きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
“神殿で働く人間の7割が女性で良かった。いや、良くはないが、ほぼ男よりかは断然マシだな。”
…コリアンダー・コエンドロ
木剣を振り払って、目の前のおっさんに向かって構える。
おっさんは、目の前の獲物を捕らえるのを邪魔されたためか、怒りに満ちた目でナイフをこっちに向けている。今にも襲いかかってきそうな奴は、まるで獣のようだ。
「てめぇ! 邪魔しやがって!!」
「………。」
無駄口は叩かない。というか叩いてる精神的余裕は必要ない。隙を作るし、時間の無駄だ。
「っ!!」
木剣を振るい、おっさんに肉薄する。
「うわあああァァァァ!!!」
いきなり近づいてきた俺に驚いたのか、それとも
自分よりリーチが長い武器相手にそれは良くない。まぁ俺が言うのも何だけど。
すぐさまナイフのリーチ内から離れ、おっさんの手首に木剣を叩き込む。
ゴスッ、と少々鈍い音を上げるとともに、奴が「いぎゃあああああああ!?」と汚い悲鳴をあげながら右手を抑え、奴はナイフを取り落とした。
間髪入れずに頭部を横薙ぎにする。クリーンヒットしたそれは、おっさんから意識を刈り取るのに充分だったようだ。吹っ飛ばされるように倒れたおっさんは、白目を剥いて起き上がってくる気配は見せなかった。
倒れた敵の無力化を確認して、ふぅ、と息をつく。
そして、置いてきた荷物から、ロープを取り出し、のびたままのおっさんを縛り上げていく。
……神殿に魔法工学を学びに来た時はまさかこんな風に人と戦うことになるとは思っていなかった。
だが、そこで出会った友人が、俺の人生を変えたと言っても過言ではない。
◆◆◆◆◆
ローリエ・ベルベット。
それは、俺の親友であると同時に、手強いを通り越して最強とも言えるライバルである。
彼に出会ったのは、神殿に入ったばかりの年の頃だ。
彼が神殿の図書館の、禁書の部屋から叩き出されて落ち込んでいる所に遭遇したのだ。
『なぁお前、なにやってるんだ……?』
『あ、アハハハ。禁書を調べようとしたら怒られた……
あ、そうだ。俺は……』
『ローリエ、だったか。神殿内ではちょっとした有名人だぞ、お前。
…俺はコリアンダーだ。』
禁書は調べちゃいけないから禁書だっつうのに、何やってんだこのバカは、と思った。俺の彼への第一印象は『好奇心旺盛なバカ』だった。
だが、すぐにその第一印象はすぐに覆ることになる。
このファーストコンタクトの翌日、部屋替えで同じ部屋になった時のことだ。
あいつの乱雑に散らかった机の上にあったものにふと目が留まったのだ。
そこには、筒と握りがついている、妙に説明しづらい形状をした物体が置いてあった。幼い頃から魔法工学には自信があった俺でも全く見たことがないものだったので、気が付けばつい好奇心に負けて手に取ってしまっていた。掌より少し大きめなそれは、見た目に反してずっしりとした重さがあり、その感触が謎をますます深めた。
これは何なのか?
一体だれが造ったのか?
そう思案に耽っているのに夢中で、後ろからの人物に気づけなかった。
『なぁ、それ…返してくれないか?』
『っ!!?』
振り向くと、そこには先日、禁書を覗いて怒られていた彼が立っていた。
『俺の一番大切な
そう言ってあはは、とプレッシャーを感じさせずに笑うローリエの言葉を俺は一瞬疑った。
『発明品……!? お前が、これを作ったのか……?』
『あぁ。秘密にしてくれるなら、それが何かを簡単に教えるけど……』
そう言って彼が説明した内容は、とんでもないものだった。
「
はっきり言って、恐怖した。こんな凶悪な破壊力を持った兵器を、なぜ当時の俺と年の変わらない少年が作り出せたのか。それを確かめるために、目の前の彼にすぐさま問いただす。
『こ、こんなもの造って、何が目的なんだ!? それに、どうやって造ったんだ? 推測でしかないが、これは相当……』
『分かってるさ。これが危険だってことくらい。』
『だったら、どうして……』
『守りたい人がいるんだ。』
俺の疑問に、ローリエは即答した。
『俺には力も魔力も何もなかった。昔そのせいで守れなかった事があってさ。』
『守れなかったって……何を?』
『俺にとって大切な人さ。
………傷つけちまったんだ、その人たちを。
だから、魔道具の力を借りている。今度こそ、大切な人を守るために。』
ふざけて笑う訳ではなく、今度は真面目な表情でそう語るローリエからは、言葉の端々から真剣味と後悔のようなものを感じた。ほぼ初対面に等しい俺にそんな表情で話すローリエを見て、「大切な人を守りたいからってここまでやるか?」みたいな質問は喉から出なくなった。
だが、彼はその感情を隠すかのように再び笑い出す。
『……なーんてね、アハハハ。
えっと、この発明品のことは誰にも……』
『……言えるワケないだろ。こんなものは世に出回らせちゃあいけない。』
ローリエのこの発明は、秘密にしなければいけない。
この意見は今でも変わらない。
だって、あの発明品は、確実にエトワリアに戦禍を招く………効率よく敵を殺せる武器が出回ったら、それを巡って戦いが起こり、より激化するに決まっているからだ。そうすれば死人が続出する。幸い、俺も彼も人並みの倫理観はあるようだ。
『でも、なんで俺なんかにここまで話してくれたんだ?』
『…神殿に入ってから、話しかけてくれたり、こっちの話を聞いてくれた人が君で初めてだったからかな。嬉しかったんだ。
……ちょっと話しすぎちゃったけど。』
思い出したかのように「聞いてくれよ、他の連中はさぁ…」と俺以外の同級生に対する愚痴を言う彼は、どう見てもあの恐ろしい発明品を悪用するとは思えなかった。
それから俺とローリエは、一緒に行動する事が多くなった。あいつの魔法工学の知識は人並みどころか俺以上で、突飛な発想をいくつも持っていた。俺はそれに感心し、何とか彼も驚く発明を造れないかと努力した。気づけば、俺達は軽口を叩き合えるような関係になっていた。
……この頃からずっと「女は愛するもの。サ○ジもそう言っている」とか「百合恋愛・結婚は認められるべきだ」とか訳わかんないことをしばしば言ってて理解に苦しんだけどな。
その後も、あの危険な発明品を隠すかのようにローリエは様々な生活用魔道具や娯楽品を発明していった。
円型の自律走行を行う掃除機、四枚のプロペラで空を飛ぶオモチャ、小型のインスタントカメラ、フィルムの続く限り録画を行うカメラ、ペンの形をした懐中電灯、遠くの人物と会話ができる通信機、「トランプ」と名付けたカードに「将棋」とかいうボードゲーム………中には
彼は、そういった画期的かつ役に立つ物を多く発明したとのことで(後に禁忌扱いされたネタ発明もあったが)、八賢者に選ばれた。
でも、その裏で日用品ではないものも開発していることも、しばしば奴のテーブルの上が爆発していたことからも伺えた。
エトワリアの発明王ともいうべきコイツからは、どんな発明品が出てくるのか分からん。
それはつまり、
あいつが賢者になってから、こんな質問をしたことがある。
『今の賢者の中で一番強い賢者は誰だと思う?』
ほぼ興味本位の質問だったが、ほんの少し、彼が彼自身の強さとその可能性についてどう考えているのかを知りたいと思ったのも本音だ。その結果、彼はこう答えた。
『一番強い賢者? う~ん……まず俺はないとして………やっぱハッカちゃんかな? 夢幻魔法、チートじゃない?』
ハッカという八賢者については、俺はほとんど知らない。故に、夢幻魔法とやらの効果も、名前から予測するしかないのだが、きっと幻術の
俺から言わせれば、「凶悪な初見殺しの武器を作れるお前の方がチートだわ」という感じだ。
とぼけているのか本当に自身の持つ力の意味を分かっていないのかは確信が持てないが、賢者の中でもかなり強い部類に入る男だと思う。相性次第では、格上も完封できるだろう。
もし俺の見立てが間違っていなければ
ローリエは
まぁこの点については、あまり危険視していない。
なぜって? そりゃあもちろん――
『アルシーヴちゃん! 髪型ちょっと変えた? いつもと違った可愛さだね!』
『……ローリエ。確かに髪型を少し変えたが、セクハラの報告からは逃れられんぞ。
…セサミから3件、カルダモンから1件、ほか女神官から18件。あと今日、昨日、
『…ああっ、いけない! 俺、今日はデートの日だった! それじゃっ!!』
『逃げるな!! “ルナティック・レイ”!』
『ぎゃあああああああぁぁぁァァァァァッ!!!!?』
―――あいつが
◆◆◆◆◆
それはともかく、だ。
ローリエ自身、日用品だけじゃなく、未知の武器も造っているのだ。だから、俺も俺で戦うための知恵を絞らざるを得なくなった訳。
そのうちの一つがさっきのおっさんと戦った時に使った木剣に仕込んだ魔法だ。
錯乱魔法。
敵の精神を動揺させ、混乱させる魔法だ。時間をかけてゆっくり発動させることで、相手に自覚されずに混乱させることができる。
今回は、最初の一撃を打ち込んだ時に発動させ、じっくりと魔法をかけ、奴を前後不覚にさせた。試験的な運用もあって、少しゆっくりめだったが、魔法の完成スピードをもう少し早くしても良さそうだな。
魔法の属性が未だに決まっていないローリエとは違い、俺は既に水属性で決まっているので、水属性が得意な錯乱魔法・幻影魔法・
ちなみに、幻影魔法とは、ちょっとした幻を見せる魔法のことで、
たかがそんなこと、と思うが戦闘中は半端じゃないほど反射神経を使う。
そんなめまぐるしく戦況が変わる時に錯乱してまともな思考ができなくなったり、上下左右が反転したり、幻に騙されたりしてみろ。たとえどんな奴が相手でも充分命取りになる。
基本的には剣術で戦い、魔法は妨害に専念する。
それがこのコリアンダー・コエンドロの戦い方だ。
課題としては、まずはフェンネルあたりに俺の剣術を見てもらって、問題点を見つける所からだな。独学だったから、変なクセが出ているかもしれない。
とにかく、今やるべきことは………
「ローリエの野郎、どこへ行きやがった……?」
女の子二人と避難とかこつけてどこかへ行ったローリエを探すことだ。
あいつの守備範囲は18からだそうだし、「百合CPは見守るもの」とかいって女子同士の恋愛を大切にしているから流石に14、5くらいのあの少女達には手を出さないと思うが……
……
………
…………出さないよな?
………不安になってきた。
◇◆◇◆◇
「ぶえっくし!!」
「だ、大丈夫ですか、ローリエさん?」
思いっきりくしゃみをしてしまい、ローズちゃんを心配させてしまった。
今、このローリエは彼女達の信頼を得るために頑張ってるのに、誰か良からぬ噂でもしてるのか……?
「誰だ、俺の噂をしてる奴は……?」
「そんな古典的なことってあるんですか……?」
ボソッとリリィちゃんがそんなことを言う。
くしゃみ=噂の等式って、
まぁいい。ちゃっちゃと聞き込みを済ませるとしますか。
キャラクター紹介&解説
コリアンダー
今回のメイン人物。戦闘描写・解説ももちろんだが、ローリエとの出会いと賢者にまで登りつめるローリエをただの(と言っちゃあ失礼だが)エトワリア人の彼視点から書いた。ちょっとした考察回なので、物語の進展はほぼなし。その代わり、短めである。
ローリエ
コリアンダーに意外と評価されていた男。魔法工学に自信のあったコリアンダーさえも知らない拳銃を作り上げた彼は、それだけでも脅威と思われている。だが、彼自身がとんでもない女好きなので、危険視されることなく、健全な友人付き合いを送っている。神殿内の性別割合が極端に男に傾いていたらどうなっていたことやら。
まぁ、これ『きららファンタジア』なのであり得ないけど。
そして、やはり彼が武器を作り、使う理由は「大切な人を守る為」であるようで……?
△▼△▼△▼
ローリエ「リリィちゃんとローズちゃんから信頼を得るべく、仕事を見学させることにした俺。」
リリィ「ちょっとでも変な真似したら通報するからね。」
ローリエ「分かった、分かったから落ち着け……」
ローズ「でも、ローリエさんの聞き込みが進むにつれて、リリィのお母さんの行動が次々と明らかになっていって……」
ローリエ「リリィちゃん。もしかして、君のお母さんは―――」
次回『ミネラ その①』
リリィ「ぜ……絶対見てね?」
▲▽▲▽▲▽
あとがき
最近忙しくて、投稿ペースが不安定です。それに、書きたいところばかり募っていくので、ストーリーの進み具合も不安になりそう。でも、必ず完結させたいと思います。これからも「きらファン八賢者」をよろしくお願いします。
きららファンタジアに登場する作品群の中の、次の作品の中で、最も皆様が好きな作品は?
-
あんハピ♪
-
三者三葉
-
スロウスタート
-
ゆるキャン△
-
こみっくがーるず