きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
まだまだこれからです。使いたいネタがまだ山ほどある「きらファン八賢者」をよろしくお願いします!
“まだ小さかったわたしは、ベッドの中でただふるえながら、このときアルシーヴのへやで見たものをおもい出さないようにすることしかできなかった。”
…ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋
この世界が「きららファンタジア」である以上、確実に起こる事件が一つある。そう、ソラちゃん呪殺未遂事件だ。
――いい
終わり良ければ全て良しとはよく言ったものではあるが、そこまでのきららとランプの旅路は過酷そのものである。一歩間違えたらソラもアルシーヴも助からない。
ソラとアルシーヴの未来を確実に明るいものにするため、俺は生まれた時から色々と策を巡らせていた。
ハッカ以外の賢者に伝える?
駄目だ、信じて貰えない可能性がある。
ランプに「ソラを救えるのは君だ」と伝える?
これも駄目。ランプの聖典は、きららとクリエメイトとの旅の日々を日記帳に書いた結果、
そもそも、「ソラが呪いをかけられた」事には箝口令が敷かれる。誰かに言ったらアルシーヴに折檻されるし、現場にいなかった奴が呪いのことを知っていたら真っ先に疑われる。
そんな感じでずーっと考えた結果、既にひとつの答えを導き出していた。
あのローブ野郎を撃退すれば、アルシーヴがオーダーを使用する事態を防げるのでは? と。仮にあの事件で犯人を撃退及び捕縛できれば、ランプが旅に出ることもなくなるが、女神ソラの安泰はより確実なものとなる。
ソラが女神になった日から、魔法工学を教える傍らで、神殿のあらゆる所に監視カメラと録音機を仕掛け、ソラとアルシーヴの
三年間も不発で、諦めかけた朝にソラから「何か怪しい気配がしない?」と話を振られた時は内心穏やかじゃあなかった。今夜あたりにあの事件が起こるだろうと確信した俺は「何か察知したら、信頼できる人の元へ逃げた方がいい」と聞かせ、戦闘準備の最終チェックを行った。
そして、その日は来た。アルシーヴとソラのあの会話が録音機から聞こえた瞬間、「パイソン」と予備の弾丸を手にアルシーヴの部屋まで駆け付けた。着いた時に見たものは、アルシーヴの部屋から漏れ出た光に微かに照らされた、ローブ野郎の後ろ姿だった。ソレを見た俺は何の躊躇いもなく発砲。ついにあのローブ野郎に、鉛玉をブチ込むことに成功した。
「アルシーヴ!! 今すぐ、そのローブ野郎を殺せ!!」
「ローリエ!? どういうことだ!?」
「詳しくは後だ、早くそいつを殺せ!!」
ただ、この時俺は「アルシーヴちゃんとソラちゃんの百合を引き裂こうとするモブ野郎はゆ"る"さ"ん"んんんん!」の精神が強すぎたせいか、よりにもよってアルシーヴちゃんに「殺せ!」と指示してしまった。これが彼女の混乱を招いたのだ。もう少し慎重に言葉を選んでいたら、事件を完全に防げたのかもしれない。
「……仕方ない!」
「待て、ローリエ! せめて理由を聞かせろ!」
「……コイツは
混乱していたアルシーヴちゃんをよそに真っ先にローブ野郎を倒そうとしたのも、俺自身が焦っていたためと言わざるを得ない。
何故なら、下手人は、本家では「見つけた」と呟いた途端にソラちゃんに呪いをかけたことから、ソラちゃんの暗殺だけを目的とした呪術のプロの可能性が高いからだ。本来ならば、不意打ちで自分がどうやって攻撃されたかも分からぬ内に殺すつもりでいた。拳銃の仕組みは俺以外は知らない。アドバンテージは十分にあった。
だが、何よりも想定外だったのが、銃弾を六発――背中に一発、両腕を一発ずつ、そして正面から胴体に三発―――を撃ち込まれたというのに、倒れるどころか詠唱をやめることもなかったローブ野郎の根性だ。急所を外したなんてことはやってない。普通弾丸を六発も貰ったら出血多量かショックで死ぬ。少なくとも集中して呪いをかけることなんてできない筈だった。
「や…っと、…見…けた……んだ……! めがみ、を……!」
「っ……うっ!!
ぐっ………かはっ…………!」
「「ソラ様(ちゃん)!!?」」
しかしそれを、あのローブ野郎は、ソラちゃんに呪いをかけるまで両足で立ち続け、しかも現場から逃げ出すことまでやってのけた。
「ローリエ! ハッカ! 奴の後を追え!」
「了解!」
「承知!」
俺は弾をリロードしながら、ハッカとともに瀕死のローブ野郎を追うべく、赤黒い点々が続く廊下へ駆け出した。
◇◇◇◇◇
「……ハッカちゃん、ここから血が途切れている。」
「……謎。」
ローブ野郎の追跡開始から数分。俺達二人は奴が現れたアルシーヴの部屋から血の跡を追いかけていった訳だが、神殿の出入り口から出て数歩のところでぱったりと消えている。まるでそこから一歩で別の所へワープしたかのようだ。真っ暗な中、二人で血の垂れた跡を探してみたが、他に変な痕跡は見つからなかった。つまり……
「転移魔法で逃げられたか……?」
「恐らく。」
クソッ!なんてことだ。何をしていたんだ俺は。ソラちゃんとアルシーヴちゃんを守ると決めたくせに、何だこの体たらくは。原作と何も変わってないじゃないか。
―――あの日から、何も変わってないじゃないか。
ローブ野郎への、何より――俺自身への怒りは内に抑えきれるものではなかったらしく、つい俺は神殿の柱に拳を叩き込む形で八つ当たりをしてしまっていた。
「ローリエ、落ち着いて。」
「これが落ち着いてられ………!」
ハッカちゃんの言葉に向き直り落ち着けるかと言おうと思ったが、彼女のあまり動かない表情から、かつての怯えた表情を思い出し、俺の怒りにブレーキがかかった。ここで感情に呑まれる訳にはいかない。そう思うと怒りが自然と治まってきた。
「……わかった。」
でも、銃弾を食らいまくったあのローブ野郎に、転移をするほどの余裕があったとは思えない。きっと、誰か別の人間の助けがあったのだろう。そいつが神殿の外でローブ野郎と合流し、すぐさま転移魔法で大怪我をしたローブ野郎とともにトンズラしたに違いない。「しかし、どうして奴はソラちゃんを狙ったのか……この段階でも分からん。情報がなさ過ぎるな……」
「ローリエ?」
「ふぉっ!!? な、なに?」
「静かに。アルシーヴ様へ報告。」
ハッカちゃんは見失ってしまった以上アルシーヴちゃんの元へ戻って報告するのが先だと言葉少なめに促す。
…確かに今日はもう遅い。これ以上は日を改めて調査する必要がありそうだ。
あと、思ったことを口に出しやすいこともハッカちゃんから指摘された。……今のうちに直さないと。前世のこととか、
「アルシーヴ様……これから如何様に?」
ローブ野郎に逃げられてしまった事と、ローブ野郎に仲間がいた可能性があった事をアルシーヴちゃんに報告した俺達は、アルシーヴちゃんからさっきの呪いについての事件をすべて聞いた。……俺達がローブ野郎を追っている間に、呪いからソラちゃんを守るために呪いごと彼女を封印したことも。……まぁ俺にとっては
「呪いの正体を解明し、解呪の策を見つけ出す。 神殿の者たちをいたずらに動揺させてはいけない。
ハッカ、ローリエ。先ほどの出来事は他言無用だ。決して外に漏らすな。」
「御意。」
「……だな。」
アルシーヴちゃんがこう言う気持ちも分かる。世界の中枢たるソラちゃんがこんなことになったと知ったら、神殿内は大パニック、あらゆる人間が動揺しまくった結果、色んな機関が麻痺する。その麻痺は確実に神官たちや言ノ葉の都市の民を圧迫する。それに乗じて一揆やクーデターでも起こすやつが現れたら目も当てられない。
「あとローリエ、廊下に垂れているであろう、血痕も掃除しろ」
……??
「……え? 何で?」
「何でじゃあない。あの血だまりもさっきの出来事の証拠に他ならん。それでなくても、神殿の廊下に血だまりが続いてたら誰だって驚くだろう。
私の部屋の血の掃除は私がやるから、ここ以外を頼む。日の出までに全部終わらせろ」
「マジかよ……」
完全に忘れていた。ローブ野郎を始末することだけを考えてたから、血については無策だった。少し考えてみればわかることじゃあないか。筆頭神官の部屋に血だまりがあり、そこから神殿の外まで血が続いてたらどんなアホでも「筆頭神官の部屋で流血沙汰があった」と思うに決まっている。
こうして、真夜中の血痕掃除が始まったのである…………ちなみに、掃除に適した魔道具を開発していなかったから自分の手で掃除したわけだが、「ル〇バみたいな掃除用魔道具を造っておけばよかった」とちょっぴり後悔したのは、俺だけの秘密だ。
◇◇◇◇◇
「ソラ様は現在、体調を崩されている。快癒されるまでは私が執政を代行する。」
翌日、アルシーヴは神殿の皆を大広間に集めてそう知らせると、集まっていた神官たちはざわざわと騒ぎ出す。俺は今、コリアンダーとともに、その聴衆に混じって話を聞いていた。
実に合理的な嘘だと感心する。ソラちゃんが襲撃され、しかも強力な死の呪いにかかったなんて、前代未聞の大事件だ。そんな大事件の結果、親友を失ったというのに、アルシーヴは平気そうな顔であんなことを言っている。
「……流石だな。」
「今、なにか言ったか、ローリエ?」
「え? いや、何も。」
コリアンダーにちょっと気付かれかけた。なんて言ったのかまでは聞かれなかったようだが、これ以上彼といると、ウッカリ口から洩れた重要機密を聞かれそうだ。一層気を付けないと。
「……ソラ様、大丈夫なんですか?」
シュガーがそれはそれは心配そうな声をあげると、聴衆のざわざわが治まっていく。
「ああ。今は治療に専念するため自室にこもっておられる。ソラ様の世話役はハッカが務める。何かお伝えすることがあれば、ハッカを通せ。」
「はーい。ソラ様、早く良くなるといいですね!」
シュガーが無自覚に地味に心に刺さる言葉を放つ。ソラちゃんの呪いの解呪方法は、あまりに特殊だ。アルシーヴちゃんも、感情を取り繕うように微笑み、「ああ、そうだな」と返した。
俺もすぐにここから立ち去り、アルシーヴちゃんに合流するとしよう。コリアンダーの引き留める声を無視して先を急ぐ。コリアンダーは意外と察しが良い。ソラちゃん関連のことはまだバレてはいけない。
――それに、今の彼女は放っておけないから。
アルシーヴちゃんを探して神殿内を走り回っていると、アルシーヴにランプが話しかけているところに遭遇した。
「ソラ様に会わせていただけませんか!」
……そうだ。確かここで、ランプはアルシーヴに断られてしまうんだ。取り付く島もない感じで。
「今は無理だ。用があればハッカを通せ。」
「でも…私、心配で……それに…!」
「――すまないが、今はお前に構っている時間はない。」
……ああ、これだ。
「アルシーヴちゃん、さすがにその言い方はないだろう?」
ランプもアルシーヴちゃんも悪くない。二人とも、ソラちゃんを想う気持ちがある故にぶつかってしまうのだ。ただちょっと、アルシーヴちゃんが不器用で、ランプが早とちりをしがちなだけ。それが、ランプが神殿を出てきららと会うきっかけになると思うと少々複雑なんだけど。でも、フォローせずにはいられない。
「ランプも心配しているんだ。そういう言い方は控えるべきだ。」
「ローリエ、お前には関係のないことだろう?」
おっと、「関係ない」で来るか。
ランプの手前、ソラちゃん関連の事は言えないので、別の方向から返すとしよう。
「関係あるさ。ランプはアルシーヴちゃんの生徒であると同時に、俺の生徒でもあるんだ。」
「………。
とにかくランプ、女神候補生として、勉学に励め。」
「あっ……はい、わかりました。」
ランプにそう言いつけると、アルシーヴちゃんはとっとと歩いていってしまった。行き先は図書館だろう。
「ランプ?」
「はい。」
ランプのフォローも終わったことだし、次はアルシーヴちゃんのフォローだ。
「アルシーヴちゃんは、君の先生であると同時に、筆頭神官でもあるんだ。仕事の量は俺ら賢者の比にならない。
忙しいんだよ。特に、ソラちゃんが病気療養に入っちゃったこの時期はさ。」
「………。」
「でも、君がソラちゃんの心配をするのも分かる。何か悩み事があったら、先生に相談しなさい。できる限り、力になってあげよう。」
「ローリエ先生……」
生徒相談を受け付けていることのアピールも忘れない。……まぁ、ランプは
「
「……! 先生、それって……」
「ところで、魔法工学のレポートはやった? まだ出てないの、ランプだけなんだけど……」
「えっ………ああああああ! 忘れてたぁぁぁああああ!!」
もちろん、すぐさま話題をすり替えて、言及を防ぐ。今譲歩するのはほんの半歩ほどだけだ。ランプが聖典学以外がからっきしで助かったとほんの少し思い、「早く出してねー」と自室へ急いで駆けてく背中に告げると、アルシーヴを追いかける。
さて、これからどうしようか。未だに答えは出ないが、ソラちゃんの呪い事件を防げなかった以上、新たな方針を練る必要がある。そして、その方針に必要な新たな魔道具と武器の開発も必須だろう。次の行動計画と新たな魔道具の理論が口から漏れ出ぬように口を右手で隠しながら、ゆっくりと歩きだした。
◇◆◇◆◇
…ずっと、引っかかっていた。あの夜に見た光景が。
床の大部分が夥しいほどの血に染まり、鉄の嫌な臭いが充満してそうな部屋の、開いた扉から見えた……アルシーヴ先生が―――ソラ様に封印を施した光景が。
最初は、悪夢だと思っていた。すぐさま自室に逃げ帰って、布団にくるまりながら、そんなことありえるわけがないと、アルシーヴ先生がソラ様を殺めるわけがないと、震える体をおさえ頭の中で何度も湧き上がる疑心を否定していた。当然、眠れるわけもなかった。
翌日、ソラ様が体調を崩されたと聞いた時は、ソラ様が心配で心配で、アルシーヴ先生にすぐさまソラ様に会わせて欲しいと頼んだが、取り付く島もないほどに却下された。その後、仲裁に入ってきたローリエ先生の言葉が、あの夜に見た悪夢のような光景を確信づけた。
「
どういう訳で言ったのかは、わからないけれど。
明日……聞いてもらおう。わたしが見た、あの光景を。ローリエ先生なら、きっと信じてくれるだろうから。
キャラクター紹介&解説
ローリエ
アルシーヴとソラの未来を守るために事案スレスレまで頑張った男。しかし、ローブの人物の根性までは知らず、ソラに呪いをかけることを許してしまった。自分を責めていたが、ハッカのおかげで一応落ち着きを取り戻す。
原作との違いは、ローリエがローブの人物を容赦なく攻撃したおかげで呪いが安定せず、ソラのクリエが失われるスピードが若干遅くなったということ。それでも今の所大きな違いにはなりません。そう、今のところはね。
ハッカ
この夜、アルシーヴの側についていたお陰で封印されたソラの世話係などでアルシーヴの助けになった和風メイドさん。ローリエの精神安定にも一役買っている(無自覚)。ソラの世話係に任命されたのは、全ての事情を知っている
ローリエ「俺は二人の親友じゃなかったのかよォ!!?」
アルシーヴ「ち、違う。そうじゃなくてだな……ほら、お前男だろう?」
ローリエ「ソラちゃんには手ぇ出さない!」
ハッカ「日頃の行いの報い。」
ローリエ「SHIT!!!!」
アルシーヴ
今回から仕事量が増す苦労人筆頭神官。しかも、不器用なせいでランプとの溝が深まりかける。しかも原作では一人で背負い込もうとするから、更にアルシーヴの命がマッハでヤバイことになる。拙作では、事件の目撃者が一人多いため、重荷が少しでも軽くなればいいのだが……
ランプ
アルシーヴがソラを封印する光景を見てしまった女神候補生。ローリエの何気ない一言で相談を決意。ローリエがローブの人物を銃撃しまくったせいで床に広がる血というおぞましいオプションがついた結果、血だまりの真ん中で封印が行われるという原作よりヤベー光景を目に焼き付けてしまった。そういうこともあって、確実に「ソラ様が無事じゃない」と思うようになってしまった。ローリエにとってはソラとアルシーヴを守るために侵入者を攻撃しただけなので、完全に事故であるが、この事故が巻き起こす事態とは一体……?
血痕の掃除
どう考えても証拠隠滅にしか見えない後始末。アルシーヴは「神殿の他の人々をいたずらに混乱させない為」に命じたのであって、後ろめたい気持ちはどこにもない。作者もこの部分は執筆中に思いついて、勢いで書いただけなので、これがどう繋がるのか、そもそも繋がるのかは定かではない。エトワリアにルミノールがないので多分繋がらないだろうが。
△▼△▼△▼
ローリエ「原作通り、ソラちゃんは封印されてしまい、俺達にも箝口令が敷かれた。俺はいつも通り教師をやってる訳なんだが、こうしている間にもあの瞬間は徐々に迫ってきていて……」
次回『
ランプ「楽しみにしててください!」
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あとがき
やっと原作に片足突っ込めた…さて、次だ、次!
将来的に使いたいネタばっかり浮かんで、もう二章までは構想が練り終わっている!
ただ、書き溜めてはいないので悪しからず。
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