さて、昨日の今日だが、いよいよ外出しようと思う。
長い間、薄暗い地下に居たのだ。幻想郷という見たことのない新しい世界にも来た。
見たことのない外に、出たいという好奇心の欲求が生まれるのは必然だった。
しかし、お姉様に一回聞いてみたところ、怯えながらも外出の許可は頑なにくれなかった。
なんだかんだと理由をつけられたが、どうやら外に出た時の危険性をいろいろと語ってくれていたと思う。
今の私に身の危険があるのかと言われれば、無い。
だが、久々の外出なので、念には念を入れて魔法でいろいろと対策はしておく。
太陽の光とか流水は既に克服済み、銀とかは触れたら腫れるほどで命の危険はないし、不意打ちの攻撃に対処できるようにしておくのも忘れてはいない。
まあ、大体全てが自動反撃なので無意味になると思うが。
今の私に攻撃をしてきたら、死ぬまで無数の反撃魔法が展開されて、この世から存在ごと消えてしまうだろう。
そして私は今、再度お姉様に外に出るための許可を貰いに来ている。
流石に罪悪感を残したとはいえ、一応この館の当主。別に外に出るのに、許可を貰わなくても行こうと思えばいけるが、しっかりと確認を取ることは、過程として大事だ。
後から文句を言われても、お姉様が許可したんだと言えばいい。
言葉は取っておくものだ。
「だから貴方が外に行くことは...って聞いてるの?フラン」
「ん?あ、ごめん。此処までの過程が長かったから、半分ぐらい聞いてないや」
お姉様は何かといえば理由を付けて、私の行動を未だに抑えようとする。
警戒していることは分かるのだが、いい加減にしてほしい。
お姉様が感じるのは罪悪感と、それに対する償いだけでいいのだ。
「...そうね、あまり縛り付けるのは良くないと咲夜に言われたのを思い出したわ。なら、条件を付ければ外に出ても良いわよ」
お、やっとだ、やっと先に進む。
此処まで来るのに長々と話しながら、暗に外には出ることは駄目だと言っていたお姉様を、なんとか説き伏せることが出来た。
咲夜に予めいろいろと吹き込んでおいて正解だった。
またあの地下室に引き籠ることにはなりたくないからね。
まあ、罪悪感という私にとっては便利な道具があるから、最悪それで半分脅すような形で外出の許可を取り付けても良かったのだが。
外に出れることにはなったので良しとしよう。
確か、外に出るには条件が必要なんだっけ。
「それで条件は?」
「条件はただ一つ、この館の門番である美鈴を連れて行くこと」
門番を?
あの寝ているだけのように見えて、意外としっかりしている門番を?
紅魔館の元メイド長で、今は暇で寝てしまうような門番を?
「それだけ?」
「そう、それだけ」
なんだ、案外簡単な条件じゃないか。
美鈴を連れて行くことぐらいは全然問題ない。
魔法の実験とか、錬金術を使うなら別だけど、今回は外に行って幻想郷を見回るだけなので大丈夫だ。
それに少し美鈴にやって欲しいこともあったし。
「分かった、じゃあ行って来るね」
「ええ、いってらっしゃい。気を付けてね」
こうして、私は外に出た。
「妹様、本当に大丈夫なんですか?」
ゆっくりふらふらと飛んでいる私の横に、距離を縮めも離れもしない距離でついてくる美鈴。
「何が?」
「えっと……能力のことで―――」
現在、美鈴と紅魔館前にある霧の湖を飛んで横断している。
この湖に用件があるのかと言われれば、妖精以外で用なんてない。
妖精も今のところは困っているわけでもないから、今のところ用事は無い。
それでもゆっくり飛んでいる理由は、知らないことを知りたいから。
別にそこまで大きな湖でも無いし、霧のせいで方向感覚が狂うようになっているが、魔法を使える時点で問題にはならない。
ただ単に好奇心を常に満たしたいだけだ。
美鈴が、私の能力が暴走しないかと心配しているようだが、お姉様あたりに説明されていないのだろうか。
「能力は大丈夫だよ、そもそも暴走はしてないからね」
「……という事は、お嬢様の早とちりだったと?」
美鈴は頭の回転が早い。本棚の虫になっている魔女のそれと、いや、それ以上かもしれない。
いつも寝ていて、毎回怒られている門番だとは思えない。
その頭の良さを生かせれば、もっといい仕事にも就けただろうに。
吸血鬼に捕まるとは……まあ、喋り相手になっていいんだけど。
あと簡単に話を信じてしまうところとかは、どうにかした方がいいと思う。お姉様が今ここにいれば、美鈴なんて串刺しにされているだろう。
「そうだね、まあ紛らわしい感じにしてしまった私にも、落ち度はあるんだけど」
あの時、はっきりと暴走していないことを伝えておけば、こうはなっていなかったかもしれない。
お姉様のことだから、多分納得はしてくれないだろうけど。
まあ、地下に閉じ込められていたおかげで、いろいろと学ぶ時間が出来たんだから結果的には良かったんだけどね。
「ねえ、美鈴」
「はい、なんでしょうか妹様?」
私はふと気になった。
「そんなに気になることなの?私の能力」
―――ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。
確かに使い方によっては大変なことになるだろう。
それこそ悪用されれば人や物、世界、いや、星までも消すことが出来るだろう。
私としては、さらさらそんなことをやるつもりも無いし、誰に何と思われようとも別に気にはしていない。
悪用されるのならばしっかりと断り、力で支配しようとするのなら、それこそ壊してしまえばいい。
「そうですね……私ははっきりとは知らないので、何とも言えません」
美鈴右頬を軽く引っ掻きながら、苦笑する。
確かに、美鈴の前で能力を施行したことはなかったな。
能力の話なんてされても、それなら分かるはずがないか。
目の前で人間が粉々に爆発するところなんて見たら、それこそ精神的には耐えきれるものではないだろ。
私はこの能力の性質上、すでに慣れてしまっていたが、初めて見るものからすれば異様なモノなのは間違いないだろう。
実際に見てみたいと言うなら、ちょうどいい実験体が見つかったからそれで試してみてもいい。
「気になるなら、見たい?リンゴを潰すとか、そんな生半可なモノじゃないけど……」
「……いえ、大丈夫です。妹様の能力が強力なのはその魔力とオーラが物語っていますから」
オーラね、言い換えるなら〈気〉ってやつか。確か、美鈴はそれを感知して敵かどうかを判断し、門番の仕事を行っているらしい。
ちょっとその技術は気になるなるから、私も美鈴に教えてもらおうかな。
気になると言えば、さっきから後ろの方に二つの生体反応がずっと付いて来ているのだが、彼らは気づかれていないと思っているのだろうか?
「―――妹様、気づいています?」
「うん、流石にあれだけ私達を凝視していたらね」
穴があきそうなくらい見られていたら、感知範囲外でも気づくというものだ。
あれ?よく見たら、隣にいるやつに見覚えがあるな...
しかも、あっちの水色のやつも見たことがあるような...
あ、あの時紅魔館にいた二人か。
つい、無意識の内に亡き者にしてしまったやつ。
まさか、本当に妖精が復活するとは思っていなかったけど。
本で見た「妖精一回休みで復活説」は間違ってなかったようだ。
「ねぇ、貴方達は私達に何か用があるの?」
いつまでも後ろをついて来られても鬱陶しいだけなので、此処で接点を持っておくことにする。
「あちゃー、バレてたか!」
「チルノちゃん!だから辞めておこうって……」
緑色と水色の妖精が姿を見せる。
水色の方はチルノと言うらしい。
「大ちゃんだって、実はノリノリだった」
「ちょ!?チルノちゃん!?」
チルノと呼ばれる妖精は良く言えば天然、悪く言えば馬鹿なのだろう。
大ちゃんと呼ばれた妖精は慌てふためいている。
美鈴が先程からどう対応しても良いのか分からない様なので、此処は私が行くことにした。
「初めましてチルノに大ちゃん?」
「お前!私達の名前をなぜ知っている!」
「...チルノちゃん、さっきから喋ってたから聞こえてると思うよ」
訂正、いや確定、チルノは馬鹿だ。
頭のネジが何本か外れている正真正銘の馬鹿である。
それに対して、あの大ちゃんと呼ばれる妖精は賢い。
チルノと絡んでいるからか、騙されやすいような性格をしているが、先程から此方の方を睨むように見て何かを観察している。
普段から、内に潜めているナニカがあるのだろう。
「私達の後ろを付いて来た理由は何?」
第一村人発見といえど、妖精相手に時間をかけている暇は無い。
単刀直入に聞いた方が早いだろう。
「あたいの縄張りに入ったからだぞ!」
「わ、私はチルノちゃんの付き添いで...」
二人はそれぞれ答える。
チルノの言う縄張りとは、この霧の湖周辺のことだろう。
まさか妖精が、縄張りを持っているとは思わなかった。
紅魔館も湖からそこまで遠く無いので、人が居なければ住み着くつもりだったのか。
「縄張りだったのね、気付かなくてごめんない」
「いいぞ、許してやるのだ!」
「ち、チルノちゃん、言い方が悪いよ...」
あの大ちゃんとやらも大変だろう。
頭で考えずに率直に言葉に出してしまうようなチルノと、いつも一緒にいるのだ。
逃げ出してしまいたいとか思わないのだろうか、少し心を覗いてみることにする。
(チルノちゃん可愛い...チルノちゃんかっこいい...チルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃんチルノちゃん)
おっと、これは不味い奴だ。
これ以上覗いていると、此方まで飲み込まれてしまう可能性がある。
中毒性まであるヤバイ奴だ。
賢いと思っていたが、どうやらただ単にチルノに対して好意を持っているだけのようだ。
それも途轍もなく重い想いを。
表と裏の使い分けが上手い、上手過ぎる。
外は広く、様々なモノに出会えると聞いていたが、まさかこの様なモノにまで会えるとは思っていなかった……。
もしかして、無意識でやってしまったあの時も裏では恨みを持ってるのではないだろうか。
ヤバイ、最強である吸血鬼に恐怖を与えるものがいるとは。
お姉様あたりに本気で倒してもらおうかしら。
「そう、許してもらえたなら有り難い。これから行くところがあるから、また今度にでも遊びましょう?」
「おう!また今度な!」
そう言って私達は進み始める。
チルノ達は引き返す様で、付いてはこなかった。
正直、あれ以上あそこにいれば、精神がおかしくなる。
美鈴の方は全く気づいていないだろうけど。
因みに、このやり取りはたった数分の出来事である。
「……ねえ、大ちゃん」
「どうしたのチルノちゃん?」
チルノはフランが去っていった方向を、睨むように見ている。
まるで親を殺した仇を見るように。
大ちゃんはその目を見て、チルノには何かがあると考えた。
「さっきの七色の羽を持った奴、なんだか可哀想」
「チルノちゃん?それは一体どういう……」
さっきのフランドールとかいう吸血鬼の子が可哀想?何をいっているのだろうか、と大ちゃんは思う。
吸血鬼なんて妖怪の最大戦力のようなモノに、可哀想なんて言葉は似合わない。
地上を一度は支配していた、とまで言われる種族。
可哀想とは、失礼だろう。
「……チルノちゃんは、どうしてそう思ったの?」
「分かんない。けど、そう思った」
そう言ってチルノは、霧の湖方面へと飛び始める。
その後を、急いで大ちゃんは追った。
霧の湖を超え、魔法の森を超え、妖怪の山と呼ばれる所、少し道を歩いた先に人々が住む〈人里〉が存在する。
魔法の森というのは勝手にそう名付けたのだが、合っているのかどうかは知らない。異様に魔力の残り香が多かったので、そう呼んでいる。
早速、人里に着くと、は出入りは厳重に警備されていた。
どの様な用事で此処にきたのか、何日滞在するのか、どこから来たのかなどが、事細やかに聞かれている。
そしてそれが記録として残り、リスト化されて村の人々を把握している様だ。
「妹様、私達はどうしましょうか?」
「そうだね...別に素直に言ってもいいんだけど...」
紅魔館に住んでいる吸血鬼と言えば、比較的楽に通れるのだろう。怖がれて。
しかし、それだと問題がある。
人間の中に階級や位、役職などがあるように、妖怪の中にも強さというランク付けがある。
最弱なのは、意思を持たない有象無象の妖怪とも言い難い奴。
そして、最強なのが、私達吸血鬼なのだ。規格外なのもいるが、そういう奴は範囲外。
つまりは、私達はより警戒されることになる。
人里の中で別に問題事を起こそうと考えてはいないのだが、人と言うのは恐怖や疑いを持ちやすい種族であるために、いつも何処からか視線を感じることになるのだ。
「美鈴一人なら行けるかも知れないけど、私は難しそうかな」
「そうですか...なら別のところに行きますか?」
「そうしようか」
村へ入るための列から抜けて、来た道を戻る形で歩き始める。
人里はまた今度にでも来ればいい、それまでに種族自体を変更できる何かしらの方法でも考えておくことにしよう。
だが、これで行くところが無くなった。
魔法の森を見回っても良いが、多分魔法使いなどが数人いるぐらいで、他に面白い所は無いだろう。
他にも迷いの竹林だとか、妖怪の山などがあるが、何処も警戒心が強いようなので結局は振り出しに戻る。
「妹様、博麗神社はどうですか?」
「博麗神社?」
博麗神社。
確かこの世界には人知を超えた強さを誇る巫女が居ると、パチュリーに外に出る事を教えに行った時に、逆に教えてもらった記憶がある。
幻想郷が出来た時から頂点として君臨しており、妖怪を退治し、人々を守るとされていた。
今の博麗の巫女は、どちらかと言うと中立を保っているようだが。
「いいね、行ってみようか」
「しかし……提案した身ですが、心配で……」
「問題ないよ、敵情視察って奴さ」
美鈴は、顔に苦笑いを浮かべる。
私としては苦労する立場にいる門番なので、これぐらいの扱いでは問題ないだろうと判断し、その苦笑いに対しては反応しない。
「あ、そうだ。美鈴、なんかお土産買ってきて」
「お土産ですか?」
流石に人様の家に上がるのに、土産の一つも無いなんて失礼だろう。
さて、博麗の巫女がどの程度のレベルで、何故中立を保っているのか聞きに行こうか。