「よく来たわね、博麗の巫女。歓迎するわ」
「無理矢理呼んだくせによく言うわ」
咲夜を破った霊夢は今、この館の主人であるレミリア・スカーレットの元まで進んでいた。
子供ぐらいの身長しかないレミリアだが、赤黒い王座に座っているその姿は王としての威圧感とオーラがある。
霊夢の感は、彼女は強いと言うことを示していた。
「時間がかかるのは好きじゃないから単刀直入に言うわ。あの鬱陶しい霧を止めなさい。洗濯物が乾かなくて嫌なのよ」
「それはごめんない?だけどあれは止められないわね。私達が自由に外に出るためのものだから。聞いたことあるでしょう?吸血鬼は太陽の光があると焼けてしまうって」
「へぇ、あれ、本当だったんだ」
レミリアは王座から飛び降り、霊夢と同じ高さまで降りる。
霊夢はお祓い棒を持ち直し、お札を取り出す。
「それじゃあ始めましょうか」
「ええ」
そしてレミリアは羽を大きく開き、霊夢はお祓い棒を振り払った。
「「楽しい(永い)夜になりそうね」」
いやぁ、いつにも増して全力戦っているなぁ。まあ、館が潰れようが、私の部屋は潰れないから大丈夫だけど。
だからと言って、こちらの方まで弾幕飛ばしてくるのはダメだよねぇ、流れ弾でも普通に届く威力は流石に危ない。まあ、私に飛んできたやつは勝手に潰れちゃうから良いんだけど。
けどこのままだと面白くないんだよなぁ...。
私だって、少しは楽しみたい。
あ、そうだ。
「初符『インフィニティレーザー』」
私はここに来るまでに、試しに作ってみたスペルカードを発動する。
霊夢の邪魔はしないと言っていたのを思い出したので、全てのターゲットはお姉様にした。
無数でいろんな色のレーザーが、お姉様の方に一直線光の尾を描きながら飛んでいく。
お姉様はそれを察知したのか、全力で避けていき、私の方を睨みつけた。どうやら私が帰ってきていたことにも気づいていたらしい。
相変わらずの察知能力の高さだ。
あ、お姉様が来た。
「フラン!帰ってきて早々、どう言うつもりなの!?」
あんまり怒ってはいないようだが、邪魔されたことに少し不機嫌のようだ。
「いやぁ、お姉様が余りにナメた戦いをしてるからね?だから少し難しくしてみた」
私は霊夢に視線を送る。
霊夢はため息を吐くが、その目にはもっとやれとあった。多分戦力が増えることは嬉しいのだろう。
「そういえばお姉様」
「何?フラン」
「この霧、なんなの?鬱陶しくない?」
「は!?」
お姉様が目玉が飛び出るぐらい驚いていた。
多分、理由としては私のために出したとか、思っているのだろう。
別に私は日光など効かないんだけど、お姉様は知らない。教えてあげてもいいけど、教えるのが面倒いし良いや。
「別になくても良いんじゃない?」
「いや!必要でしょ!私達が自由に外に出れないじゃない!」
「私からすれば、どうでもいいんだけど」
「いやいや、吸血鬼の弱点は太陽だから...」
私はお姉様をからかいながら、霊夢に視線を飛ばす。
霊夢は私が言いたいことを察したようで、口元が笑っていた。
「ちょっと!フラン、聞いてるの!ッ!?」
お姉様は背後から飛んできたお札を、右にズレることで避ける。
私と話をしていても察知能力のおかげか避けることが出来るらしい。
「ちょっと!なんで攻撃するのよ!」
「私は異変解決にきただけ、姉妹喧嘩なら終わってからにしなさい」
「ちょ!?......まあ、確かにそうね。フラン、話は後よ。まずは博麗の巫女を一緒に倒しま「断る」しょ...え?」
お姉様は驚いて私を見る。
私はお姉様のそばを離れて霊夢の隣に立った。
「お姉様、忘れたの?まだ私、許してないよ?」
「!?」
私は取り敢えずレーヴァテインを召喚する。赤く燃えた剣はいつもにも増して赤く輝いていた。
「ちょっと!フラン!?その話を今持ち出すの!?」
「頑張ってね?お姉様」
そう言ってフランはレーヴァテインを握り、霊夢はお祓い棒に霊力を伝せる。
「さあ!一緒に遊んでくれる?」
「フランと戦うなんて...」
「勝てたら、コイン一個あげる」
「いや、私は別に戦いたいわけじゃ...って私の命安すぎない!?」
「あなたがコンテニューできないのさ!!」
取り敢えず、私の本棚にあった説明書?と言う本のセリフをパクってみた。
話が噛み合っていないように見えるけど、それはまあ後で考えよう。
「転符『繰り返される事象』」
「早速スペルカード!?」
私はこの前作ったスペルカードを発動、霊夢はそれに対してお札を数百枚ほど飛ばした。一体どこにあんなに入るのだろうか?
いくつもの小さな弾幕が大量に召喚され、お姉様だけに飛んでいく。
「ちょっと!?」
お姉様はそれを、全力を持って避ける。先ほどみたいな余裕な心持ちはなく、避けることに必死になっていた。
まあ霊夢の攻撃はともかく、私の攻撃はばら撒かれた弾幕のどれかに触れれば一瞬で吹き飛ぶ。
吸血鬼だからすぐに回復できるだろうけど、それでも体力を削るのは得策ではないと考えているのだろう。
まあ、存在も残らないかもしれないけどね。
因みに、避けられた弾幕はそのまま反転し、更にお姉様に攻撃を仕掛けている。
「なんなのよ!この球!?」
「頑張れーお姉様ー、あっそうだ」
私は手に持っていたレーヴァテインをお姉様に投げる。
「ちょ!」
お姉様はそれを避けた。
「危ないじゃないの!」
「気を抜いたらもっと危ないよ?」
「何を言って...ッ!!」
お姉様はまたしても回避行動を取る。その選択は正しかった。
お姉様の背後から飛んできていたのだ、一本の剣が。
赤く燃えた剣、レーヴァテインが。
神の炎を宿した剣が。
「ま、まさか...」
「多分、お姉様が考えていることで正解だと思うよ」
私はちょっとした思いつきでレーヴァテインに、現在発動しているスペルカードと同じ効果を与えてみた。
最初、適当に魔法で的を作り、使ってみたが変化はなかった。
何度も繰り返すうちに飽きてしまった私は、レーヴァテインを放り投げてみたのだ。
すると、剣が自動的に戻ってくるではないか。
なんとも新しい発見である。
魔剣だから出来ることかもしれないが、それでも強いことには変わりない。変則的になった分、やりづらいだろうなぁ。
「あああアアッ!!もう!」
お姉様は避けることしか出来なくなった。
魔理沙はパチュリーの攻撃を回避し続けることしかできなかった。
攻撃の手数は圧倒的な差で、魔理沙が一つの攻撃を行うころには、百の攻撃が帰ってくる。
劣勢状態だった。
「そろそろ、諦めたら?」
「そっちこそ、私が諦めるのを、諦めたら、どうだ?」
「そんな息切れ状態で言われても、説得力は無いわよ」
実際のところ、魔理沙の体力は限界に近づいてきている。
ストックとして持っていた体力回復薬も既に使い果たしており、残るは今の体力のみ。
気力と根性で耐え忍んでいるモノの、掠った攻撃も少なくは無い。
人間で魔法使いである魔理沙と、魔女で魔法の深淵を探求しているパチュリーとでは、実力差が開けていた。
「コアにあったから、どれだけ強いかと思ったけど、案の定だったわね」
「おいおい、油断してるとこっちから行くぜ?」
魔理沙は箒に付けていた八卦炉を取り、パチュリーに向ける。
小悪魔を倒した技では近づけないことを理解し、遠距離の強力な攻撃で仕留めることにしたのだ。
「魔力の集まりが急激に増大してる……大技ってところね。受けて立ってあげるわ」
パチュリーは全ての攻撃を取りやめ、防御魔法を展開する。
その防御魔法は、小悪魔が使っていたモノよりも、より強固で、より分厚いモノだった。
「後悔するなよ?」
「さぁ、どうでしょうね?」
魔理沙はそのまま八卦炉に魔力を送り続けて、臨界に達した。
魔力は渦を形成し、その本流が光となって八卦炉から漏れる。
その濃さは、触れたモノを跡形も消し去ってしまうほどのエネルギーとなっていた。
「いくぜ!!―――恋符〈マスタースパーク〉」
スペルを発動すると、八卦炉はそのエネルギーを前方へと集めて、解放した。
抑えられていたエネルギーは、逃げ道を見つけたことで、前方へとあり得ない速度で放たれ、本来は白色であった光も、七色に染まっていた。
これが魔理沙の大技の一つである。
圧倒的な魔力量で生み出されるその一撃は、当たらなくても相手の精神を破壊するような衝撃がくる。
まさしく、最強な大技なのだ。
「飽きた」
私はそう思ったので口にした。
回避行動しかしなくなったお姉様を、一時間ほど眺めていた。
右、左、右、左と交互に回避する光景を一時間も見ていた。
そんな同じ光景を目にすれば、流石に飽きてくる。
「そろそろ終わらせようかな」
私は掌を徐に、お姉様に向ける。
能力を発動し、金色に輝く瞳で、お姉様を見る。
お姉様の中心に、ひとつだけ赤色の目が現れた。
そう、あれが私の言っていた、物体や万象を構成している根源である。
流石はお姉様、魔力や抵抗力が人間とは比べ物にならない。下手すれば、こちらがその魔力に飲み込まれてしまいそうだった。
だから、私は慎重に。
慎重にお姉様の目を掌握下に置く。
私の目にしか見えないそれを掴み、右手で軽く揉んだ。
「うぐ!?」
瞬間、お姉様の体がフラつき、そのまま下に落ちた。
「霊夢!今!」
「たく......まともな終わらせな方は無かったの?」
私の行った事をなんとなく察したのか、霊夢は軽く文句を愚痴りながらも、袖からカードを一枚取り出す。
スペルカードを発動し、博麗の巫女に代々伝わる奥義の夢想封印を使用した。
大きくなった赤と白の陰陽玉と七色の玉が、そのままお姉様が落ちていった場所へと打ち込まれ、地面が抉れた。
スペルカードの発動が終わると、そこには大きなクレーターが完成しており、その中心には地面に埋まったお姉様が倒れて?いた。
私はその場所に降りると、お姉様の前まで進み、静かに手を重ねる。
「安らかに眠りますように……」
「勝手に殺すな!!」
お姉様は埋まっていた場所から勢いよく飛び出し、ツッコミを入れる。
「おお、キレがある」
「いやぁ、それ程でも……ってそんな事を言っている場合じゃないのよ!」
お姉様が私に人差し指を突き出し、文句を言う。
「フラン!実の姉に能力を使うなんて一体どう言うつもり!?制御できるようになったからって流石に回避できないわよ!?」
どうやら能力でこの未来になる事を予め予想していたらしい。
お姉様なら大丈夫だと思って能力を使ってみたんだけど、やっぱり回避不可能なんだね。
「いやぁ、お姉様が意外に耐えるからさー。飽きてきちゃって」
「いや、私が軽く死にかけた理由はそれだけのことで!?」
お姉様が吠えるように文句を言う。
最近姉としての威厳がとか話していたのを聞いてしまったからか、私は少しからかってみたくなるのだ。
やはり姉妹は仲良くないとね。
「はいはい、取り敢えず喧嘩は後にしてくれない?早く解決して帰りたいんだけど?」
霊夢はお祓い棒で肩を叩きながら、お姉様へと霧を解くように言う。
「いや……でも……」
お姉様は何故か私をチラチラと見ながら、解く事に戸惑いを見せる。
この程度の霧ぐらいなら、供給している魔力を切れば3時間ほどで綺麗に消えるはずなんだけど。
あ、そうか。私が日光の下に晒されるのが嫌なのか、灰になれば超回復力を持つ流石の吸血鬼でも肉体を回復することは出来ない。魂がその場に残るだけである。
それが忘れられて、悪霊やらに変わったりするのだ。
ま、私には効かないんだけどね。
「お姉様、一つ重大なこと言うの忘れてた」
「な、何?フラン」
私は無表情を作ってお姉様を見る。
お姉様はその表情に少しだけ警戒をしているようだ。
別に攻撃しようって訳じゃないのにね。
「私、日光とか効かないから」
「….は?」
お姉様はその言葉を聞いて固まった。
どうやら自分の考えていた話をされると思っていたようだ。どうせ、この後の展開だと許してもらえるかどうかの話だとでも思っていたのだろう。
許すつもりは無い。
地下に閉じ込めた挙句、自分は来る事なく門番やメイドに部屋を訪れさせる毎日。
自分は楽しく外の世界で過ごしながら、私を暗い空間へと閉じ込めた毎日。
いつでも出ようと思えば出れたのだが、そんな事をされたのに、今更ごめんの一言で許すのは到底無理だ。
私はそこまで心を広く持っていない。
「はぁぁぁぁぁァァァッ!?!?」
お姉様はいよいよ頭の整理が追いつけなくなり発狂した。