きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
…八賢者ローリエ・ベルベットの独白
おぼろげな意識が覚醒する。
見慣れた砂漠の水平線が縦に見える。片頬に熱い砂の感覚を感じて、初めて自身が倒れていることに気が付いた。
立ち上がろうとするが、腕も足も言う事を聞かない。頭は動くので、体を見てみると、入念に縛られているのが分かった。
彼は、必死にさっきまでの記憶を辿った。
体の痺れが取れた後、破格の報酬の依頼をこなすため、クリエメイトなる人間を追っていた。
そこで、ターゲットの三人が見慣れぬ人間たちと共に歩いているのを見つけ、先制攻撃を行い、そして………
「よう、サルモネラ。さっきぶりだな」
「!!?」
自分以外の男の声で、名前を呼ばれた。
声のした方へ首を向けると、そこには確かに、男がいた。
緑色のはねた髪に、暑さに考慮したのか、グレーを基調としたカジュアルなを格好をしている。
なにより、その男の表情は、彼―――サルモネラにとっては初めてのものだった。
自身を見下す
「て……テメェは…?」
「話してもらうことがたんまりある。おたくのアジトまで案内しろ」
男は、有無を言わせぬ態度で要求してきた。
なぜ、そんなことをしなくてはならないのか。言う事を聞くメリットなんてあるわけがない。サルモネラの心にあった、反骨心がむくむくと膨れ上がる感覚がした。
「なんでテメェの言う事なんざ聞かなきゃ―――」
バァァン!!
「ぐあっ!!?」
突如、一瞬のうちに右肩に激痛が走った。これまでに経験したことのない、そして今までのどんな怪我よりも激しい痛みだった。まるで、高温の生き物か何かが骨の髄まで突撃してきて、そこにある神経やら何やらを根こそぎ食いちぎっていくかのような……。
「早くしろ」
そして、その激痛を引き起こしたのだろう、見かけない面妖な形をした何かをこちらに向けている張本人は、変わらず冷たく、淡々とした態度で了承を促す。
その態度や、瞳や、表情は、まるで人間の皮を被った機械のようであった。
そこにいるから攻撃する。
そこに腹があるから殴る。
そこに肩があるから壊す。
そこに首があるから切る。
そこに命があるから殺す。
幾度となく命を奪ってきたはずの自分が、情けなく息を乱し、体が震えている。激痛と気味の悪さと恐怖ゆえに目の前の男から目を逸らせずにいる。
「な……なんなんだよ、テメェは!?」
「なんなんだって……忘れたのか? さっき麻酔弾をくれてやったの」
その言葉にサルモネラは耳を疑う。目の前にいる男は、自分をほんの少し苦しめた麻酔弾を撃っただけの、ローリエと呼ばれていたあの男だというのかと。
初めて会ったのは、クリエメイトなる人間を殺す依頼を受けた後、最初に見つけたクリエメイトを巡って戦った時である。自分の登場にこれ以上なく狼狽え、あと一歩のところで命拾いしただけの男。反撃こそしてきたものの、非殺傷性の液体麻酔弾しか撃ってこなかったあの男が………なぜ、ここまで豹変するのか? 豹変できるのか?
八賢者の一人ということは知っていたが、はっきり言ってカルダモンのスピードの方を警戒すべきと考えていた。しかし、目の前のこの男が放っているのは何だ?
「そんなことより、とっととアジトへ案内しろ」
「ひっ………!!?」
想像以上の殺気。居合わせるだけで竦んでしまうほどの覇気。まるで、子熊を傷つけられた母熊のように激しく、重いプレッシャーがのしかかる。
生まれてこの方、自分は狩る側だと思っていた。そしてそれは、息を吸ったら吐くかのごとく、人に食べ物が必要であるかのごとく、当たり前のことだと思っていた。
だから、サルモネラは自分が普段行っている
だが、目の前の異常な男を前にして気付いたのだ。
奪うということは、奪われた誰かが悲しむことを。
また、自分もまた、より強い力に淘汰されるだけの、ちっぽけな存在なのだと。
故に。
「わ、わかった。わかったから……」
殺さないでくれ、と言外に懇願するようにローリエの言葉に従うことにした。
恐怖に縮こまり掠れたその言葉を聞くと同時に、異常な殺気が治まっていくのを感じた。
「それでいい。」
そう言うと、サルモネラの足を縛っている部分の縄だけを解いたローリエは、サルモネラの背中にマグナムを突き付けながら、砂漠の盗賊のアジトへと歩かせていった。
◇◆◇◆◇
怯えきったサルモネラを『パイソン』で押しながら歩いた先で、突然人影が現れた。二人組の男のようだ……ってアレ。
何事かと思ってよく見てみれば、そこには俺とサルモネラが映っていた。
「……鏡か」
サルモネラが頷く。このやり方は砂漠や森などの背景に変化のないようなところで身を隠すのには効果的なものだ。ジョジョ3部でも似たようなことやってる敵が出てきたし。確か小石の投擲で再起不能になってたけど。
鏡をどけると、そこは簡易的なテントとなっており、その中は強奪してきたであろう食料や薬、日用品などの様々なものが所狭しと雑多に散らかっていた。かろうじて毛布のまとまっているところが寝床だと分かるくらいだ。
「……なんでみー…じゃない、
「………。」
相変わらず引きつった表情をしながらサルモネラが毛布の一枚をめくったところにあったのは、漫画みたいに積まれていた札束の山と、何かが書かれた一枚の紙。つまり、こいつは何者かから雇われていたことになる。
「依頼書を渡せ。そいつを読みたい。」
「っ!!」
拳銃を持っている右手に揺れが伝わる。動揺が体に出た証拠だ。
間違いない。その依頼書に確実に
「……今更隠しても無駄だ。」
そう言うと、観念したのか、その紙を手渡してきた。
『パイソン』を片手に持ったまま、その紙の内容に目を移す。
そこに書いてあったのは、驚きの―――それも、冗談では済まないレベルで書いてあったらマズい事が記されていた。
「『クリエメイトの殺害依頼』……『殺害リスト』………!? こ、これ…クリエメイトの名前と似顔絵がある……!!?」
クリエメイトを殺せって依頼は予想できたが、まさか召喚されるクリエメイトまで把握されてるとは思わなかった。というか把握されてちゃダメだろコレ絶対。
『オーダーを使う』というのは、神殿内の人間なら分かっていてもおかしくはない。ただ、『今回、学園生活部をオーダーで呼ぶ』ことは、アルシーヴちゃんとカルダモン、そして俺以外に知っている奴がいるはずがない。それが、サルモネラのようなちょっと悪名高い盗賊に漏れた時点でかなりヤバイ。
ここまででもぶったまげるには十分だったが、報酬の欄を見た時、俺はスタンドも月までブッ飛ぶ衝撃を受けた。
「…………『報酬―――――現在までの罪状の全恩赦及び無期限の私掠の許可』……だと…!?」
ここまで破格で、越権行為そのもののような報酬は見たことがない。
つまり……もし今回、サルモネラが依頼を達成した場合、誰もやつの略奪を咎められなくなるどころか、法がサルモネラの味方をすることになっていたのだ。あまりにも非常識だが、サルモネラが受ける理由はなんとなく想像できた。
そして―――この報酬を書いたってことは、依頼主はサルモネラを利用しようと画策していたか、一人の指名手配犯の罪状などどうにでも操作できるほどの権力を持っている、ということになる。
「………っ!!」
そこで、視界の端で誰かが動いたような気がして、『パイソン』をその方に向け、引き金を引く。
「ぎゃああああああっ!!!?」
バァアンと重厚な爆音と汚い悲鳴が同時に響き渡り、サルモネラは粉々になった両膝を、寝っ転がりながら押さえていた。
奴は、逃げようとしたのだ。
「ったく、油断も隙も無い。」
悪いが、コイツを逃がすわけにはいかない。重要機密を(意図せず)知っている人間だ。どのような手段を取るにせよ、迂闊に喋らないように手は打たないといけない。
それに……俺は大好きなクリエメイトを傷つける奴を許せるほど、冷血にはなっていない。
「サルモネラ。これからお前を中央へ引き渡し、犯罪者として裁く」
そう宣言すると、サルモネラはヒュッ、みたいな変な声を出しながら自身の傷から俺へと目を移した。
その顔には、初めて出会った時のような嘲笑う笑みなどどこにもなく、ただ蛇に睨まれた蛙のように怯え、涙やら何やらでぐしゃぐしゃになった表情がしっかりと張り付いていた。
「『金を積まれてクリエメイトを狙ったこと』以外、証言するな。そしてこれから一生、牢獄の奥の奥でひっそりと誰にも迷惑かけないように暮らすが良い。」
鼻先に『パイソン』をつきつけて、凄みをかける。自然と、声のトーンが1オクターブ下がった。
「もし余計な事を喋ったり、脱獄か釈放かで一歩でも外に出てみろ。
――――――俺はどんな手を使ってでもお前を殺す」
こいつの懐に幼虫サイズのG型魔道具を忍ばせる。この魔道具からの定期連絡や盗聴を利用すれば、いつでも情報の知ることができる。
俺がそう脅すと、サルモネラは
ふぅ、と一息ついて、サルモネラを脅した時の肩の力を抜くと、俺はこのままこのバイ菌野郎を引き取ってもらうべく、トランシーバーでコリアンダーに繋いだ。
◇◇◇◇◇
コリアンダー経由でアルシーヴちゃんに連絡し、コリアンダーや衛兵を呼んで貰って、サルモネラを引き渡す。
俺は結局、依頼書の件については報告せず、独自で隠し持っておくことにした。
召喚されるクリエメイトの顔と名前、破格すぎて怪しさ満点の報酬。アレは今のアルシーヴちゃんに見せたら絶対マズい。
元社会人なだけあり、報連相を怠ることに僅かな罪悪感はある。でも、彼女の精神状態からして、ソラちゃんを一刻も早く助けなければならないのに神殿内の人間も簡単に信用できない、となったら、ますます一人で抱え込んでしまう。あいつの幼馴染としては、そんなことにはさせたくない。ソラちゃんも望まないだろうしな。
それに、
メタ視点で考えると、アルシーヴちゃんはソラちゃんの呪いを解くために『オーダー』を行使する。直属の部下たる賢者達は、『オーダー』で召喚されたクリエメイトからクリエを奪うために動く。アルシーヴちゃんの思惑を知っていたのは、女神襲撃事件に偶然立ち会ったハッカちゃんのみ。
つまり――――俺の予想では、盗賊団やサルモネラに依頼した黒幕は『
だが、これは犯人を絞り込めた、ということにはならない。
なぜなら、神殿の人間は下っ端や女神候補生もあわせると2万近くはおり、罪人の処罰関連で絞っても数百人はいるからだ。とても一人で調べる気にはなれない。
色々と偉そうな異世界転生主人公ヅラをして考察してみたが、結局のところ、俺の持っている知識では、『賢者達とアルシーヴちゃん、ソラちゃんは白だ』ということしか分からないのだ。
「ローリエ、そんな顔をしてどうした? 悩み事か?」
「ッ!!!?」
意識外から突然かけられた言葉に体全体が跳ねる。
「お、おい、そこまであからさまだと逆に聞きたくなくなるぞ」
「なら、そのままそっとしておいてくれませんかねぇ……?」
そこでコリアンダーの方に顔を向ける。すると、俺の顔を見るや否や、ちょっと心配そうな表情が、だんだんと不思議そうなものに変わっていく。え、なに?
「ローリエ……お前、そんな目してたか?」
いきなりそんな意味の分からないことを言ってきた。つまり……アレか。喧嘩売ってるんだな?
「なんだ? 俺の目がいつもの
「言ってねーよ! なんだコスモって!? そんな話じゃないわ!」
「喧嘩を売っているのなら言い値で買おうか。
「マジでやめろ。お前なら本気でやりかねない……」
当然だろ。脅しみたいなのは実行しなければ意味がない。
「俺が言ってるのはそういうことじゃない。
「……ひょ?」
コリアンダーの言った意味が理解できなくて、インセクターみたいな変な声をあげてしまう。
「それって、どういう……」
「これを見ろ。その方が早い」
渡された手鏡を見ると、そこにはしっかりと前世よりもイケメンないつもの
―――ただし、瞳の色だけは別物の。
生まれてから自宅や神殿で鏡を覗き込んできたが、そこに映っていたのは、決まって緑色のはねっ毛に日本人よりもやや白い肌、そして
……だが、今鏡を見ている俺の瞳は、
初めて見る色に言葉を失い呆気にとられていると、瞳の色が徐々に明るさを取り戻していく。そのまま十数秒ジッと鏡の俺を見つめてもいると、むかし夜のテレビで定期的にやっていた、少しずつ実写の写真が変化するア○体験のように、もとの俺の知る金色とオレンジに戻っていった。
答えが分かりきっているが信じがたいア○体験を見ながら、俺はアルシーヴちゃんがしていたハッカちゃんの話を思い出していた。
『ハッカは、魔人族と呼ばれる少数民族の生き残りだ。』
『魔人族は普通の人間よりも使える属性の魔法が多いだけの種族で、それ以外は人間と大差ないんだ。』
『感情の起伏で瞳の色が変わる特性を珍しがられ、奴隷にされることもあった。瞳をくり抜かれることもあったという。もう100年以上昔の話だがな。』
………。
……俺、魔人族やん!!!?
え、なに、どゆこと?? 発覚した事実が歴史的にヤバすぎて理解が追いつかない。混乱していく感情に任せて言いたいことは色々あるが、全部まとめて一言にするとこうだ。
そんなバカな。
ローリエ・ベルベットとして20年生きてきたが、目の色が変わるどころか、そのような兆候すら現れなかったし、指摘されることもなかった。
今になってここまでハッキリと変化するなんておかしい。感情によって目が変色するならば、今までのどこかでそういった瞳の変化があるはず。ない方がおかしいのだ。
いくら考えても、思い当たる節がない。
仕方ない、こうなったら……
「……遂にこのローリエもギアス能力が使えるようになったか」
「は? ぎあす能力?」
「あ、でも俺、ルルーシュ並みに頭良くないから使いこなせないかな……多分」
「ルルーシュって誰だ!!?」
全力ではぐらかすしかないな。
「まぁ邪眼でも写輪眼でも大歓迎だったんだがな!」
「そうポンポン出てくるお前の謎の知識の源を知りたいよ……」
「ちなみにギアスと邪眼と写輪眼の違いはだな……」
「聞いてない。聞いてないから」
ありったけの
しかし。
この時の判断―――自分の体についてよく調べなかったこと―――を、後に俺は、渓谷の村の外れにて後悔することになる。
キャラクター紹介&解説
ローリエ
サルモネラを
サルモネラ
――
コリアンダー
ローリエからの連絡を受け、盗賊を引き取るために衛兵とともにちょこっと参上。拙作のオリジナルキャラ(=ローリエの知る『きららファンタジア』に出ていない人物)ではあるが、ローリエは彼のことを友人と見ている。
ローリエ=魔人族説
この設定は、比較的最近思いつき、ストーリーに埋め込んだもの。とはいえ、仰々しい漢字とは対照的に、『他の人よりも使える魔法の属性が違う』『感情の起伏や特定の感情で目の色が変わる』という特徴だけなので、もともと髪色や目の色、肌の色に寛容なエトワリアでは表向き差別の対象にならない。昔はどうだか知らないが。
ギアス能力&邪眼&写輪眼
いずれも目を使用した強力な能力(目を使用するギアス能力はルルーシュのみ)で、それぞれの元ネタは『コードギアス』シリーズ、『幽遊白書』、『NARUTO』。中二の男女に人気で、のちに確立されるいわゆる「中二キャラ」には、多くの目を使った能力(を持つと自称する)者が現れた。
△▼△▼△▼
きらら「謎の盗賊を無力化した私達は、遂に残りのクリエメイト、美紀さんの元へ辿り着きます。相手は八賢者カルダモン。洞窟内での戦闘よりも素早い動き、全く目で追えない強敵を相手に私は……!!」
次回『赤い旋風、奇跡の炎』
きらら「次回もお楽しみに。」
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あとがき
台風が直撃したおかげで執筆環境が大きく乱れ、投稿が遅れました。幸い最悪ではないですが、執筆すらできないという事態に陥らなくて良かった。
きららファンタジアに登場する作品群の中の、次の作品の中で、最も皆様が好きな作品は?
-
あんハピ♪
-
三者三葉
-
スロウスタート
-
ゆるキャン△
-
こみっくがーるず