さて、起きるか
西洋の方にある遠い何処かに、先祖の名前だけが一人歩きし、全世界にその名を轟かせた吸血鬼が存在した。
眷属を増やし、世界中に子や家族、友人を作り、誰もがその名を聞けば畏怖し、称え、膝をついて頭を下げたと言う。
しかし、ある日、自身は家族と自分の安寧のために現世から姿を消した。
表から消えたはずの赤く大きな館。
その敷地の一角に、屋敷とほぼ同等な存在感を持つ大図書館がある。
そこには数百年という人間では殆どあり得ない時を生きている魔女が住んでおり、ほとんど外に姿を見せないことから、動かずの魔女と呼ばれている。
そんな彼女が管理している大図書館の、さらにそのまた一角に。
天井に設けられた窓からの光は木々が生えたからか届かず、何故か恐怖心を煽られる薄暗い空間と、特殊な魔法陣が刻まれた鉄の扉があった。
その扉の先は、屋敷で唯一地下へと続く道があり、さらにその中には鉄格子の扉に奥で魔法と魔術の複合により、厳重に封印された部屋がある。
私はその封印された部屋で、体感的には大体五百年と少し、内側から外に出られてないように幽閉されていた。
なぜ大体の年月が分かるかとの問いには、部屋の上の方にある小窓から、ギリギリ入ってくる太陽の光の差し込んだり引っ込んだりする回数を数えたからだ。
では、誰がこんな虐待的なことをしたのだろうか。
答えは至極簡単、私の実の姉であり、現在のこの屋敷、紅魔館当主―――レミリア・スカーレットである。
なぜ私をここに閉じ込めたかと言うと、この世界に来るきっかけとなったとある事件。
私が力を使用して実の両親を殺してしまったことが原因だった。
私の両親という事は、姉の両親でもある。
だからと言って嫌いになったとしても、流石に
遊び道具もない、話し相手もいない。
あるのは一枚の扉と、無駄に大きなベットと、定期的に持ってこられる
ご飯のためだけに、扉から館のメイドが顔を出すのだけが生活する中での唯一の変化である。
正直、なんの面白みも無い。
閉じ込めた張本人が数百年前に訪れた時に、未だに幽閉している理由をそれとなく尋ねてみたところ、「力がいつ暴走するか分からない。次に暴走すれば、吸血鬼最強の私でも止められない」とのことで、私の力とやらに怯えて閉じ込めていたのだと。
自分で最強と名乗りながら、怯えているとはまた面白い。
最強とは何なのかを、一夜ぐらい議論してみたいものだ。
瞳が揺れていたので、それ以外の理由もありそうだが。
さて、私が力を振るうことになった事件の詳細を軽く説明しておこう。
とある日に有名な吸血鬼一族である私達を、これまた有名な吸血鬼ハンターが殺そうとした。
人間と吸血鬼。
基本的な身体能力の差は大きく、吸血鬼には血液を使った攻撃や治癒の力がある。
人間からすれば、とても攻撃できるような相手ではなく、恐れて敬うことしかできなかった。
だが、いつしか吸血鬼を殺すことを専門にした仕事人が現れたのだ。
彼らは何処から仕入れたのか、吸血鬼の弱点を知っており、それを確実に突くことで復活させること無く吸血鬼をこの世から消し去ることを目的としていた。
次々と吸血鬼を殺していく彼らに、私達は警戒していたが、遂にこの館にも来てしまったのだ。
私の父は吸血鬼の始祖とか呼ばれていた。
実は結構有名な吸血鬼だったのだ。
そんな有名人を、ハンターが見逃すはずもなく、深夜に奇襲をかける形で襲ってきた。
もちろん両親は抵抗し、私達は隠れるように言われた。
だが、奴らは思った以上に強くしぶとくて、母を狙った時の父のちょっとした隙を見て、一斉攻撃を仕掛けたのだ。
もちろん回避するが、その先には私達が隠れていた扉棚があり、父は焦る。
仕方なく自衛用に、私が隠していた技を使ったのだった。
ただ、その使用したタイミングと方向が悪かったようで、射線上にたまたま重なってしまった母親に直撃したのだ。
正直、やばいと思った。
なんせ同族を殺したのだ。ここで生き残ったとしても、〈仲間は絶対に見捨てないし、傷つけない〉という家訓を破った私は、ただでは済まない。
家訓を破った父は厳しく、既に何人もの裏切り者が抹殺されてきたことを知っている。
流石に死にたくない私は、焦りからかいつでも使用できるように待機させていた能力を解放してしまったのだ。
結果として、ハンターは全滅。
一族は族長であった私の父を含め、半数が亡くなった。
族長がいなくなったことで、戦力も大幅に落ちたこの一族は、遅かれ早かれ他の吸血鬼一族か吸血鬼ハンターに滅ぼされてしまうだろう。
姉は、その戦闘後に自分を新たな当主として宣言し、私を地下に閉じ込めた。
私が人前で初めて能力を施行した時、母親が死んだ直後で、閉じ込めた張本人である姉には扱え切れない、そう思ってしまったのだ。
駄目だ。
近くにあった適当な本の内容を真似て、遠回しな言い方をしてみたが、上手くいかないや。
言葉って、難しいなぁ。
話を戻そう。
流石にあの光景だけで、こんなに長い期間も幽閉するなんて頭がどうかしている。
いくら私が同じ長寿の吸血鬼だからとは言え、長すぎると思う。
確かにあの時は、母親が目の前で死んでしまう光景を見て、やらかしたその焦りと次に自分が狙われるという自己防御のために、つい能力を使ってしまった。
だが、暴走したわけでもないし、焦っていたとはいえ、それでも対象は定めていたし、暴発したなんてこともない。
姉の、完全な早とちりだ。
幽閉されることに対して、強く否定しなっかた私も悪いのだが。
ではこの五百年、何をしていたのか。ただ無下に時間を過ごしていたのか。
いや、断じて違う。
五百年もあれば、力の細部制御なんてとっくにマスターできるし、さらには新たなる力や技術、技を習得できる。
たしか、山ぐらいなら一瞬で平らにできる魔法があったはず。
周りを火の海に変えてしまう兵器召喚とかもあったかな。
太陽の光を収束して打ち出す攻撃方法もあったような気がする。
まあ、今覚えている限り、私を超えるものは居ないだろう。
この館から出たことが無いから、もしかしたら外にはいるかもしれないけど。
私が知っている強い奴と言えば、お姉様か美鈴ぐらいだし。
さてさて、もうここら辺で分かる人は察していると思うけど、私の名前はフランドール・スカーレット。
恐ろしい吸血鬼の末裔の一人で、この館の現当主の妹。
自身の能力を制御できないと思われているので、地下に幽閉された哀れで可哀想な吸血鬼。
容姿としては幼く、七色の宝石がアクセントの羽さえ隠せば、金髪の美少女だ。
姉は蝙蝠みたいな羽をしているが、私はどうやら変異種とかいうやつらしい。
一体何がどうすれば羽から宝石が生えるのか、考えても見たが過去のいざこざや血の繋がりを確認することが出来ないため分からない。
自分で言っていたら、馬鹿みたいだが。
さて、此処で重要なのが
もう一度説明させてもらうと。
吸血鬼ハンターが束になってこの館に乗り込んできた時に、母親の死を自身の手で起こし、目の前で父親の死を知ってしまった私は、全てを壊してしまった。
間違えたとはいえ、親を殺して動揺しない子供など居ないだろう、つい無意識のうちにやってしまったのだ。
だがもちろん、相手は定めていたし、頭が真っ白になって形振り構わず力を使ったわけではない。
しかし、その時の様子を見ていた姉が、その強大な力に畏怖し、母親の死を見て暴発したものと判断して幽閉した、と言う訳。
正直に言って、親が亡くなった時よりも、そちらの方がイラっと来てしまった。
なんせ、何の説明もなく唐突に涙を堪えた目で、「貴方が自由に出来るところを作るから、少しの間はここに居てね?」なんて言われてしまったら、流石の私でも言い返せない。
普段のカリスマ性からは程遠い姿を見せられたら、無理だ。
だが、目の中に恐怖の色が浮かんでいるのが、正面から見たら分かる。
それが、さらに怒りを煽った。
まあ、過去話を今更しても意味がないので、置いておく。
さて、私が此処までいろいろと話を伸ばしてきたが、最終的に何が言いたいかと言うと。
心境を言うのなら、暇なのである。
もう五百年以上も、こんな薄暗くて定期的に食事だけが運ばれてくる刑務所みたいな所に居れば、やることが無くなるのは明白。
お姉様や美鈴が玩具やら人形やら本やらを持ってくるが、どれも小さな子に向けたもので、私の趣味に合うものはなかった。
私を何歳だと思ってるんだろうか?
ただ会いに来るもの全員が暇つぶしになるような物を持ってこなかった訳ではなく、たまに私をここに封印するために結界を張った魔女が、魔法の本や錬金術の本を持ってきてくれるので、それで時間を潰していた。
それでも、渡された本のその全てを読んでしまい、習得してしまった。
吸血鬼が苦手とする流水や太陽の光。
それを込めた結界でこの部屋を囲んでいるようだが、そんなもので私を封じられたと思っているのなら、それは勘違いも甚だしい。
出ようと思えば簡単に出れる。
だって、力を使えばどんな有象無象でも破壊できてしまうのだから。
それでも今までそうしなかったのは、お姉様に大きな迷惑と心配の種を植え付けてしまうと思ったからだ。
だが、ここまで来ると、自分の欲望には勝てなかった。
まさか自分の唯一の弱点が、暇になる事だとは思わなかった。
私は徐に、扉の方へと手を伸ばす。
自分の能力──〈ありとあらゆるモノを破壊する程度の能力〉を使うために。
万物には、そのモノがそれとして存在出来る
モノが壊れたり廃れたりする原理は、その目が時間が経つにつれ人間と同じように、衰えていき、いずれは崩れていく。
そして、私はそれを視認し、制御することが出来るというわけだ。
これが、どういった意味を持つか分かるだろうか。
答えは簡単。
伸ばしていた手で、扉の目を掴む。
そして、握りつぶした。
「ぎゅっとして、ドカーンってね」
瞬間、自らひび割れが入り、バラバラに砕け散る扉。
その先には、上へと続く階段が一つ。
「さて、お姉様におはようを言いに行かないと」
もう五百年も眠っていたわけだし。
今が朝か昼かは、分からないけど。
崩れた扉の修復?
いつの間にかメイドたちが勝手に直しているでしょ。
なんか沢山居るみたいだし。
さて、行こうか。
紅魔館最上階に位置するお姉様の部屋、そこに続く廊下を進む。
最上階とか、一番襲撃しやすい場所になるのだが、なんでそんなところに自室を設けたのか。
廊下を歩きながら視界を何処に向けても、メイド服を来た妖精が入り、こちらに気づくと怯えて早々と去っていくのが幾度となく繰り返される。
そんなに私が怖いのか、一体どんな風に私を伝えているのか気になるな。後で問いたださないと。
しかし、ここは一体いつから妖精たちの量産場になったのだろうか。
メイド服を着ていることから、此処で雇っていることは明らかなのだろう。
だが、その数がおかしいのと此処に住んでいる
それはそれで、少し凹む。
まあそれも後で問いただすとして、だとしたら、あの子には悪いことをした。
実は図書館を出てすぐの曲がり角で、急に目の前に飛び出してきた妖精とぶつかり、無意識のうちに防衛反応で亡き者としてしまったのだ。
近くにいたもう一人の緑髪の妖精が「チルノちゃ──ん」と叫んでいたから、多分殺ってしまった妖精の名前だったんだろう。
そう言えば、あいつら二人ははメイド服を着ていなかったような……。
まあ、いいや。後日会えた時に謝ればいい。
確か妖精は〈一回休み〉とか言う制度で、次の日になれば復活してくるとなんかの本で読んだ。
今はまず、お姉様に会わないと。
私は手のひらに魔力を込め、壁が壊れない程度に思いっきり打ち込んだ。
これまたどっかの兵器の本で読んだものの中に、潜水艦と呼ばれる外の世界の兵器があるらしい。
それには敵の船を捉える探知機が備え付けられており、通常レーダーという。
そのレーダーの知識応用で邸の中に魔力の波をを広げて探し回り、お姉様の部屋と思われるところを探し出すのだ。
お、早速探知した。どうやら四部屋ある内の一室の中に四人の生体反応がある。
多分、咲夜とパチュリー、お姉様と美鈴だろう。
異様な魔力の高まりを感じるが、まあ私なら大丈夫だな。
なんだって魔力が大きくても、私の足元にも及ばないんだから。
お姉様の部屋は私がまだ外に出れた時より場所が変わっており、紅魔館の最上階に位置している。
まああの姉の事だ。メイドに無茶な注文を通して、無理やりそこに移動したんだろう。
お父様が仕事を行なっていた部屋に。
なんで当主になった者は、みんな上に行きたがるんだろう?
お父様の時も、無茶を言ってそこに移っていたなぁ。
まあ、良いか。とりあえず。
「お姉様!おはよう!」
私は扉を潰す勢いで、中に入った。
ノックするのを忘れていたけど、まあいいか。身内だし。
「ふ、フラン!?」
お姉様は目を見開いて。
「い、妹様!?」
昨夜は驚いて。
「あなた、どうやって・・!」
パチュリーはどこか悔しそうに。
「妹様!?」
何故か小悪魔がいた。
なんだろう、あの小悪魔。
私は知らないのに、あっちは私のことを知っているようだ。気に食わない。
中に入った時の私の瞳に捉えた光景は、私が入ってきた扉に対して、攻撃を加えようとしているところだった。多分、私がレーダー探知の為に漏らしていた魔力を感じ取っていたんだろう。
四人は驚く。
どうやら、私が出てきたことに対して、驚いているようだ。
別に私も同じ館に住んでいるのだから、驚くことはないだろうに。
「あ、そっか……」
私はわざとらしく忘れていたフリをして、魔力を抑える。
これでは敵だと間違われてもおかしくない。まあ攻撃が飛んでこなかっただけ良しとしよう。
もし攻撃されていたら、自動的に返り討ちにして紅魔館が少し縮んでしまうところだった。
「ごめんね、驚かせちゃった?」
魔力が大きくなった原因は、幽閉されている長い期間中に魔法の研究やらをしていたおかげで、魔力が昔より格段に上がっているのだ。
まだ意識しないと、力が外にあふれようとするのは少し面倒だったりする。
「……フラン、貴方どうして出てきたの!?」
「え?暇になったからに決まってるじゃん」
私は何事も無かったかのように、お姉様のベットの上に座る。
椅子が空いてないからね、仕方がない。
椅子ぐらいもう少し用意しておけばいいのに。
「……扉とその周辺には魔法と結界があったはず、それをどうやって……」
大図書館の管理人、パチュリーが封印について聞いてきた。
「ああ、それなら壊してきたよ。思っていた以上に簡単だった」
私の部屋の扉には十八個の封印術式と対破壊性を持った魔法陣が描かれていた。
仕掛けとしては内側が外側の対になっている魔法陣が破られると、吸血鬼が数時間ほど動けなくなるぐらいの魔法攻撃と精神魔術が展開され、その間にまた部屋に閉じ込め封印するという算段だったのだろう。
普通の人間なら、間違いなく即死である。
パチュリーは何も言わずに、膝から崩れ落ちた。
どうやら自身の魔法が破られたことに、酷くショックを受けたようだ。
小悪魔が居たたため、介抱されている。
美鈴だと思っていたが、違っていた。
図書館に一つ新たな生命体が住み着いていることは、レーダーの魔法思考の時に感じていたが、多分それが小悪魔だったのだろう。
昔は人間より少し強いぐらいの魔力しかなかったのに、いつの間にか普段の美鈴と気が同じぐらいまで成長していたのだ。
これはこれで、少し驚いた。
「妹様、もう大丈夫なのですか?」
紅魔館の現メイド長である、咲夜が私に尋ねる。
「ん?何が?なんかあった?」
咲夜はその返答に対して安堵する。お姉様も同様に。
別に私は健康そのものなので、心配することなんてないのに。
「あ、もしかしてお姉様が五百年近くも私を地下に閉じ込めていたこと?」
その言葉を聞いた瞬間、お姉様の動きがぎこちなくなる。
流石に何かしら思うところがあるのだろう、頭が下がり目元が見えなくなった。
「……フラン、私は貴方が嫌いとかそんなわけじゃないのよ」
「うん、分かってるよ。別に何とも思っていないし」
嫌いだったら、この館を既に追い出されているだろうし。
いや、私の力が表に出ないようにしていたことも考えられるか。
「そう、それなら―――」
「あ、でもお姉様を許すか許さないかはまた別のお話」
当たり前だよね。一言目から言い訳に走ろうとするお姉様を、なんで許す必要があるのか。
謝りの言葉の一つでも行ったのなら、考えていた余地もあったかもしれないが、少なくともここまでの数分間でその言葉出てこなかった。
なら、その必要はない。
「私は今のところは許すつもりはない。まあ少しは考えてよお姉様。それでは、私は
「……フラン、待っt」
呼び止めようとするお姉様の言葉を無視し、お姉様のベットを勢いよく飛び降りて部屋を出た。
今更何を話すと言うのか。
謝るのなら既に遅い。
それにあそこはもうすでに幽閉場所ではなく、私の部屋みたいなものだ。
いろんな研究成果もそこに置いてある。誰も簡単には見ることはできないだろうけど。
さて、明日は外にでも行こうかな。