きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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“信じるべきは自分自身。頼るべきは己の記憶。”
 …?????


第24話:ランプとデトリア

「ランプちゃん。あなたは正しいわよ。」

 

「えっ――」

 

 

 わたしは時が止まった。

 いや、時は止まっていない。どんな人にも、時間は平等だっていう(聖典を読んでいると、あっという間に過ぎちゃうから、わたしは平等だとは思わないけど)から、わたしが固まったんだろう。

 腰が曲がって、わたしと同じくらいの背になってしまっている元・筆頭神官のデトリア様からそう言われたのには、ちょっと理由がある。

 

 少し時をさかのぼって話しましょう。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 きっかけは、セサミを撃退した後。

 きららさんが、お、お、お尻を……謎の格好をした女の人に蹴られてしまったことに始まる。

 

 

「だ、大丈夫ですか、きららさん……?」

 

 青葉様をはじめとした、クリエメイトの皆様が心配から声をかける。しかし、きららさんは自身の杖で体を支えながらも立ち上がったのだ。そしてこう言った。

 

「だ、大丈夫です………さぁ、早くクリエケージを壊しましょう!」

 

 

 それに、誰も素直に肯定出来なかったのは、きららさんの身を案じた優しさからなのでしょう。

 

 私と青葉様の肩を借りながらも、クリエケージを壊したきららさんには、本当に、もう、尊敬の念しか浮かびません。色んな意味で。

 

「これで、青葉さん達は元の世界へ戻れると思います……!」

 

「はい。そろそろ、ですね……

 …………きららさん、大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫。」

 

 即答。元気そうに答えるきららさんですが、杖に寄りかかって、足を震わせながら答えても意味はないと思います……

 

「……みんな、きららが心配なのは分かるけど、クリエケージを壊した以上、君たちは元の世界に戻ることになるんだ。」

 

「……帰れるのは嬉しいけど、少し残念ですね……」

 

 本当に残念そうにそう言う青葉様。

 

「では、私たちは先に戻って涼風さん達をお迎えしなければなりませんね。

 ほら、桜さん。帰りますよ。」

 

「えー! ちょっと待ってよ、うみこさん! 私まだあおっちと話したい!」

 

「だったら尚更でしょう。涼風さんが戻ってきた時に桜さんに何かあったら今度は涼風さんを心配させますよ。」

 

 

 うみこ様はそう言うと、さっさと帰ってしまった。ねね様も、「待ってうみこさーん! あ、あおっちも、早く帰ってきてよね!」と残すと帰ってしまう。名残惜しいですが、皆様にも皆様の日常がある。きららさんのお尻は心配でしょうけど。

 

 お二人が帰ってしまわれたのを見て、イーグルジャンプの皆様は、帰った後の仕事や企画、新作ゲームに想いを馳せていました。もしかしたら、わたしもキャラデザに落とし込んでいただけるかもしれません!!

 マッチがどうなるか分からない、なんて無粋なことを言っていると、きららさんが青葉様と向き合いました。

 

「青葉さん……

 私、青葉さんたちと会って、頑張ることと、一緒に頑張る仲間の大切さを教えてもらえました。

 セサミとの戦いのさなか、皆さんがコウさんに掛けた言葉………青葉さんが前向きに頑張れる理由が、見えた気がしました。」

 

 きららさんのその言葉で、わたしもコウ様への言葉を思い出す。

 はじめ様の日本(世界?)中のファンを見た言葉、青葉様の憧れ、ゆん様の子ども達への思いやり、ひふみ様の慣れないけど一生懸命な応援、りん様の告白………

 きっと、そのすべてがコウ様を元通りにしたのでしょう。きららさんも同意見でした。

 

「だから私も……まだ出会ったばかりだけどランプやマッチとそんな仲間になれるように頑張ります!」

 

「……きららさんたちなら、きっと大丈夫ですよ!

 みんないい人ですし、絶対に素敵な仲間になれると思います!

 私も、今の会社に入ってそのことを知りましたから……!」

 

 

 青葉様が、きららさんの想いに答える。

 

 その姿は……少し。わたしにとっては、羨ましい光景でした。

 

 わたしは、きららさんの『素敵な仲間』になれるでしょうか?

 青葉様に背中を押されても、心の中の不安を消しされない優柔さをごまかすように、わたしは笑顔で光に包まれるイーグルジャンプの皆様を、日記に書き綴りました。

 

「ところで……きららさん、お尻は本当に―――」

 

「大丈夫です!!」

 

 きららさんは、最後までクリエメイトからのたいきっく関連の質問を食い気味でそう答えていた。

 

 でも、やっぱりあのキックは痛かったのでしょう。

 

 

「アルシーヴのしていることは許せません。

 こんなにも世界を乱してしまうなんて………!」

 

「そうだね……私たちが、頑張らないとね!」

 

「さて、次は海を渡る訳だけども―――」

 

「「??」」

 

「ちょっとここで休んでからにしよう。

 きらら、流石に無理は良くないよ?」

 

「うっ……は、はい…」

 

 立つのがやっとの様子のきららさんの為に、休むことをマッチが提案してきました。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 マッチの提案に異論はありません。わたしも、マッチも戦うことはできない。もし無理をしてきららさんに倒れられたら、これからの旅の行く手を阻む敵と戦えなくなってしまいます。

 

 宿屋で身体を休めると言ったきららさんをマッチに任せ、わたしは軽く変装しつつ、何か食べ物でも買おうかと町へ繰り出しました。

 

 往来を行く様々な人達、賑やかな喧騒、笑顔で店を開いたり、買い物をしたりしている大人たち。いつも通りの日常を過ごしている彼らに、もう「オーダー」の影響はないように見えました。

 

 

「……? あのドーナツ屋……」

 

 青葉様達と来た時はクリエメイトを探すのに夢中で気づきませんでしたが、港町には珍しい甘味処です。お客も賑わっています。

 そんなドーナツ屋から、甘い香りがするのです。

 

 ハチミツとメープルシロップを足して、香りだけをぎゅっと凝縮したような、嗅ぐだけで小腹がすいてきそうな、いい匂い……

 

 

「………きっと、きららさんも喜びますよね!」

 

 

 わたしも、甘い匂いに誘われた行列に混ざることにしました。 

 ……これくらい大丈夫でしょう。なんてったって、女の子は甘いものが大好きなんですから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ありがとうございましたー!」」

 

 

 銀髪ショートヘアの店員さんと空色ロングヘアの店主さん(お二人は親子だそうです)の声を背に受けながら店を出たわたしは、買ったドーナツが袋に入っているのを何度も確認しながらきららさんのいる宿へと急ぐ。自然とスキップしてしまいます。

 

 だって美味しかったのですから!!!

 

 試食させていただいたのですが、その甘さの深さたるや、清純で奥ゆかしい、可憐なお姫様が頂くお菓子のような味でした……!!

 

 砂糖の甘さだけに頼らず、濃厚かつしつこすぎない甘み。店主さん曰わく、複数の砂糖と甘味料を使っているそうです。

 神殿を飛び出す前は、聖典を読みながら、『スティーレに行ってみたいなぁ』とか『甘兎庵に行って千夜様の和菓子を食べてみたい!』とか考えていましたが、こうして実際に町へ行って、人気のものを食べてみると、エトワリアもいいなぁとも思います。

 

 それに……彼女達は、少し前まで、ケンカとまではいかなくても、ギクシャクした関係だったのが、仲直りしたそうです。ソラ様をお救いした後で、詳しく聞いてみたいと思います。

 

 

 そう思いながら、スキップを踏んでいると。

 

 

「おやおや、ランプちゃん。こんな所で、何をしているんだい?」

 

 しわがれた、でも優しい声がわたしを呼んだ。

 

 一瞬で足が凍りついたように固まり、振り向くことすらも憚られる。

 

 わたしは、この声を知っている。

 

 でも、神殿を飛び出した勢いの旅先で会いたくなかった人物。

 

 

「ひ、人違いです……」

 

 声が震えそうなのを抑えながらそう言いながらようやく振り向いた先にいたのは。

 

 年のせいで腰が曲がった身体を、杖で支えたおばあさん。

 紅い宝石が目立つ、翼を広げた鳥のデザインをした杖。

 今にも折れそうなのに、にこにこと笑顔を浮かべたお姿は。

 

「変装ならもっと上手くやらないとだめだよ、ランプちゃん。」

 

 正真正銘の、元・筆頭神官―――デトリア様であった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 「最近体力がなくなってねぇ」と言いながら、近くの日陰にあったベンチに腰を下ろし、わたしもそのお隣に座らせられる。

 

 デトリア様は、わたしが神殿に入って一年ほどで引退した、歴代で一番任期の長い、アルシーヴの前任の筆頭神官でしたが、引退後も、わたし達女神候補生や新人の神官達を気にかけてくださいました。

 結構なお年を召していたので、逆にみんなから心配されていたようですけど。

 

 でも、なんてことだろう。わたしがどこにいるかは、神殿の人間には知られてはいけなかったのに。

 それとも、いち女神候補生になにができる、と言わんばかりに見逃されているだけなのだろうか?

 

 

「心配しないでも、アルシーヴちゃん達にここで会ったことは話しませんよ」

 

「………本当ですか?」

 

 

 当たり前のようにわたしの心配事を見抜いたデトリア様に面食らい、驚きと疑惑に惑いつつも、そう返した。

 

 

「本当よ。」

 

 わたしの疑いの声に、デトリア様はしわしわのお顔を(ほころ)ばせながら、朗らかに笑った。

 

「だってもう、わたしは神殿の人間じゃあありませんもの。」

 

 

 確かに。デトリア様は既に筆頭神官の地位から身を引き、それをアルシーヴに受け渡しました。引退後も新人の教育に一役買っていたとはいえ、もう神殿とは関係ないはず。

 

 いつもそうだ。この人はわたしを特に気にかけてくれている。いつだったか、どうしてと訊いたことがあった。デトリア様は、笑いながら『小さい頃のソラ様とそっくりでねぇ。あの子みたいな人が、今のエトワリアには必要なんだよ』と答えてくださった。

 さらに、これは風の噂程度でしか聞いたことがないのですが、結婚もしていないらしい。まさに、己のすべてをエトワリアのために費やしているような人でした。

 

 

「それに、ばばあは物覚えが悪いからねぇ。今日ここで誰に会ったかなんて、神殿に行く頃には忘れてしまってますよ。」

 

「……ありがとうございます。」

 

 ウインクしながらそう続けるデトリア様に、わたしはデトリア様がまだ健在であることを察しながらも、九死に一生を得たかのような感覚を覚えました。

 

 

「……今から話す内容も、忘れてくれますか?」

 

「……そうだねぇ。長話なら、忘れちゃうかもねぇ。」

 

「………。

 わたしには、悩み事があるんです。具体的には話せませんけど……」

 

 わたしは、神殿で起こったことを話した。

 

 この目で見ていたとはいえ、「アルシーヴがソラ様を封印した」というある意味クーデターのような話は、マッチ以外の皆のように信じてくれないかもしれないので、「ソラ様の病気を治す手段を探している」とちょっと嘘をついたけど。

 

 

「でも、皆認めてくれなくて、アルシーヴ…先生も、神殿の風紀を乱すなって言われて……それで、我慢ならなくて飛び出して。

 ――わたしは、飛び出した勢いで、とある村までマッチと一緒に逃げてきました。今は()()()()()()()()()()()、ソラ様を助ける手段を探して旅をしています。」

 

 

 ローリエ先生でさえも……わたしのあの話を夢扱いした。確かに、夢として彼に相談したけれど、あの時ならば本当のことだと信じてくれると思っていたのに――

 

 

 ――――だめですね。このことを考えれば考えるほど、心に、暗く分厚い雲が顔を出す。雨や雷が降る前に、追い出さなければ。

 

 心が締め付けられる痛みに耐えながら、デトリア様の答えを待った。流石にきららさんの事は話さない。「伝説の召喚士」の話や、きららさんの素性は広める訳にはいかないでしょう。

 

 

「ランプちゃん。」

 

「!」

 

 

 デトリア様から声がかかった。

 

「あなたは正しいわよ。」

 

「えっ――」

 

 

 そして、わたしは時が止まった。

 

 

「あなたが見たもの、あなたが聞いたこと。それを信じているから、ここまで来たんでしょう?」

 

「……わたしは、ただソラ様が心配で―――」

 

「そのソラちゃんが病気で、それを治すために旅をしているのでしょう?」

 

「っ!!」

 

「『信じるべきは自分自身。頼るべきは己の記憶。』

 ……ユニ様の座右の銘ですよ。」

 

 ユニ様。その名前にわたしははっと息を飲んだ。

 ソラ様が女神となって間もなく、原因不明の病で崩御なさった前任の女神様。そんなお方が、そんな座右の銘を持っていたとは。

 

 

「でも、『頼るべき己の記憶』って何ですか?」

 

「わたしが思うに、今まで培ってきた自分の経験だったり、学んできたことだったり………そう言うものを全部ひっくるめたものを、ユニ様は『記憶』っておっしゃったんでしょうねぇ。」

 

「なるほど……」

 

「『信じるべきは自分自身』っていうのも、ただ自分勝手ってわけじゃなくて、『誰かに言われたから』とかで動かないって意味なんでしょう。

 

 ―――ランプちゃんが『ソラ様を救いたい』って思ったのも、あなた自身の意志でしょう?」

 

 

 デトリア様の解説を聞いて、なるほど、意外にも自分本位に聞こえる座右の銘にはそんな意味があったのかと思いました。

 

 

 

 ……やっぱり、この人は優しいお方だ。

 この方やきららさんみたいに、わたしも誰かのことを思いやれる人になりたい。

 

 

「―――わたしは、どこにいても、ランプちゃんの味方です。応援していますよ。」

「―――はいっ!!」

 

 

 「こんなばばあだから一緒に旅はできないけどね」と笑うデトリア様に強く返事して、ベンチから立ち上がる。

 

 今はまだ、話せませんが……いつか、ソラ様をお救いした時に話したいと思います。ソラ様、デトリア様。

 伝説の召喚士となったきららさんとの出会いを。きららさんやマッチ、ゆの様や青葉様たちクリエメイトと絆を紡ぎ、旅をした日々を。ですので…………それまでお体、ご自愛くださいね?

 

 

 

 そう決心して、わたしに続いて腰を上げようとするデトリア様に、手を差し伸べた。

 

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ランプ
 今回のメインを務めたエトワリアの解説女王。決してス○ードワ○ンを意識しているわけではない。タイキックでダメージを受けたきららを回復させるために滞在した港町でドーナツ購入後、デトリアと遭遇。拙作オリジナルキャラであるデトリアとはアルシーヴやローリエと同じく親しい関係。例えるならば、アルシーヴが「担任の先生」で、ローリエが「気になっている(と言うと語弊を生みそうだが)異性の先生」であり、デトリアは「生徒みんなに優しく接してくれる、登下校ボランティアのおばあちゃん」といったところ。デトリアの励ましで、きららの『素敵な仲間』になる決意をする。

デトリア
 拙作最高齢のオリジナルキャラ。年齢不詳(本人曰く、『乙女はいつまでたっても乙女なのですよ』とのこと)。オリジナルキャラと既存キャラとの交流を深めるために港町に登場させ、今回の話を練り上げた。やや難産だったが、書き上げた甲斐があるほど楽しかった。今回のやりとりもまた、今後に生かす予定。

ユニ
 ソラが女神を務める前に、女神の座に就いていた女性。ソラが女神を継承したほぼ同時期に謎の衰弱死。デトリア曰く、前書きに書いた座右の銘を持っていた。



△▼△▼△▼
ローリエ「やっとミネラさんから掴んだ手がかりをもとに渓谷の村へ向かう俺。砂漠を渡れば、目的の村へ着く。だが、砂漠でまたオーダーがあるようだ。カルダモンか学園生活部の誰かと会えると楽しみにしていた俺の前に現れたのは………お、男!!?」

次回『転生者(おれ)の知らない男』
ローリエ「次回も見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽

きららファンタジアに登場する作品群の中の、次の作品の中で、最も皆様が好きな作品は?

  • あんハピ♪
  • 三者三葉
  • スロウスタート
  • ゆるキャン△
  • こみっくがーるず
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