きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
…ダリオマン
砂漠の真ん中にぽつりと立つ、ひとつの教会。
間違いなく感じるパスの気配のままに扉を開けば、そこは糸がはちきれそうなくらいに緊張していた。
真ん中に立っていたのは、赤い髪にカラフルな民族的な衣服を着た、焼けた肌の少女――カルダモンだ。彼女は私達を見とめると、ゆっくりと口を開いた。
「よく、たどり着いたね。」
その一言で、緊張していた空気に、更にプレッシャーがかかる。
「わざわざお出迎えか………。りーさん、今度は離すなよ。」
「わかってるわ。」
普通の人なら、震え上がってしまうこの状況。ランプも、私の後ろへ動くだけで精いっぱいのようだ。滝のように流れている冷や汗がそう言っている。
そんな時でも、くるみさんはシャベルを構え、悠里さんはゆきさんの手を離すまいと握っている。
「………もうお互いの狙いは分かってる。なら、隠す必要はない。」
そんな緊張すらも、カルダモンは気にもとめずにそう言い、檻を見せてくる。それは、村の屋敷や港町のコテージで見たそれと全く同じ、クリエケージと呼ばれるものだった。
そして、今回のクリエケージの中にいるのは、ゆきさん達と同じ制服を着た、宝石のような白銀の髪の少女。
「先輩!」
「みーくん!」
「みーくん」とは、学園生活部の残り一人の美紀さんのあだ名だと悠里さんから聞いた。つまり、今捕らわれているあの少女こそ、美紀さんということになる。
ゆきさんが真っ先に美紀さんのもとへ向かおうとするも、悠里さんに片手を掴まれそれは叶わない。しかも、くるみさんもゆきさんの前に立って、進路を妨害する。
「り、りーさん離して! くるみちゃんもそこどいて!」
「ダメよ、離したら絶対に美紀さんのところへ行っちゃうでしょう?」
「当たり前だよ! だって、みーくんを助けないと! わたしたちは先輩なんだもん!」
ゆきさんの気持ちは分かる。でも、今美紀さんのもとへ行ってしまったら、傍らに立っているカルダモンにあっさり捕まってしまうだろう。
ゆきさんもあるいは、内心分かっているのかもしれない。もとの世界では、学園生活部の皆さんはいつも一緒にいた。でもエトワリアに召喚されてからは、美紀さんは一人だったはずだ。一刻も早くそばにいってやりたいのでしょう。
でも。そのためにはゆきさんにはもう少し待ってもらう必要がある。
「……っ!」
「まぁまぁまぁ、少し待てゆき。きららを信じろって。」
杖を構え戦闘体制をとる後ろで、くるみさんがゆきさんをなだめた。
「召喚士……きららって言うんだね。」
「覚えておいた方が良いですよ。なんてったって、きららさんはコールを使えるんですから!」
「……それは知ってる。さっき何度も見たから。
でも―――あれならあたしの方が上。」
ランプの言葉を軽く流したカルダモンは、タンと軽く教会の床を踏んだかと思うと、縦横無尽に走り出した。
「お、おいっ……。こんなに速かったっけ、あいつ……」
「やっぱり、さっきは本気を出していなかったみたいね。」
驚くべきは、そのスピードだ。洞窟で戦った時は、姿を目で追うのがやっとというレベルだったのに、今のカルダモンの速さは、もはや残像がみえるほどだ。ほんの少し油断……いや、一切油断しなかったとしても、今の私ではほぼ確実に見失ってしまう。
「洞窟は狭すぎるから………ここなら、あたしはもっと速く動ける。」
残像しか見えていないカルダモンの、不敵な笑みが脳裏に浮かぶような、そんな挑戦的な声でそう告げた。
―――瞬間。杖に衝撃が走る。
「~~っ!!」
「……へぇ」
私の両手に持っていた杖と、カルダモンの持っている二振りのナイフが、鍔迫り合いを起こしていたのだ。
攻撃が来る気配がしたから咄嗟に杖を構えただけで、攻撃の瞬間が見えなかった。目も慣れていない。正面から攻撃してきたあたり、カルダモンにとってはまだ小手調べのようだ。
「……『コール』っ!」
「!!」
呟くような私の詠唱が耳に入ったのか、カルダモンはひとっ飛びで距離をとる。
それと同時に、呼び出されたクリエメイトの三人が、円陣を組むように召喚される。
「おおーっすごい! 私が出てきた!」
「すげぇな、きららは……」
「あれは、ゆの様達を助けた時に見せた……!」
ゆきさんの魂の写し身を、力を与えて召喚した『コールのゆきさん』だ。オーダーで呼び出されたゆきさんと違って、天使のような羽が生え、羽衣のような服を着ている。残り二人は、白い騎士装束のコウさんと和風チックな剣士の服のうみこさんだ。
こうして召喚された三人と共に、お互いに背中を守るように陣を組む。カルダモンのスピードにものを言わせた回り込みに対応するためだ。
「なるほど、そういう手を使うんだ。」
陣形を組んでも尚、姿の見えないカルダモンの飄々とした声の様子は変わらない。私は、視界に入った全てに反応出来るよう、そして『コール』したクリエメイトが全力を出せるよう、精神を研ぎ澄ませ、魔力の放出を続ける。
しかし。
「悪いけど、そういう戦い方はもう見飽きたよ」
そう聞こえた瞬間、カルダモンがナイフを構えて私に迫る。再び攻撃を防ごうと反射的に杖を盾にする―――が。
「……?」
予想した衝撃はやってこない。一体カルダモンはどこへ行ったのか? そんな事をまともに考える暇もなく。
「うわあああ!!?」
「ゆきさん!?」
ゆきさんの悲鳴に振り替える。
すると、既にカルダモンの両の手の得物によって攻撃が終わったあとだった。
カルダモンが私に向かってきたのは、フェイントだったのか!
両膝をついたのは、私の『コール』で呼び出された方のゆきさん。彼女の状態は、かなり危険なものだった。
私の『コール』で呼び出されたクリエメイトは、死にはしない。ただ、戦闘などでダメージを受けすぎてしまうと、煙とともに消滅してしまう。時間をかければ再召喚することはできるが、同じ戦闘で再び召喚することはできない。
幸い、『コール』のゆきさんはそうりょ……回復魔法が使えるし、消滅もしていないので、回復を行えば大丈夫―――
「――っ!!」
「余所見は禁物だよ」
すぐさま敵意が放たれた方向へ杖を向け、攻撃を受け止めようとしたが、今度は間に合わなかった。
斬られたと思った刹那、左肩に浅くない刃の感覚と焼けつくような痛みに思考が途切れそうになる。
しかし……それでは、クリエメイトの命の源が奪われることになる。
私だって負けてはいられない。
…だから、斬られた直後。時間にして0.1秒あるかないかの一瞬。私は、魔力を弾にしてカルダモンへ放った。
「―――っふぅー。」
「さすが、シュガーとセサミを破っただけあるね。」
崩れた体勢を整えるのに必死で、魔弾の行方は見ていないが、カルダモンがちょっと驚いたようにそう言う。
―――戦いは、まだまだ激しくなりそうだ。
◇◆◇◆◇
「由紀の言った通りだったか……
流石はカルダモンと言うべきかな………。」
きららとカルダモンが戦っている光景を目にしながら、白く浮遊する猫のような生命体、マッチはそう言った。
きらら、ランプ、マッチの三人と美紀を除いた学園生活部の三人は、既に洞窟の中できららとカルダモンの交戦を見ている。しかし、その時と今ではカルダモンのスピードがまるで違うのだ。
由紀は、洞窟内ではカルダモンは本気を出せなかったと言った。彼女の言うとおり、カルダモンはある程度広い場所じゃないと本来のスピードを発揮できないようだ。
「でも、きららさんだって負けていません。
いえ、絶対に勝ってくれます。」
しかし、きららも、カルダモンのスピードに全く反応できていないわけではない。カルダモンが攻撃してくる瞬間、きららはその方向に体を向けて防御するなり、回避するなり、カウンターを狙うなりのリアクションを取っているのだ。
現に、カルダモンに一撃を入れられたきららは、体勢を崩しながらも、咄嗟に魔力を玉にして反撃を行ったのだ。放出された魔力の玉は、カルダモンに直撃こそしなかったが、彼女の体を掠り……また追い打ちを防いだのだ。
それを、ランプは見逃さなかった。
「頑張って、きららちゃん! 誰だって、誰かのヒーローになれるってダリオマンも言ってたよ!」
「ゆ、ゆきさん! ダリオマンって何のこと!?」
「このタイミングでする話か!?」
「もう……お願い、きららさん!
私たちの大切な後輩を助けて!」
由紀が美紀のために戦っているきららに声援を送る。
きららにとって微妙に伝わらない応援であって、くるみからツッコミを貰うようなものであっても、学園生活部の心は同じ。
――――四人で、一緒に生きたい。
その願いは、確実にきららの内にある力の何かを、変えつつある。
◇◆◇◆◇
ゆきさん達の声を後ろに聞いて、私に力が満ちてくる。
カルダモンの目にも止まらないスピードを前にして、余裕なんてある筈もないのに、心に余裕が生まれてくる。
背中に誰かがいることが、こんなにも頼もしいなんて。
カルダモンに決定的な一撃を与えられていないことも、こっちの体力が徐々に削られていっていることも関係ない。
くるみさんは、“かれら”に戸惑う私達に対処の仕方を教えてくれた。盗賊に襲われた時は共に戦ってくれた。
悠里さんは、学園生活部の部長として私達を信用し、美紀さん探しに協力してくれた。
ゆきさんは………『私を外部協力者として、学園生活部に入れてくれた』。
だから、私は――――――
「『コール』っ!!」
―――負けるわけにはいかない。
呼び出していたコウさんとうみこさんを引っ込めて、宮子さんと沙英さんを召喚する。
そして、貯めていた力を開放する。
「みなさん、今です!」
「ひだまりウォーターフロント!!」
「アーーロハーーー!!!」
宮子さんがカルダモンに向かって突撃していくのを、沙英さんの持つマーライオンがレーザー状に水魔法を吹き出して援護する。無数の水のレーザーと水流の勢いに乗った宮子さんがカルダモンに突撃していく。
ただ闇雲に狙っているわけじゃない。
はっきり言うが、今の私には、カルダモンのスピードなどとうてい目ですら追えそうにない。でも……速すぎるなら、
宮子さんと沙英さんには、カルダモンをクリエケージの方に追い込むように攻撃してほしいと指示しておいたのだ。私自身も、カルダモンを少しずつ誘導するように動いている。
カルダモンは襲いかかる水魔法を目にも止まらぬ身のこなしで避けていくが、水流に身を任せた宮子さんにまでは気が回らなかったようだ。おまけに、狭くなっていることに気付いたのか、一瞬動きが止まった。
宮子さんの剣が、賢者の二振りのナイフの防御をくぐり抜けてその身を切り裂く。
カルダモンの表情が歪む。遠目から見ても、この二人の「とっておき」が、カルダモンに大ダメージを与えたことには間違いない。
―――だからこそ。
私は油断してしまった。
「…さっきのお返し」
「!!!?」
カルダモンが、目の前まで迫っていた。
あまりに一瞬で、しかも私自身が迂闊だったこともあり、何が起こったのか分からなかった。
さっき宮子さんの必殺の一撃が入ったと思ったら、その宮子さんを抜いて、私に向かってナイフを振り下ろしていたのだ。
「「「きららさん(ちゃん)!!?」」」
目の前の光景の速度が落ちていく。
躱すか防御するか反撃するかするためには、あまりに遅すぎて―――
ボォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「「ッ!!?」」
突然、私とカルダモンの間を遮るかのように火柱が上がる。
それは、何の予兆もなく、私の背の2倍以上の大きさの、野営とかで見る赤でも黄色でもなくピンクがかった炎で、なにより
あまりに突然の発火に、カルダモンは反射的に飛び退いたが、それが決め手になった。
「……いつの間にかクリエケージの方に寄ってきていたなんてね。それに今の炎は驚いた。熱くなかったけど、つい飛び退いちゃった。」
「狭いところに追いやれば、動きを鈍らせることができるって思ったんです。」
逃げ場のなくなったカルダモンに私と宮子さんと沙英さんがそれぞれの武器を向ける。
はっきり言って、あの土壇場で出た炎がなんなのかはわからない。でも、そのおかげで今、こういう状況にできた。
「……きららも、強かったんだね。ただ力を借りてるだけじゃないんだ?」
「……。」
カルダモンは、感心したようにそう言う。
そして、
「でも、詰めは甘いかな。」
そう笑うと、
「き、消えた!?」
「きららさん、上です!」
「一瞬であんなところに!」
教会の天井付近の柱へ移動し、
「今はダメでも、あたしにはまだ、果たすべき役目があるから。
美紀! 美紀ならきっと、どんな世界でも生きていけるよ――――――じゃあね。」
「カルダモンさん………」
一瞬で見えなくなってしまった。
……戻ってくる気配はない。カルダモンを捕らえてアルシーヴについて聞く機会を失ってしまった。
でも……
「みーくぅううううううううん!!!」
「……先輩、まだ檻が開いてないですから。」
「くるみちゃん! 早く開けてよ! こうシャベルでスパーンって!!」
「流石に無理があるだろ……」
「えっと…………開けても大丈夫ですか?」
「ええ……お願いするわ。」
クリエメイトの皆さんを無事救出できてよかった、と思うことにしよう。
「それにしても、さっきの炎は一体、誰だったんだろう………?」
丈槍さん、恵飛須沢さん、若狭さん、直樹さん……私は、いつでもみんなを見守っているわ。
―――そして、きららさん……みんなを守ってくれてありがとう……
――負けないで、美紀。
「―――!!」
どこからか、声がした。
「……? どうしたんだい、きらら? 嬉しそうな顔をして。」
「あれ、そんな顔してたかな?」
「―――してましたよ、きららさん。まぁ、ゆき様たちを救えたのはわかりますけど。」
「あ、あはは……」
「えー、変なきららちゃーん!」
どうやら、他のみんなには聞こえていなかったみたいだけれど。
誰の声かは分からない。もし、この声がランプやゆきさん達に聞こえていたら、分かるかもしれないけど。
でも、二人ともとても優しい声だった。
それだけは、確かだった。
キャラクター紹介&解説
きらら
カルダモンとの激戦を経た原作主人公。今回では、HPがなくなった『コール』のクリエメイトやとっておき、きららスキルといった、ちょっとゲームシステムを書き起こした。彼女のレベルアップについては、ほぼオリジナル要素。
カルダモン
一応任務を失敗した八賢者。美紀に入れ込んでおり、こちらでも、ローリエに話したような『皆で生きる』決意を、美紀から聞いている。
丈槍由紀
今回は2種類登場。オーダーで呼ばれた彼女と、コールで呼ばれた彼女である。魂の写し身を使うコールにおいては、理論上可能な立ち回りだが、自分のコピーが目の前にいたら、高確率で恥ずかしくなるだろう。
八神コウ&阿波根うみこ&宮子&沙英
今回はきららにコールされたクリエメイトとして登場。この作品を書くに当たって、「今までオーダーされたキャラのみコール可能」という縛りを設けているが、そのせいで水属性★5トオルが使えなかった。これ以降の八賢者戦に支障が出るなら、縛りを緩くするかもしれない。
きららが聞いた声
一体誰なんだろーねー(すっとぼけ) というのはさておき、この演出は絶対やっておきたかった。きららの『パスを感じる力』の可能性の一つ。
△▼△▼△▼
カルダモン「あーあ。任務に失敗しちゃったあたしは、収穫なしで神殿に帰ることになっちゃった。そこで横槍を入れたサルモネラがローリエに捕らえられた事を知る。でも、捕まえた彼の様子がおかしくて……?
ローリエ、君は一体何をしたの?」
次回『機械の心』
カルダモン「何を隠しているの………ローリエ?」
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きららファンタジアに登場する作品群の中の、次の作品の中で、最も皆様が好きな作品は?
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あんハピ♪
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三者三葉
-
スロウスタート
-
ゆるキャン△
-
こみっくがーるず