きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
真の強さとは、心にあり。”
……八賢者・ローリエ
賢者就任演説より
エトワリアには拳銃というものが存在しない。
俺はそれを知るや否や、すぐさま製作に取りかかった。
幼い頃からここがエトワリアだと知っていた身としては、未来にソラに降りかかるであろう、呪いの事件をなんとかしたいと思った。
そのためには、自身が七賢者並みの強さを得る必要がある。拳銃を真っ先に造ろうとした理由はそれだ。
拳銃がどんなものかは自分が一番よく分かっていた。自分以外で拳銃が何かを知っている者がいたとしたら、間違いなく「狂っている」と言われただろう。
だが、アルシーヴのような恵まれた魔法の才能もなく、七賢者達の実力が不明だった以上やるしかなかった。
当たり前のことかもしれないが、前例のないものを造り上げる為、どうすれば開発できるかに熱中した。だが俺は、銃を組み立てることが出来、パーツや弾丸の構造について詳しく知っていても、実際に造るにはあまりにも知識と技術が不足していた。魔法工学を勉強しだしたのも、拳銃を自作するためだったりする。
拳銃を自作している時に何を作っているか両親に聞かれた時も、素直に説明した。二人とも良い人だったし、下手に隠すより良いと思ったからだ。
(もちろん、言い方はめちゃくちゃ考えたが)
商人の父は言った。
これは間違いなく莫大な富を築ける。だが、間違いなく多くの人の命を奪うものだと。
役人の母は言った。
もしこれを売ろうとするなら、それは魂を売るに等しい行いだと。
信頼できる人以外に教えないこと、練習は一人でやらないこと、絶対に売り出さないことを条件に、拳銃を作ることを認めて貰えたのは5歳の頃だった。
だが、前述の通り拳銃を実際に造ったことはなかったので、そう簡単に事は進まなかった。1ミリの狂いも許されない超精密な製作は極度の集中力と技術を要した。
何度も失敗し、時には寝食を忘れる事もあり、ソラ達に心配されたり、両親に食事に引っ張り出されたりベッドに寝かされたりした回数も両手じゃ数え切れないほどあった。
アルシーヴの錬成魔術による協力もあり、気分転換に小物を作りながら、4年。遂に『
六連回転式弾倉、リボルバー式の拳銃。銃身と弾丸には「比類なき硬度を持つ」とゲームで解説されていたブラックストーンを使用。
火薬をどうするか悩んだが
試し撃ちの過程でぷにぷに石を使った非殺傷性の弾丸も製作した。
俺はこの拳銃の名前を、モデルにした拳銃から取って「パイソン」とした。
◇◇◇◇◇
掌の中の拳銃を見ていると、これを作り出すまでの思い出が走馬灯のように蘇ってくる。
「我ながら、情けないなぁ」
つい、何となくそう呟いた。声は震えていた。
日が高くなり、空気が暖かくなっても俺の心を締め付けるような苦しみは全く和らがなかった。
自分は弱い人間だ。
弱かったから、親友二人を見捨てて逃げてしまった。
この異世界は、日本なんかよりも危険で、ここの異世界人は、日本人なんかよりも簡単にヘドロの目になることを、あの事件は俺に知らしめた。
それを目の当たりにした俺は……
「このままじゃあ、ダメだ」
そう、己に言い聞かせた。
気休めでも、意味がなくても、そうしなければならないと感じたから。
「なるほど、それでやたらと街中を歩き回ってたのか」
不意に言葉をかけられて、拳銃を隠して身構えた。
声がした方を向くと、そこに立っていたのは今朝盗賊の事件について話してくれた衛兵だった。
「安心しろ、今すぐ君をどうこうしようって訳じゃない」
「なら、何しにここへ?……俺をソラの救出へ連れて行ってくれるとか?」
「そんな危険な真似はできない。
ただ……君が思いつめた顔をして街中を歩き回ってると皆が言っててね。キミの親友に頼まれて探してたのさ」
衛兵は、そう言うと俺の隣に腰をかけた。『アルシーヴに頼まれたから』という、俺を探していた理由以外は何も言わなかった。おそらく、俺の方から言うことを期待しているのだろう。
精神的に成人していた俺としては、30代に突入したばかりの衛兵に助けを請うのは少し恥ずかしかった。だが、同時に無意味なプライドが足を引っ張ることも知っていた。
「あの夜、俺は盗賊を追い払う事ができたはずなんです。」
「どうやって?」
「この武器です。爆発を推進力に変えて、ブラックストーンの弾丸で貫くものです。」
「お、おう……そうか。それは……すごいね。」
俺から見ても衛兵が困惑しているのがよくわかる。俺が持っている拳銃は、エトワリアで初めて作られた
でも、俺が言いたいことはそこじゃない。
「でも、これがあるにも関わらず、盗賊相手に撃てなかった。逃げてしまったんです。」
「………。」
「怖かった。死にたくなかった。でも何より、あの時戦えなかった自分が嫌で嫌で仕方ないんです……!」
その言葉を聞いて、長い……長い間が空いて、そして、ゆっくりと衛兵は口を開いた。
「仕方ないよ。人に武器を向けることは誰だって怖いことさ。私でもそうさ。
……だって、それで誰かを傷つけたり殺したりしたら、人として大切な何かが、壊れてしまうから。」
そう語る衛兵の目は、真剣そのもの、何度も修羅場をくぐり抜けた熟練の戦士のそれだった。転生して人生経験がある俺よりも、長く生きてきたかのような、男の目をしていた。
「私も、初めて敵を……人を殺した日のことは覚えている。君が生まれるよりもだいぶ前だが、今でも夢に見るほどさ。
だけど、男には、どんなに怖くても、自分が壊れてでも戦うべき時がある。
それは……大切なものを、守る時だ。」
「大切なものを、守る……」
「君はまだ幼い。ご両親から10歳にもなってないって聞いたよ。それでも、あの恐ろしい盗賊から親友を守ろうとしたんだろう?」
普通じゃあまずできない、と言った衛兵の大きな掌が自分の頭を撫でる。今まで胸を締め付けていた苦しみが、少しずつほどけていく気がした。それにつれて、貯まっていたものが溢れ出てくる。いくら目を拭っても、それは溢れ続けた。
「君は立派な男になれる。いや、もうなってるのかもな。いずれにせよ、大物になると思うよ。」
最後の方は少しちゃらけた言い方になったが、しっかりと言い聞かせるような言葉だった。とうの昔に忘れ去ったと思っていた、若人特有の魂の炎が蘇った。衛兵の暖かな、頼もしい言葉が、魂だけが大人びた自分に伝わり、火にかけた鉄のフライパンのように伝わり、あっという間に情熱が燃え上がった。
涙を拭って、真面目な顔を衛兵に向ける。
「当たり前だろ……だって俺は……七賢者になる男だからな…!
アルシーヴもソラも、俺が守ってやるんだ!!」
「ふっ、そうか。なら早速行こうか。」
「えっ……?どこに?」
「盗賊のアジトに、君の親友を助けにだよ。」
何か含みのある笑みを浮かべた後、衛兵は背中でついてくるよう促した。
「あ、そうそう、七賢者とか言ってたけど、賢者は八人だからね?」
……俺にとって大事な情報をさらっと口にしながら。ちなみに、このことに俺が気づくのはもう少し後のことになる。
◇◇◇◇◇
「衛兵さん、さっき、俺は連れていけないって言ったんじゃあ……」
「それは衛兵としての意見だ。これから言うことは同じ男としての言葉だ。だからこれからはペッパーって名前で呼んでくれ、ローリエ君。」
街を出た俺と衛兵改めペッパーさんは、近くの森を歩いていた。
「大切な親友を救うために戦うんだ。同じ男としては、力になってやりたいのさ。」
「でも、衛兵としての規約があるんじゃ……」
「だから俺は最小限の装備しか持って来ていない。『休暇中、君と二人で散歩していたら、偶然盗賊のアジトに連れ込まれた』ことにするためにね。
……危険な賭けになるよ。相手は何人も殺っている。見つかったら、迷わずこちらを殺しに来るだろう。いざという時は……逃げるんだ。戦おうとは考えるなよ。」
「分かっています。」
「君はソラちゃんを助ける事を優先してくれ。……さぁ、着いたぞ。」
そこは、高さ10メートルほど切り立った崖の下にある洞穴だった。入口の高さはあの夜に現れた盗賊と同じほどで、森の薄暗さもあって外からでは中を確認することは出来なかった。
入るぞ、というペッパーさんの合図に、俺は拳銃を抜いて弾を確認しながら後に続いた。
弾倉は六つあり、それぞれ全てに弾を込めてある。弾丸はぷにぷに石の弾丸が五つ、残りの一発だけブラックストーンを使用したメタルジャケット弾(ブラックストーンは厳密に言うと石だからストーンジャケットだけどね)にしてある。
あの大男にぷにぷに石の弾が効くかという不安はある。でもメタルジャケット弾は出来れば使いたくない。かつて数回だけメタルジャケット弾で試し撃ちしたことがあるが、貫通力が高過ぎて自室の壁に穴を開けてしまったことがある。人に向けて撃ったらどうなるかなど、想像に難くない。
どうか
どうやら
これなら好都合。とっととここにいるはずのソラちゃんを助けてしまおうと考えた。
果たしてアジトの奥に彼女はいた。オリの中でもう一人の少女と一緒に隅に座り込んでいた。
「ソラちゃん!」
「ローリエ!?どうしてここに……」
「シッ!あいつが起きる。早くここから出るよ。」
「でも、このオリが……」
「安心してくれ、街の衛兵は力持ちでね。」
そう言うと、ペッパーさんはオリの一部をひん曲げて、子供一人分の隙間を無理やり作る。
そうしてできた隙間から、ソラちゃんともう一人の少女を救出する。
俺はその少女をどこかで見たことがあった。
黒い髪を短く切りそろえたその少女のことを思い出せたのは、きっと子供用の和服を着ていたからだろう。
「なっ!?(ハッカちゃん……!?)」
「? 何?」
「い、いや…何でも……」
そう、後に賢者の一人となるハッカである。俺にとって、賢者の中で一番のお気に入りだったりする。まさかこんな所で会うとは思わなかった。
名前を言いかけたのを思いとどまったのはこれが初対面だからだ。初対面で相手が名前を知っていたら誰だって驚き警戒するだろう。俺だってそうする。
「てめぇらッ!!何してやがる!!!」
「ッ!ローリエ君!!二人を連れて逃げろ!!」
だが、驚いたり、喜んだりする暇すらないらしい。
サバイバルナイフを抜いてさっきまで寝ていた筈の盗賊に飛びかかったペッパーさんの言葉に、素直に従うことにした。
「二人とも早く!」
「で、でも!」
「あの人の命がけの戦いを無駄にするな!!!」
ソラちゃんが攫われたあの夜以降で初めての大声が出た。
無茶な救出を了承してくれた
幼いソラちゃんとハッカちゃんの手を引き、全力で洞窟を駆け抜ける。二人がすぐ後ろで息を切らすのも構わず、かすかに見え始めた入口の光目掛けて走り続けた。
だが、エトワリアの神はどこまでも意地が悪いようだ。
「っはぁっ!もう……無理………」
「はぁ……はぁ……」
「あっ!?おい!!」
アジトを出るより先に、二人の体力が底を尽きる方が早かったようだ。俺は、離れてしまった手をもう一度繋ぐべく二人へ近づく。
「クソ……手間かけさせやがって」
だが、ここで最悪の事態が起きた。あの男に追いつかれてしまったのだ。
ソラちゃんが攫われたあの夜を嫌でも思い出させるかのように、格好はその時のままだった。
「そんな!さっきの人は……」
「へへ……衛兵も大したことねぇなァ」
ソラの絞り出したような言葉への答えと、大きな体のあちこちにある新しい傷跡、そして奴が手に持っているナイフに何かが滴っているのを見て、俺はペッパーさんの身に起こった結果を悟った。
「もう、ただじゃおかねェぞ……お前ら……三人まとめてじっくりいたぶって……死ぬよりも苦しいと思えるくらい、痛めつけてやる……!!
まずは二度とチョロチョロできねーように、足の骨をへし折って、
腕も曲げて、散々犯し尽くしてやるぜ、へへへへへ……」
盗賊の欲望と憤怒に満ちた表情は、まさに地獄から湧き出でんとする悪魔そのものだった。
俺の中から何かが湧き出てきた。
勇気のような、怒りのような、憎しみのような、言葉に出来ないような静かな激情が俺の中をあっという間に駆け巡った。
『パイソン』を抜いて、弾倉を
ソラちゃんもハッカちゃんも体力切れと恐怖で動けない。俺の後ろから聞こえる息づかいで分かる。逃げるなんて論外だ。
コイツを止めるには……
ここは日本ではない、覚悟を決めろ。
引き金を引け……大切な者を守るために!
「なんだァ?そのおも…」
―――バアァァン!!
その瞬間、手元から爆音がした。
始めは、外したかと思った。目の前の盗賊は何の反応も示さなかったからだ。
だが、そうではないとすぐに気づいた。男の額に、風穴が空いている。
「な、なん………だ、そ…………」
掠れた声で何か呟くと、目の前の
これで、俺達三人の危機は去った。
「もう大丈夫だ。さぁ、帰ろう。」
「………!!」
「? どうしたんだ、ソラちゃん」
「う、後ろの人……一体……」
「あっ………!!」
ソラちゃんに指摘されてやっと気づいた。
俺は初めて人を殺したのだ。
その事実が、倒れた盗賊の汚れた血が地面に広がっていくように、心の中にしっかりと刻まれた。
他でもない、自分がやったことなのだ。その責任として、今は二人を落ち着かせなければならない。この時、気のきいた言葉の一つや二つ、言うことができたらどれだけ良かっただろう。しかし、数十年分の記憶があるにも関わらず、俺の頭の中ではいくつもの言葉が交差し、通り過ぎては消えていった。
「で、でもよ!こうでもしないと俺達、命なかったかもしれない、だろ?」
最悪なことに、真っ先に出てきた言葉は、言い訳だった。だが、当時の俺からしたら、それが一番簡単に出てきた言葉だった。
「なぁ、そうだろ?そこのキミも、そう思うだろ?だから……」
そこまで言いかけたところで、ハッカちゃんの目を見て自分が致命的なミスをしたことを悟った。
……怯えた目を、していたのだ。
それも、明らかに俺に対する恐怖がひしひしと伝わってくるような、そんな目を。
実際にやった訳でもないのに、手を差し伸べたらその手を振り払われたような錯覚に陥った。
その時のショックはゲームの推しキャラに嫌われた!ガーン!というレベルのものではなかった。
ここにきて、ペッパーさんが言っていたことの意味が少し分かった気がした。
「……ソラ、ちゃん。」
「なっ…なに?」
「その子を連れて、街へ行って。」
「……ローリエはどうするの?」
「しばらく、独りにさせてくれ。
その方がいい……お互いにとって。」
ソラちゃんは何か言いかけたが、やがてハッカちゃんと手を取って盗賊のアジトから出て行った。俺はペッパーさんの安否を確かめてから外へ行こうと思った。
やはりと言うべきか、彼は亡くなっていた。いたる所にナイフで刺された跡がある。これを見たのが俺だけで良かった。彼女たちが見たら、間違いなく吐いてしまうだろう。俺も吐きそうになった。
ペッパーさんを供養した後、俺も洞窟から出て、森を抜けた所で立ち止まって夕陽と向き合った。
俺は今日という日を忘れないだろう。
変化がありすぎた。
自分の弱さに触れた。
衛兵の覚悟に触れた。
死に触れた。俺の中の、大切な何かも壊れたと思う。
だが、沈んでいく太陽に涙は見せなかった。
「俺は……もう逃げない。必ず、ソラとアルシーヴを守る……!」
間違いなく、俺の人生は今日を境に変わっていくだろう。それからの日々を、悔いなく生きるために。
キャラクター紹介&解説
ローリエ
親友を守る為に盗賊を倒した主人公。それと同時に人を殺したことで、大切な何かが壊れてしまったようだ。人は人を殺した時、それ以降の選択肢に『殺す』が当たり前のように出るようになる、という話を参考に今回の話の心情変化を書いた。また、前話の時点で折れかかっていたため、どう立ち直るかでかなり苦労した。元々、変態路線で行くつもりだったのにどうしてこうなった……
でも、これから美人揃いの賢者達と次々会う予定だから多分問題ないはず←
ソラ
来年には女神候補生になる少女。盗賊を一撃で倒したローリエを見て、「ローリエの魔道具がやった」と思えたのは古くから付き合いがあったため。だが、まさか自分を守るためとはいえ人を殺してしまうとは思わなかっただろう。その時の心情変化については、いつか語れる日を望んでいる(白目)
ハッカ
未来の賢者の一人。こちらはローリエとは初対面であるため、ローリエが盗賊に何をしたのか、何を持っていたのか全く分からなかった。これが恐怖に繋がり、ローリエを傷つけた。
人間、恐怖は無知から来ているという話があって、『何が起きているか分からないから恐怖を感じる』という考え方から来ているそう。怖い話やオカルトが恐怖を煽るのは「何があったのか理解できないから」ではないかと作者は分析している。皆様はどう考えるだろうか?
ペッパー
本来は登場させる予定のなかったキャラ。ローリエが立ち直るキッカケとなるために、モブの衛兵から格上げになった。ローリエに大切な者を守ることの大切さを教えて逝った(誤字ではない)。
盗賊
話を練っていた頃から銃殺される定めにあった可哀想な人。あまり触れないのは、掘り下げることで同情の余地を作らせないため。悪役を作るのに必要なのがくずセリフ。きらファンに純然たる悪はなかなか出ない為か、コイツの言葉には苦労した。モブだけど。
△▼△▼△▼
ローリエ「衝撃的すぎた盗賊事件もこれで終わり! これからは神殿で三人一緒だな! 前々から思っていたんだけど、エトワリアの女の子って皆レベルが高すぎない?いやぁ~、ここでいっちょ、ハーレムでも作ってみますか!」
アルシーヴ&ソラ「………。」
次回、『魔法工学生』
ローリエ「絶対見てくれよな!」
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あとがき
幼少期編終了。でも、まだローリエ達が賢者どころか神殿に行ってすらいないので、もう少しだけ(原作前編が)続くのじゃ。
きららファンタジアに登場する作品群の中の、次の作品の中で、最も皆様が好きな作品は?
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ブレンド・S
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NEW GAME!
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ひだまりスケッチ
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がっこうぐらし!
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Aチャンネル