きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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“今になって思えば、おかしい所はいろいろありました。聖典のレシピを難なく再現したことといい、クリエメイトとあまりに早く仲良くなったことといい、ローリエは普通の人とは常軌を逸していると言っても過言ではないでしょう。”
 …ソルト・ドリーマーのローリエ・ベルベット調査報告書・序説より抜粋


エピソード5:Aのはざまにて~呪いの裏に潜む巨大な影編~
第32話:変装と変身


「………こんなものか」

 

 俺は女神官たちをナンパせず、可愛い賢者達に声もかけず、あらゆる武器のメンテナンスや新たな武器の新調の大体を終わらせた。

 

 ―――おいそこ、熱あるのかとか言わない。ハードディスクにあるお宝データ全部SNSにバラ撒くぞ。

 

 ……というデッド○ールみたいな次元超越ジョークはさておき。

 なんで俺がこんな事をしているのかというと、来る事件の真相に迫るためだ。

 

 そもそも、今のオーダー事件が起きているのは、とある事件がきっかけだ。

 

 ―――女神ソラ呪殺未遂事件。

 

 ローブ野郎の企ての阻止に失敗した俺は、その時撮った写真を手掛かりにあらゆる人々に聞いて回った。

 運のいいことに、港町にてローブ野郎の特徴に一致する人物を知るミネラさんという人物から、渓谷の村の風習について知ることができた。

 これから俺は、そこに潜入し、黒幕を―――ソラちゃんを呪い、盗賊どもをけしかけた野郎をとっちめる。

 

 

「問題は俺の知名度だな……」

 

 そこで浮上するのが、八賢者ローリエの知名度問題だった。港町のいち大人のミネラさんが知っていた以上、賢者の知名度は高めだと考えていいだろう。ましてローブ野郎はあの事件の夜、直接顔を合わせたんだ。俺の顔を覚えていることを前提に行動した方がいい。

 

「……まぁ、そこはもう手を打っているがな!」

 

 でも、問題ない。俺にはとっておきの秘策がある!

 

 

 

 

 

 ほどなくして。

 

 

「おーいローリエ、ソルトが話が……ある…………」

 

「ロー、リエ………さん………」

 

 

 部屋に入ってきたコリアンダーとソルトが固まった。

 

 理由はいわずもがな。俺の秘策を目の当たりにしたからだ。

 

 俺の秘策……その名も―――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――テキーラ娘作戦!!

 

 

 か弱い乙女に変装し、相手の油断を誘う作戦だ。

 

「ふっふっふ、コリアンダーもソルトも、あたしの変化に驚きを隠せないようねッ!

 ……俺だよ、二人とも」

 

 ……ここまで言っても、二人とも何も言わない。どうした?

 

 

「―――趣味か?」

 

「趣味じゃない、変装だ!! まったく、失礼なやつめ…」

 

「あなたの今の格好の方が女性に失礼ですよ」

 

「ゑ?」

 

「随分と下手な女装ですねローリエさん」

 

「え゛っ」

 

「あなたみたいな大きくて筋肉質で声の低い女なんていませんよ」

 

「……。」

 

 そう言ったソルトの目は、いわゆるジト目というやつで、俺を呆れたように見つめていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ……それから俺は、変装を変えざるを得なくなった。

 

 無論、そのまま諦めたわけじゃない。あれから他の賢者達にも勝負を挑んだのだ。

 

 結果は―――全敗。以下が俺の自信の変装を見たみんなのリアクションである。

 

 

セサミ「誰ですか、この気持ち悪いオカマは」

 

フェンネル「……」(無言でレイピアを突き付ける)

 

ジンジャー「うわっ!? ローリエ! なんだそのきもい仮装は!!」

 

カルダモン「ムダ毛の処理くらい当たり前でしょ、しっかりやって」

 

シュガー「おにーちゃん、なにしてるの?」

 

ハッカ「ローリエ、不気味。」

 

アルシーヴ「もっと客観的に自分を見ろ、このバカ者」

 

 

 ……全員に一発でバレた上に誰一人として変装した俺をか弱い乙女として見てくれなかった。泣けるぜ。

 テキーラ娘はジョ○フだから色んな意味で凄まじい恰好になっただけで、細マッチョ程度の俺ならワンチャンと思ったけれど、そんなものはなかった。

 あと気持ち悪いオカマとか抜かしおったセサミはしっかりおっぱい揉んどいた。

 

 

 で、だ。テキーラ娘を断念した俺は何に変装しているかと言うと……

 

 

「どうかね、今度の変装は」

「…何ですか、その頭についている……バランみたいなものは」

「こういうヘアースタイルなんだよ」

「あと、その鼻につく喋り方は……?」

「変装は、見た目だけ似せればいいってものじゃあない。できるだけ本物を理解し、言葉遣い、態度、必要ならば技術さえトレースすることが重要なんだ。そうすれば、マンガを描くときにも参考にできる。わかったかい康一くん」

「誰がコーイチ君ですか」

 

 

「ふははは! この(オレ)を呼ぶとは運を使い果たしたな、雑種!!」

「ド派手な鎧にその口調……今度は誰ですか」

「英雄王」

「ホントに誰ですか」

 

 

「こういうのなんかどうだ?」

「……和服ですか。でも、その半分脱いでいるのは何なのですか?」

「デフォルトだ」

「そうですか。 ………ところで、ここにある死んだ魚の目をした筒状の人形は…?」

「ジャスタウェイだな」

「ジャスタウェイ?」

「先に言っておくけど、ジャスタウェイはジャスタウェイだからな。それ以外のなにものでもない」

「………はぁ」

 

 

 見事に迷走していた。

 

 

 結局、伊達メガネに普段は身に付けない革の鎧の上から白衣を身に纏い、護身用に安い剣(どうのつるぎみたいなものだ)を差した冴えない下っ端調査員風の変装に落ち着いた。

 

 

「まったく、ローリエは変装をナメているのですか。あなたの発案した変装は、みんなことごとく聖典にあった『こすぷれ』みたいでしたよ」

 

 

 狸耳&しっぽ+水色ワンピースの、俺からしたらよりコスプレみたいな格好をしたソルトにそう言われた後で、渓谷の村へ行く最終確認を始めた。

 

 

「まず、ソルトの転移魔法で俺達は渓谷の村へ行く。」

 

「そして、そこからは別行動、と言ってましたね」

 

「あぁ。俺はアルシーヴちゃんに頼まれて、村周辺の地質調査を行わないといけない。クリエメイトの捜索と保……捕獲はソルト一人に任せることになる」

 

「はい。ソルトもクリエメイトを集めないといけないので、ローリエへの援護や支援はほぼ不可能だと思っていて下さい」

 

「分かった。俺は俺で、用が済み次第、村へ行くことにする」

 

「ソルト一人でクリエメイトを集める計算を立てておきますが………わかりました。では……作戦を開始する前に、もう一つ。」

 

「??」

 

 ソルトは渓谷の村の地図の乗ったテーブルから少し離れると、魔法陣を形成し、なにかを呟く。

 すると、狸耳ロリのソルトの姿が、みるみるうちに背が伸び、髪色が変わり、顔つきが変わって………まったくの別人になったではないか。

 

「もし早い段階でクリエメイトを捕まえた場合……ローリエに変身の出来栄えを見ていただくかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。」

 

 あっという間にアルシーヴちゃんに変身したソルトはそう言った。

 

 

 俺はわかった、と言いつつも心の隅がざわついていた。

 

 俺の知っている物語の筋書きでは、渓谷の村にて「オーダー」されるのは、漫画(聖典)『Aチャンネル』のるんちゃん、トオル、ナギ、ユー子の四人。

 ソルトが捕らえることに成功するのは、ハイパーぶっ込み天然娘のるんちゃんだけ。そこでソルトはお得意の変身魔法でるんちゃんに化け、他のクリエメイトを騙して一網打尽にすることを画策する。しかし、クリエメイトのパスが分かるきららちゃんに見破られて失敗。しかもトオルの逆鱗に触れ、敗北する。

 

 もし、るんちゃんが俺とソルトが別行動開始する前に捕まり、ソルトの変身の確認をしたとしても、不自然な点を指摘してはいけない。それは即ち、きららちゃん達の勝利のピースを欠くことになるから。

 

 でも……ソルトに隠し通せるだろうか?

 

 相手がシュガーやジンジャーならまだいい。ゴリ押しがよく通る。セサミやカルダモン、ハッカちゃんでも誤魔化しようはいくらでもある。セクハラで誤魔化してもよし、ゲームで釣るもよし、話題を切り替えるもよしだ。フェンネルならまぁ……アルシーヴちゃん関連の話題を振ればなんとかならんでもない。

 でも今回組むのはソルトだ。計算高く、俺よりも複雑な作戦を組める策略家を前にして、一体どこまで隠せるのだろうか?

 

 

 実は地質調査ではなく呪術師調査でしたと見抜かれるだけならまだいい。理由を適当にでっち上げて丸め込むだけだから。

 アルシーヴちゃんとハッカちゃんの三人で交わした秘密の誓いに踏み込まれたらアウトだ。絶対に混乱を招く。

 俺がこの先何が起こるかを知っていることを悟られるのはもっとマズい。それは即ち、()()()()()()()()()()()だから。せめて、きららちゃん達が神殿に辿り着くまではバレないようにしなければ。

 

 

 サルモネラに送られた依頼書は、俺の秘密の隠し場所に隠してあるから問題ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 故に、ソルトと別れるまでの行動が重要になるはずだ。

 

 自然に……自然に振舞うんだ!

 

 

 

 俺と手を繋いだソルトの、「では作戦を開始しましょう」という合図とともに、目の前が神殿内から村へと変わる。それは、俺の中の秘密裏の作戦のスタートの合図でもあった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 転移したソルトとローリエは、水車小屋を拠点に決めた後、すぐさまクロモン達を村中に展開させ、アルシーヴ様のオーダーに備えます。

 

 

「後は待つだけなんて、楽チンな作戦だな、ソルト!」

 

「待つのは一人を捕まえるまでだと言ったはずですよ」

 

「まぁ知ってるんだけどさ。しかし、捕まえたクリエメイトに化けるとは考えたな」

 

 

 心底嬉しそうに……いや、安心したかのようにローリエは笑う。

 なぜ、ローリエは安心しているのでしょう? ソルトが無茶な作戦を立てるとでも思っているのでしょうか? そう思われているみたいでちょっと不快です。

 

 

 思えば、ローリエはファーストコンタクトの時からシュガーとソルトを子供扱いしていた気がします。アルシーヴ様とハッカのどちらの子だと訊いてきたり、アルシーヴ様を母と呼ばせようとしたり……

 シュガーは兄が出来たかのように喜び、さほど気にしてはいませんでしたが……ソルトも同じだと思わないで欲しいのです。

 

 確かに、私達()()にとって、拾ってくださったアルシーヴ様は母親のようなものなのかもしれませんが。

 

 シュガーはソルトたちの両親の顔を知りません。ソルトも、母の顔の輪郭やおぼろげな声の記憶しかありませんし、父に至ってはまったく記憶がありません。確かな事は、ソルト達の両親は紛争に巻き込まれ、生存が絶望的だろうということだけです。

 戦場で非力な私達が生きていくためには、頭を使い、力を身に付けるしかありませんでした。シュガーは力を、ソルトは策略を身に付けて協力しあって生き延びてきました。他の人間をソルトの策略で嵌めて、シュガーがそれを一掃して食料を得る、ということもやってきました。生きるためには仕方なかったことです。

 

 そんな生活を続けていたある日、ソルト達は身なりの良い、戦場に不釣り合いな神官を見つけました。彼女はソルトの策を次々と見破り、シュガーと二人がかりで襲っても敵いませんでした。しかし、彼女は倒れ伏したソルト達にこう言ったのです。

 

 

『周りに怯え、自分を守るためだけの力になんの意味がある。』

『ついてこい。私が生きる意味というものを教えようじゃないか。』

 

 

 その人こそ、後に筆頭神官になるアルシーヴ様でした。

 

 アルシーヴ様は、ソルト達に神殿の部屋を与え生活のルールを教えてくださいました。当時からそれなりの地位にいたため、それ以上に接することこそありませんでしたが、それでも、ソルト達姉妹にとってはアルシーヴ様は恩人だったのです。

 

 

 ローリエとは、賢者に任命される日に出会いましたが、ことあるごとに子供扱いしてくる、腹の立つ人でした。

 その上、セサミやカルダモン、アルシーヴ様にセクハラを仕掛け、他の見目麗しい女神官をも息をするように口説こうとする女の敵です。はっきり言って、マイナスイメージしかありませんでした。

 

 しかし。ローリエを賢者から解任して欲しいと提言した時、意外にもアルシーヴ様はローリエの肩を持ったのです。

 

『ソルトの気持ちは分からんでもない…私も、ヤツの女癖の悪さは自重してほしいと思うばかりだ………ただ、ああ見えてローリエの発明品が世間に与えた影響は大きい。カメラに照明、掃除機に偵察機、娯楽………はっきり言って、ローリエなしではそのような技術は生まれなかっただろう。』

 

 あいつの技術は一体何十年先のものなのだろうな、と冗談めいて笑うアルシーヴ様に、ソルトはただただ衝撃を受けました。

 

 

 あの、何も考えてなさそうな男が、そんなに発明を?

 到底信じることができませんでした。本当に彼が発明に携わっているのかを調べるために、ローリエの部屋に行って同室のコリアンダーさんに色々聞いたり、魔法工学の授業を覗いた時期もありました。

 その結果、ローリエが神殿の技術革新に貢献しているのは間違いないということはわかりました。

 

 

「……ソルト?」

 

 

 ―――でも何故でしょうか。ソルトは、その間違いない事実に違和感を覚えるのです。 

 

 シュガーと行動を共にした時は盗賊団の殆どを捕らえ、カルダモンと一緒に砂漠へ行った時は悪名高いサルモネラを捕らえ、再起不能にまで追い詰めたそうです。その実績がどうしても、普段はちゃらんぽらんで女性について節操のないダメ男(ローリエ)と結びつかないのです。それは、ソルトが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょうか……?

 

 

「おい、どうしたんだ? 急に黙りこんじまってよ……」

 

「……ローリエ」

 

 

 不思議そうにソルトを見るローリエは、きっと自分が不審がられているなんて知らないことでしょうけれど。

 なんというか、ローリエについて知っておかなければいけない気がします。

 ソラ様が病気療養中で神殿が不安定である以上、不確定要素はできるだけなくしたいですから。

 

 

「どーしたんだ? まるで『シュガーの蜂蜜饅頭とソルトの塩饅頭をすり替えるイタズラをしたのは貴方ですか』みたいな顔をして」

 

「どんな顔ですか。というか、あれローリエがやったんですか」

 

 

 ローリエがさっと目を逸らす。

 先日の地味に効いたイタズラの犯人がこんな形でわかるとは思いませんでした。その件については、この任務が終わった後でじっくりお話しするとして。

 

 

「ローリエが魔法工学に手を出し始めたのはいつ頃ですか?」

 

 

 先に、ローリエの魔法工学についていくつか訊いておきましょう。

 

 

「え、俺?

 え~っと………7歳ぐらいからだな」

 

 ……微妙に間がありましたね。

 

「その時、なにを作ったんですか?」

 

「別に、大したもんじゃあないよ。ここで言うまでもない。ただの子供の玩具(オモチャ)さ」

 

 ……ローリエの答えは模範的な子供が行いそうな答えでした。

 ありふれた子供が興味を持ち始める時期に、機能性などない子供の玩具。

 

 ―――()()()()()()()()()()()()

 

 

 ローリエがとんでもない技術を数多く持ち、それを形にしてきたことが事実である以上、逆算してもローリエが答えた模範的な内容では計算が合いません。

 

 それこそ、常識はずれに急成長したか、あるいは初めからそのような知識を持ち合わせていたかでもない限り、彼の技術に説明がつきません。

 

 ソルトとしては、前者だと思います。後者は一応考えつきましたが、あり得ません。生まれた時から自我でも持っていないと出来ない芸当です。

 だから、次にローリエの子供時代について尋ねてみましょう。

 

 

「ローリエは、どちらのご出身ですか?」

 

「はい? …どうしたんだいきなり」

 

「いいから、答えてください。」

 

 

 ローリエは暫くソルトを見つめると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――()()()()()()()()()って言ったら信じるか?」

 

「は!!?」

 

 予想外の答えに言葉が出ない。

 というか、こ、この男、今なんて………聞き間違いではなければ……聖典って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぷっ、」

 

 ………は?

 

 

「あっははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

 

「嘘だよウソ! 冗談だよォォ~~ン!!」

 

「………。」

 

 

 突然、ローリエはけらけらと人を喰ったように大爆笑し始める。

 

 

「『聖典からやってきた』とかオーダーとかファンタジーやメルヘンじゃああるまいし!!

 ……あ、これファンタジーだった!! あははははははははははははははははは!!!!!」

 

 

 こちらの事情なんて知ったことかとばかりにお腹を抱えて大笑いする。

 ……ほんの一瞬でもこの男の話を真剣に聞こうと思ったソルトが馬鹿でした。

 

 

「……真面目に答えてください!」

 

「あーお腹痛い。

 悪い悪い、本当は言ノ葉の都市出身だよ。アルシーヴちゃんが幼馴染だったから証人になってくれる。」

 

「アーハイソウデスカ」

 

 

 これ以上饒舌なダメ男の話に付き合うまいとプイッと背中を向ける。

 こっちはクリエメイトを集めてクリエを奪うという、大事な役目を任されているというのに、ローリエはそんなものはどうでもいいとでも言っているかのようにソルトをからかい倒して。

 本当に空気を読んで欲しい。これだから、この男は苦手なのです。どうして、シュガーが彼に懐いたのやら。

 

 

 

「くー、くー!」

 

「なんですか、こんな時に………」

 

「くっ!? くー……」

 

「ああっ、ごめんなさい、ちょっとローリエにおちょくられてて………え、クリエメイトを捕らえた?」

 

 苛立っているところで、クリエメイト捕獲の報告が入る。そのせいで報告しに来たクロモン達をちょっと怖がらせてしまいました。

 まったく、ローリエが余計なことをするからです。

 

 

「ローリエ! クリエメイトを捕らえました。クリエケージの準備をしてください」

 

「あいよ」

 

 クリエケージの準備で、ローリエがソルトの指示に従ってくれたのはある意味幸運でした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「へー、じゃあここって異世界なんだ。」

 

「ええ、そうです。だから逃げても無駄。あなたに帰る場所はありません。」

 

 

 簡潔に、かつはっきりと事実を告げる。それは、クリエメイトの抵抗の意志を削ぐのに最も合理的な言葉のはず―――

 

 

「そっかー。じゃあお仕事見つけないと。」

 

「え……なぜそうなるのです。」

 

「だってほら、働かざる者食うべからずって言うし。ごはんが食べられないと困るでしょ。」

 

 

 そう力説する色素の薄い髪のクリエメイト――るんは、クロモン達に捕らえられ、クリエケージの中にいながら、どうやら今のこの状況が分かっていないようです。

 

 

「あ! そう言えば、この世界ってどんなもの食べるんだろう?

 牛とか豚っているのかなぁ。

 ………あ、もしかしたらもっとすごいお肉が!?」

 

「何か勘違いしているようですが、あなたにはもっと差し迫った問題があるでしょう。」

 

「…そう………だね………。」

 

「やっとわかってくれましたか。」

 

 るんが下を向いた。自分の状況をようやく理解しましたか――

 

 

 

 ぐ~~~~~~~~~~~

 

 

 

「今のは………」

 

「お腹すいた……」

 

 

 るんがお腹を抱えてソルトに目で訴えかけます。

 クリエケージの中にいれば食事も睡眠も不要なのですが………

 

 

「フフフ……こんな事もあろうかと……作っておいたのさ……」

 

 

 そこに、香ばしい匂いと共に現れたのは……

 

 

 

「ハンバーーーーーグ!!」

 

 

 丸く固めて焼いた何かを乗せた皿を持ち、ハイテンションに大声を出すローリエでした。うるさいです。

 

 

「というか厨房を勝手に使って何作ってるんですか」

 

「ふおああああ~~! ハンバーグだぁ~~!!」

 

 

 ローリエさんのお皿の料理――ハンバーグというそうです――を見て、るんが目を輝かせている。

 

 

「るんちゃん。もし、大人しくしていればこんな感じの食事を日に3回、持ってきてあげよう。ソルトが」

 

「さらっとソルトに押し付けましたね、今。

 というか……何です、ハンバーグって」

 

「聖典にレシピの載ってた料理だ。挽き肉とタマネギ、パン粉、卵を混ぜて練り、小判状に丸め焼き上げた肉料理。ソースはケチャップとウスターソースから作ったデミグラス系だ!」

 

「ありがとう、ローリエさん!! 私、大人しくしてるね!!」

 

「いい子だ。俺は今から出かけるから、他に困ったことがあったら、そこのソルトに頼むといい。トオルちゃんのように小さいがしっかりしてる子だ」

 

「わかった! よろしくね、ソルトちゃん!」

 

「………。」

 

 

 なんというか、ローリエはクリエメイトと打ち解けるのが上手いですね。シュガーと似ていますが、根本的にちょっと違う気がします。

 シュガーは自分から心を開いて、警戒心や緊張をほぐすやり方。ローリエはクリエメイトの好きなものの話題を振って、情熱を伝えるやり方。クリエメイトの好きなものを知っているかのような接し方です。彼女についてよく知らないとできません。

 ソルト一人だけだったら、るんと会話がかみ合わなかったかもしれません。

 

 

「ソルトちゃん、トオルはどうしてるかなぁ。ナギちゃんもユー子ちゃんも大丈夫かなあ。」

 

「……その方々もすぐに見つけてここに連れてきます。」

 

「ほんとに!? ありがとうソルトちゃん!」

 

 

 るんが無警戒に感謝しているところで、計算は立ちました。彼女がこっちの手中にある限り、状況を一気に覆されることはありません。

 

 ……召喚士のきらら、でしたか。彼女達はこれまでにおいて、正確にクリエメイトの場所を探り当てています。どのように見つけ出しているのか。ソルトはその秘密を理解する必要があるのです。理解してしまえばソルトがシュガーのように失敗することはあり得ません。

 どんな手を使っているのかは分かりませんが、ソルトは甘くありませんよ。

 

 

「そういえば、ローリエさんは……」

 

「ローリエさんなら、いま外で準備してるんじゃあないかなー」

 

 

 るんの言葉にため息が出る。もう少し我慢ってものをして欲しいものです。

 変身の出来栄えを見るって言ったじゃあないですか。

 これ以上計算を狂わせるような真似をしないでほしいと願いながら、ローリエに逃げられないうちに小屋の戸を開けました。




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 テキーラ娘作戦を堂々と決行しようとしたり、ソルトをおちょくったり、ハン○ーグ師匠をぶっこんだりとふざけまくっていた八賢者。ソルトの計算はトオルの絆を計算に入れてなかったために失敗するとわかっているため、非協力的である。ただ、自身がこれから元凶を叩きに行くため、ただの悪ふざけでこんなにはっちゃけたりはしていない。詳細は次話にて。

ソルト
 シュガーの姉であり八賢者でもあるCV.○中真○美の女の子。ローリエに子ども扱いされていると思われており、彼との仲は良好とはいえない。ただ、ローリエの活躍と言動・性格のギャップに違和感を抱き始めている。原作での計算高さを再現するため、シュガーとローリエのクリエメイトへの近づき方を分析するシーンも盛り込んだ。
 過去については、完全にオリジナル。シュガーの脇の甘い性格のために用心深く計算高い性格になったとあったため、そうでなければ自身や妹が危険に陥る可能性の高い環境で育ったと思われる。

るん
 本名・百木(ももき)るん。警戒心ゼロのハイパーぶっこみ天然娘。原作者も認める電波マスタリーと善意のかたまりから、ソルトを困惑させるが、クリエメイト大好きなローリエとは馬が合った。ただ、ローリエからはあまりに悪意に鈍感かつ耐性がないため、その部分を密かに心配されている。


ローリエの変装
 登場順から、ジョセフのテキーラ娘(ジョジョ2部)、岸辺露伴(ジョジョ4部)、ギルガメッシュ(Fateシリーズ)、坂田銀時(銀魂)。ローリエは変装といえばどうしても日本に根付いているコスプレのイメージが強く、またエトワリアはま○がタイ○きららだけと知っているため、元ネタがわかるはずはないと変装。しかし、ソルトに『不自然』と尽く却下を食らった。

Aチャンネル
 黒○bb氏により2008年から連載されているきらら作品。るん、トオル、ユー子、ナギの女子高生4人による日常を描いたもので、るんが放つ天然ボケに周囲がツッコむギャグが中心となっている。
 余談であるが、きららファンタジアの☆5ユー子のデザインを担当から依頼された時、同氏は『☆4ユー子で結構脱がしたのに、これ以上脱がせたら大変なことになる』と勘違いをしていた時期があった模様。

エトワリアの食文化
 2019年10月現在開催中の作家クエスト『からみねーしょん』では、『焼きそばやたこ焼き、エトワリアニンジンはあるが、カレーライスは存在せず、エトワリアジャガイモは流通しておらず、エトワリアタマネギは希少』という情報が明らかになった。また、葉子様御用達のマヨネーズが瓶詰めになっていたりと現代日本よりも文化は進んでいないようだ。しかし、現代日本のわさびが、エトワリアでは『ツンツーン』と呼ばれ調理法もほぼ同じだあったりと共通点は多い。拙作中に出たハンバーグも、エトワリアでは希少なタマネギを使用するため、メジャー料理ではなく、仮に料理として存在したとしても、味はあまり良くないのかもしれない。

△▼△▼△▼
ローリエ「さぁ、ソルトの変身を見た後は晴れて独自行動! 村周囲にあると思われる呪術師の隠れ里を探して、そこにいるローブ野郎を始末してやる! ……と思ったんだけど…まさかの意外な出会いが俺を行く手を阻む! 一体誰が……!!? ま、まさか…主人公のきららちゃん!?」

次回『セカンド・エンカウント』
ランプ「次回もお楽しみに!」
▲▽▲▽▲▽

先日のフェンネルのイベクエにて、フェンネルの出自に公式と拙作で違いが出ました。公式は流浪の剣士。拙作は騎士の家の令嬢です。この違いはもうこのままでいきたいと思います。それは兎も角、皆様はどっちのフェンネルがお好みでしょうか?

  • 流浪の剣士フェンネル(公式設定)
  • 騎士の家の令嬢フェンネル(拙作設定)
  • どっちも好き。上下などない。
  • むしろ差を作りまくれ!

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