吸血鬼で魔法使いの少女は遊びたい   作: 夕凪

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紅霧異変の始まり

 紅魔館の目の前にある湖。

 年中霧が発生しているため、<霧の湖>と呼ばれているその湖は、今は妖精たちの遊び場となっている。

 色々な弾幕が飛び交い、追いかけっこや戦いを楽しんでいた。

 

「なんか、空が赤くなったぞー!」

 

 そんな中、さっきまで仲間と弾幕ごっこを行っていた一匹の妖精が空の異常に気付く。

 その言葉につられて、次々と空を見上げ、色が変わっていることに十人十色の反応を見せた。

 

 中でも最初に気づいた氷の妖精が一番興奮していた。

 

「た、大変だー!」

 

 色が変わり、騒いでいた妖精の群れの中に、一匹の妖精が割って入る。

 全力で飛んできたのか、汗で服が濡れていた。

 

「どうかしたのかー?」

「は、博麗の巫女がこっちに来てるんだよ!!」

 

 瞬間、妖精たちの動きが止まった。

 顔を青ざめる者、ワクワクしている者、力を使って逃げようとする者、様々な反応があった。

 

 彼らにとって博麗の巫女とは畏怖する対象であり、同時にネタの宝庫でもある。

 妖精は一回休みの制度で、何度でも復活することが可能だが、それでも博麗の巫女が時々行う<狩り>は恐怖として心に刻まれているのだった。

 

「逃げよう!!」

『わぁ──ー!!』

 

 妖精たちは一斉に魔法の森の中へと逃げる。

 巫女に捕まっては、何をされるか分からないという恐怖からである。

 

 だが、そんな中、二匹の妖精は逃げ出そうとはしなかった。

 

 周りは皆が逃げてしまい、残ったのは赤く染まった霧と二匹の妖精だけ。

 氷の妖精こと<チルノ>と大妖精の<大ちゃん>だけである。

 

「大ちゃん、少しわくわくするね」

「チルノちゃん……、敵うわけないよ」

 

 チルノは大妖精の言葉を一切聞き入れず、今か今かと霊夢が来るのを待っていた。

 敵わないと言う大妖精も、他の妖精のように逃げることはせず、チルノと霊夢を待っていた。

 急いで草むらの中に隠れて、霊夢を待ち伏せする作戦へと移る。

 

「こんな所な建物なんてあるのかしら?」

 

 来た。

 霊夢の声を聞いたチルノは、内心ワクワクしながら霊夢が降りてくるのを待つ。

 手には一枚のスペルカードを用意して。

 

「……はぁ」

 

 霊夢は湖の岸に降り立つと、軽くため息を吐いた。

 ここまで飛んでくるのに一匹の妖怪を退治した疲れと、さっきから草むらよりこちらをみている二匹の妖精の視線に気づいたからだ。

 

 その草むらの方を横目で見ると、青色のリボンが少し見えていた。

 

 頭隠して尻隠さず。

 そんな言葉があったなと、霊夢は思いながら草むらへと近づいていく。

 

 霊夢が草むらの前まで来た。

 

「今だ!!」

 

 チルノは勢いよく飛び出しスペルカードを展開した。

 

 氷符"アイシクルフォール"

 

 チルノの前面へと氷の粒が生成され、次第に尖ったものへと変化し、射出された。

 当たれば全身が穴だらけになる致命的な攻撃だが、隠れていた場所を知っている霊夢は怯むこともなく、己の身体能力と勘だけで回避して対処する。

 

「なっ!?」

 

 チルノは回避されるとは思っておらず、驚いた。

 チルノ本人は自身のことを最強と歌っており、すぐに他人に勝負を仕掛ける癖がある。

 それを察したものたちがやられたフリなどをし、チルノを勝たせてあげるために、その行為がだんだんと誇張されてきたのだ。

 

 今回も最強である私が負けるはずがない、と人間の中で強者とされている博麗の巫女に勝負を仕掛けることにしたのだった。

 

 だが、実際。

 チルノは妖精の中では強い方だが、霊夢からすれば妖精という時点で弱い方でしかない。

 チルノのスペルカードも、見た限り当たれば致命傷になると見える。

 しかしよく見れば、弾幕の飛ばし方が単調であり、同じ場所に居続ければ当たらない安全地帯(セーフゾーン)と呼ばれる場所があったのだ。

 

 そんなことに気づかないほど、霊夢は鈍感ではない。

 さっさとその部分へと移動し、お札を用意する。

 

「……はぁ、貴方弱すぎ。やっぱり妖精如きは相手にならないわね」

「な、なんだと!!」

 

 チルノは霊夢の挑発に、簡単に乗ってしまう。

 霊夢は少しだけでも意識をそらすことができれば良いと思っていたが、妖精とはこれだけ単純なのかと、頭を振って深いため息を吐く。

 興奮したチルノにバレないようにお札を飛ばし、正四角形の立方体状に空間を形作る。

 そして、すかさずお札を起点とした結界を発動した。

 

「うわ!」

「どう? 自分の弾幕を自分で受ける感覚は?」

 

 チルノを囲ってしまった結界は、チルノ自身が発動していたスペルカードの弾幕を跳ね返した。

 その結果、跳ね返った弾幕はチルノへと飛んでいき、驚いたチルノが避けられるはずもなく、被弾していく。

 

「チルノちゃん!」

 

 それを見た大妖精が草むらから飛び出し、チルノへと向かう。

 味方が危険な状況に追い込まれるまで草むらから出てこなかったのはなかなかの策士だと思ったが、やはり実際に目の前にすると我慢できるはずがない。

 大妖精は結界によって隔たれ、チルノに近づくことは叶わない。

 

「無駄よ、その結界の中では何も出来ない」

 

 飛び出してきた大妖精に、霊夢は容赦なくお札を飛ばした。

 霊力を込められて飛ばされたお札は、途中で曲がる事なく、大妖精へと直撃した。

 

「きゃ!!」

「大ちゃん!! ってうわ!」

 

 ピチューン。

 そんな交換音が似合うように、塵へと姿を変えた二匹の妖精。

 霊夢は結界を解き、素早くお札を回収すると、目的地へと向かう。

 

「霧が濃いけど、こっちに何かあるわね」

 

 そう言って、霊夢は紅魔館の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「流石は霊夢、戦闘前に軽く体を温めて行くとは」

 

 所変わって、博麗神社。

 そこには異変を解決しに行った巫女の代わりに、一匹の吸血鬼と妖怪が居た。

 とは言っても、私と美鈴の事なのだが。

 

 お姉様相手といえど、その道中で霧によって増長した妖怪を軽くいなしていくその姿は、まさに鬼そのものである。

 お姉様など赤子同然でやられてしまうんだろうなぁ。

 

「妹様、これは一体どの様にして、霊夢さんを見ているのですか?」

 

 美鈴は怪我人だと言うのに、私が使った魔法に興味を示し、興奮していた。

 まあ怪我をした大半の原因は私にあるのだから、寝ているように強く言えない。

 

 美鈴は何かと好奇心旺盛な性格なので、自分が気になった事は正解が分かるまで探し続ける癖があったりするのだ。

 

「それはね、魔法を使って任意の場所を映し出すことができる。いわゆる投影魔法ってやつ」

 

 この魔法は元々は鏡などに付与して使われる空間系魔法の上級にあたる。でもそれでは使いにくいと思ったので、私が勝手に手を加えて、勝手に新しく作り直した。

 なのでこれは私のオリジナルと言ってもいい。

 

 覚えて作ってみた理由は、なんとなく遠い場所が見れればいいなぁと思っていた時に、ふと思い付いたからだ。

 まだ改良の余地はあるが、便利なので最近頻繁に使う様にしている。

 

 目の前に投影するためのスクリーンを作成し、任意の視点から任意の場所を写す。

 魔力の込め具合で、どこまでも映し出すことが出来、効率もそこまで悪くはない。

 

「妹様はなんでも出来るんですね..」

「私でも出来ないことはあるよ、でも出来ることは自分でやることにしたんだ。誰にも頼らずに生きる為に」

「……立派に成長しておられるのですね、妹様は」

 

 美鈴はフランの事を褒めて、霊夢が映るスクリーンの方へと目を向けた。

 

 私が成長しているだって?まあ、それはそうだろう。

 あれだけの時間があれば、寿命が短い人間でもない限り、何処までも成長していけるだろうからなぁ。

 

 だが、私が成長しすぎた訳じゃない。周りが成長しなさすぎているのだ。

 お姉様なんて、私が閉じ込められる前とほとんど変わっていない。

 逆に退化したんじゃないだろうか?

 

 私は正直、美鈴に勘付かれたのではないかと心配した。

 勘違いで気づかれてはいないようだが、これからは言動にも気を付けなければならないようだ。

 このまま、自身の目的がバレてしまえば、意味が無くなる。

 これは、バレてはならない、感づかれてはならない。

 他人だろうが、身内であろうが。

 

 私がやろうとしていることを。

 

 だが、まあまだ何もやるつもりはない。

 今はこの幸せな時間を謳歌するのだ。

 せっかく外にも出られたのだから、少しは自由にしてもいいだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()として、少しぐらいは楽しんでもいいよね?

 

 そうして、私もスクリーンへと目を向ける。

 ちょうど霊夢が紅魔館へと入った所だった。

 

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