この天文部は間違っている   作:cake

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3話 先輩

「──ごめんね! また仕事が入っちゃって……」

 

 いつも通りの放課後。

 俺は部室へ向かおうとして教室を出たところ、ばったりと部長と会った。

 どうやら部長は俺に用があったみたいで、挨拶をする間も無く用件を告げた。

 

「いえ、俺は別に大丈夫ですけど」

 

 昨日と同じく、部長は仕事で部活に出られないらしい。

 別に部長がいなければ活動できないわけでもないし、いちいちこうやって謝らなくてもいいのに。

 

「ごめんね、また今度ゲーム付き合ってあげるから!」

 

 部長はそう言って廊下を走り去っていく。

 急いでいるのなら、尚更謝っている場合ではないだろうに。

 それでも直に会って謝ってくれるのが、部長なんだが。昨日のように例外はあるけど。

 

「……付き合っているのは俺の方でしょう」

 

 遠ざかっていく部長の背中に向けて、そんな愚痴をこぼしてみる。いつも貴女のゲームに付き合っているのは、俺じゃないですか。

 まあ、別にそれが嫌だというわけでもない。

 実際俺だって、案外楽しめているのだから。

 

「しかし、どうしたものか」

 

 今日も部長がいないとなると、部活に行ったとこでどうせ暇するんだろう。

 それに昨日も一人だったし、ゲームをするのも飽きてきた。

 やっぱゲームってのは、複数人でやるのが一番だな。

 

 となると、これからどうするか。

 別に帰ったっていいんだが、家には大したものはない。ベッドに潜って、昼寝するくらいしかない。

 

「──あれ、直哉?」

「ん?」

 

 割と真剣にどうしようか悩んでいると、背後から名前を呼ばれた。

 

「リサ先輩……と、友希那先輩?」

「どしたの、ぼーっとして」

 

 振り返るとそこには二人の先輩が立っていた。

 今井リサと、湊友希那。

 俺が一年の時に、少し世話になった人たちだ。

 

「いや、ちょっと暇になったんでこれからどうしようか悩んでたところです」

「悩むのは別に構わないのだけど、こんな廊下のど真ん中でぼーっと立たれると迷惑よ」

「ああ、すみません……」

「まあまあ、友希那」

 

 なんか怒られた。

 相変わらず、友希那先輩はキツい人だ。

 

「それに、誰かがぶつかってきたらどうするのかしら。ただでさえ貴方は──」

「ああ、はいはい、大丈夫ですって。すみません」

 

 長くなりそうだから、適当に話を打ち切る。

 友希那先輩、こうなると結構うるさいんだよなぁ。もちろん、それが俺のことを考えてのことなのはわかってはいるけど。

 

「それで? 暇になったって、部活はどうしたの? 普段はずっと日菜と一緒じゃん」

 

 リサ先輩にそう聞かれて、素直に答えようか一瞬悩む。

 部長が仕事だから今日は部活に行かない、なんて言えば、なんだが部長目的で部活やってると思われそうだ。

 

「部長は今日お仕事らしいですから。部活に行ったって、どうせ俺一人で暇するんですよ」

 

 まあ、結局素直に言うのだが。

 

「ふーん。そっか」

 

 聞いておきながら、リサ先輩はあんまり興味なさそうだ。

 

「……俺のことはいいとして、お二人は? 今日もバンドの練習ですか?」

 

 二人はRoseliaとかいうバンドを組んでいる。

 本格派だと聞くが、正直俺にとってはどうでもいいことだった。

 何度か友希那先輩にライブにも誘われたのだが、全て断っている。

 興味本位で行ってみよう、なんて気持ちは一切ない。彼女たちが何をしていようが興味ない。

 

「その予定だったんだけどねー。なんか紗夜が別の予定入っちゃったみたいで」

「ふーん。そうなんですね」

 

 今度は俺がその態度をする。聞いておいてなんだが、大した興味も湧いてこなかった。

 

「……ってことはさ、今日は直哉もアタシたちと同じで、やることがないってことだよね」

「まあ、そうですね」

 

 そう答えると、リサ先輩はニヤリと笑った。……なんだか嫌な予感がする。

 

「じゃあさ、アタシたちと買い物に行こうよ」

「えー……」

「嫌そうな顔しない! それに直哉、いつか行くって約束してたでしょ?」

 

 そういえば、そんな約束してたなぁ……。

 前も同じように誘われて、めんどくさかったから、また今度って約束したんだった。まさかしっかりと覚えていたとは。

 

「確かにしましたけど……二人の買い物付き合うのめんどくさいんだよなぁ」

「本音出てるわよ」

「おっと、失言」

「あはは……素直だね」

 

 そうは言っても、実際にめんどくさいんだから仕方がない。

 友希那先輩はもともとショッピングなんて柄じゃないからいいんだけど、リサ先輩はもう完全にそれだ。

 リサ先輩の買い物は、とにかく長い。それはもうショッピングするために生きているんじゃないかと思うくらいにだ。

 ……いや、それは流石に嘘だわ。けれどもまあ、それくらいには長いからめんどくさい。

 

「まあ、無理にとは言わないけど」

 

 どうしようかと頭を捻らせていると、リサ先輩がそんな言葉をかけてくれた。

 せっかくこう言ってくれたんだ、しっかりと甘えさせてもらおう。なんか、凄くノリの悪いやつみたいだけど、まあいいや。めんどくさいという気持ちには勝てない。

 

「そんなに答えが出せないのなら、私が選択肢を作ってあげるわ」

「へ?」

 

 ──それじゃ、今日は遠慮しておきます。

 そう言って断ろうと決めたところで、今度は友希那先輩がそんなことを言いだした。

 友希那先輩の提示する選択肢とか、どうせロクなものじゃないんだろうなぁ。

 

「……選択肢、とは?」

「私たちと一緒に行くか、私たちと一緒に来るか。どっちかを選びなさい」

「なるほど。つまり俺に選択肢などなかったということか……」

 

 これは酷い。

 一緒に行くか、一緒に来るか。もうそれ一緒じゃねーかよ。選択の余地がないぞ。

 

「……わかりましたよ。一緒に行きます」

「そっちでいいのね?」

「どっちも一緒だろ」

「あはは……」

 

 ふざけてんのかな、この人。思わずタメ語で突っ込んでしまったぞ。リサ先輩とかもう笑ってるだけだし。

 

 

 ──何はともあれ。

 暇だったのは事実だし、先輩たちと一緒にいるのはそれはそれで楽しいから、本気で嫌だってわけではない。

 ただ少し、リサ先輩の買い物が長くてめんどくさいってことと、友希那先輩が若干ウザいってだけだ。

 

「はあ……」

「直哉、ホントに大丈夫? 別に無理しなくても……」

「ああ、いや、そういうわけじゃないです。ただリサ先輩に付き合うのめんどくさいなぁってだけで」

「不満タラタラだね」

 

 

 部長。やっぱり俺の学園生活は、貴女とゲームをしている時が一番平和みたいです。

 

「直哉と出かけるの、久しぶりだなー」

「そうね」

 

 けれども、楽しそうな先輩たちを見ると、これも悪くないと思ってしまう。

 なんとも俺は、ちょろい人間なんだろうか。

 

 

 

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