きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
知らんぞそんな話!という貴方はきらファン図書館から探してみよう!
とある祠には、こんなお話がある。
恋愛に関する妖精が2匹いて、彼女たちに叶えられない恋はないという。
片や、ピンクの髪と包容力のありそうな女性の姿をした、人々の恋愛の成就を司る妖精。名をアモル。
片や、青色の髪と金の大ハサミが特徴のスレンダーな少女の姿の、人々の恋愛の破局を司る妖精。名をオルバ。
二人一組で、人間の恋愛を叶え続けた妖精には、一種の信仰さえできたのだという。
だが……残念なことに、人間というのは自分勝手だ。己の欲望を―――『あの男/女を、私/俺のものにしたい!』という願いをかけ……そして、ライバルの破局を願う人間のなんと多かったことか。
お陰でオルバが強大になってしまい……なんとか、一組の百合カップルのお陰で大事には至らなかったものの、パワーバランスの調整中だという。
で、だ。ここまで長々と語っておいて今どういう状況かというと―――
「……他に、その、オルバちゃんのどこが好きなんよ?」
「人間達の幸せを願えるのが好き。破局の力を持ったっていうのに、健気に願えるのよ、オルバ。
あと、ちょっと素直じゃあない所もあるけど、可愛げがあるの」
成就の妖精・アモルの惚気を聞いていた。
神殿の八賢者たる俺としては、二人の恋は実に興味深いものだ。バランスを取り続けることもまた、八賢者の使命の一つだろう。
俺は、ここ数ヶ月、アモルが封印されてる箱だけ開けては彼女と話をし、アモルとオルバの恋愛成就を願って箱に帰還させるという、地味に高度なお参りを続けていたのだ。
アモルとは仲良くなっていき……俺からは他の八賢者やアルシーヴちゃん&ソラちゃんのこと、アモルからはオルバの事や先日の事件の経緯を教えあうほどまでに仲良くなれた。
「うんうん! アモルちゃんがオルバちゃんを大好きな事は伝わった! だから今回は、その数多ある『大好き』をひとまとめにする言葉を教えようと思う!」
「ひ、ひとまとめにする? そんな事が出来るんですか? でも……」
「勿論、君自身の想いはひとまとめに出来ないかもしれないが、長話が好きな人間だけとは限らない。だから、覚えておいても損はないはずだ」
「そうですね……それで、どんな言葉なんですか?」
「『ムラムラします』だ」
「む、ムラムラ…!?」
「恥ずかしがってはダメだぞ。言葉にしなけりゃ、伝わるものも伝わらない」
「そ、そう、ですね……………
……………む、ムラムラ、します……」
「良いぞ! もっとハッキリ言ってみよう」
「…ムラムラします…」
「『ムラムラします』」
「ムラムラします…」
「『オルバの事を想うと』?」
「『ムラムラします』」
「アモルになに教えてんだこの野郎!!!」
「うわあぁァァァァッぶねええええ!?!?!?」
すんでのところで飛んできた金色の裁ちバサミを回避する。俺じゃあなかったら、頭と胴体が泣き別れになっていたかもしれない。
ハサミが飛んできた方向を見れば―――案の定、オルバが顔を真っ赤にしながら箱から飛び出していた。流石、一時期アモルよりも力が強かっただけのことはある。
「おおう、おはようオルバちゃん。随分と荒っぽい起き方だな?」
「誰のせいでこうなってると思ってんだテメェ…!
さっきからムラムラムラムラうっせーんだよ! アモルの声で『ムラムラします』って聞こえた時は耳を疑ったぞ!!」
「安心してくれ、事実だ」
「よしぶった斬ってやる」
もー、オルバはちょっと暴力的だぞ☆
そんな事だから力が強まる一方なんだ。多分。
「オルバ、ローリエさんを許してあげてよ。この人、春香達以外で私達の成就を願ってくれるのよ。それに、私はローリエさんから色々教わったし……」
「……確かに、コイツはアモルだけの封印を器用に解いては恋愛成就を祈っていく奇特なヤツだが―――ちょっと待てアモル? お前今なんて言った? 色々教わったって言ったのか!!?」
ちなみに、俺が初めて来てから数ヶ月、オルバが『ムラムラします』の下りの拍子で目覚めるまで、オルバの封印を解いてない。つまりオルバはさっき目覚めたばっかである。おまけに……どういうわけか、妖精は貞操観念が人間とは違う構造をしていたのだ。
数ヶ月……それだけあれば、前世も含めて知識豊富な俺が貞操観念の低めなアモルに色々教え込むには十分であった。
この後めちゃくちゃオルバが怒り狂った。
◇◇◇◇◇
―――閑話休題。
「さて、オルバちゃんも自然に目覚めて怒りも収まった事だし、ようやく
「「本題??」」
妖精二人が首をかしげる。
そう。俺は、二人のパワーバランスを変えるため、とある計画を立てていたのだ。その為には、起きている二人の了承が必要だった訳で。
「とりあえず……これを見てくれ」
指をさしたのは祠のすぐそばにあった、木の立て札。
そこには、以下のような文字が書かれている。
『恋愛成就の妖精
成就の妖精たるアモルと、破局の妖精たるオルバ、ここに封印す
願わくば彼女たちが、悪しき人間に利用されぬ事を』
オルバとアモルがここにいる事をシンプルに記した立て札である。これを見た時……俺は思った。
不公平だと。
「なんだよ、成就と破局の妖精って! 明らかに破局が不利じゃねえか!!
なんだよ『悪しき人間に利用されぬ事を』って説得力ねーな!! こんなの悪しき人間が見つけたら真っ先に悪用するに決まってんだろ! …勿論、オルバちゃんをな」
「っ………」
オルバが俯き、唇を噛む。そんなオルバにアモルは寄り添い、背中を撫でる。なんていたたまれないのか。きっと、何度も悪用されたからに決まっている。
―――だから、その悪しき流れを断つ。
「……俺が提案することはズバリ、この立て札に書いてある内容を思い切って変えることだ。
具体的には、アモルの力とオルバの力を公平に見えるようにしたい。特にオルバの『破局を司る力』は地雷だ! コレをそのまま真正面から書いたとて、正しい心を持つ人の食いつきが良い訳がない!」
「分かってるよ…でも、なんて書く気だ? 言っておくが、オレが破局を司るのは変えようのない事実だぜ」
「そうね……妖精の力に嘘をついても意味なんてありませんよ」
嘘? 嘘、ねぇ……
分かってないな。
「ウソ? そんな意味のない罰当たりなこと書けるか。
ただ、文章というのは、言い方と言葉選びを変えるだけでだいぶ印象が変わると言っているんだ。
例えば―――」
と、持ってきた紙にペンを滑らせる。
あっという間に書き終えたそれを、妖精二人の目の前にバッと見せてやった。
俺が書いた内容とは、こうだ。
『恋愛の双神・アモルとオルバの祠
アモルは縁を結び、恋を実らせます。貴方と想い人の心を引き寄せ合い、良縁と言う名の幸福をお招きになることでしょう。
オルバは縁を切り、新たな出会いの糧とします。未練や悪縁、貴方を過去に縛り付ける鎖を断つことで先に進む力をお与えになることでしょう。
恋愛の双神さまの
「え、『縁を切る』…!? 」
「おお……私達の力をほぼ正確に表しているのに悪い印象が全く浮かばない……!?」
そうなのだ。
オルバの「破局を司る力」を聞き、金色のハサミを目にした時、真っ先にイメージしたものは人々に繋がっている縁の紐を切るイメージだ。故にこの表現にした。
縁切りというと悪いイメージが湧くだろうが、こと仏教においてはそうでもない。詳しくは省くが、「悩みに悩み抜いた先で悪縁を切ることを願うのは悪くない」らしいのだ。
勿論自分勝手な縁切りはダメだが、『縁を切りたい…でも、そういう事を願うのは悪い事なんじゃあなかろうか』という罪悪感と戦った後の願いを聞くのは何も悪くない。
それを懇切丁寧に説明すると、アモルもオルバも物凄くビックリしたような顔をした。
「な、なるほど……そう考えると、オレの破局の力……いや、縁を切る力、か? 悪いモンじゃない…のか?」
「目から鱗ですね……」
「でもよ、オレ達『神』なんて大層なモンじゃあねーぞ??」
「問題ない。要はご利益があるかどうかなんだ。聖典に乗っている神様も、元から神様だったヤツばっかじゃあないんだ。
元々は悪魔だったり、やんちゃな猿だったり、果ては人間だった神様もいるんだ。元は妖精だった神様もいて良いだろう」
「そうなんですね!」
「…………ホントか?」
二人を勝手に神様に祀り上げた事についてそう補足する。オルバは疑惑の眼差しを向けているが、嘘はついていないぞ? 実際にそういうのいるしな。クリエメイトに尋ねれば一発で証拠が出るだろう。
結局、俺の提案した『オルバとアモルの紹介文書き換え計画』は二人の了承を得ることで実行される事となった。祠を整備し、新しい立て札には俺が考えた文面が綴られた。
だが、それで終わりではない。
―――神になるには、ご利益だけではなく、
◇◆◇◆◇
―――時は流れて。
恋愛の双神についての信仰が浸透していき、二人の信仰が徐々に、
アモルは縁を結び、恋を実らせる。願った者とその想い人の心を引き寄せ合い、良縁と言う名の幸福を招く―――成就の象徴。
オルバは縁を切り、新たな出会いの糧にする。未練や悪縁、願い人を過去に縛り付ける鎖を断つことで先に進む力を与える―――未来の象徴。
だが、決して軽視することなかれ。己の欲望と他者の転落を願い、悪意を隠して縋ろうとする者を二人は許しはしないだろう。
アモルの怒りに触れれば、その者は
オルバの機嫌を損ねれば、その者は
しかも、恐るべきことに…恋愛の双神であるアモル・オルバは、
エトワリア10栄神。
アモル・オルバの神社の神職の人間がアモルとオルバの神託を受けたことで広まった信仰だが、意外な事に多くの人々に伝わり、信じられるようになった。神々が人間じみた性格を持っていたことが、大衆にウケたようである。
神託とは、神が人間に伝えるお告げのようなものだ。未来のことから自分のこと、自分の上司の事まで話題はなんでもいい。つまり、そういう事だ。
そして、神託を伝えた
「まさか本当に崇められる事になるとはな……嘘から出た真とはこのことだな」
「ローリエさんにはお世話になったわね。春香さん達の事も伝えたいけど…そっちは聖典があるからね」
「確かにな。……にしても、ローリエの野郎、勝手にオレ達の祟りを書き加えやがって。身に覚えがねーぞ。確かに、縁を切るのは得意分野だが…」
「その事は、ね?
ローリエさんの事を神話にしたからそれでおあいこって事で」
「
……お、参拝者だ。行くぞ、アモル。」
「分かったわ、オルバ。」
「「私(オレ)達の神社へようこそ!」」
「貴方が望むのは…縁結び?」
「それとも…悪縁切り?」
「正しい心からの願いなら―――」
「―――必ず、オレ達が叶えるぜ?」
キャラクター紹介&解説
ローリエ
アモルとオルバの伝承を生み出した八賢者。「成就」と「破局」では明らかにオルバが不利であり、悪しき人間の狙う的になり得ることを危惧して、「縁結び」と「悪縁切り」に認識させた。後に、知らぬ間にアモルとオルバの上司の神にされてしまう。
アモル
「恋の成就」の妖精。ローリエに性の知恵を教わり、後に「縁結びの神」となる。なお、変な知識を教わったり恋人の祟りを勝手に書き加えられた仕返しに、ローリエを仲間ごと上司に祀り上げた模様。
オルバ
「恋の破局」の妖精。ローリエに力の解釈を教わり、後に「悪縁切りの神」となる。なお、恋人に変な知識を吹き込んだり祟りを勝手に書き加えられた仕返しに、ローリエを仲間ごと上司に祀り上げた模様。
エトワリア10栄神
アモルとオルバの神託によって生まれた信仰。神々が、地味に人間味のある性格をしているのが特徴。全能神ソラ、その補佐の暗黒神アルシーヴを筆頭に、友好神シュガー、智慧の神セサミ、駿足の神カルダモン、計略の軍神ソルト、豪傑の軍神ジンジャー、守護神フェンネル、夢幻神ハッカ、情愛の神ローリエからなる。
ローリエ以外の八賢者と筆頭神官、そして女神からすれば、「なんか知らない間に祀られてた」状態であり、いい迷惑である。つまり、ローリエを責めて良い。
ろーりえ「お前らァァァァ! 確かに祟りを勝手に書き加えたことは悪かったと思うよ? でもその仕返しのつもりかァァァ!!?」
おるば「その件について、怒ってないっつったら嘘になる。でも、オレ達は感謝してるんだぜ?」
あもる「そうよ。パワーバランスが平等になって、私達は一緒にいられるようになった。そのお礼です」
ろーりえ「…物は言いようだなコラァ………!!」
元は神じゃなかった神々
実は結構いる。仏教や日本神話はその手の例が結構多い。
元は人間だった→天満大自在天神。人間だった頃の名前は菅原道真。皆さんご存知の学問の天神様のこと。
元は猿だった→斉天大聖。孫悟空のこと。寿命なんか知らんと天帝をボコって不老不死になったという。
元は悪魔だった→阿修羅。厳密には悪魔ではないが、正義に妄執し続けた悪神から仏教を以て守護神にジョブチェンジしたという。
ヒロイン投票です。(投票結果が反映されるかどうかは不明です)
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アルシーヴ
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セサミ
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カルダモン
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ハッカ
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それ以外(コメントにてそれとなくお願いします)