きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
…ジンジャー・ヴェーラ
きららちゃん達が俺の部屋で例の本を開けようと四苦八苦している頃。
俺とハッカちゃんは、迷路となった神殿を進み、大広間まで歩いていた。
「これより先は、ジンジャーが守護するクリエケージの在り処。如何なる行動を移すつもりか、ローリエ?」
「ジンジャーは、なんとか説得したいな。できる限り箝口令の敷かれたソラちゃんの件は話さないで」
「……至難の業なり。」
「そうなんだよなぁ…ドリア―テの話だけで説得しきれるかどうか………
それと、その奥でフェンネルが番をしている可能性もある。そこの対策も考えないと」
「フェンネルはアルシーヴ様と奥へ向かった。『盾』たるフェンネルがアルシーヴ様への道を守るは必然?」
「そういうこった」
カルダモン・シュガー・ソルト・セサミは気絶中だ。後でアリサあたりに根回しを頼むことにしよう。
きららちゃん達は、俺の部屋で全てを知った後で先へ進むとするならば、クリエケージを守護しているジンジャーとアルシーヴちゃんへの道を守るフェンネルと戦うことになるだろう。
だが、俺は最終決戦前にきららちゃん一行と賢者達がこれ以上戦うべきではないと考える。ドリアーテと戦う前に戦力を削るマネはこれ以上したくない。セサミは正門前での足止め係だったし、シュガー・ソルト・カルダモンは迷路の中にいるから時間的に仕方ない部分もあったが、残り二人はそうはいかない。
ジンジャーは、先ほど言った通り説得する余地があると考えている。
彼女は『守る』事に信念を置いており、都市でも敏腕市長として尊敬されている。最近も、人身売買を禁ずる法を作り出して尊敬を集めていた。
そんなジンジャーに、ドリアーテについて調べたことを話して「都市を、ひいては世界を守るために力を貸してくれ」って頼んだら、いけそうな気がするんだ。
だが問題はフェンネルだ。
フェンネルは「アルシーヴ様こそ正義」を地で行く絶対アルシーヴ様崇めるウーマンと言っても問題ないくらいにはアルシーヴちゃんを崇拝している。しかも、そのせいか俺ともあまり相性が良くない。
ドリアーテ相手に共闘したはしたから、そこに説得の糸口はあるにはあるんだが……そうなるとアルシーヴちゃんに禁じられた女神封印の件を話さなければならなくなる。だが俺は命令を破るつもりは毛頭ない。「ソラちゃんは実はドリアーテに呪われたんだ」と言えない以上、説得は時間がかかると考えた方が良い。………ゲームにおけるフェンネルを物理攻撃だけで倒すのと同じくらいの時間はかかりそう。正直やってられない。
故に時間がない今、説得するのはジンジャーだけにして、フェンネルには別の手を使うことにした。
「フェンネルはある意味難攻不落だ。説得して道を開けてもらおうとしたら、こっちの持つ情報を全部使う羽目になる」
「アルシーヴ様の命は絶対。」
「そうだな。箝口令をこっちから破るワケにはいかない以上、敵対するしかないのかな………となると、ハッカちゃんに任せることになるけど……いいか?」
「肯定」
フェンネルが固いことは知っていたが、高いのは物理防御力だけにして欲しかった。まさか、アルシーヴちゃん専門の百合女になるレベルの忠誠心がここで壁になるとは思わんかった。
あらかじめ考えてあった作戦をハッカちゃんに伝えて任せることに了承を得てから、二人で大広間へのドアを開けた。
◇◆◇◆◇
ウォーミングアップ中に大広間のドアが動いたのが見えた瞬間、いつでも戦えるように構える。
だが、ドアの間から見えてきた影が誰だかわかると、私は拳を下ろした。なんというか、ここに来たのが予想外な人物だった。
「おう、どうしたんだ? ローリエ、ハッカ」
アルシーヴから「遊撃隊」を仰せつかっているローリエとハッカだ。
その立場上、ここに来るのは別に不自然でもなんでもねぇが……なんだ?この雰囲気は。
てっきり、ここで私と3人がかりできららを迎え撃つのかとも思ったが…なんとなくだけど、どうも今の二人からは、そんな提案が出てくるようには見えなかった。
「……なんの用だ?」
ここに来たワケをストレートに尋ねれば、ローリエは真剣な眼差しでこっちを見てきた。
「ジンジャー、今から話すことを良く聞いてくれ。……その上で、ちょっと難しいお願いをする」
そう前置きをするローリエに、何だか胸がざわついた。
嫌な予感……ってレベルのものでもねーが、それでも穏やかじゃあないな。まるで、真っ暗い雲が覆う、明日あたりに一雨来そうだなって感じの空を見上げた時のような気分だ。
「ドリアーテが現れた。今、神殿のどこかにいる」
「!!!!」
そして…告げられたそれに、言葉が詰まった。
ドリアーテって、あの……ドリアーテだよな?
街の人達を攻撃したセレウスのバックにいた奴で、ビブリオを使って赤子の人身売買をやってた奴だよな?
そいつが、ここにいるだって?
「……どうしてわかった?」
「それに答える為には、ちょっとドリアーテの説明が必要だ。
ドリアーテはとある魔術を身に宿している影響で、変装がとんでもなく上手い。
―――『不燃の魂術』。全身を再生する炎にして、不死身になる禁忌の魔法。これには、自身の肉体年齢を操作して疑似的な変装ができるという特徴もある」
「お、おいおいおい……ちょっと待て!」
つまり…なんだ? もう既に、そのドリアーテってやつは、神殿の誰かになりすましてるってことか!?
冗談じゃねぇ事態になってるじゃねぇか! クリエ云々とか言ってる場合じゃあなくないか!?
「二人は……ドリアーテが神殿の誰かに化けてるって確証が…あるのか?」
「……そうだ。違うと良いな、とは思ってたがな」
「不燃の魂術を宿す者は、あらゆる傷が燃え上がりつつ再生する。
ちなみに、我ら二人はドリアーテではないと断言する」
ハッカの言葉と同時に、二人が手袋を外し、手の甲にあったバツ印の傷を見せてきた。おおかた、それで無実の証明ってところか。
私も、『不燃の魂術』の特徴は大体知っている。どんな傷も再生し、年をとらない禁忌だってことくらい、神官の必修事項だ。つまり、この二人は本物のハッカとローリエなんだが……
……まさか、このタイミングでセレウスらの裏にいたドリアーテが出てくるとは思わんだろ。しかも、不死身の禁忌をひっさげて。
「ちなみに、誰に化けてるとか、分かっているのか?」
「もちろんだ。ただし……もしここでそれを知ったら、後戻りはできなくなる。なにせ『正体』を知っているのは俺とハッカちゃん、そしてアリサだけだ。敵に情報が漏れる危険性を鑑みて、アルシーヴちゃんにも言えなかったことだからな」
確かめるように尋ねるローリエ。
正直、上手いなと思った。明らかに、こういう交渉とかに慣れている。場数を踏んでいなければ、ここまで話の流れを掴めない。
「…そのドリアーテとクリエ集めが、どう関係してくるんだ?」
「ドリアーテの目的はおそらく、クリエメイトの殺害…及びエトワリアの滅亡。これまでのクリエメイト争奪戦でも、クリエメイトの命を狙った輩が少なからずいたんだよ。盗賊どもに始まり、サルモネラも、ビブリオも、セレウスもそう。アルシーヴちゃんの話にあった、ドリア―テの側近の暗殺者も、俺達だけじゃなく、クリエメイトの命も狙っていたと思われる」
「確かに、そんな話があったな……どんな奴だったか、聞いても良いか?」
「人形みたいなヤツだった。そのくせ、人の命を奪うことになんの躊躇いもなかった。
表情をまったく変えずに攻撃を受けたり、副作用で血塗れになる薬を自身に投与してた。
―――正直、今になってもアレが機械じゃなくてシュガーソルトくらいの年の子供だったことが信じられない」
「……冗談だろ?」
私は、話を掘り下げたことを後悔した。
ローリエのその口ぶりは、冗談抜きのマジでそんなありえない人間性の刺客と戦った事を、如実に物語っていた。
ハッカが、唖然として冗談じゃないと分かっていても冗談だろとしか言えなかった私に答える。
「事実。私が死に際の彼に宿屋の女将を殺めた理由を尋ねたところ、少年は『人を殺めた事を咎める理由は何か』と問い返してきた。………歪な質問を、純粋な瞳で尋ねてきた。」
なんだ、それは。
あ、頭がパンクしそうだ。
一般の民が犠牲になったこともショックだが、人を殺しちゃいけねぇ理由なんざ、普通聞かなくったってわかるだろ? 聞かなくたって、よっぽどのことがない限りなんとなく学べるはずだ。 どうして、シュガーやソルトくらいの年になるまでンな恐ろしく歪な純真さのまま育った?
―――まさか、と。私に嫌な可能性がよぎった。
理論上できなくもないが、人倫的にやっちゃあいけねぇ類の可能性だ。幸いというべきか不幸にもというべきか、ピースはあった。
「まさか…まさか、だけどよ………そいつは、物心のついた時からそういう風に『教育』されてた、とかじゃあ…ないだろうな?」
「ジンジャー……」
「頼む…ローリエ。『違う』と言ってくれ。私は今……イチバン胸糞悪ィ可能性に辿り着いちまった」
こうは言ったが…なんとなく、それは裏切られるだろうという予感があった。
ハッカもローリエも心配そうな目で私を見ている。ふつふつと湧き上がる胸の中の怒りが、顔やら拳やらに出ちまってんだろうな。元々、こういうのはあんま得意じゃあねぇって自覚もある。
「ジンジャー……実は、戦った後の会話で、俺も―――おんなじ可能性に行きついた。
ビブリオが攫った赤ちゃんをドリアーテが私兵として育てた………そんな可能性に。確証はないが、多分事実だろうな」
「――――ッッッソが!!!」
―――と、金属性の鈍い轟音が、大広間に響き渡った。
遅れて、握りしめた右の拳がじんわりと熱と痛みを帯びて、血がしたり落ちる。
拳を思いきりぶつけたクリエケージが、少し歪んじまったが、今はどうでもいい。
そう思えるくらいに、怒りや憎しみのような感情が、胸に溢れる。
「人の命を……なんだと思ってやがるんだッ……!!!!」
この一言に尽きる。
ドリアーテの野郎……一発殴らねーと気が済まないぞ…!!
命を息でもするかのように奪った刺客の少年もそうだが、何よりその少年にそんな歪んだ教育を施し、人生を食い物かなにかのように喰い潰したドリアーテを、許せるものか……!!!
「同感だ。ドリアーテには、相応の報いを与えてやんなきゃ気が済まない……!」
「然り。我らの世界を脅かすものなら尚更、放置するわけにはいかぬ」
「ローリエ…ハッカ………
―――っふー。悪ぃ。ちっと取り乱した」
「イヤ、無理もない。子供が戦いに駆り出された挙句使い潰されたなんて、許されるわけがない」
一発殴ったお陰か、ドリアーテの非道に対する怒りは……まぁあるままだが、ある程度は落ち着けた。そして、ローリエとハッカの目的も分かってきた。
二人は、ドリアーテを倒す気だ。アルシーヴがオーダーにこだわる理由も一人で背負いこもうとしているのもわからねーが、二人の目的はハッキリとした。だが、肝心なことが聞けていない。
「……それで? こんな話をしておいて、『ちょっと難しいお願い』ってのはなんなんだよ?」
「単刀直入に言おう。召喚士・きららちゃん達と戦わないで欲しい」
……これ以上引っ張らずに単刀直入に言ってくれるのはありがたいが…これまた、ちょっとどころじゃあないお願いが来たぞ。どうすればいいんだ。
頭を抱えそうになるが、問題は詳しく話を聞いてからだ。
「………ちょっとじゃねぇ。すげぇ難しいお願いだぞ。それは」
「ドリアーテと戦う以上、戦力は必要だ。ここでお互いが戦い合っても奴に利しかない」
……言いたいことはすげぇよく分かる。
ドリアーテがエトワリアを滅ぼす事を目的としている以上、奴は神殿と敵対するだろうな。きらら達も、根は良い奴らだ。あいつらもあいつらなりの目的があるだろうし、それはドリアーテとも相容れない事も予想がつく。
でもな……
「…私、アルシーヴからクリエケージを任されてんのは知ってるよな?
アルシーヴの目的は知らないけど、私に任せるくらいクリエの回収は重要なモノらしいんだ。悪いが、これを簡単に投げるわけにはいかないな」
アルシーヴがクリエケージでクリエを集める理由は知らない。でも、アルシーヴが大量のクリエを必要としてる事くらい立場で分かる。
ローリエの『お願い』は、それを無駄にすることだ。
「……クリエの確保だが…アテはある」
「それは、なんだ?」
「ランプの聖典だ」
ローリエが言い出した『アテ』。それは、到底信じられないものだ。
ランプの聖典、だと? 歴代女神にそんな名前いなかったし、まさか女神候補生のランプが聖典を書いてるとか言わないよな?
「ローリエ。私をからかってんなら、話は終わりだ」
「……いや、大マジメだ」
「よりダメだろ! なんであの、女神候補生のランプが聖典を書けるんだ!!」
「じゃあ聞くが、そもそも聖典とはなんだ?
例えば、俺がクリエメイトの日常を小説にしたとするならば…それは聖典足りうるのか?」
イキナリ何言ってんだコイツ。
ランプの聖典といい、話が読めない。
「……なるワケねーだろ。聖典っていうのは、女神が異世界を観察した記録の事を言うんだ。素養のない奴が書いたところで、クリエを生み出す力なんて生まれないだろ?」
「そうだジンジャー。今『女神が異世界を観察した記録』と言ったが、主にどんな情報がアレに書かれてる?」
「はぁ? 質問の意味がよく分からねぇぞ?」
「例えば………登場人物が一切ない、図鑑や子供用の絵本のような聖典はあったか?」
「…………いや。子供用に編集されていたのは見たことがあるが、それもクリエメイトの日常とかがメインだったかな。人物は少なからず出ていた筈だ」
「じゃあ……だ。もし、将来有望な女神候補生が、クリエメイトとの直接の交流を日記帳に書き込んだとしたら…その日記帳はどうなると思う?」
「……? …………………………!!!!
な、お前……まさか!!」
質問を繰り返すうち、ローリエの言っていた「クリエのアテ」に半ば確信を得た。
だが、そんなことあり得るのか…?
「お前…ランプの書いた日記帳を聖典に仕上げるつもりかッ!!?」
「
ローリエの、あまりにぶっ飛んだ提案に、返す言葉も失った。
それは……例えるなら、社会にすら出ていない衛兵の訓練生をイキナリ実戦に連れていくかのごとき蛮行。
成功する方が難しいどころかダメで元々といってもいい、ムチャクチャにして無謀な挑戦だ。
「ま……マジに言ってんのかッ! どんだけ無茶言ってるか、分かってんのか!?」
「かつてソラちゃんは歴代最年少で聖典を編み出すことに成功した。そんなソラちゃんとランプは良く似ているんだよ……性格も成績もな。あながち、分の悪い賭けでもないと思うぜ?」
「それでも! だいぶ無謀な事には変わらねぇだろ?」
ランプは、聖典学以外の成績は振るわなかったと言っていた。神殿から飛び出す前は、私の治める都市に来てはそんな悩みを言っていたか。そんな一面を見ている者としては、ランプに聖典を編み出すなんて重役は力不足にもほどがあると思ってしまう。
確かに、都市で久しぶりにあった時は成長したなと思ったさ。………いや、成長したのはきららの方か? ……いやでも、ランプはランプなりに得たものもあったんだろう。だがそれでも、ローリエの作戦(というにはお粗末にも程があるがよ)は、ランプへの無茶ぶりにしか聞こえない。
「どうしてそんな事が考えられる? どうして、そこまでできる……?」
私はどうしても、正気の沙汰とは思えない考えを持って、私にぶっ飛んだお願いをしたローリエの本心が知りたくなった。
「―――信じているからだ。
ランプを。みんなを。そして……未来を。
ドリアーテを倒し、俺は全てを救う。それが…俺がここにいる理由だ」
答えは、ちょっとクセェ字面の台詞だった。
だがそう答えたローリエは、臆することもチャラけることもなく、真剣そのものだ。
しかも、それだけじゃあない。コイツからは……『本気の覚悟』を感じる。並々ならぬ覚悟の雰囲気を感じた。そして……その様子が、二人が来る前に見たあいつを彷彿とさせた。
『私にしか為せないことがある。その言葉に偽りはない。私は…目的を果たす。』
息も絶え絶えで、目だけはギラギラで。そんな様子のアルシーヴから放たれたプレッシャーにそっくり………いや、それ以上だ。まるで、あの状態のアルシーヴが二人いるかのような………
「「「………………」」」
「…………はぁ。」
やがて、私のため息だけが大広間にいやに染み渡った。
「……言っとくけどな、私にできることは限られるぞ。
それと、いざとなったら責任は全部おまえ持ちだからな」
「やっったぁ~~~!!!! ありがとうジンジャー! 大好き!抱いて!!」
「うっせぇバカ。しくじったら絶対許さねぇからな?」
「大丈夫! 俺にまっかせなさい!!!」
私は、散々悩んだ末に、ローリエの『お願い』を可能な限り聞くことにした。きららとは戦わない。だが、話くらいはしてもいいだろうし、なんかあったらローリエが責任を取ってくれるようだ。
了承した途端にプレッシャーが霧散したローリエが、調子の良いコトを言ってハッカに小突かれる姿を後ろで見ながら、少々無責任になっちまった己の立場を考える。
確かに、アルシーヴは並々ならぬ覚悟を持っていた。
ローリエの非常識な『お願い』も、よほど覚悟が決まっていなかったら一蹴する気だった。
でも、あんなモン見せられちゃあな………私の『街を守る覚悟』程度では足りねぇと認めざるを得ないじゃあないか。
それにしても―――
「ドリアーテ、か」
もう一波乱ありそうだな、と。そう思った私は、身体が鈍らないようにウォーミングアップを再開した。
◇◆◇◆◇
……わたくしは今、アルシーヴ様からこの上なく重要な使命を仰せつかっておりますの。
『誰一人とて、この道を通すな』。他でもないアルシーヴ様の盾に相応しき命令ですわ。
私はアルシーヴ様の盾。アルシーヴ様に叛する者は全て私の敵。
誰であろうとも、ここを通るというのならば、このフェンネルが立ち塞がるのみですわ。
ですから、そんなわたくしが………
「びえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!!! ママああああああああああああああああああああああ!! どこにいったのお゛お゛お゛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「……………………」
………迷子に構っている暇などないというのに……
というのもこの少女、わたくしがアルシーヴ様をお見送りした後にこの通路に迷い込んできて、先ほどからこのように泣いてばかりなのです。年はおそらく5歳くらい。オレンジの短髪と良いところのおべべが特徴的な子供ですわ。
正直うっとうしいのですが、相手は幼い子供。下手に動いてアルシーヴ様の顔に泥を塗るわけにはいかない以上実力行使に出る訳にもいかず、かといって泣きわめいているこの子になんと声をかければ良いのかも検討がつかず、この状態が続いているのです。
「ふぐう゛う゛う゛ぅぅぅぅ……………ママァ……」
…それにしても、ニ十分ほど前から迷い込んできたにもかかわらず、この子はずっっっと泣きっぱなしですわ。よっぽど母親が恋しいのでしょうか?
しかし、わたくしには何よりも優先するべきアルシーヴ様の命令が―――
「マ゛マ゛ァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
……………。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………!!!!!!」
………ああもうっ!! うるさくて任務に集中できませんわ!!
というより、このまま泣き続けるこの子を放っておいているのを誰かに見られでもしたら、それこそ八賢者の…ひいてはアルシーヴ様の尊厳に関わる!!
こうなったら、どうにかしてこの子に泣き止んで貰って、早く母親の元へお送りしませんと!!
「……ねぇ、キミ?」
「………!」
「大丈夫? はぐれてしまわれたのですか?」
「おねーさん……誰…?」
「フェンネル。ここの神官ですわ。あなたのお名前は?」
「デリー……」
「デリーちゃんね。ママとはどこではぐれちゃったかわかるかしら?」
デリーと名乗ったその子は、わたくしが声をかけるとすぐに泣きやみ、ママとはぐれた状況を教えてくれました。
なんでも、彼女の母親は神殿のお偉方で、『オーダー』の際に避難している最中に人波に揉まれてはぐれたようです。
しかし、困りましたわ。わたくしはここを離れる訳には参りませんのに……
「いいですか? ここからまっすぐ進んだ先に大広間があります。そこにいるジンジャーという八賢者を頼ってください。必ず力になってくれますわ」
「おねーさんは来てくれないの……?」
「わたくしは、どうしてもここを離れることができないのです。わかってくれますね?」
「やだ……」
「お願い。良い子ですから」
「やだぁ………」
……参りましたわね。どういうわけか、懐かれてしまったようです。
仕方ありませんわね。この子にこのままくっつかれても使命の邪魔になるだけ。大広間のジンジャーにこの子を預け、ローリエかハッカに任せにいくしかありませんか。
「……わかりました。では、大広間まで一緒に行きましょ? そこでジンジャーに会ってから貴方が決めてください」
「わかった……」
「良い子ね。じゃ、行きましょ……ふあぁ…」
少女を連れて大広間に進もうとした時、あくびが出ました。
いけません、この後はアルシーヴ様から賜った大役があるというのに。
居眠りなど言語道断ですわ。目の前に少女がいるという……のに………
「…おねーさん?」
「………大丈夫、ですわ」
どういうわけか、急に瞼が重く…なって……
「させるか、ハッカちゃん!」
「無論! ドリアーテ、覚悟!!」
「チイィッ!間の悪い虫ケラ共があッ!!」
―――意識が落ちる直前、かろうじてわかったのは、肌を撫でる風が少しだけ暖かくなったことだけでした。
キャラクター紹介&解説
ローリエ
ランプの書いた日記帳が『聖典』になることを中心に、仲間も召喚士たちも未来も信じ、全てを救う『覚悟』をジンジャーに見せつけた拙作主人公。彼の提案は某王様になりたいという夢並みに荒唐無稽ではあったが、成功するという確信がある。ランプの日記の習慣とクリエメイト&聖典愛を信じるが故の行動だ。
ハッカ
ローリエと共に行動を共にする八賢者。ジンジャーにドリア―テの宿す「不燃の魂術」の見分け方を伝授し、自分達の身の潔白を証明した。その方法たる「手の甲にバツ印の切り傷をつけること」は、彼女が提案したことである。
ジンジャー
ローリエの覚悟にアルシーヴと似通ったものを見出した八賢者兼言ノ葉の都市市長。アルシーヴが目的を語らないが故に信用していなかったが、『クリエが大量に必要だ』ということは理解している。今回、ローリエの提案したクリエの回収法に呆れていたが、彼の覚悟に折れる。また、01型57号の生まれた経緯が人間性を完全に無視したものである可能性に行きつき、義憤に駆られた。
フェンネル
アルシーヴの言いつけ通り最後の砦とされる通路を守っていた八賢者。しかし、突如迷い込んだ幼女の相手をせざるを得なくなった上に、突然の眠気に襲われた。
デリー(迷子の幼女)
迷路になった神殿にて、フェンネルのいる深部の場所まで迷い込んでしまった推定5歳の幼女。神殿からの避難中に、人波に揉まれて母親とはぐれたそうだが…?
△▼△▼△▼
ローリエ「おいおい……なにやってんだよフェンネル!仕事中に居眠りしちゃうなんて、らしくねーぜ?」
ハッカ「フェンネルに迫る悪意の炎。……不燃の魂術、恐るべし。肉体年齢の操作は、この耳に聞き及んでいたものより厄介なモノなり。」
次回『燃える魂と燃えない魂 その①』
ローリエ「絶対見てくれよな!」
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コレで最後DA!きらファン登場作品の中で、最も好きな作品は次のうちどれ?
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きんいろモザイク
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夢喰いメリー
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ゆるキャン△
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まちカドまぞく
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ご注文はうさぎですか?
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その他(コメントにて!)