きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
神谷明さんで『Lonely lullaby』の音源をご用意してお読みください。
「……夢幻魔法を使いたい?」
「そーなの! でもさぁ、覚えたくても詳しく書いてある資料はどこにもないわ、ハッカちゃんを探そうにもなかなか見つからないわで苦労したんだぜ?
だからお願い!夢幻魔法の覚え方とか、教えちゃくれねーかな!?」
唐突にそんなことを言ってきたローリエは、両手を合わせ、私に
「…不可
そもそも、夢幻魔法を使う為には、あらゆる条件が必要不可欠。容易に覚える事など不可能である。
夢幻魔法とは、夢の中にて、偽りの世界を生み出す魔法。その世界では、火も水も、風も大地も、昼と夜とも全てが泡沫の幻。故に、全属性の魔法の適性を持つものでなければ、夢幻魔法を習得することは叶わぬ。
また、それらを実現させる為に、膨大な魔力を消費する。生半可な魔力総量では、偽りの世界を形作ることすらできぬ。
「……つまり、全属性を存分に使えて、かつ魔力総量に相当恵まれてないと夢幻魔法を覚えられない、と?」
「然り。」
「なんだよ、賢者だから覚えられると思ったのに……
やっぱ、ダーマ神殿で遊び人から転職しないとダメなのかな……」
「? だーま? あそびにん?」
「いや! なんでもない! こっちの話だ!!
……まぁ使えない魔法をねだっても仕方ないか。」
よく分からないことを並べてから、はぐらかすようにまくし立ててうーんと考え込むローリエ。そうして暫し考え込んでから、
「じゃあさ、夢幻魔法を使う時にどんなイメージしてる、とかある?」
「イメージ?」
「なんかこう……注意点みたいなのくらいあるでしょ。例えば…世界のイメージを固めないとその『偽りの世界』がバグる、とか。」
「ふむ……」
確かに、そこを言われてみればあるにはある。
当然、記憶にない場所は生み出せない。以前、召喚士に見せたものも故郷にて幼き頃に通っていた寺子屋の記憶から再現させた。「一度訪れたことのある場所」ならば、細かな記憶が曖昧でも世界を創造出来る。尤も、細部まで憶えていればより有利なのだが。
今、思い出せる夢幻魔法の注意点とやらはそのくらいか。ローリエにそう伝えると、
「なるほど。ありがとね、ハッカちゃん♪
それじゃー、ぼくちゃん急用できたからこれで!!」
と、お礼をした後息つく暇もなく嵐のように立ち去っていってしまった。
それにしても、夢幻魔法に興味を持つとは。一体、何を考えているのだろうか?
◇◇◇◇◇
「ローリエが夢幻魔法を?」
「はい。」
いくらか思案した末に、私はアルシーヴ様に報告することにした。彼はアルシーヴ様やソラ様とは幼馴染と聞く。何か御存知なのではないだろうか。
「何かお心当たりはございますか?」
「………すまない、ハッカ。
あいつは、そういった魔道具を使わない強大な魔法を覚えようとは思わない奴のはずだ。
……覚えたところで、使えないからな。」
返ってきたのは、至極当然の答え。いかな人間とて、自身の手に余る力と明確に分かっていて手に入れようとは思わぬ。仮に手に入れようとするならば、「自身が使いこなせる」といった野心があったり、見通しが甘かったりする場合のみ。私には、ローリエが野心家にも無能にも見えなかった。
「分かりました。」
「ただ、あいつは目的のためなら徹底的に合理性を求めるところもあるんだ。」
少なくとも、ローリエが考えなしで夢幻魔法について訊くことはない、と言い切ったアルシーヴ様の様子は、確かにローリエの幼馴染だというだけあり、説得力に満ちていた。
一応、ソラ様にも同じことを尋ねたのだが。
「うーん……ごめんなさい。私も、心当たりはないの。ローリエ、魔法単体は苦手で、魔法工学の話しかしないから。」
「成る程。」
答えはアルシーヴ様と似通ったものだった。
そうなると、彼は一体何を考えて夢幻魔法に近づいたのか? 興味本位で? それとも、他に理由があるのだろうか?
如何に考えても、霧か
◇◇◇◇◇
アルシーヴ様とソラ様にローリエの事を尋ねてより数日。ローリエを図書館で見かけることが多くなった。
「ローリエ。何をしている?」
「…………まぁ、ちょっとね。ハッカちゃんは? 俺に会いに来た?」
「戯言を。」
「即答!? ヒドい!!」
「酷いのは汝の頭の出来よ。」
彼は本を読んでいた。他愛もない会話をしながら何について調べているかを背表紙を見て確認する。
『夢の世界』、『夢幻魔法の無限性』、『夢幻魔法構築理論』、『イメージを魔法に』………やはり、夢幻魔法についての本が多い。彼が夢幻魔法について何かをしようとしているのは確定のようだ。
「何を調べている?」
「え? え~と……ちょっと、特殊な魔法をね。」
「汝に夢幻魔法は使えぬよ。」
「知ってるよ、そんな事。」
「ではどんな魔法を調べているのだ。」
「んー…………秘密!」
「何故、秘密にする。」
「悪いかよ。男にゃあ秘密の1個や2個や100個はあんの!」
それを言うなれば女の秘密ではないか、と心で呟きつつ、近くの本を捜す素振りをする。そこまでして隠しておきたいことがこの男にはあるのだろうか。
秘密というものは、ばれると困る故に秘密というのである。我が一族も、その身ひとつで全ての属性を操れることは門外不出の極秘とされてきた。その極秘は
この男には、そのような秘密があるとは思えない。
――否、思えない、というより分からない、とした方が正確やもしれぬ。
日常的にせくはらを仕出かす痴漢かと思えば、物事を先まで見据え行動する。現に、ソラ様の襲撃事件の黒幕を最初に暴いたのも彼だ。
真剣な眼差しを持つかと思えば、のらりくらりとこちらの言葉を
秘密どころか、秘密自体があるのか否かもわからぬ男。それが、ローリエだと考えている。
結局、その日はローリエの行動について聞くこともかなわず、図書館を後にした。
それ以降も、ローリエは図書館と教室を行き来するようになった。
どういうわけか、一向に休もうとしない。
見かけるたびに、常に何かを読み、書き、魔法か何かを建築しているように見える。
流石にそんな様子が何日も続けば、明らかに様子がおかしい事に気づき始める者も増えてくるもの。アルシーヴ様やソラ様はローリエの異変に気づき始め、神殿に駐在する八賢者や女神候補生の中にも異変に気づく者も現れ始めた。
「ローリエ………何を考えている?」
「アルシーヴ様」
「ハッカか。アイツのあの様子……どう見る?」
「……何らかの魔法の構築?」
「バカな。魔法工学ひとすじに生きてきたような男だぞ? それに―――」
アルシーヴ様がローリエに目を向ける。その視線の先には、白紙に複数の直方体を描き連ねるローリエの姿があった。背景を黒と紫に塗り、すべての直方体を灰色と黄色に塗り分けている。何かの絵だろうか? 決して下手ではないが……
「………アレが魔法の構築に見えるのか?」
「…………否。」
まったくもってローリエの事が分からなくなってきた。
「理解不能。」
「私もだ。頭が痛くなってきた……」
「アルシーヴ様やソラ様以外でローリエを知る人物はいらっしゃらないのですか?」
「アイツには両親がいる。言ノ葉の都市に住んでるが………ハッカは会いにいけないか。」
「肯定。」
私は秘蔵されている身。都市へ行くどころか、神殿から出るときも、アルシーヴ様やソラ様から許可を貰い最大限の注意をしながら外出せねばならない。御両親を呼び寄せるしかないが、お二人が許可しないだろう。
であれば……
「なら、アイツだな。コリアンダーだ。」
アルシーヴ様の思い出したかのような言葉に私もはっとなる。
彼についてはローリエ本人から聞いたことがある。神殿に来てからできた、友人であると。
では、ローリエの奇行についても、何か知っているのだろうか?
「私が代わりに聞いてきてやろうか?」
「否定。私が訪ねたいと存じます」
「む、しかしだな……」
我が提案に、アルシーヴ様は難色を示す。
当然だ。私の素性は、神殿の人物でもごくわずかしか知らぬ。アルシーヴ様とソラ様以外では、賢者達以外は私のことを知らぬだろう。コリアンダーはかつて任務で同行した都合上私を知る人物とはいえ、無闇矢鱈に出歩くのは良い顔をしないようだ。
しかし、私は私自身の手で知りたくなったのだ。
そこまでローリエを突き動かすものとは何かを。
「……成る程。それで、俺に話が回ってきたのか…」
「然り。ローリエの情報提供求む」
「そう言われてもな……」
「如何なる些細な情報でも構わぬ」
部屋にいたコリアンダーに事情を説明して問えば、難儀な顔をしてこめかみを揉み始める。
記憶には新しいはずだから友人のコリアンダーならなにか分かるやもしれぬと思っていたが、彼自身も思い出すのに苦戦している様子。
人の記憶とは儚いものだ。「一昨日の夕食は何だった?」と訊かれて即答することが困難であるように、最近とはいえ友人の情報は思い出しづらいやもしれぬ。
最悪、収穫なしを予測していた……が。
「……あ。そういえば…」
「…! 何か思い出したか?」
「いや、大したことじゃあないんだが……最近、ローリエが誰かを口説いたって噂を聞かないからな。」
「……あのローリエが?」
「あぁ。あのローリエが、だ」
一体、ローリエはどのような悪いものを食してしまったのか?そう疑いたくなる程の情報が飛び出した。
つまり……私がアルシーヴ様と共に目撃した、ローリエのあの謎の行動を、噂に成る程の軟派よりも優先して行っていたほどである。
「ローリエが、日々の行いよりも優先するもの…? あの男、遂に正当な性倫理に目覚めたか?」
「さり気なくローリエに失礼だが……そうでないにしろ、アイツがあそこまで没頭する程の何かが、必ずあるはずだ」
「理解不能。ローリエは、日常的に私の元に訪問していた。異変の様子はなし」
「えっ…そうなのか?ハッカの元に?」
「? 如何したか?」
「あー……いや、別に何でもない…」
コリアンダーが突然、どういったわけか呆ける。その訳を尋ねようとするが、何故か誤魔化されてしまった。追及しても、押し黙ってしまい、それ以上の情報を得ることは叶わなかった。これ以上のことは分からないだろうと判断し、すぐさまこの日は帰ることにした。
だが……この時の私は、いささか悠長であった事を悟ることになる。
それは、私がコリアンダーに話を聞きだしてから数日後。神殿内がやけに騒がしいと思った朝の事だった。
「アルシーヴ様、本日は妙に騒然としている」
「ローリエが倒れたんだ。過労だ」
「な…!!?」
衝撃と焦燥に駆られそうな心を必死に抑え、アルシーヴ様の案内の元、部屋に向かえば…そこには、やや窶れた様子のローリエが寝息を立てていた。
「何故…」
「文字通り全く寝ていなかったようだ。今朝、書庫の入り口で倒れていたのをセサミが発見した」
「ローリエは…大丈夫でしょうか?」
「ただの寝不足といえば軽いが…倒れる程だ。命に別状はないだろうが、しばらく無茶は禁物だな」
私には、目の前の状況がいささか信じられなかった。
飄々とし、我らの前では余裕を見せていた男が、このような弱った姿を晒すのは。
「どうやら、ある魔法を研究していたらしい。
イメージの伝達について書かれていたみたいでな……現在、セサミが分析中だ。」
「アルシーヴ様。私が彼の看病を行いたいと存じます」
「やってくれるか。有難い。夢幻魔法で原因を探ることも考えたが…」
「ローリエは疲労困憊。時間をかけて行うべきと判断。」
アルシーヴ様の仰るように、意識のない者に夢幻魔法を用いて彼の者の意識へ潜りこみ、対話を行うことは可能ではあるが、多用ができない上に過労で倒れたということなら、あまり負担をかけるわけにもいかなかった。
アルシーヴ様が去ってからは、タオルを水で冷やし、ローリエの額にあったタオルと交換した。交換したタオルが熱を持っていたので、熱も上がっている様子。
何故、彼は倒れるまで魔法を開発しようとしたのか? そこまで無茶する程のものがあったのか?
眠り続ける彼の傍らのイスに座りながらそのような事をぼんやりと考えていた。
◆◆◆◆◆
―――看病を続けていくうち、眠ってしまったようだ。
そう考える根拠は、目の前の光景である。
『ようこそ、■■■■■家へ!』
『私たちのことは、家族だと思ってくれ!』
『遠慮しないでいいからね!』
『よろしくね!』
遥か昔、山賊によって殺された家族が、貼り付けたような笑顔を浮かべながら、言葉だけは私を歓迎している……この光景を、私は見たことがある。
言わずもがな、様々な家を転々としていた頃、最後に私を迎え入れた四人家族の様子である。
今の私なら分かる。この者たちは、私の事を本気で歓迎などしていなかった。どこかの闇商人………それこそ、あの盗賊あたりにでも、高額で売り払うつもりだったのだろう。現に……彼らの「優しい家族」の仮面は、いとも簡単に剥がれた。
『なんであんな化け物を引き取ってきた!?』
『アレは災いを呼ぶといったろう?』
『厄介者だけど、親族の目が怖くて仕方なかったのよ!』
『災いを呼ぶの?じゃあ…早く誰かに押し付けよう?』
『いや……アレは売るべきだ。闇ルートだととんでもなく高値がつくらしい』
聞くのもおぞましい会話を、欲望と恐怖にまみれた表情でしている家族たちを始めて見てしまった時は、別物を疑ったものだ。だが…現実は残酷だった。
『……あ?』
『……おまえ』
『『『『…なに、見てるんだよ?』』』』
その声を聞いた瞬間、心臓が凍っていく感触を覚えた。
この日からだ。私への暴力や暴言が、露骨になったのは。そして…盗賊に家族を皆殺しにされるまで続いたのだったか。
これは過去の出来事だ。もう過ぎ去った、我が心が生み出した、文字通りの幻に過ぎない。
『なんだその目は!生意気なんだよ!』
『私に口答えする気!? 厄災を招く魔人族の分際で!!』
『誰が厄介者を保護してやったと思ってるの!!?』
『存在そのものがウゼェんだよ!お前はもう喋るな!!』
だというのに……体が動かない。
あの頃に受けた痛みを思い出す。全身の打撲の傷と、胸の奥を刃物を深く突き刺されたような痛みを思い出す。
彼らは…最期の最後まで、私を恨んでいた、のだろう。私を盗賊に売ろうとし、欲をかいて皆殺しの憂き目に遭った際も……口の動きがそう言っていた。
『おまえの…せいだ』
『やっぱり、まじん、ぞくは…やくさい、を…』
『あいつさえ……いなければ』
彼らは『信じていなかったけど裏切られた』と言わんばかりに私を恨んでいたが……はっきり言ってしまえば、私が彼らを恨みそうだった。しかし、それ以上に悲しい、苦しい感情が渦巻いて、怒り恨みを飲み込んで………
そして。
私の傍らの誰かに温かく包まれた気がして、意識が浮上した。
◆◆◆◆◆
「―――ここ、は?」
「お、起きたかハッカちゃん」
「!!?」
目が覚めると、なぜか私はベッドに寝かされていた。
しかも、ローリエが隣で胡坐をかいて座っている。
窓から入る西日が、二人を照らしている。
「ローリエ、いつの間に起床…!?」
「ちょっと前だ。目が覚めたら、ハッカちゃんが看護したまま寝ちゃってるから驚いたよ」
「体の調子は…!」
「もう大丈夫。ぐっすり寝たからな。
それよりも……ハッカちゃんは、大丈夫なのか?」
「? 何故、その質問をする?」
「いや、だって………魘されてたから。泣きながらよ」
「!!?」
慌てて顔を拭ってみれば、ほんの少し、湿っているような、冷たいようなそんな感覚がした。
「……心配無用。少々疲労が蓄積したのみ」
「そうか………なら、その話題は終わりにしよう」
「ローリエ、疑問。何故、連日睡眠を取らなかったのか」
「出来るだけ早く、完成させたい魔法があった。そんで、ハッカちゃんに見てもらいたかった」
「…私に?」
先程の悪夢を詳しく追及されなかったのは助かるが、私に見せたい魔法をいち早く完成させたいが為に、無茶を続けたようだが…いったい、そこまでの事をする魔法とは何なのだろうか? 何故、私なのか?
………そもそも―――
「私の、せいなのか?」
「それは違う。連続の徹夜を選択したのは俺だ。
今回ぶっ倒れたのは、俺がマヌケだっただけのことだ」
即答。ローリエは、此度過労にて倒れたのは己の責任だと断言した。
それは、今回のケースにおいて正しい事なのだろう。ローリエの目には一切の迷いが無い為、己の責任を感じているのは真実なのだろう。
なれば……私は知るべきなのだ。ローリエが如何なる理由で無茶に走ったかを。
「……では、私に見せたい魔法とは如何に」
「ぶっ倒れる直前に完成した。その名も―――」
ぐ~~~~~~~~~~~~
「「………………」」
「…詳細を聞く前に、夕餉にするべきか?」
「……あぁ。今日はまる一日寝てたんだった…」
……顔が発火した様子のローリエから盛大に鳴った腹音によって、真実は夕食後までお預けと相成った。
―――食事時は、修羅場となった。
食堂に現れたローリエを見るやいなや、アルシーヴ様やソラ様を筆頭に、ローリエに駆け寄り「驚いたんだぞ」とか「自分自身を大切にしろ」と説教を受ける羽目となった。更に、私にも「ローリエが目覚めたのなら早く報告して欲しかった」と飛び火を受け、私まで巻き添えを食った。しかし、看護途中で寝落ちしてしまった事も事実な為、甘んじてお言葉を受け入れることとした。ローリエの二度目の腹音がなければ、食事時間がずれ続けていたかもしれない。
目が覚めてから倒れるまで何をしていたんだと質問攻めにあっていたが、ローリエは空腹である事を理由に追求をかわしていた。私と目があった時にウインクしたが、どういうことなのか?
部屋に戻った後で尋ねてみると…
「……あの魔法は、ハッカちゃんに一番最初に見せたかったんだ。」
「何ゆえ、私に拘る?」
「ハッカちゃんの夢幻魔法と併用すること前提の魔法だからだ」
「!!」
「まぁそれ抜きにしても、君に見て欲しいんだ。俺のことを」
ローリエへの疑問が、ここにきて氷解した。
夢幻魔法は、現状私にしか使えぬ。そう考えると、夢幻魔法と併用するらしき新魔法は私と使うのが効率的、ではあるのか?
しかし……ローリエのことを私に見て欲しい……とは一体…?
「まぁ早速やってみよう。ハッカちゃん、おでこ貸して」
「…どうするつもりか?」
「俺の魔法なんだけどな。記憶を他者に伝達するものなんだ。相手に見せる為には、頭が近いおでこ同士でやるのが一番なんだよね。」
「成程」
ローリエの説明で痴漢せくはら目的ではないと悟ると、ローリエの額に…私の額を…近づけた。
さり気なく屈んで身長を合わせてくれたローリエとの顔が近い。変な…もとい余計な考えが浮かぶ前に瞼を閉じた。
額を通じてローリエの体温が伝わってくる。心音も伝わってきそうだ。そう考えていると、ローリエから思念が飛んでくる。―――このまま夢幻魔法を使ってほしい、と。
「し、しかし…夢幻魔法は危険な魔法……」
「俺を信じて」
思わずな提案に言い訳の様に危険性を隙もなく、思わず開いた目とローリエの至近距離からの視線がぶつかった。どういうわけか吸い込まれていく瞳と、揺るぎなき「信じて」の言葉に、私は。
「……了解。しかし、二度目は無し」
夢幻魔法を、行使した。
◇◇◇◇◇
そこは、生まれてこのかた見たことのない景色であった。
まず、真上には星空。曇りなき夜空が、地平の彼方まで続いている。次に、周囲。無機質な鉄の床を肩ほどの高さの鉄柵が囲んでいる。
そして、鉄柵の奥…そこには見たことのない都市が広がっていた。直方体の建物らしきものが所せましと並んでいて…建物についている、無数の四角の窓が光り輝いている。更に、建物の間を縫う道路も煌々としており、まるで光の河のようである。
青、白、橙、赤、緑………様々な色の光を放ち、星渡り*1の群れを髣髴とさせ……更に、それよりも明るい光景だった。
その光景は未知に溢れていて…近未来的かつ神秘的な美しさを誇っていた。
「これは…ここは一体……!?」
「『日本』という国の『東京』という都市で見れる夜景だよ。超高層ビルの屋上さ」
「ローリエ!?」
「この光景は…俺が最も好きな景色だ。
俺の前職はこの国の汚いトコばっか見てきてるからな…こんな国、出ていきたくもなった。
でもそう思う度、ここに来るんだ。そうすると、ココも満更でもないなって思うんだ。明日も頑張ろうって思えてくるんだ」
いつの間に隣に立っていたローリエが感慨深く都市の夜景を見つめるローリエ。
未知な場所を知っている上にかつてここで働いたことのあるかのような言動。疑問に思うのは必然だった。
「ローリエ、この都市を知っているのか? 『日本』とは、聖典の国なり。生半可な想像では実現できぬ都。ここは夢幻魔法の筈。この都市が現れた原因は…?」
「あぁ。ここは夢幻魔法で作られた世界だ。
知っている記憶しか再現できないのも本当だ。何故なら俺は…この世界を
「ローリエ、貴方の正体は…?」
ローリエがここまで未知で美しき世界を知っている理由を尋ねる。
すると、真摯な顔をしたローリエが、こちらを向いた。
「ハッカちゃん。君は、“生まれ変わり”を信じるか?」
「!? ま、まさか…」
「そうだ。俺には、生まれ変わる前の記憶がある。
日本人・
そこから語られたのは、衝撃的な内容だった。
一人の人間の一生の記憶。国を治める道を進み、清濁併せ吞む覚悟を以って突き進んだ人生。
中には、耳を塞ぎ目を背けたくもなる醜い人間もいたという。だが、目の前の彼は為すべきを為したのだそうだ。
「俺は…この秘密を語らずにいるつもりだった。
でも……ハッカちゃんの事を考えると、話さない事に疑問を抱いていた。それでいいのかなって。そんで、気づいたら新魔法を……『思念伝達魔法』を開発していた。
ハッカちゃんの前だけでは……ありのままの俺でいたかったから」
衝撃的な告白に、言葉を失うばかりである。あまりにも現実離れした秘密。しかし、夢幻魔法は如実に日本の
「…信じられないかな?」
「確かに、信じ難き事項。されど、証拠は揃っている」
ローリエの今までの言葉が空言ならば、ここまで正確に、日本の都市を再現できる筈がない。
「話はそれだけか、ローリエ?」
「いや……ここで言っておきたかったことがある」
ローリエは黒い小箱を取り出し、中を開けながら渡してきた。
そこにあったのは、紫色の小さな宝石が埋め込まれた、銀色の指輪だった。
「君が好きだ、ハッカちゃん。
結婚を前提に付き合ってくれないか?」
「―――!!!」
それは、不意打ちだった。
ローリエが…私を、好き? 急に…そんなこと言われても…ローリエだって、そんな予兆……
『最近、ローリエが誰かを口説いたって噂を聞かないからな』
…あ。そういうこと、だったのだろうか?
口説いた噂を聞かないのに、私の元には通い詰めていたということは。
……そういうこと、で良いのだろうか?
「……私で、良いのか?」
「ハッカちゃんだから良いんだ」
「私は、魔人族…それでも、良いと?」
「お、奇遇だね。俺も魔人族の血を引いてるみたいよ」
「!?!?!?!?!?!?!?!?」
「あはは、何その顔。鳩がメテオ食らったみたいな顔してるぞ」
「……メテオなる物は知らぬが…衝撃的な事実!!」
「あれ、言ってなかったっけ? まぁいいや。そろそろ、答えを聞いても良いか?」
「!」
私は…ローリエの本気の申し入れに―――
「私は…貴方の申し出を受ける。
余所見は厳禁。貴方を本気で魅了する所存」
「嬉しいなぁ~、世界一の美女が本気で魅了しに来てくれるのか?
こんなに幸せな男は他にいないな!!あっはっはっは!!」
「……ふふっ」
「お、笑ったね、ハッカちゃん! ―――イイ笑顔だ」
―――今までで滅多に見せなかった、渾身の笑顔を見せた。
あとがき
ハッカちゃんの渾身の笑顔はここだー!
というわけでハッカ編でした。夢幻魔法を利用してローリエが思念を伝達し、日本の東京の夜景を見せるという特別編はずっっっっっっっと前から考えていました。なんなら本編でビブリオが出てくる前から温めてたかなと思います。そういうこともあり、ハッカちゃんの特別編は外伝の中では自信作です。温めすぎて案が固ゆで卵みたいになっていなければ良いですが。
次はアンケートの状況と各キャラ編の進捗を鑑みてやりまーす。
さぁ、次のヒロインの座に就くのは…
-
シュガー
-
セサミ
-
カルダモン
-
ソルト
-
ジンジャー
-
フェンネル
-
きらら
-
ランプ
-
ライネ
-
コルク
-
クレア(CV和氣あず未)
-
ポルカ
-
カンナ