きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

34 / 131
なかなかまとまらなかった、「賢者昇格、女神誕生」の後編となります。

今回は思いっきりギャグに振りきってみた。後悔はしていない。


第8話:賢者昇格、女神誕生 その②

 筆頭神官交代の儀と女神継承の儀は、本来同時期に行われるものではないらしい。どちらも役職に慣れていない者だと、エトワリアの危機になるからだと、デトリア様から聞いた。それが今回同時期に行われたのは、私とソラ――いや、これからはソラ様と呼ぶことにするか――ソラ様の実力を高く買っているからだともおっしゃっていた。

 

 三人で選んだ賢者はかなり個性的なものとなった。

 正直、私はローリエを賢者にするのは反対だった。だって、その……アレだし。デトリア様も当初は良く思っていなかったらしい。だが、ソラ様が必死で説得してくるものだからデトリア様が折れて、二人の説得に私が負ける形で採決された。

 曰わく、子供の頃、拉致された時に衛兵を連れてまで助けに来てくれた上に、二人の少女を守りながら戦ってくれたらしい。あの人ほど、誰かのために自分の命を懸けて、覚悟を持って戦える人はいないと、ソラ様は熱弁していた。

 

 筆頭神官交代の儀をなんとか終わらせ、ローリエが生み出したおぞましき虫の魔道具騒動も片付き、明日の女神継承の儀の準備をしながら、ソラ様の熱い説得とローリエの独白を思い出していた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

『アルシーヴちゃん。ソラちゃんのこと、色々お願いしてもいいかな?』

 

『何故だ?ソラもローリエと話したがっていたぞ?』

 

 

 それは突然だった。ローリエから、「ソラちゃんについて話がある」と礼拝堂でいつものように勉強していた私に声をかけられた時のことだった。だがその表情に、いつも私に発明品を見せたりセクハラしてきたりする時のような、チャラけた雰囲気はなかった。

 

 

『いいや、駄目だ。俺じゃあできない。ソラちゃんは男にトラウマができちまったから』

 

『男にトラウマ……って、あの時のこと、なのか?』

 

『………そうだ』

 

 

 あの時のことは、今でも……いや、一生忘れはしないだろう。たかが盗賊からソラ様を守れなかった己の非力さを痛感してからというもの、私は魔法に打ち込んだ。

 だが、あの時何があったのかはよく知らない。攫われたと思ったソラ様は、たった1日後に無事に都市まで戻ってきて、保護されたのだと聞いた。

 

 

『……なぁ、詳しく教えてくれないか?ソラに訊いても、「ローリエが助けてくれた」事以外教えてくれないんだ』

 

『………。』

 

 

 ローリエは長い沈黙の後、ようやっと話してくれた。

 一人の衛兵とともに盗賊のアジトまで助けに行ったこと。そこでソラ様を保護したこと。衛兵が自分を犠牲に逃がしてくれたこと。だが、盗賊に捕まりそうになったこと。

 ――ローリエが、自分の発明品で、盗賊を殺した事。それが、ソラ様を守るための正当防衛だったこと。

 

 

『そんな事があったからだろう。ソラちゃんは、男の人と目を合わせて話すことができないし、男の人と二人きりなんて耐えられないだろう。』

 

 

 盗賊はソラ様達を生かして帰すつもりがなかったことから、ローリエの盗賊を倒す行動は実に合理的で、命を守るためには、それしかなかったのだろうことは、彼の話からある程度は察していた。

 だが、まだ幼かった私は、それに納得できず、カッとなってローリエの首根っこをつかみ上げていた。

 

 

『馬鹿!!失敗してたら、どうするつもりだったんだ!!

 お前までいなくなったら……私は……』

 

 

 そこから先の言葉は出なかった。

 とても辛すぎて、それ以上口にしたらその最悪の結末が実現するような気がして、泣いてしまいそうだったからだ。

 

 

『大丈夫。俺は……いなくならないさ。』

 

 

 背中に手が回り、頭に暖かい手が降ってきた。その感触が、彼の言葉を裏付けているようで、無条件に安心できたのだろう。いつもはセクハラの鬼たるローリエなのに、何故なのだろうか。

 

 

『アルシーヴちゃん……あの日は、逃げちゃってゴメン。守ってやれなくて、ごめんな』

 

 

 その言葉で私はハッとなった。

 そんなこと気にしていない。君に言って欲しい言葉はそんな言葉じゃあない。ソラ様から逃げないで欲しい。

 そう思って見たローリエの顔は悲痛な表情に歪んでいて、まるで自身の処刑用の十字架を、ここまで背負ってきていたかのようであった。

 そんな彼に強く言葉を出せず、かといって何か言わなければマズい気がする、と思った私は――

 

 

『……お前は悪くない』

 

 

 深く踏み込むのを少し躊躇って、そう言うに留まるだけになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 筆頭神官交代の儀で賢者に選ばれた俺だったが、突然魔法工学の教師まで任されたので、正直戸惑っていた。

 教師といえば、ブラックな仕事の代表格である。これは前世の記憶に基づく偏見なのかもしれないが、とにかく楽な仕事ではないことは確かだ。それを全うするためには、一日でも多くの準備が必要となる。まぁこの意気込みが仕事の効率化を生み、同じ時間で多くの仕事をこなせるようになる結果、仕事の激務化を生む温床でもあるのだが。

 なんにせよ、八賢者と魔法工学教師を両立させるためには、女神継承の儀に参加せず、その準備を今からでも行っていた方が合理的だ。

 

 

「……つまり、俺はこの儀式に参加することができなくなったんだ。だから……」

 

「だから八賢者であるお前抜きで儀式をやれと?

 駄目だ。どうせサボりたいだけだろう?呆れた奴め」

 

 俺の合理的な懇願は、アルシーヴに秒で却下された。しかも本心まで見抜かれた。こいつ、読心魔法でも習得しているのだろうか?

 女神継承の儀における賢者の役割は、『新たな女神を歓迎し、敬意を示すこと』とあるが、要するに置物である。あってもなくても女神継承に響かない、どうでもいいポジションだ。さっきコリアンダーにそう言ったら、「お前、なにも分かってないな」と言われた。分かってないって、お前らが合理性をか? と返したら、「正気か?」って顔をされた。

 まぁ、俺が考えついたもっともらしい言い訳も、前世から引っ張り出してきた労働環境の課題も、すべて「サボりたい」という思いからきている。アルシーヴちゃんはそこを見抜いたのかもしれない、筆頭神官は侮れんな。

 

 

「確かにお前がデトリア様から魔法工学の教師を頼まれたのは知らなかったが、それとこれとは話が別だ。それに、そういう話は直前にするものじゃあない」

 

「そもそもスケジュールに無理があるとは思わないのかよ」

 

 筆頭神官交代の儀の翌日に女神継承の儀というスケジュールが組まれていた。そういうイベントは、間を空けないとボロが出た時にカバーできないというのに、このスケジュールを組んだ奴は何を考えているのだろうか?

 

 

「さぁ、とっとと行くぞ。お前以外の賢者と女神様のお二方はもう揃っている。」

 

「へーい」

 

 まぁ、決まってしまった事を考えていても仕方がない。アルシーヴちゃんに引きずられないように、俺も足早に目の前の彼女についていくことにした。

 ただな、遅れた理由を話す時に馬鹿正直に「ローリエがサボりたいと言い出したから」とか言わなくていいんだぞ。ソルトやジンジャーがジト目でこっちを見てくるし、シュガーさえ絶句している。フェンネルに至ってはゴミでも見るかのような目だ。俺はディーノさんみたいなMじゃないので普通に死にたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして行われた女神継承の儀は、素晴らしいほどに上出来だったと思う。少なくても俺はそう思った。だが、ここでは女神となったソラちゃんの感想を少し述べるだけに留めたい。なぜなら、この後――あぁ、儀式の数日後のことな――その、数日後に想定外の事態が起こったからだ」

 

 

 八賢者であるローリエ・ベルベットは、女神継承の儀と、そのあとに起こった()()()()()()についてこう語っている。

 

 

「遠回しに言うのは面倒くさいから単刀直入に言おう。前任の元女神が女神継承の儀の2、3日後に、突然原因不明の衰弱死をしたと、神殿中に訃報が駆け巡ったんだ。」

 

 

 このことで、神殿は急遽葬儀を行う事となり、エトワリアの行政はぐらついた。エトワリアにおける女神というものは、いわば世界の核である。女神が異世界を『観測』し、その様子を記録することで『聖典』が生まれ、人々はそれを読んでクリエを得ることで生活することができている。また、エトワリアにおける魔法の源もクリエが役割をなしている。仮に聖典を綴る女神がいなくなりでもしたら、エトワリアは破滅してしまう。エトワリアは、女神に依存しているのだ。

 それでも、致命的な動揺とならなかったのは、一概に前筆頭神官デトリアの力が大きい。

 

「デトリアさんは、この時、慌てずなりたての賢者達やあらゆる部下たちに指示をだし、アルシーヴちゃんと一緒に元女神の……名前なんだっけな………まぁいいか……元女神の、葬儀の企画から運営までを執り行ったんだ。まるで……いや、なんでもない。どーせただの杞憂だろうしな」

 

 

 前任の元女神の早すぎる訃報。それだけでも十分に予想外だろうが、ローリエにとっての“想定外の事態”はそれだけではないという。

 

 

「あれは、元女神の葬儀中のことだった。エトワリアにおける葬式ってのは、意外と和洋ごちゃまぜなんだ。葬儀場は教会で行い、故人と別れを告げる方式だ。かと思えば、神父がお経みたいな長い呪文を唱えたり、焼香があったりする。

 

 ……で、問題の出来事のことだが、その葬儀中、神父が呪文を唱えている最中にそれは起こった。

 まず、その神父の呪文がふざけてたというか、テキトーすぎたんだ。一応世界のトップの葬儀なんだし、もうちっとマシなヤツはいないのかねと思ったよ。」

 

 

 

『なんまいだー、なんまいだー、なんまいだー、なんまんだー……

 げんまいだー、しんまいだー、だいじょぶだー……』

 

 

『……なぁコリアンダー、アイツ変なお経読んでないか?』

 

『ああ』

 

『……バチ当たらなきゃいいけど…』

 

 

 

「その時隣に座っていたコリアンダーに確認してみたんだが、あの変なお経が『普通』という認識はなかったみたいなんだ。それで、あのふざけたお経に頭を悩ませてたその時だ。

 葬儀中の棺から、身体が透けている元女神がむくりと起き上がってきたんだ。典型的な人の幽霊の格好した元女神がね。それで、虚ろな目で参列者達のほうを向いたんだ。」

 

 ローリエは、オバケや亡霊などの怪談は得意ではない。前世(むかし)から、人の怨みや憎悪のような負の感情に比較的敏感で、それに基づく亡霊関連の怪談が嫌いだったのだ。

 

「始めに俺の目と正気を疑ったね。なんてったって、お、オバケがでてきたんだから。まぁその時、オバケにビビって声を上げなかった俺を褒めて欲しい気分だったよ」

 

 

 いくら目の前で非常識な事が起こっているとはいえ、葬儀中に悲鳴をあげる訳にもいかなかったローリエは、違う行動をすぐさま起こした。

 

『ローリエ、どうした?肩を叩いて…』

 

『……おい、アレ…!

 アレ………おい……!』

 

「そう。俺がやったことは、隣にいたコリアンダーの肩を叩いた後、指を元女神の幽霊に向かって差して、アレ、と言うことだ。」

 

 彼が行ったことは実に抽象的であったが、声をうかつに出せない状況下で、何が起こったのかをコリアンダーに伝えるのに、実に簡潔な手段であった。指を差した方向を見れば、彼が何に驚いたのかが理解できるだろう。

………指差した方向にいるものが、()()()()()()()()()()()()()の話だが。

 

 

「……え? 『それで、コリアンダーに伝わったのか』って? ………………………。

 うーーん………分かってないね、俺がこの話を『想定外の事態』と言った理由を……

 伝わってて欲しかった、かな……でも現実は違ったね……」

 

 

『……?何だ?』

 

『いやアレェ!おい、アレェェェェェェッ!!』

 

『おい静かにしろローリエ、葬儀中だぞ!』

 

『いやいやいやいやいやいやいやいや、アレだってばアレ! おい!アレェェェェ!!』

 

『何やってんだコイツ…』

 

『いい歳して葬式でなにテンション上げてるんですか。心配しなくてもあとでローリエの葬式なら上げてあげます』

 

 

 ローリエの必死の訴えは、コリアンダーに届かず、彼やフェンネルには、『ただ葬式でテンションを上げているだけの人』だと思われてしまったのだ。

 

「コリアンダーには呆れられ、フェンネルからは軽い殺害予告を受けたその時、近くで元女神の幽霊に動揺する別の声を聞いた。ソラちゃんだ。彼女もまた、アルシーヴちゃんに必死に伝えようとして、失敗していた。」

 

 

『いい加減にしてくださいソラ様。何なんですかこんな時に?』

 

『みっ、見えないの!? アレ!アレだよアレ! ねぇ、アレぇぇぇぇっ!』

 

『はぁ……(もう無視しよう……)』

 

『ちょ、アルシーヴ!? そのため息なに?』

 

『……ひょっとしてソラちゃん、見えてる?』

 

 

 ローリエの言葉を受けたソラは、元女神の幽霊を指差して、ローリエが頷くのを確認すると、そこで自分とローリエだけに幽霊が見えることを理解した。

 

 

『な、なんなんだよアレ……ひょっとして、俺達だけに見えるっていうアレなのか?』

 

『い、いや、違うと思うよ……そういうアレじゃないよ、多分ああいうアレだよ、大丈夫だよ……』

 

『大丈夫じゃねーだろ……だってアレ、ももも、元女神、だろ?』

 

『違うよ!これはユニ様の葬式だよ? 絶対別人だよ』

 

 それにユニ様はあんな半透明じゃなかったし、ハッキリとハキハキした人だし、と続けるソラに、元女神をよく知らないローリエはそういうものか、と納得しかけて、アレ? と別の疑問につっかかった。

 

『……つーか、半透明の時点でおかしくね?

 元女神であるかどうか以前に半透明ってなんだよ?おかしいだろ?』

 

『じゃあユニ様でいいでしょ?そういえばここぞと言うときは優柔不断でハッキリしてない時あったし……』

 

 人は感情とともに生きており、そういう意味ではハッキリしたり、優柔不断になったりしても何らおかしくない。

 そういう意味で、ソラの言葉にそうだよな、と今度こそ納得する一歩手前で、やっぱりアレ? と、再び別の疑問につっかかるローリエ。

 

『つーか、元女神なら尚更おかしくね?

 何で死んだ元女神が、半透明であんな所にいるの??』

 

『それは……アレでしょ?

 オバケ………だからでしょ?』

 

 

「ソラちゃんと半透明の幽霊について話してるうちに、カチリ、とロジックのパズルが組み合わさる音がして、ああそうか、あそこにいるのは元女神の幽霊なんだ、と納得したわけよ。

 ……え?その後の俺らの行動?………もうね、椅子から立ち上がって一番近い真後ろの扉から逃げ出そうとしたね。でも、扉が思ったより重くて逃げられなかったさ。」

 

 

『なっ、ソラ様!ローリエ!二人とも何やっているんだ!』

 

『わ、わ、私ちょっとお手洗いに……!』

 

『正座で足痺れた……!』

 

『どいてローリエ、何してるのよ!』

 

 勿論、この時のソラはお手洗いにいく必要などなかっただろうし、ローリエに至っては正座などしていない。だが、一刻も早く幽霊のいる教会から逃げ出したかったのだ。

 ただ、扉前ではしゃいでしまったことが脳裏によぎった二人は、元女神の怒りに触れたんじゃないかと思い、棺と神父のいた方に振り向く。

 

『おいィィィィあの人、めっちゃこっち見てる!こっちガン見してるー!!!』

 

『目を合わせちゃ駄目!気づいてない振りするの!』

 

 だが、虚ろな目をした元女神は、真ん中を歩いて後ろの扉の方向……つまり、ソラとローリエがいた方へ歩いてくる。

 

『おい!こっち来たぞ!アイツこっち来たぞ!?どうすんだオイ!?』

 

『死んだフリ!死んだフリなら……!』

 

『死んだフリってお前! 死んでんのあっちだからね!? あっち本職だからね!!?』

 

 

「そうして気づかないフリするか死んだフリするかで言い争おうとした時、さらに摩訶不思議な事が起こった。

 まず元女神は、教会の真ん中あたりの列に座っていた、一人の女性をビンタしたんだ。今思えば、神父の呪文の最中に何か別の、失礼になることでもやっていたんだろう。そのビンタを食らった女性だが、壁まで吹っ飛んだよ。

 その後、元女神は幽霊装束を脱ぎ去った。その上からは、SMクラブで見かけそうな、赤いエナメル服。バタフライマスクや鞭、タバコにライターをどこからともなく取り出して、タバコを咥えてバタフライマスクを装着。あっという間に、クラブの女王が爆誕した。」

 

 

 たった一発のビンタで人を壁まで吹き飛ばして、気絶させた元女神(女王様)を見たソラもローリエも、命の危機を感じ目にも止まらぬスピードで真後ろの扉から各々の席へついた。

 

『ソラ様、お手洗いでは?』

 

『い、いや……引っ込みました』

 

『引っ込んだって、二人ともガクブルではないですか。無理しないほうがいいですよ』

 

『い、いや……引っ込んでろ』

 

 ソラもローリエも、アルシーヴやコリアンダーが見て分かるほどに震えていたが、その原因がお手洗いを我慢しているからではないことは言うまでもないだろう。

 

『み、見張りにきたんだあの女……!

 自分の葬式がキチンと執り行われるように……!』

 

『ま、まずいよ、この葬式、下手をしたら……』

 

『『元女神(ユニ様)に、(たた)り殺される!!』』

 

 この間に、クラブの女王と化した元女神は、寝落ちしかけていた神父に尖ったエナメルブーツで蹴りを入れている。神父の「ありがとうございます!」という悲鳴が教会内の参列者達のほとんどに聞かれなかったのは、神父の名誉的に幸いである。

 

『今みたいに寝ながら変なお経読んでた神父みてーに、俺達も下手やらかしたら何されるかわからんぞ……!』

 

『う、うそでしょう……夢なら覚めてよ…!

 私は、優しくて聡明なユニ様に別れを言いにきたのに……!』

 

 

「ソラちゃんの『夢なら覚めて』の悲鳴はもっともだ。元女神は、生前は誰に対しても優しく、淑やかで人気がある人だったらしい。それが、自分の葬式でひと皮どころか幽体離脱でひと肉体剥けた途端に女王化(あんなこと)されたら誰だってそうなる。

 もし、他の参列者にあの元女神の姿が見えたら皆、口を揃えてこう言っただろう。

『あんな街一つ支配できそうなクラブの女王に会いに来た覚えはない』って。

 だが現に元女神は俺とソラちゃんにしか見えなかった。だから、葬式も滞りなく進んだ。いや、()()()()()()()。」

 

 

『あの、次焼香みなさまの番ですよ?』

 

『え”っ!!?』

 

『いやだから焼香の順番。もう遺族の方も我々も終わったので、残りは皆様だけですって。』

 

 前の席の誰とも知らぬ者が知らせた焼香の順番は、ソラとローリエにとっては拷問の宣告そのものだった。元女神の幽霊は、棺に腰かけている。つまり、焼香を行うことは、元女神(女王)に近づくことに他ならない。

 

『…おい、いつの間にか焼香の順番が回ってきたぞ?どうするんだ?』

 

『……え?できるの?

 あの人の前で、焼香できるの?』

 

『無理に決まってんだろ。この距離でもチビりそうなのに、あんな間近でゆったりアロマテラピーなんてよォ。処刑台に自ら上がっていくようなもんだろーが。

 ……そもそも焼香ってどんな感じだったっけ?前出て粉パラパラするのは覚えてんだけど、記憶がフワフワしてるんだけど……』

 

『ちょっとローリエ大丈夫?社会常識だよ?

 三回おでこに粉持ってアレをアレするアレだよ?』

 

『後半アレしか言ってないよねソラ様?

 あなたもフワフワだったじゃあねーか?』

 

『焼香台の前行けばできます!

 ローリエと一緒にしないで!』

 

『じゃあ先に行って俺にお手本を見せてくださいソラ様?できるんでしょう?』

 

『嫌よ、ローリエ先に行って!』

 

 

「……とまぁ、こんな風に焼香だけで順番の押し付け合いだ。一応、俺とソラちゃんの名誉のために補足しておくけど、ただど忘れしただけだからね?『緊張してたら公式忘れちゃった』とかよくあるだろ?アレだよ。

 それで、この膠着状態を解決したのは以外や以外、ソルトだった。」

 

 

『では私が先に行くので、シュガーは見ていてください』

 

 ソラとローリエの状況は知らないだろうが、それを打開したソルトはまさしく勇者であった。だが、二人には死地に向かう少年兵のようにも見えた。

 

『待て、早まるな!』

 

『え、早まる?

 シュガーがわからないと言うので、先に手本を見せようかと思ったのですけど……』

 

『大丈夫か?いけんのか?しくじるんじゃねーぞ、必ず戻ってこいよ!?』

 

『馬鹿にしているんですか?……まぁいいです。』

 

 そう言ってソルトが焼香台の前へ行くと、慣れた手つきで遺族と僧侶に一礼、遺影に合掌、抹香を摘まんで焼香、再度遺影に合掌、遺族に一礼、といった手順で焼香をやってのけた。

 

『こんな感じ。簡単でしょ、シュガー?』

 

『おぉ~』

 

『ミッションコンプリート!

 ソルトなら必ずできるって信じてたわ。今夜は祝勝パーティね』

 

『ソラ様、恥ずかしいのでやめてください』

 

『フッ、俺から言わせりゃあまだまだだが、少しはマシな面になって帰ってきた様だな』

 

『焼香ひとつでどこまで褒めるんです? どんだけできない人だと思われてるんですか!?』

 

 

「ソルトの行動は俺とソラちゃんの心に希望の火を灯し、元女神の雰囲気も柔らかくさせた。この調子なら無事に葬儀を切り抜けられると思っていた。

 だが、その良い流れを思い切り台無しにするやつが現れた。

……シュガーだ。ソルトの次にシュガーが『次はシュガーがしょーこーいってくるよ!』と言った。ハッキリ言って不安しかなかったから、あの子にはソルトがやった通りにやれと言ったはずなんだがな。あの子は、焼香台の前に立つと、何を血迷ったのか神父をチョップでぶっ叩いたんだ。そしてこう言った。」

 

 

『意外と僧侶に一撃!』

 

最初(ハナ)からまるまる違うだろーがァァ!?』

 

 

「それで、どこからともなくマイクを出した。多分、『遺影』の意味が分かってなかったんだろうが……」

 

 

『イェーイ! さぁ、神父さんも一緒に!』

 

『イェーイ……』

 

『「イェーイで合唱」じゃねええええ!ノらなくていいからオッサン!!』

 

 その後もシュガーは、焼香台に神父を三度叩きつけたり、再びイェーイで合唱したりと、住職が見つけたらマジ切れして小一時間問い詰めてきそうな、それはそれはワイルドで無礼極まりなく、命知らずな焼香をやってのけた。ちなみにこの時点で神父はほぼ気絶している。

 

『こんな感じでいいかな?』

 

『お前は一体ソルトの何を見てたんだー!誰が神父の頭にバッチリ叩き込んでこいって言ったよ!?』

 

『ずっと座ってたから足がしびれちゃって……』

 

『足関係ねーだろ、痺れてんのお前の頭!!』

 

 勿論こんな無茶苦茶が元女神に認められるはずもなく、ソラとローリエは元女神の機嫌の悪化をいち早く感じとっていた。

 

『やばいよ……ユニ様の機嫌がみるみる……!

 早く葬儀を立て直そう!ソルトのフローチャートに作業を一つ加えます! 遺族と僧侶に一礼、その後に僧侶の蘇生! そして焼香です!』

 

『じゃあ、次はあたしが行くよ』

 

『カルダモン!? 大丈夫なの? 信じていいのよね!?』

 

『大丈夫大丈夫ー』

 

 

「シュガーがアレだったから、次のカルダモンでどうにか元女神の機嫌を挽回してほしいところだった。でもまぁ、無事焼香を終え元女神の機嫌が回復した、なんてことにはならなかった。それどころか……」

 

 

『遺族を一礼で坊主。』

 

 

「カルダモンは流れに乗った。シュガーが大分暴れても誰も止めなかったから、そういうノリなんだと思ったのかは知らないが、カルダモンは焼香台の前に行く前に、最前列に座っていた男のカツラを、礼をしながらもぎ取ったんだ。」

 

 

『そこから間違ってるぅ!!

 一歩も前に進めてないよカルダモン! 焼香はもういいから、神父さんだけ蘇生させてきて!』

 

 そのソラの指示を聞いたカルダモンは、言われた通りに焼香台に頭を突っ込んで気絶している神父に近づいて、もぎ取ったカツラを神父のツルピカな頭に帽子代わりに乗っけた。

 

『何を蘇生させてるの!? 蘇生させてって毛根のことじゃないよ!

 何も変わってないでしょ神父さんの頭にカツラ乗っかっただけじゃないの!?』

 

『ううん。神父さん、心なしか表情が穏やかになってた。』

 

『いいことあって良かったですね、神父さん……なんて言えないよ!?』

 

 ソラの言うとおりである。シュガーは滅茶滅茶な焼香をやり、カルダモンは遺族からカツラを奪い気絶した神父に乗せる。二人ともまともな焼香をしていないのである。元女神の怒りが増すのは必然だった。

 

『おいィィィィ! 元女神、もうご立腹だよ!

 伝説の(スーパー)サ○ヤ人みたいになってるよーー!?』

 

『もう神父さんの蘇生を最優先にしましょう!』

 

 ここでソラは一刻も元女神の怒りを抑えるために、葬儀を立て直しつつ焼香をやるという流れから、葬儀の立て直しに全力を注ぐ作戦に舵をきった。

 

『ちょっと待て! 遺体が一つ増えてるぞ! 遺族だ!』

 

『なんでカツラ取られただけで死んでるの!? メンタル弱すぎない!?

 というかなんで全員ガン無視!? カツラに気づいてないフリしてるの? それが優しさなの!?』

 

 だがローリエが事態の悪化を見つけ、報告すると、確かにカツラを取られた遺族の一人が確かに倒れていた。ソラは誰もこの事態に疑問を示さないことに疑問を投じる。

 そこでこの悪化した状況を食い止めるべく立ち上がった者がひとり。

 

『仕方あるまい。なら、神父と遺族の蘇生、そして神父と遺族に謝罪及び一礼に変更だな。

 このままではユニ様の葬儀がめちゃくちゃだ。私が責任を取って、必ず全て立て直してくる。』

 

 そう、アルシーヴである。

 

 

「アルシーヴちゃんが立て直すというのだ。きららファンタジアでもソラちゃんが一番信頼を寄せるあのアルシーヴがだ。今度ばかりは大丈夫だろうと思っていた。」

 

 

『まずは僧侶の蘇生…!

 

 あなたはここで呪文を詠んでいて下さい』

 

 アルシーヴが助け起こし、神父の立ち位置に立たせたのは………先程カルダモンにカツラを取られた遺族だった。

 

『それハゲてるけど遺族ーー!!』

 

 

『そして遺族の蘇生…!

 

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません……!』

 

 アルシーヴは、遺族が座っていた席に…………先程カルダモンが取ったカツラをそっと置いた。

 

『それ遺族の遺族ーー!!』

 

 

「こればっかりは俺も予想できなかった。というか予想できるか、気絶していた神父の頭を木魚代わりに遺族に差し出すアルシーヴちゃんなんて。後になって本人に問いただしてみたんだが、『シュガーやカルダモンのパスに応じただけだ』と言っていた。ハハハ、ほんとウケる話だろ? でも個人的には全く笑えなかったけどな」

 

 

『いい加減にしろよゴラァーーーッ! どんどん状況が悪化してってんだろーが!!』

 

『というかなんであの遺族は言われるがまま神父やってるの……?』

 

『どうもショックで一時的に記憶喪失らしくてな』

 

『喪失したのは髪の毛だけじゃないの!?』

 

 アルシーヴによる葬儀の立て直しが余計酷い方向へいったことを悟ったソラとローリエは、悪化した焼香台前をみてただただ混乱していた。ただし、悪化したのは焼香台前の状況だけではない。

 

『オイィィィィィ!! 元女神(女王様)がもうカンカンだーー! 元○玉ぶちかましそうな勢いだよーーー!!?』

 

 一連の行いのすべてを見ていた元女神の幽霊もまた、怒りなのか恨みなのか、雰囲気は最悪と言っていいものになっていた。タバコを四本加え、稲妻をまとった黄金のオーラに身を包んだ元女神は、両手を天にかかげ、何かの力を貯めている。これ以上失礼な行いをしたら、両手がローリエ達に振り下ろされるのは明白だ。

 

『もう知らねー! 人の気もしらねーで勝手にやりやがって……!』

 

『な、ローリエ!? どこ行くつもりなの!』

 

 最早、ローリエもソラもこの状況を好転させることは諦めきっていた。アルシーヴでさえあんなボケをかましたのに、他の人たちに焼香の順番を回したらどうなるかなど、創造に難くない。

 

 

 

「そうして俺とソラちゃんが教会から逃げようとしたときだ。アルシーヴが引き留めようとしたんだが、『何をしている!まだ葬儀中………』と言いかけて、そのまま崩れ落ちるように白目を向いて倒れたよ。何が起こったのか分からなくて、二人でゆっくりと元女神の方を見たんだ。

 ……握ってたよね。バッチリと、アルシーヴちゃんの魂を。○気玉でくると思ったら人魂取りやがったから驚きだ。

 その後どうなったかって? それまで静かにしていたデトリアさんが『退避!ここに不可視の亡霊が現れた!』っつって皆を避難させてたぜ。アルシーヴちゃんも、心肺蘇生を繰り返してたら避難の数分後に目を覚ましたよ。 ……なにはともあれ、災難な葬儀だった。

 

 ……え? 女神継承の儀の時のソラちゃん?

 ああ、元女神の葬儀の話に夢中になってすっかり忘れてたよ。

 そうだなぁ、いつもと変わらなかったな。

 ………いつもと変わらず、美しかったよ。」

 

 どんな姿でも大切なモンは変わらねぇよ、と最後にローリエは口に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
今回はアルシーヴへ相談を持ち掛けたり、女神継承の儀をすっぽかそうとしたり、『バキ』的な語り部を担当したり、元女神の葬儀で見事なツッコミ役を披露したりと幅広く頑張ってもらった。アルシーヴへの謝罪の裏にどんな思いがあったのか…そんなの知らなくて大丈夫です。

アルシーヴ
新人筆頭神官。身長的には他の女性賢者たちやソラと比べて少し高めだが、ローリエよりは少し小さい、といったところだろうか。元女神の葬儀中にやったお茶目なボケの部分は、アニメ『銀魂』231話で近藤さんがやったボケをアルシーヴの元のキャラを出来るだけ崩さないように注意してミックスした産物。ところで、アルシーヴをデザインしたきゆづき先生は、「男装の麗人」をイメージしたそうなのだが、拙作のアルシーヴはヒロイン街道のド真ん中を突き進んでいるように感じるのは作者の気のせいだろうか?

ソラ
話の都合により、女神継承の儀を軽くキンクリされちゃった可哀そうな女神。代わりに、ローリエを筆頭とした賢者達のツッコミ役という重要ポストに就けた。出番が増えるよ、やったね!おいやめろ

コリアンダー&フェンネル
ローリエの怪奇体験を全く信じなかった人たち。作者自身、葬式には数えるほどしか行っていないため、『葬式でテンション上げている人』なんて想像もつかないわけだが。

ソルト&シュガー&カルダモン
焼香で見事な抹香さばき(?)を見せた子と夜兎族流の焼香をやってのけた子とサド王子風の立て直し()をした子。元ネタはアニメ『銀魂』231話の新八&神楽&沖田。

デトリア
拙作オリジナルキャラ。アルシーヴが筆頭神官に就く前に筆頭神官をしていた、今にも折れそうなおばあちゃん。
ローリエやソラ、アルシーヴが生まれる前から長年筆頭神官をしており、数人の女神に仕えていた。誰にでも笑顔で丁寧に対応する温和な性格もあって、神殿内での力や信頼は根強く残っている。
腰が曲がり、よぼよぼである為、すれ違う度に身体の心配をされている。

元女神
拙作オリジナルキャラ。ソラの前任の女神にして、今回の葬儀騒動の犯人。一応、「ユニ」という名前があるが、ローリエ目線がメインの為、今回はこの名称を使用。
生前は優しくて人当たりが良く、流されやすい性格だったが、幽霊になったことでクラブのドS女王と化した。この元ネタはアニメ『銀魂』231話の定食屋の親父。

「俺はディーノさんみたいなMじゃないので~」
ディーノさんとは、『ブレンド・S』の登場人物にして喫茶店スティーレの店長のことである。単行本を読んだり、アニメを見れば分かると思うが、明らかにMだと思われる描写が幾度とある。

エトワリアの葬儀
アニメ『銀魂』のネタをやりたくて、洋風な世界観のきららファンタジアと混ぜた結果、神父にお経に焼香と、かなり滅茶苦茶なものが誕生した。でも、日本発祥のきららファンタジアは、制作陣が日本人メインである以上、価値観や死生観がどうしても日本風であったり、「日本人から見た海外」のイメージが生まれるため、あながち間違っていないのかもしれない。



△▼△▼△▼
ローリエ「俺はこの後の展開を知っている。ソラちゃんが襲われる日が……来る。 全てを知っている者の責任とまでは言わないけど……女の子の危機を黙って見過ごす男じゃないのよ、俺は。」

次回、『運命の夜 その①』
ローリエ「絶対見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽



あとがき

とうとうきらファン初期作品の作者によるオリジナルストーリーが公開される運びとなりましたね!知られざる賢者やアルシーヴ、ソラの設定が飛び出そうで期待の反面、マイ設定との矛盾が出てきそうで相変わらずビクビクしとりますww
ともかくまずは全裸待機ですね!

きららファンタジアに登場する作品群の中の、次の作品の中で、最も皆様が好きな作品は?

  • きんいろモザイク
  • ステラのまほう
  • ゆゆ式
  • うらら迷路帖
  • 夢喰いメリー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。