。これは剣士用だったんだが……。」
「あら、懺悔か? 命乞いか? 知り合いの閻魔に口をきいてやろうか?」
ラカンは半身を起こし、視線をレミリアの後ろへ移し、大きな身振りで腕を伸ばしながら、
「あ、あれはなんだーーー!?」
と、レミリアの後ろを指差した。
「……」
しーん……と、静寂が辺りを包む。
「薬師に見せてから閻魔のところへ送ったほうがいいかしら……?」
「へっ! 素直に見とけば良かったのにな? お嬢ちゃん。」
「何? っきゃあぁ!?」
レミリアの後ろから、『保険』と書かれたほぼ全裸の少女が傘を奪い取った。
途端にレミリアに降り注ぐ陽光に、レミリアの体から煙が上がり始める。
「ホイ一丁あがり。じっとしてたほうがいいぜお嬢ちゃん、時期日も沈む。」
立ち上がり、勝ち誇るラカンである。と、そこへ
ゴガァッ! という轟音と雷と共に、ナギが現れた。
「見えねーんだよレミリア……って、負けたか。昼は俺に任せておけばいいのによー。」
「出たな情報その4。赤毛の魔法使いは弱点なし。紅き翼のナンバー2。」
「誰がナンバー2だ! リーダーは俺だ!」
「夜の戦果ナンバー2、だろ?」
「くっ……てめぇら! 手出すなよ!!」
こうして、ナギ対ラカンの戦いが始まった。
「あのー、ケホッ、大丈夫……ですか?」
レミリアの霧と煙が辺りを包む中、少女がレミリアを覗き込む。
「さ、さっさと……傘を、さしな、さい!」
未だ日光に当たり続けるレミリアは息も絶え絶え、早く日を遮るように少女に求める。
「お……襲わない?」
「襲わ、ないわ、よ。負けたんだ、から……」
襲われないか確認した後に、恐る恐る少女は傘を広げ、日光を遮る。
やっと日光から逃れることができ、体から吹き出る煙も止まったレミリアは人心地である。
そして、戦い始めたナギとラカンの様子を少し見た後、その視線は傘をもつ少女に向けられた。
「あなた、水の精霊?」
「は、はい。ウンディーネの、し、し、し……娼婦、です……。」
娼婦、そう言った途端少女は顔を真っ赤に染める。
しかしレミリアは特別な反応をせず、ただ「ふーん」と相槌をうつのみだ。
「夫の浮気は許さなくても娼婦をするのはいいの? ウンディーネ的に。」
「そのように作られたので……」
レミリアの問いに対して、ますます顔を……いや、ほぼ全身を真っ赤に染める少女。仕舞いには涙目になっているようである。
そんな少女の様子をみて、レミリアは次のような言葉を放った。
「貴方、私の従者になりなさい。」
「へ……?」
レミリアの二つ名は
pha様の「二つ名メーカー」から頂きました