きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
…ローリエ・ベルベット
※2019-9-30:サルモネラのイメージCVを追記しました。
砂漠の教会で召喚士・きららと戦ったカルダモン。
彼女は激戦の末、クリエメイトを奪うことに失敗した。
しかし、彼女自身、『面白い相手が見つかった』から、今回の任務が失敗して悔しいという感情は比較的薄かった。
カルダモンがアルシーヴに仕えている理由は、主に彼女の知的欲求や好奇心を満たしてくれるからである。彼女が積極的にローリエと話し、良好な関係を築けたのも、彼の発明が彼女にとって実に興味深いものであったからこそだ。
「あたしはアルシーヴ様へ報告をしたあと、アルシーヴ様からサルモネラが捕縛されたという話を聞いたんだ。
それから、奴の異常な態度を一緒に見て、ローリエに話に行ったんだ。 ……それからだったかな。ローリエの違和感に気付き始めたのは。」
「違和感、か?」
「そう。あたしの勘だとね―――ローリエ、何か隠していると思うよ。」
「何かってなんだよ?」
「分からない。でも、聞いて欲しい。」
カルダモンは同僚である八賢者・ジンジャーを落ち着かせながら、砂漠の教会の出来事の後日談ともいうべき出来事を、ひとつずつ語り始める。
◆◇◆◇◆
「……あたしは役目を果たせなかった。すまない。」
アルシーヴ様にそう報告せざるを得なくなったのが、残念でならない。
「いや………お前にできないのであれば、他の者でも同じ結果だっただろう。
『為すべきことを為せ』。お前は、この命令に自ら背いたわけじゃあない。」
でも、アルシーヴ様はあたしを責めるでもなく、冷静に省みて次に繋げようとしている。
あたしは面白い事があると、たまに命令をほったらかしちゃうことがあって、そういう時は注意してくるけど、今回はちゃんと任務を優先した。だから、こう言ってくれるんだろうね。
「……あぁ、そうだ。
ローリエが、サルモネラを捕らえた。」
「!!」
―――へえ。
ローリエって、ちゃんと戦えたんだ。
盗賊団を倒したって話は聞いていたから、全く戦えないとまでは思ってなかったけど、強さにおいてはあんまり信用してなかった。評価を改めないといけないね。
「現在、ジンジャーが奴に聴取を行っている。」
「行ってみてもいい?」
「くれぐれも仕事の邪魔だけはするなよ。」
「分かった。」
あたしは、アルシーヴ様にひとこと言うと、大広間を出て、牢獄のある言ノ葉の都市の牢獄へまっすぐ向かった。
◇◇◇◇◇
牢獄へ向かったあたしは、すぐさま取調室へ向かい、ドアの小窓から中の様子を伺ってみた。
そこには、机を挟んで向かい合うジンジャーとサルモネラがいた。ジンジャーは後ろを向き、サルモネラは俯いているため共に表情は見えない。
まだ取り調べ中だろうなと思ったから、ジンジャーが出てくるまで、しばし待ってみるとしようか。
そうして待つこと10分弱、ジンジャーとサルモネラが出てきた。囚人服に身を包み、車椅子に乗ったサルモネラは部下の兵士に連れて行かれた。ジンジャーは困ったような顔をしている。
「どうしたの、ジンジャー?」
「あぁ、カルダモン。実はだな……」
頭を掻く仕草をしながら、ジンジャーはキレのなくなっている言葉で話し始めた。
「あいつ、全く口を割らねえんだ」
「……口を割らない?
それは……誰かの忠義とかで?」
「いや、そんな様子じゃあなかった。
なんつーか、何かに脅えているみたいだった。
面倒な奴だよ。ああいう手合いは、下手に脅すとありもしないことを口走るからなぁ……」
驚きを隠せなかった。
あたしの知るサルモネラは、自身の営みの為に人々から奪うことに何の抵抗も持たない、最低なヤツだった。
美紀を殺す為にあたしたちの前に現れた時も、傲岸な態度と最後の最後まで美紀を狙う狡猾さ、そして相当場数をこなしたであろう引き際の良さ………そういうものを持った歪んだ人間だったはずだ。
そんな男が―――脅えている?
「……見に行ってもいい?」
生まれた時から人一倍強い好奇心が顔を覗かせ、気がついたらそう言っていた。
ジンジャーは腕を組み、目を閉じて少しの間うーんと唸ると、こう言った。
「構わないが、新しい情報は得られないと思うぞ?」
ジンジャーと一旦別れ、衛兵に案内された面会室の椅子に腰かけ、しばし待っていると、看守に連れられて、サルモネラが入ってきた。
ローリエと戦ったときの傷なのか、右腕と両足全体に包帯をしている。
車椅子に乗ったそいつは、ゆっくりと車椅子を動かして、ガラス越しのあたしの前につこうとする。でもどういう訳か、右手が上手く動かせないのか左手を積極的に動かして車椅子を進めようとしている。
そして……なにより、表情がおかしい。
美紀を捕まえた直後に出会った時は、自信に満ち溢れ、格上を知らない……愚かで、いけ好かない面持ちだった。
でも今、長い黒髪からのぞかせる顔は、そんないけ好かない表情から一変、何かに怯えきっているそれに変貌していた。見開かれた目は忙しなく泳ぎ、とめどなく流れる冷や汗も、ときおり髪をかきあげるような仕草も、それを裏付けていた。
「な、なんの用だよ………」
つっかえつっかえの消え入りそうな震え声でサルモネラは尋ねる。
どうやら、あたしと衛兵数人がついている空間の沈黙にすら耐えられなくなってるみたいだ。
「さっき、ジンジャーに……あなたの取り調べをした人に言ったことを全部あたしに教えてよ」
奴の体がビクッと震えた。別に変なことは聞いてないと思うけど……
「か………金を積まれて、頼まれたんだ……『数日以内に通りかかるだろう人間を殺せ』って……それだけなんだ………!」
自分は金を貰って依頼されただけだ。
そう答えるサルモネラは、今にも泣き出しそうだ。
嘘は言っていない。というより、こんな極限状態にされたら、まともに嘘もつけなくなる。
でも………なんでここまで怯えているのだろう?
「嘘じゃあないね。
でも……それだけ?」
「あ、ああ………それだけだ。さっきの女に言ったことも、それだけだ!」
サルモネラは、言葉一つ一つの語尾の強さから、あたしを拒絶しようとしている。まるで、とっとと話を終わらせたいみたいじゃないか。
「……ねぇ、他に知ってることってないの?」
「それだけだって言ってるだろ! 話すことはない!!」
……やっぱり、何かおかしい。話を切り上げようとしているところといい、ちょっと踏み入ったところを聞こうとした瞬間声を荒げるところといい………。
「ふぅん……依頼主とか、依頼書とか、分かれば良かったんだけど」
「―――っ!!」
軽く揺さぶっただけでこれだ。欲望に忠実に生きてきただけあって、隠し事は苦手らしい。
「何か知ってるね。依頼主?」
「…………。」
「それとも、依頼書について?」
「………………………………………。」
あたしの質問に、サルモネラは答えようとしない。ただ縮こまっているだけ。でも……日頃から調停官として色んな場所に行き色んな人に会っているあたしからすれば、それで十分。
「………依頼書に何かあるんだね。」
「っ!!?」
あたしの観察眼から導き出した答えを言えば、再びサルモネラの体が大きく揺れた。
あとは依頼書について聞こうと―――そう思った時。
「まっ……待ってくれ……!
それ以上聞かないでくれ!!!」
「!?」
突然、サルモネラがより一層声を荒げた。
それは、絶叫にも近い悲鳴のようでもあった。
「や、やめろ! やめてくれ!!
どこだ!? いるのは分かってるんだぞ!!」
「???」
かと思えば、周りをきょろきょろと見回し何かを探し始め、更に怯え始めた。
そこであたしは、違和感の正体に気づいた。
―――この男、
さっきまで、この怯えようは神殿やこれから身にふりかかるであろう、逃れられない法の裁きへの恐怖からくるものだとばかり思っていた。
でも、これは一体……
「ねぇちょっと、『いるのは分かってる』ってどういうこと?」
「おい5392番、どうした? 落ち着け!」
「触るんじゃあないッ! 俺に声をかけようとするなッ!!」
看守の手を払いのけ、私達から逃げようとするサルモネラは、結果車椅子からガッシャンと大きな音をたてて落ちてしまった。
落下したダメージと恐怖に涙を流しながら、イモムシのように看守から逃げ、面会室の角までにげると、ありったけとも言うべき大声でまくし立てる。
「も……もうたくさんだ! 強盗も、脱獄も、痛めつけられるのも、人と会うことさえ!!
もう何も話さない!! 何もしない!!!
この牢獄の奥でじっとしているから……
だから……だから殺さないでくれ!!」
それは、ここにはいない誰かへの命がけの懇願であり……
「俺は…………俺は…………
俺のそばに近寄るなァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
ここにいる私達への拒絶そのものだった。
……あまりに強烈で悲惨な悲鳴に、あたしはただ、尋常ではない怯えようのサルモネラをただ目を見開いて記憶に焼き付けることしかできなかった。
「……見たか? あいつの異常な態度を……」
面会室から出たあたしは、すぐにジンジャーから声をかけられる。
どうやら、あたしがサルモネラの現状を否応なく理解させられたことを察したようだった。
「うん。あれは絶対おかしいよ。」
かつてあたしが転々としていた、紛争地帯でも拷問みたいなことはあったが………あそこまで―――人間すべてを恐れるまで精神を甚振るほど―――の拷問は見たことがなかった。そもそも、拷問は敵に情報を吐かせるためのものだ。トラウマを植え付けすぎて心を壊してしまったら意味がない。
「これからは、宥めて、優しく接する形の取り調べを行うつもりだったが……望み薄だな。」
そういうジンジャーをよそに、あたしは考え始める。サルモネラの錯乱……何かあるはずだ。
それを知るためには、あの人に詳しく聞く必要がある。
「あたし、これからローリエにサルモネラの事、訊きに行ってくる。」
「……!! なるほど、ヤツを捕まえた本人ならば、何か知っているかもしれねぇな。」
それもあるけど……『調停官』の勘が言っているんだ。
―――ローリエが
ローリエは、日用品から最新鋭の娯楽まで、面白い発明をいくつも作っていて、結構気に入ってるんだけどね。
もし、
……職業病かな。
あたしが、アルシーヴ様の命令ならどんなこともやってきたから、それで考えちゃうだけかな。
そんな言いようのない不安を振り切るために、ローリエのいそうな彼の部屋へ駆け出した。
◇◇◇◇◇
果たして、ローリエは部屋にいた。いつも通り机に向き合って、細長い何かのメンテナンスをしている。
「ローリエ」
声をかけると、その作業を中断して、こっちを向いた。
そして……驚きの表情を見せる。
「……どうしたんだ、カルダモン」
あたしの顔が、いつもより怖かったのだろうか?
首をもたげた不安が顔まで現れてしまっているのだろうか?
部屋に備え付けられていた鏡を見る気にはなれなかった。
「サルモネラと会ってきたよ」
「……そうか」
「ひとつ、訊いても良い?」
「なんだ?」
「―――なんで奴がああなったのか。心当たり、ある?」
あたしの質問に、ローリエは何を思ってるのか、目を閉じて、顎を撫でる。
そして、一呼吸するとこう答えた。
「詳しいことは分からない。おそらく、依頼主に―――」
「嘘」
理由はない。直感だった。まぁ、『調停官』の勘がまだ彼を信じ切ってないだけかもしれないけど。
「ねえ……どうして嘘をつくの?」
何の根拠もないのに、口は次の言葉を既に出していた。
次の瞬間だった。ローリエは表情を変えないままこう言ったのだ。
「何も……何も、してないよ。
俺はただ……アルシーヴちゃんのために…学園生活部の皆を守るためにサルモネラの武器をぶっ壊しただけだ。
その後、
「サルモネラの武器を壊した」……? それは、どういう意味なんだろうか? クロスボウを使いものにならなくしたって事? それとも―――あいつの武器である狡猾な性格を壊すほど、何かしたって事……?
それに、「お話」とやらも、ちょっとではああならない。
「そもそも、なんでアイツの事を気にしてるんだ? 投獄される様子は見たが、ああいう悪党は、アレくらいが丁度いいだろ」
「確かにサルモネラは悪党だったけど、あの怯えようは異常だよ」
「そうか? 学園生活部のみんなを手に掛けようとしたんだし……当然の報いだと思うけど」
ローリエの言動にひどい違和感を覚えた。
彼は今、「美紀たちを殺そうとしたから精神が壊されても自業自得だ」と言ってのけたのだ。言葉は選んでるみたいだけど、言いたい事は同じだろう。
あたしも、美紀は気に入った。だからこそ、サルモネラがあたしの前に現れた時は捕縛するつもりだったけど、あたしなら死角からの一撃で意識を奪って終わりにする。精神が壊れるまで痛めつけたりはしない。
クリエメイトを特別扱いしている。最近会ったランプみたいだ。クリエメイトを様付けで呼んではいないけど、同じ人―――いや、それ以上の扱いをしている………気がする。美紀と会ったローリエの緊張感マシマシな姿を見れば一目瞭然だ。
だから、そんなクリエメイトを傷つけようとしたサルモネラを……痛めつけた、んだと思う。
ここまで非情なローリエは初めて見た。
サルモネラを野放しにしていたら、きららと行動していた悠里たちが危なかった。
だから、その危険を排除したのだろう。徹底的に、二度と悪さができないように。
でも、そこにはあるべき『血の通った法の裁き』がない。もしくは、更生の可能性すら不確実だから潰しているのかも。
あたしが言えたことじゃないけど………そんなの、悲しいよ。
あたしは、アルシーヴ様の命令には従うけど、できるだけ救いのある道を模索する習慣をつけている。もちろん面白さ優先だけど。
「ねぇローリエ」
「ん? 今度はどうした?」
クリエメイトを守るためとはいえ、サルモネラを救いがないほどに、徹底的に攻撃し、再起不能にした。
本当のところは分からないけど……もし―――もし、本当にそういうことをしたのなら……
それじゃあまるで――――――クリエメイトを守る『機械』だよ。
「ローリエは……機械の心を、魔法工学で作れるの?」
「?????」
あたしには、ローリエにそうなって欲しくない。そんなの、何の面白みもない……ただ、
自然と、左手がマフラーに行く。あたしの質問の意味が分からず、首を傾げるローリエを見ながら、質問の真意を悟られまいとポーカーフェイスを崩さないよう努める。
あたしのこの質問には、気付かないでほしい。
「急に何言ってるんだ、カルダモン。人間の…しかも心なんて、作り出せるわけがないだろう??」
ローリエには、その答えを言って欲しかったから。
あたしでも捨てていない、人間の心を捨てないで欲しかったから。
キャラクター紹介&解説
カルダモン
今回のヒロイン。ちょっと卑怯な言い方で、ローリエに「機械の心なんて作り出せない」と言わせ、人間として当たり前の優しさを忘れないように希望を持ったが、これは数々の発明品を世に出すローリエから“面白さ”を失わせないためであり、乙女心とは無関係。……そこ、無関係だって言ってるだろ!
ろーりえ「大丈夫? 結婚する?」
かるだもん「じょーだんは女癖の悪さだけにしたら?」
ろーりえ「がーん!!」
ローリエ
サルモネラを
サルモネラ
ローリエの脅しと監視に屈して、G・E・レ○イエムに囚われたディア○ロみたいになったイメージCV.○久保○太郎氏の元盗賊。下手な事を喋ってローリエに○されないか日々怯えており、一人で詩や裁縫を行っている時だけ心が落ち着くようになった。
ジンジャー
ビビりまくっているサルモネラの聴取に難航していた八賢者。アレ以降、有用な情報は得られなかったようだ。
△▼△▼△▼
ローリエ「カルダモンのやつ、なんだったんだ? いきなり『機械の心』って……造って欲しかったのか? 変なの。 ―――いや、やめるか。人造人間とかドラ○ンボールやドラ○もんじゃないんだから。
さて……ようやく、ミネラさんに聞いた渓谷の村付近の呪術師捜索だ! 顔が割れてる可能性があっから、入念に変装しないとな……!」
ソルト「ソルトも忘れないで欲しいのです」
次回『変装と変身』
ソルト「次回もお楽しみに。」
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あとがき
めっっっっっっちゃ重くなってしまいましたね……スミマセンでしたァァァァァ!!!
でもしょうがなかったんや………前世日本人のローリエの変化フラグは立てたかったんや…!
次章もヘビー路線なので(予定)、胃もたれしないようにボケられるところでボケなくては……たとえスベっても関係ない!!
――というわけで、これからも「きらファン八賢者」よろしくねー!
先日のフェンネルのイベクエにて、フェンネルの出自に公式と拙作で違いが出ました。公式は流浪の剣士。拙作は騎士の家の令嬢です。この違いはもうこのままでいきたいと思います。それは兎も角、皆様はどっちのフェンネルがお好みでしょうか?
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流浪の剣士フェンネル(公式設定)
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騎士の家の令嬢フェンネル(拙作設定)
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どっちも好き。上下などない。
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むしろ差を作りまくれ!