きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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“俺は昔、二人の少女を守れなかったことがある。
 俺はそれを、どうしても忘れることが出来ない。”
   …八賢者・ローリエ 著 自伝『月、空、太陽』
    第1章より抜粋


エピソード1:ローリエという男~少年が賢者になるまで編~
第2話:少年ローリエ


 子供なのに随分ませた、不気味な奴。

 

 子供時代の俺の周りからの評価は大体そんな感じだった。

 

仕方のないことだろう。少年・ローリエのそれとは別に数十年分の記憶があり、マジで見た目は子供・頭脳は大人状態だったからだ。

 

 

 

 

 

 俺は言の葉の樹の都市の一角にて生まれた。男なのに神殿に興味を持ち、かつ機械いじりが好きな子どもだった。

 特に、魔道具というやつはエトワリアに生まれて初めて触るものだったのでのめり込んだ。

 夢はあまり見る方じゃなく、子どもはコウノトリが運んでくるだの、大人が立派な人であるだの、そう言った絵本に描いてありそうなことは何一つ信じちゃいない。そんな子どもだったのにも関わらず、育ててくれた両親には感謝しかない。

 こんな変な子どもと友人になろうとした人間も珍しいものだと思う。その内の二人が現在の女神と筆頭神官であった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「アルシーヴ、ローリエ!今日はなにするの?」

 

「もう既に楽しい事を仕掛けておいたさ!」

 

「ローリエ、お前もほんと懲りないよな……」

 

 

 

 

 服装も髪の色も三者三様の少年少女が、石畳の街道の、噴水の前に集まっていた。

 

 一人は緑色のぼさぼさはねた髪の少年。この俺、ローリエだ。

 

 一人は金色の髪を後ろでまとめた、高級そうなワンピースをきた少女、ソラ。

 

 一人は桃色のショートヘアの、魔術師見習いみたいな格好をした少女、アルシーヴ。

 

 

 いつもこの三人で俺達は遊んだり、イタズラをしかけたり、都市中を冒険したり、ゲームで遊んだりしていた。といっても、ほぼ街の人々にイタズラを仕掛けるか、その準備をする日々だが。

 この前は港町から輸入された真珠貝の真珠だけを盗み出し、芸術品に加工してから送り返す、というイタズラを敢行。真珠をすべてルネサンス期にありそうな彫像に加工する役割を引き受けた。

まぁ、エトワリアは地球と歴史が違うので完成品を見てもアルシーヴとソラは首を傾げていたが、ダビデ像を見た時の二人のリアクションが超面白かった。アルシーヴは顔を真っ赤にしながらリアルすぎだと抗議し、ソラもまた顔を朱に染めがらダビデを凝視していた。

 他にもぼったくりで金儲けをしようとした商人を嵌めて衛兵に逮捕させたり、噴水をゴージャスに緑の水晶や泪の石でライトアップしたりと数え切れないほどのイタズラをした。

 

 

「もう仕掛けたって、さっき私が雑貨屋さんのおじさんと話してる間に?」

 

「ああ。あそこのオッサン、口うるさいから、ちょいと仕返しにな。もちろん、ソラやアルシーヴも共犯だぜ?」

 

「まったく、仕方のないやつ……乗った私も私だがな」

 

 

 ちなみに今日は、雑貨屋に小型花火を仕掛け、大胆に発破させることで店を宣伝してやることにしたのだ。

 

まず人当たりの良いソラがオッサンに話しかけ、時間を稼ぐ。

そこで俺が作った時限タイプの小型花火を店前にこれでもかと設置。

最後にアルシーヴが魔法で着火し、三人で一緒に退散。ソラは少し抜けてる所があり、あらかじめ教えてたらウッカリオッサンに言ってしまう可能性があったのでアルシーヴの反対を押し切り言わないことにしたのだ。

 

 

 そうこうしている内にソラの後ろの方からパチパチパチと軽い破裂音が通りに響く。

 

 

「コラァァァこの悪ガキ共!またやりやがったなー!!」

 

「ほら出た!!逃げろーーー!!!」

 

「「きゃーーーー!!」」

 

 

 

 夏の日差しの下、ブチ切れたオッサンを尻目に俺達は一目散に逃げていく。建物、分かれ道、街のあらゆるものを利用してどうにかして撒きつつ、街中を走っていく。

 既にオッサンを撒いたのも忘れて俺達は、言の葉の樹の入口まで来ていた。都市の中心部にあるこの大樹は、頂上まで登ると神殿があり、そこでは神官達が聖典などについて学んだり、儀式を行ったり、女神候補生が教養を学んだりするのだ。

 

 

「いやぁ、愉快愉快!楽しかったねぇお二人さん!」

 

「お前いい加減に怒られろ……」

 

「アルシーヴも共犯でしょ?ふふふ…」

 

 

 俺達は、その大樹の入口のちょうど良い窪みに並んで腰をかけた。

俺が二人に笑いかけると、アルシーヴは呆れ、ソラは少し困った様子で笑っていた。

 しかし、こんな日々も続く訳じゃない。現在、俺が9歳、アルシーヴとソラが10歳。11歳になったら、二人は勉強のために神殿に住み込むことになるという。

 

 

「しかし、一年後にはアルシーヴもソラも神殿行きか……」

 

 親友と過ごせる日々も短いことを思っていたのが、いつの間にか声に出ていたようだ。

 

 

「私は女神候補生として勉強するからね。アルシーヴはどうするの?」

 

「私は女神にはならない。ソラの近くで、力になれたらそれでいい。」

 

「マー!!俺がいるのに、お熱いこと!!」

 

「ば、バカ!そういうのじゃない!」

 

「アルシーヴ、違うの?」

 

「なっ!!?いや、えっと、それは……」

 

 アルシーヴとソラがいちゃいちゃしている所を茶化すのはすごく面白い。しかも、アルシーヴは基本ソラに弱い。俺に茶化され否定しても、ソラが泣きそうな顔をすると返答に困ってしまう。俺が二人をからかうといつもこうなるからソラがわざと上目遣いをしている可能性も否めないが、それはそれでいい。

 

 

「そ、そんなことより!ローリエはどうするんだ!?どこに行くつもりだ?」

 

 

 こうやって俺とソラに挟まれて困った時、話題を変えて誤魔化そうとするのも彼女のクセだ。更に追求するのもいいが、彼女達に俺の今後を話していない。

 後が面倒なので、俺も夢を語っておこう。体は少年なので、それくらいしてもいいはずだ。

 

 

「俺は……魔法工学を極めて、誰も思いつかないような発明をする。

神殿の専属技師か、魔法工学の教師あたりになって、エトワリアを繁栄させる礎を築いてみせるさ。

そんで……三人仲良く、歴史の教科書に、史上最大の功績者として載ってみないか?」

 

 まだ高い太陽に向かって決意を固め、最後に二人に笑いかける。

 

「史上最大の功績者か……大きく出たな。

いいだろう、乗った。私は最高の筆頭神官になろう。お前も、私やソラの目につくくらい、活躍しろよ?」

 

「応援してるよ、二人とも!私も女神になれるように頑張る!」

 

 

 俺の笑みに、ソラもアルシーヴも、最高の笑顔を返してくれた。

 

 

 

 

 

 …だが、この時の俺は、前世の知識をもってしてもあの事件を予測出来なかった。

 

 

 だって、アルシーヴとソラの過去について全く知らないのだから……

 

 

 ……その事件で、俺は前世の知識を手にした傲慢さと、前世の人(日本人)特有の部外者意識に気づかされることになる。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、不自然な程に静かな夜だった。街中真っ暗で、家の明かりも街灯の光もほとんどなく、前世に見た夜の都会とは全く違う夜だった。

 

 

 俺は、アルシーヴと二人で、ソラの家に泊まりに来ており、ソラの部屋に集まっていた。この日できた俺の発明品とアルシーヴが開発したという新魔術の御披露目のためだ。

 

 

 

「二人とも、できたって言ってたけど早く見せてよー!」

 

「ま、まぁ待てよソラ。なあアルシーヴ、お前から先に見せてやれよ。」

 

「分かった。見てろ……」

 

 

 俺は発明品を出すのが今になって緊張してきてしまい、アルシーヴに先を譲ると、彼女は杖を取り出し魔力を集中させ始める。すると、部屋中が黒く染まり、紫色のエネルギーが宙に浮き始めた。

 

 俺はその見たことのある景色に驚いた。

 

 これは、ゲームでアルシーヴが使っていた『ダークマター』だ。全体に9999ダメージを与える、負け戦用の技。まさか、こんな幼い頃に開発していたとは。

 しかもこの技、凶悪なわりに発動前に集まる魔力が織りなす景色の変化が幻想的だった。まるで星空がよく見える夜に見る、森林の奥にひっそりと存在する湖とその周辺に集まる蛍を見てるかのような、絵にも描けない美しさだ。

 

 そう思っている内に周囲の景色が元に戻り、アルシーヴが杖をしまう。

 

 

「私の必殺技、『ダークマター』だ。

これさえあればどんな奴でもイチコロさ」

 

「えっ!!?攻撃技だったの!?」

 

「ああ。途中で術を解除した。最後までやると家が吹っ飛ぶからな」

 

 

 つまりあのまま続けていたら家もろとも俺らが無事じゃなかった訳だ。破壊力がデカ過ぎて戦いに使えねーじゃねぇか。

ソラ、「すごいね!」じゃないんだよ。褒める所じゃないから。攻撃されてたんだぞ?アルシーヴも微妙に照れるのやめろ。

 

 

「ローリエは何を作ったの?」

 

「ああ、俺はこの……」

 

 

 と俺の発明品……拳銃を取り出そうとした途端。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばりぃぃん、と窓が割れ、俺達の二倍ほどある男が飛び込んできた。右頬に熊か何かに引っかかれたような傷跡のある、いかつい顔だ。

 あまりに突然のことで、三人とも動けなかった。

 

 

 

「そこのお嬢ちゃん、俺と来て貰うぜぇ……!」

 

 

 

 その凶悪そうな顔を欲望に歪ませ、ナイフを片手にヘドロのような目でこちらを見つめてきた時。

 

 俺は、エトワリアにあって日本にはない、恐るべき本物の悪意というものを感じた。

 

 

 

 

 そして直感的に思った。

 

 

 

 

 

 殺される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 早くどこかに隠れなければ。

 

 

 

 

 懐に俺の発明品が……拳銃があるのは分かっている。拳銃の扱い方もサバゲーの経験があるから分かる。そして、それをあの男に向け、引き金を引けば二人を守れることも。

 でも……頭で分かっていても、どうしても拳銃を取り出して撃つことなど出来なかった。

 サバゲーとは違う、殺し合いの世界。躊躇いのない殺意。あの男の汚れた目が、エトワリアにはそれがあることを雄弁に語っていた。

 

 

 

 

 

 俺はこの時まで忘れていた。

 かつて俺は……本物の悪意に対して、逃げることしか出来ない一般人(日本人)だったことを。

 

 

 

 

 

 気がつけば俺はソラの部屋を飛び出し、空き部屋のクローゼットの中に隠れ、衣服の中に紛れ込んでいた。

 ソラの衣服のものであろう、花の香りに包まれても、恐怖が消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 魔法の起動音と男の下品な笑い声が聞こえて、

 

 

 

 

 

 鈍い音と女性の呻き声、そして別の女性の悲鳴が聞こえて、

 

 

 

 

 

 嵐の過ぎ去った後のように何も聞こえなくなっても、

 

 

 

 

 

 

 俺は、クローゼットの中から出ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 気がついたら、夜が明けていて、盗賊による襲撃事件が明るみに出ていた。

 

 俺は、空き部屋のクローゼットで気絶していた所を、ソラの保護者に発見されたらしい。アルシーヴは、ソラの部屋で腹部から血を流して倒れていた。応急処置がなされていたため、幸いにも命に別条はないそうだ。

 

 

 そして、ソラは……見つからなかった。

 

 アルシーヴの証言により、あの盗賊に拉致された事が判明した。

 盗賊も、頬の傷跡から数年前から周囲の村を襲っている悪党だということが発覚した。

 

 

 ベッドの上で衛兵からこの話を聞いた時、ひどく混乱した。

 

 ソラは女神になる女性だぞ。

 

 こんな所で死んだら、原作が成り立たなくなる。

 

 ここはエトワリア(ゲームの世界)じゃなかったのか?

 

 そんな思いで、盗賊について詳しく教えてくれと訊いた。

 まず衛兵は、真剣な眼差しで緊張感を醸し出しながら、友達を助けに行くつもりか、と聞き返してきた。「助けたいけど、俺じゃあ無理なことくらい分かっている」と答えると、先程の緊張感が薄れた。

 

「分かっていればいい。こういうのは、私達衛兵の仕事だ。幸い、奴のアジトも検討がついている。」

 

「ど、どこにあるんですか!?」

 

「……やっぱり助けに行く気だったな?悔しいかもしれないが、私達を信じてくれ。

 なんせ相手は、分かってるだけで50人以上を殺し、20人近く子供を誘拐している凶悪犯だ」

 

 

 

 

 

 衛兵の言葉に俺は言葉を返せなかった。彼らを信じていない訳ではなかった。だが、言いようのない不安が俺の心に重荷として積み重なっていった。

 

 診断で怪我がないことが分かると、俺は街を歩き回った。体でも動かさなければ、どうにかなりそうだったからだ。でも、アルシーヴに会う気にはなれなかった。

 

 

 

 

 ソラを助けに行かなければ。

 

 自分が行かなくても衛兵が助けてくれる。

 

 彼女に何かあったらどうする。

 

 自分が行ったら衛兵達の足を引っ張ってしまい、助からないかもしれない。

 

 エトワリアには拳銃がない。だから相手も拳銃(ソレ)を知っているはずがない。そこを利用すれば間違いなく勝てる。

 

 いやいや、外すかもしれないだろう。誤射なんてしてしまったら笑えない。

 

 

 

 

 

 相反する思いがいつまでもいつまでもせめぎ合い、俺は行動することが出来ない。

 

 俺は、かつて夢を語った言の葉の樹の窪みに座りながら、俺が造った拳銃を手に取り、ただ見つめていた。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
この物語の転生者枠。モデルにしたキャラがいるとはいえ、完全にオリジナルなので少年期・学生時代期を書いておこうと思った結果、今回の話ができた。今日では異世界転生ものが多いですが、主人公の敵への容赦のなさ、勇敢すぎる所が疑問となった結果こんな形になりました。今話は情けない姿を晒しましたが、普通の人って盗賊とかいきなり現れて襲われてもなかなか戦えないと思う。格好いい姿はもうちょっと待ってて欲しいのじゃ。

アルシーヴ
最近プレイアブル側のキャラとして使える可能性が高くなった人。ソラとの仲睦まじさを見てると、二人って職務で出会う前から顔見知りだったんじゃないかと思うこの頃。この小説では、神殿に行く前から知り合いで、仲良くなってた&10歳でみんなのトラウマを習得する空前の天才という設定。ギリギリとはいえ禁呪オーダーを8回も使えた時点で天才なのだろうと私は思う。

ソラ
原作では女神だったということは、かつてはランプのように女神候補生なるものだった可能性が高い。しかも、ランプほどじゃないが、聖典学に深く通じていたんじゃないかと思う。この小説では攫われてしまったが……?



△▼△▼△▼
ローリエ「ここは、日本とは違うんだ。」

ローリエ「普通に生きていたら、守りたいものも守れやしないんだ。」

ローリエ「俺自身の手で、守るしかないんだ。」

次回、『覚悟の弾丸』

ローリエ「待っててくれ……ソラちゃん。」
▲▽▲▽▲▽



あとがき
原作1章から始めると、ローリエについて分からないと考えたので、しばらく原作開始前編として主人公を中心に掘り下げていこうと思います。
きららファンタジア、良いゲームよ。是非インストールしてね☆
あときらファン小説もっと流行れ

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