人里から続く道を少し進んだ先にT字路があり、右に曲がると小高い山の頂点へと登るための石階段がある。
その階段手前には大きな鳥居が立っており、博麗と書かれたし神額が掛けられていた。
「この階段、結構長そうだなぁ」
「結構由緒正しい所ですし、空を飛んで行くのも失礼かと」
そうなんだよね。
多分、お姉様なら躊躇なく飛んで行くんだろうけど、こう言った場所には何かしらの霊的存在がいる事が多い。
人々はそれを、謎の現象として大げさにしたり、怖がったりしている。
だが、何も無いところで何かが起きることは無い。
実際には幽霊や妖精、神様などが起こしているのだ。
悪いことをする奴には、後に大きくなって返ってくる。
逆に、良いことをした奴には、同じく大きな幸せが返ってくる。
だから、こう言った霊的な場所では、礼儀を軽く見ず、しっかりとマナーを守ることが大切なのだ。
階段の使用状況から見て、あまり利用されているようには見えないが。
「まあ、別に体力は問題ないから良いけどね」
「では、行きましょうか」
私と美鈴は一礼をし、階段を登り始めた。
☯
「美鈴ー、早くー」
「は、はい、今行きます!」
私、門番の美鈴は驚愕している事がある。
地下から出てきたばかりの妹様が、いつも鍛えている私の体力を追い越していることに。
いや、もはや追い越しているなんて言葉では収められないほどの、力の壁があることに。
確かに種族の違いで、根本的な違いはあるだろう。
五百年近く地下に過ごしていた吸血鬼ともなれば、私にでも武があると思っていた。
だが、結果は違った。
妹様が外出に行くと、私をお供にした時、無意識のうちに自分が必要かと考えてしまったのだ。
ここで重要なのは、意識的にではなく無意識的だったこと。
今まで意識的に考えたり思ったりすることはあったが、無意識で動くことはなかった。
自分より強いツワモノにあったとしても、自分で考えて挑むか引くかを考えていた。
無意識でモノを考えることは、我流であっての私でもあってはならないと思っている、
何故なら、意識しているモノは認識することが出来ている。だが、無意識のモノは認識すらされていない、自分にとっての脅威以上のモノへとなるからだ。
だが、身体が勝手に動くのだ。
逃げろと忠告するかのように。
紅魔館の主であるお嬢様にも感じなかった一種の本能的警告を、感じることになるとは思ってもいなかった。
「美鈴、どうしたの?考え事?」
「い、いえ、少し疲れただけですよ」
「ずっと門の前に立ってるだけだもんね、疲れるのも無理はないかな?」
私は不意に話しかけらたことによる不自然な反応を、うまく誤魔化せたでしょうか。
門の前に立ってると言っても、自身の鍛錬を怠ることはないので、体力には自信があります。
それに妖怪である私が、階段を少し長く登るくらいで、疲れるはずがない。
気づかれる可能性の方が大きいのですが、どうかうまく誤魔化せてますように。
美鈴は私に何かしらの恐怖というか、警戒心を抱いている。
それは、行動と口振りから察するに明らかだ。
私が話しかけた時のあの反応の遅れも、私のことで何か深く考え事をしていたからだろう。
日頃、門番しかしていない美鈴がそれ以外のことで、周りが見られなくなるほどの深い考え事に陥るはずがない。
ならば、現状で考えられることは私に関すること以外あり得ないのだ。
私、特に美鈴には何もしていないはずなんだけどなぁ。
咲夜や小悪魔、お姉様やパチュリーが私を警戒するのは分かる。
目の前で自慢の魔法と能力、正しいと思っていた行動が全て砕け散ったのだ。
だが、美鈴は外にいて、しかも紅魔館に掛かっている魔法により、気付くはずがない。
すると、考え事は門番のことになるのだが、今まで不服を申し立てた事がないことから、そうではない。
ならば、ここ最近で起こった出来事で考えることは、やはり私のことしかないのだ。
「ねぇ、あんた達、登ってきて早々悪いんだけど、冷やかしなら帰ってくれない?」
私が美鈴の行動に対して考察していると、少女の声が聞こえる。
その方向に目を向けると、今回のお目当ての人物が居た。
「貴方が博麗の巫女?」
「ええ、そうよ。あの赤い館に住む吸血鬼さん?」
赤いドレス調の巫女服を着て、振袖を靡かせ、お祓い棒を軽く振る。
その姿は文献に書いてあった通り、博麗の巫女の姿だった。
幻想郷の平和を守ることを務めとしている唯一の巫女。
どれだけ相手が悪くとも、決して諦めることをせず、己を殺してでも幻想郷を守る〈調停者〉。
恐れた妖怪たちと人間離れしたその力に恐れながらも感謝を注ぐ人間は、彼女のことを〈最凶〉だとか〈鬼巫女〉だと呼ぶ。
裏の噂では、あまりの参拝客の無さに〈貧乏巫女〉と言われていたりもする。
「私が吸血鬼だって、なぜ分かったの?」
「あんたと似た格好をした奴が、私に堂々と宣戦布告しに来たからよ。ご丁寧に『博麗の巫女は噂だけが一人歩きしてる』とまでの挑発まで受けたわ」
「あー、それはきっとお姉様だね」
私はこの後の展開と、その想像で苦笑いを浮かべる。
お姉様は調子に乗ると直ぐに相手を煽る癖があったりする。
考えがあっての行動なのだろうが、それでも注意もせず立ち向かっていくのは、ただの無謀だろう。
私が出会ってきた中で一番強いものに喧嘩を売るなど、愚の骨頂だ。
「巫女さんは強いよね、多分誰よりも」
「そうね、ついさっき例外が見つかったけどその考えは合っているわ。それと、私、その呼び方好きじゃないのよね。霊夢、博麗霊夢と呼んでくれない?」
「あ、そういえば自己紹介してなかったね。私の名前はフラン、フランドール・スカーレット。貴方に喧嘩を売った吸血鬼の妹で、こっちは門番の紅 美鈴」
美鈴が軽く頭を下げる。
霊夢は気だるそうに軽く手を振ると、お祓い棒を袖に仕舞って、箒で掃除を再開した。
どうやら警戒はされているけども、すぐさまの害はないと判断されたようだ。
「それで?何の用なの?」
人の目を見ないで話をする様子は、やはり興味が薄いのだろう。
噂通りの人物のようだ。
「幻想郷を見て回ってるんだ。私、ここで外に出るの初めてだし」
瞬間、美鈴が苦笑し、霊夢の箒の擦る音が止まった。
「貴方、おかしなことを言うのね。あの館が来てから既に一年も経つのよ?もしかして何処かに隔離でもされていたの?」
「お、鋭いね。そうだよ、私は約五百年間も地下に幽閉されていたんだ。五百年もね」
霊夢は箒を持ったまま、踵を返し神社の中へと入る。
箒を立てかけ、少し奥の方に消えたかと思いきや、またすぐに戻り、三つの湯のみとお茶が入った急須を持ってきた。
「入りなさい。その話、詳しく聞かせてもらうわ」
その顔には巫女としての仕事人の表情を浮かべていた。
どうやら、何かしらの気持ちにスイッチが入ったらしい。
それが、優しさからなのか調停者からなのかはわからない。
だが、
「あ、お姉様が大変だろうなぁ」
なんとなくそう思った。
まあ、自業自得かな?
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