きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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例のごとくハッカちゃん参戦イベント『結集!七賢者会議』と関連した物語です。ストーリーを把握してから読むと良いかもしれません。
また、賢者達の誕生日と過去を盛大に捏造します。


UA25000突破記念閑話:結集!八賢者会議

 

 

 

『ローリエ。少し、話がしたいのです。

 ここに、後ほど来てくれますか……?』

 

 

 頬をやや赤らめたセサミからそんな招集(意味深)が来たのが数十分前。

 俺は身なりを整えてホール前に来ていた。

 

 彼女になんの話があるのかは分からない。

 だが、このお誘いを断るような奴は、男じゃあないぜ……!

 あの反則的な豊満ボディ――じゃなかった、煽情的…でもない、勇気を出して声をかけた淑女の期待に応えてこそ、真の紳士ってやつだと思わないか?

 

 故に、俺は指定されたホールに続く扉の前に立っている。

 扉の前でひとつ…ふたつ……深呼吸………!!

 

 

「……ローリエ?」

 

「ふぉっ!!!!?」

 

 

 小さく声が聞こえてきたので、驚いて振り向いたらハッカちゃんが。

 ……ん?

 

「ハッカちゃん……? なんでここに…?」

 

「セサミからの突然の招集。

 ローリエは?」

 

「え、ハッカちゃんもセサミに呼ばれて来たの?

 セサミのやつ、一体なんの用なんだ……?」

 

 

「……ああ、来ましたか、ハッカ、ローリエ。

 これで全員揃いましたね」

 

「セサミ?」

 

 

 扉の前の会話が聞こえていたのか、扉を開けて出てきたセサミがそんなことを言う。

 セサミが出てきた所を見てみると、大きな円形テーブルが置かれており、そこには………

 

 

「ねえねえ、セサミ。

 なんでわざわざ八賢者全員を集めたの?」

 

「ソルトも疑問です。8人で集まる用件なんてありましたか?」

 

 

 シュガーと、ソルトと……それだけじゃあない。

 カルダモンも、ジンジャーも、フェンネルも、座っていて。

 俺とハッカちゃんを合わせれば、八賢者全員が集まる状態が出来ていた。

 みんながみんな、なにゆえここに呼ばれたかが分かっていない様子だった。

 

 

「………なんだこの絵面? え、なに?

 これからこのメンバーで会議でも始めんの?」

 

 前世で似たような構図を見てきただけに、思ったことをそのまま呟くと、セサミが目を見開いた。

 

「…! よく分かりましたね。

 とりあえず、お二人とも席について下さい。今回の集まりの主旨を説明しますから」

 

 

 そうして、セサミが語ることには。

 今まで自分たちは八賢者と称しながらも、普段はバラバラに行動しており、あまりそれぞれが勝手に動くのも良くないだろう。

 だから、連携と結束を高める意味でも、情報交換の会を定期的に設けたいと考えた。

 ―――ということだった。

 

 

「なるほどね。題して『八賢者会議』ってところかな。

 でも、あたしは普段紛争地帯に出かけてるから、毎回は参加できないよ?」

 

「もちろん、それは承知しています。

 欠席者には私から後日共有いたします。」

 

「それはありがたい。私も、いつも神殿まで出向けるわけじゃねえからな」

 

 

 毎回会議に出れない人のため、情報共有がしっかりしている救済付きでもある。

 俺も、もしかしたら女神候補生や神官たちの授業や成績処理でやむなく出れない……なんてこともあるかもしれないからな。正直助かる。他にも、フェンネルのアルシーヴちゃん外出時の護衛とかが『やむなき欠席』にあたるだろう。カルダモン・ジンジャーの次くらいの頻度で『救済措置』のお世話になりそうだ。

 ただなシュガー、君の『お昼寝したいから欠席』は許されないだろ。むしろ俺がその欠席理由で許されたいくらいだわ。

 

 

「…………。」

 

「………?」

 

 

 それはそれとして、俺にはどうも気になることがある。

 それは……ハッカちゃんが、この会議が始まってから、何一つ喋っていないこと。

 ハッカちゃんは、確かに寡黙で話すことが得意じゃあないことは知っている。

 だが、それでもシュガーやソルトやジンジャーがわいのわいの騒いでる隣でだんまりしていたら、嫌でも気になってしまうのは俺だけなのだろうか?

 

 

「ねえ、ハッカ。気になる事があるなら、言ってもいいんだよ?」

 

 おっと、カルダモンもハッカちゃんの無言が気になったらしい。ハッカちゃんは静かにカルダモンを見つめると、ふるふると首を振る。

 

「配慮に感謝。されど、特段語るべきことは無し。」

 

「そっか、ならいいけど。

 そういえば、あたしたち7人は前々から何だかんだ付き合いがあったけど、ハッカは最近まで、全然交流がなかったんだよね。

 この機に、色々訊いても良いかな?」

 

「……禁則事項は返答不可。」

 

「別に、言えないならそれでもいいよ。

 それで、夢幻魔法ってそもそもどんなもの?

 アルシーヴ様に訊いてもなかなか教えてくれないから、ずっと気になってたんだ。

 夢幻魔法で作った世界に入るのってどんな感じなの?」

 

「秘匿。」

 

「えーいいじゃんー。

 シュガーも気になる。教えて教えてー!」

 

「不用意に語るものに非ず。」

 

 

 カルダモンがハッカちゃんに夢幻魔法について尋ねる流れで質問コーナーが始まる。

 シュガーもそれに便乗して、「お昼寝はどこでしてるのー?」なんて聞いている。

 シュガーとカルダモンだけじゃない。ソルトもフェンネルもジンジャーも、ハッカちゃんに興味津々だ。

 かくいう俺もハッカちゃんとはたまに将棋を指す仲ってだけだからな。この際に何でもいいから訊いてみるか。

 

 

「ハッカちゃん。俺も質問いいか?」

 

「肯定。但し、禁則事項は返答不可。それと―――」

 

 瞬間、ハッカちゃんの目のハイライトが消えた。何故だ。

 

「―――痴漢せくはらお断り。」

 

「お前ら……」

 

 本当に、俺のことをなんだと思っているのか。ハッカちゃんのその発言をうけて、他の賢者達(シュガー以外)も目から光が消える。

 そんなに疑心暗鬼に取りつかれた目で見るんならその目を鳩が豆鉄砲食ったような顔つきにしたやる。

 

 

「…はぁ。じゃあ質問。ハッカちゃん、誕生日いつ?」

 

「……え?」

 

「いやだから誕生日。何日生まれなのかなーって。ひょっとして禁則事項だった?」

 

「い…否。それは禁則事項に非ず。しかし……」

 

 俺の質問にハッカちゃんは初めて戸惑いの様子を見せる。そして、困ったように、参ったように口角を少し上げて……

 

 

「……すまぬ。答える事能わず。」

 

 そう答えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 初回の会議――ほぼハッカちゃんへの質問タイムだったが――がつつがなく終わり、ハッカちゃんが速やかに去ると、カルダモンがジンジャーと俺とセサミに声をかけてきた。

 

 

「ねぇ、3人とも。ハッカの事、色々聞いててどう思った?」

 

「うーん、難しいな。言葉もあんま話さないし、表情も対して変わらなかったからな。セサミはどうだ?」

 

「心を開いていない訳ではないのですが、いかんせん今までが人との交流が希薄すぎたので………夢幻魔法なんて危ういものを扱っている以上、本人の判断だけで話せないものも多いのでしょう。」

 

「ま、慣れだね。俺は前々からハッカちゃんとは将棋を指してたからある程度は読み取れるから言えるけど……ハッカちゃん自身も、皆と仲良くなりたい筈だ。」

 

 

 カルダモンから「ハッカが考えてることがわかるの?」みたいな視線を向けられるが、将棋の時のハッカちゃんを知ってるだけだぞ。

 ま、とにかく俺は用事ができたので、一足先に失礼することにしようか。

 

 

「じゃ、俺はこの辺で」

 

「ローリエ? そっちは貴方の部屋では……」

 

「アルシーヴちゃんに聞きたいことができたからねー」

 

 

 振り向くことなく、俺はさっさと筆頭神官がいそうなところを手当たり次第に周る作業に突入した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ハッカ、見参。」

 

「お疲れ様です。では、本日の会議を始めましょう。」

 

「今日もカルダモンとジンジャーが欠席か。」

 

「仕方ありません。

 あの二人の仕事は主に神殿から離れるものですから。」

 

 

 新たに生まれた責務である、八賢者会議。

 それは、私にとっては実りある会合であると言える。

 アルシーヴ様に秘蔵されている身である私には、外部の情報を入手する術が無かった故。

 前述した通り、八賢者の責務ゆえ、都合がつく限り参る所存。

 

 この八賢者会議で議題となるは行事等の予定やそれに伴う我々の行動が主。

 セサミの近々の予定。カルダモンの調停の進捗。ジンジャーの街内政策。ローリエの魔道具開発・授業計画……いずれも、為になるものばかり。

 

 また、皆で集まり、アルシーヴ様にまつわる話をしながらセサミやフェンネルの持って来る甘味や茶を喫すること、嫌いにあらず。

 セサミの菓子は非常に美味。形も一流、茶の淹れるさまもいとゆかし。まさに秘書の鑑なり。

 フェンネルの菓子は…努力が垣間見ゆる出来なり。例えば本日の焼菓子、5分程焼成時間を短くすれば、より甘き仕上がり。しかし、この甘味と苦味が存在する菓子も好む者もあらん。

 

 

「じゃあ次は俺からな。来週の魔法工学の授業の『魔道具理論』で、ゲスト出演を依頼したいんだ。授業日に手の空いている人に頼みたいんだが……」

 

 会議に話を戻そう。

 いまの議題は、ローリエの講義の助っ人出演依頼。

 彼は、神殿の技術開発の傍ら、女神候補生や神官候補の人間に魔法工学の講義を開いている。

 その為の人員を募集しているようだが……

 

 

「申し訳ありません、ローリエ。その日は、私はほぼ一日中会議が入っておりまして…」

 

「わたくしも、セサミに付き添いアルシーヴ様の身辺警護をする形になりますわ」

 

「ソルトも、用事が入っているのです…」

 

「マジか……」

 

「シュガー、おべんきょーきらーい!」

 

「シュガー、今の発言は俺とアルシーヴちゃんへの挑戦ってことでいいんだな?」

 

「え、ちょ、違う! そうじゃなくって……」

 

「明日のお前の宿題、5倍な」

 

「うわーん!! ソルト!おにーちゃんがいじめるー!!」

 

 

 全員返事は芳しくあらじ。

 会議と日が重なるようでは、セサミもフェンネルもソルトも、助力は困難。

 シュガーでは、意欲的に助っ人が務まるか不安の様子。

 カルダモンとジンジャーは本日欠席の為、不確定要素多し。

 ……と、なると。

 

 

「ローリエ」

 

「……ん? ま、まさか…助っ人に来てくれるの? ハッカちゃんが!?」

 

 手を挙げてローリエの確認に頷けば、「よっしゃあ!!」と目に見えて喜んだ。

 私はローリエの授業日の予定が何もなかった故に立候補したのだが、何か悪い気がしてきた。

 

 ……悪い気と言えば、先日の問答もそうだ。

 ローリエからさり気なく訊かれた誕生日の質問。答えられなかったのはただ単純な理由あり。

 

 ―――知らぬのだ。

 私が、我が誕生日を。

 存ぜぬものは、いくら禁則に触れてなくったって答えること能わず。

 

 

 

 物心ついた頃には、あらゆる家庭をたらい回しにされていた。

 滅んだ魔人族の生き残り………災いを呼ぶから口さえ開くなと忌み嫌われたものなり。

 無論…嫌っていた者の誕生日を祝う奇特な人間などいはしなかったし、そんなものに興味を持つものが現れる事は無かった。

 そして、とある盗賊に攫われた時は、あぁ、やはり救いはないと希望を放棄した。

 諦めていたのだ………幼きソラ様とローリエに会うまでは。

 私の目の前で、盗賊をローリエが斃すまでは。

 

 あの時は誠に彼を信じ切れぬせいで彼を傷つけてしまったが……ソラ様とアルシーヴ様のおかげもあり、ローリエとは盤の遊戯で楽しめるようになった程にまで、信頼を回復したと推察する。

 

 

「ハッカちゃん、来週のこと、よろしくな!」

 

 会議が終わった後、楽し気に語り掛けるローリエを見ていると、私も安心するのだ。

 

「あ、そうそう。あとさ……」

 

「?」

 

 

 ローリエが呼び止める。いまだ何用だろうか?

 

 

「ハッカちゃんの誕生日。2月28日な」

 

「!!?」

 

 

 ……なんと?

 いや、しかし、なぜ、そんなことをローリエが――

 

 

「アルシーヴちゃんとソラちゃんから聞いたぜ。

 誕生日の話を聞いたことがないってよ。もしや誕生日ないんじゃってソラちゃんが泣きだしてからは大騒ぎだったよ。

 …苦労したんだぜ。ハッカちゃんとアルシーヴちゃんが初めて出会った日が何日か思い出させるの。」

 

 

 何でもないように言ってのけるローリエに絶句する。

 何故、そこまでのことがこの男に出来るのだ……?

 

 

「な…何故、私が誕生日を知らぬことを知っている……?」

 

「いやいや、『誕生日いつ?』って聞かれて『答えられない』なんてまず答えないぜ。

 ……マジに自分の誕生日を知らない人でもない限りはな」

 

「………されど、そのような推理のみで荒唐無稽な結論―――」

 

「ハッカ」

 

「!!? アルシーヴ様……」

 

 背中からお声がかかった。

 アルシーヴ様だ。振り向けばお顔が曇っておられて…

 

 

「すまなかった。お前の大事な日に気づけなかったのは私の責任だ。

 ソラ様とローリエがとんでもない事を言い出した時は半信半疑だったが……

 いまの話から察するに…まさか本当に誕生日を知らなかったとは。」

 

 !!?

 

「何を……アルシーヴ様、全て、我が責任。

 過去の追憶を恐れ、秘匿してきた怠惰の負債……」

 

「いいえ、私はそうは思わないわ」

 

 アルシーヴ様の頭を下げる姿に弁明してると、驚くべき事に、ソラ様のお姿まで。

 

 

「貴女との出会いから察するに…そんな可能性は考えていた。

 でも、色んな言い訳をつけて、後回しにしていたの。

 誕生日は、その人が生まれた記念日なんだから……後回しなんてダメなはずなのに。

 ………ごめんなさい、ハッカ。」

 

 

 ソラ様まで謝罪!!?

 アルシーヴ様に頭を下げられるだけでも失態。

 お二人に恥をかかせるなど、賢者の名折れ。

 この汚名、どのように返上すれば………

 

 

「…そんな顔をするな。」

 

「…アルシーヴ様?」

 

「ハッカはこれまでもよくやってきた。八賢者会議も皆勤していることは知っている。

 これからの活躍に期待しているぞ。」

 

「……………アルシーヴ様。

 寛大な温情に感謝。」

 

 

「ハッカちゃん。まだ気が済まないならさ。

 ――俺たちの誕生日も覚えてくれよ。それでおあいこにしようじゃん?」

 

 

 ローリエが、我が心情を見透かしたようにそんな提案をしてくる。

 アルシーヴ様もソラ様もこれには流石に驚きの表情。

 

 

「ハッカが、私達の誕生日を…?」

「いいの?」

 

「……………………ハッカに異議なし。」

 

「……だってさ!」

 

 

 ローリエがはにかんだ。

 三人の誕生日……成る程。

 

「覚えておいてくれ。俺の誕生日は――10月5日だ。」

「私は―――12月22日生まれ、だ。」

「私はね、―――9月12日生まれ!よろしくね!」

 

 それで温情を頂けるなら、それ以上の幸福なし。

 

 

「―――了解。ハッカ・ペパーミン。誕生日2月28日。これからも、八賢者の責務を務める所存……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ハッカ
 誕生日:2月28日。ようやく己の大事な日が決まった。筆頭神官・女神・男賢者の間に生まれた絆は強固であり、今回の件で覚えた日は絶対に忘れることはない。なお、初めてハッカの一人称視点を書いてみたのだが上手く行っただろうか?
 誕生日の由来はただの思いつき。

ローリエ
 誕生日:10月5日。たった一つの問答でハッカの誕生日について鋭い予想を立ててのけた推察力の化身。『ハッカの誕生日をアルシーヴと初めて会った日にする』と提案したのも彼である。他の賢者達よりひと足早く、アルシーヴとソラに便乗する形で誕生日をハッカに教えた。

アルシーヴ
 誕生日:12月22日。ローリエに振り回され、ハッカと初めて出会った日のことを無理やり思い出させられた。誕生日の由来はただの思いつき(その2)

ろーりえ「アルシーヴちゃーん。ハッカちゃんと初めて出会った日はいつ?」
あるしーぶ「ふーむ…あれはたしか冬の寒さがほんの少し和らぎ始めた…」
ろーりえ「具体的に」
あるしーぶ「えっ」
ろーりえ「具体的に何月何日!」
あるしーぶ「」

ソラ
 誕生日:9月12日。ハッカとの初対面が盗賊のアジトの中だった(本編2話参照)ので、『ハッカは自分の誕生日を知らないかもしれない』という考えに最初に行き着き、泣き出してしまう。その後、ハッカに誕生日を覚えて貰った。
 誕生日の由来は『宇宙の日』から。

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