きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

64 / 131
作者「さて、切りの良いところで終わらせられたぜ」
ろーりえ「ノープランだよね?」
作者「いや、これは、俺と読者を配慮した、合理的な……」
ろーりえ「ノープランだよね?」
作者「………………………………………………ハイ……」


第38話:ソルトの策略/発明王ローリエ その②

 洞窟の中で夜を明かした私たちは、ユー子さんを起こし、外へ出るのを渋るナギさんを引っ張り出して、るんさんの捜索を再開します。

 

 まず、森から脱出して、村へ戻らなければなりません。

 

 るんさんのパスも、その村の北部――私たちがまだ行ってないところです―――から感じました。

 それを頼りに、村まで戻ってきた私達は、今まで行っていなかった北部へ向かってみることにします。

 

 

「ようやく戻ってこれたね……」

 

「きらら、るんのパスは感じられるかい?」

 

「感じられるけど、さっきから動かないままだね。」

 

「るんちゃんが……動かない?

 それって、大人しくしてるって意味だよね。本当に動かないわけじゃないよね?」

 

 

 ここに来て、戦意を漲らせていたトオルさんが目に見えて落ち込んでしまう。よっぽど、るんさんの事が心配なんだ。

 

 

「その、危ない目にあってるということではなくて、捕まってしまってるだけだと思います!」

 

「トオルもるんが心配なんはわかるけど、きららさんに当たったり、一人で無茶したらあかんよ?」

 

「…そんなことしないってば。子供じゃあないんだからいきなり突っ込んだりしないって。だからはーなーせー。」

 

「あかんって」

 

 私とユー子さんでトオルさんを元気づけようとするも、ユー子さんが一人で専行しようとするトオルさんを掴んで離さない。

 

「なんだこの村! 宿屋もよろず屋もセーブポイントも何もないじゃあないか!」

 

「そりゃあ、外から人が来るなんてほとんどないだろうしね……」

 

「あとNPCはどこだ!? 話しかけたら情報教えてくれそうなやつ!」

 

「……それ、ナギのやってるRPGの話でしょ?」

 

「ナギが寒さでおかしくなりかけとる……」

 

 ナギさんも、寒さのせいかよく分からないことを言い始めている(港町の神父さんも似たようなコトを言っていたケド……)。

 早くるんさんを見つけて、皆さんを元の世界に帰した方が良さそうだ。

 

 

「…………。」

 

「……子供?」

 

 

 そう思った時、パッと見て6、7歳ほどの女の子がこちらを見ているのに気づいた。

 ベージュのウェーブがかった長い髪と白い花と葉っぱの髪飾り、赤いリボンとスカートが特徴的だ。

 家の扉から覗き込むかのように、つぶらな瞳でこちらを見ている。

 

 視線に気づいた私が少女を見つめ返すと、家の中に少し引っ込んでしまう。

 

 

「……きららさん、どうしたんですか?」

 

「ランプ。あの子に話を聞きたいんだけどね。」

 

「!」

 

「……この村の子かな?」

 

「多分。でも、なかなか出てきてくれないね。」

 

 

 ランプとマッチの言う通り、少女はちょっと引っ込み思案なのかもしれない。私に見られただけで引っ込んでしまうような子だ。どうにかして、るんさんの手がかりを見つけたいけど、周りにはほかに尋ねられそうな人はいないし、どうしよう………

 

 

「ねえ、きみどうしたのかな?」

 

「……っ!」

 

「あーあ、引っ込んじゃった。」

 

「うう……ちょっと傷つきます………」

 

 

 ランプが声をかけるも、女の子は家の中に引っ込んでしまう。でも、まだこっちが気になるみたいで、ドアの隙間からチラチラ見てるよ。

 

 

「うちに任せとき!

 なぁ君、うちとお話せぇへん?」

 

「………っ」

 

「あ、逃げられた。」

 

「ちゃ、ちゃうねんて!? あれはきっとナギの性格に影響を受けたんやって!」

 

 

 ユー子さんが声をかけると、女の子は扉を閉めてしまった。トオルさんがユー子さんを見てそう言ったのに対し、ユー子さんはナギさんの性格の影響だと弁明する。

 確かに、ここの村の人々は様々な影響を受けていた。トオルさんの周りは子供であふれてたし、ナギさんを探す時は村人たちが家から出てこようとしませんでした。

 

 

「それを言うなら怖がりなユー子の影響だろ?」

 

「どっちでもいいよ。

 ………ねぇ、大丈夫だよ。怖くないから。」

 

「…………うん。」

 

 

 トオルさんが近づいて扉越しに呼びかけると、女の子は恐る恐る出て来て、そしてうっすらと笑みを浮かべて現れる。

 

 

「出て来てくれました! さすがトオルさんです!」

 

「同じくらいちっこいと安心するんだろうな。」

 

「ナギ、うっさい。」

 

 

 トオルさんにひと睨みされたナギさんの言い方はさすがにどうかと思うけど、スラリとして背の高いユー子さんが思いっきり警戒されたことを考えると、トオルさんの方が女の子にとっては安心するのかもしれない。

 

 

「おねえちゃんたち、なにしてたの?」

 

「…人を探してたんだ。るんちゃん………私の、大切な友達を。きみは?」

 

「……昨日の人に言われた通りの人が来たから、見てたの。」

 

「昨日の人?」

 

「綺麗なおねえさんがね、『ランプって人が来たら助けてあげなさい』って言ってたの。」

 

「「「!!!?」」」

 

 

 女の子の口から、よく知る名前が飛び出てきたという事実に動揺してしまう。

 

 

「そ、それってどんな人だった!?」

 

「え、………っと……腰くらいの長いオレンジの髪をした、綺麗な人だった。あと、身長は……」

 

「身長は?」

 

「この人と同じくらい。」

 

 

 ユー子さんを指さして女の子は言う。

 オレンジの長髪でユー子さんぐらいの背の女性が言っていた、『ランプを助けてあげなさい』という言葉……

 これって、どういう意味なんだろう?

 

 

「ランプ、知り合い?」

 

「いいえ。わたしは知りませんよ、そんな人?」

 

「……ソルトの罠かもしれない。」

 

「マッチ?」

 

「どうしてこんな女の子が『ランプ』の名前を知っているんだい? ソルトが変身して、この子にそう言った可能性もあるじゃあないか。」

 

 

 ランプと一緒に悩んでいるとマッチがそう言った。女の子に疑いの目を向けるマッチのプレッシャーにおされたのか、女の子が涙目になってしまっている。今にも家に引っ込みそうだ。

 

 

「マッチ、あんまり睨まないでよ。この子が可哀想じゃん!」

 

「……それもそうか。彼女は話をきいただけだしね」

 

「それも違うよ、炭酸2号」

 

 ランプがマッチを窘めていると、トオルさんが話に参加してくる。

 

「……僕は炭酸でも2号でもないんだけど」

 

「この子を見てあげなよ。ユー子やランプが話しかけたら逃げちゃうような子だよ。

 私たちに話しかけるだけでも勇気を振り絞ったに違いない。そんな子が、嘘をつくわけない。」

 

「いや、だからね、その子が見たものが―――」

 

「アイツなら、もっと分かりやすい手を使う。とりあえず、この子の話を聞こう?」

 

 まずは女の子の話を聞こうとするトオルさんの言葉に、マッチは一応納得したのかそれ以上は何も言わなかった。確かに、その子は「オレンジの長髪の綺麗なおねえさん」から頼まれたとはいえ、頼みはマッチの助けになることだ。

 もしソルトの罠だとしたら、るんさんに変身して女の子に話しかける方がそれっぽい。

 トオルさんが近づくと、女の子は再び扉を開けて出てきた。

 

 

「君。聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

「………うん。」

 

「そのおねえさんの名前とか、わかる?」

 

「……ううん、わからない。ごめんね?」

 

「謝らなくて大丈夫だよ」

 

 

 トオルさんが少しずつ話を聞いていく。

 この女の子はどうやら、女の人に呼びかけられただけのようで、「ランプという少女が困っていたら助けてあげてほしい」程度のことしか知らないらしい。それが昨日のこと。ソルトによる罠の可能性は低いだろう。

 

 

「じゃあ………そのおねえさん以外で、見慣れない人、見なかった?」

 

「えっとね………」

 

 

 女の子は、幼い両手で前髪をかきあげて、おでこが見えるように押さえつけながら、こう言った。

 

 

「きのうね、こーんなおでこの女の子が、水車小屋のほうに連れてかれたのを見たよ」

 

「「「!!!!」」」

 

 

 女の子がそう言うと、トオルさん、ユー子さん、ナギさんの様子が急変した。

 

 

「おでこって……!」

 

「るんちゃん………!! ありがとう、きみ。」

 

「ううん。おねえちゃんたちも気を付けて~」

 

「急ごう、みんな!」

 

 

 水車小屋に連れていかれたという、おでこが見える女の子が、るんさんの可能性が高い。ナギさんとトオルさんの反応から、それは明らかだ。早く残り一人のクリエメイトを救出するため、みんなに呼びかける。

 

 

「水車小屋はこの先です。間に合うといいのですが………」

 

「今は心配するより足を動かそう。きっと間に合うと信じてね。」

 

「マッチさんはええこと言うなあ。」

 

「…なんだか最近、妙に前向きな人たちと出会うことが増えたからね。」

 

「うん。さすが炭酸2号」

 

「だから炭酸2号じゃないってば」

 

 

 心配するランプにマッチはそう励ます。マッチも少しは変わったのかな。

 確かにユー子さんの言う通り、出会ったばかりのマッチはもうちょっとニヒルな感じがあった気がする。ひだまり荘の皆さんやイーグルジャンプの皆さん、そして学園生活部の4人との出会いが、私たち三人の中の何かを変えているのかもしれない。

 

 そう思っていると、後ろからぐっぐっと何かを踏む音が聞こえる。

 

 

「……見送ってくれるの?」

 

「なんだか、この扉のとこの段差が気持ちよくて…なかなか閉められないの。」

 

 トオルさんの声に振り替えると、さっきの女の子が、気持ちよさそうに扉の段差を交互に踏み踏みしている。

 

 

「なんや珍し……い?」

 

「おーい、どうしたユー子。」

 

「ちゃ、ちゃう………この子だけやないッ! ここいら一帯の人たち、みんな似たようなことやっとる!」

 

 ユー子さんの驚愕の声に周りを見てみると……確かに、今まで家にいたであろう人たちが、玄関先で何かを踏んでいます。それも全員。あまりに異常な光景に、みんな言葉を失ってしまいました。

 

「何をしてるんだろう……」

 

「青竹踏み………やないかな。」

 

「るん、いつもトオルん家から帰る時に引っかかってるよな……」

 

「………間違いない! るんちゃんの影響だ!」

 

「これでそう思うのか!!?」

 

 この異常な光景がオーダーの影響であるならば、ありえると頷ける。

 ひだまり荘の皆さんが召喚された村での、灰色の空。

 青葉さんたちが召喚された港町での、大人たちの怠惰化。

 学園生活部が召喚された砂漠での、“かれら”の大量発生。

 それらと同じことが、今この村でも、起こっているんだ。そして、それは間違いなく、水車小屋にるんさんがいることの証明。

 

 

「くー!」

 

「案の定だ! そう簡単にはいかせてくれないみたいだね。るんが近いって証拠かも…!」

 

「皆さん、()()()()に行きます!!」

 

 

 それが正しいと言わんばかりにクロモンが現れたことをマッチが警告すると、私はそう言いながら『コール』をすぐさま発動して、昨夜話した作戦決行の合図を出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

『まず、私の「コール」で全体攻撃ができるクリエメイトを呼び出します。それで、クロモン達をできるだけ減らしたいと思います。』

『それだと、いつものきららさんだね。』

『はい。()()()()()()()()()んです。この作戦はきっと……トオルさん。あなたが一番重要なポジションにあると考えています。』

『私?』

『でも、危険じゃありませんか?』

『そう……かもしれません。でも、ソルトは私を警戒しています。』

『……そうか! こっちが警戒していることを、悟らせない為に……!』

『そういうことです、ナギさん。』

 

 

 

「メガ粒子レクイエムシュート!!」

「よぉーし、行っけー!!!」

「はああああああっ!!!」

 

「「「「「くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?」」」」」

 

 きららが呼び出した青葉とはじめ、美紀の範囲攻撃で、クロモンの群れが吹き飛んでいく。

 その脳裏には、昨日の夜、森で話した作戦会議の内容が浮かんでいた。

 

「……こうして見ると、私たち、きららさんだけが頼みの綱みたいだね。」

 

「………そう、ですよね……」

 

「気に病まないでやランプちゃん。ウチらにも役目はあるやろ?」

 

 きららだけが前線に立ち、クロモンを薙ぎ払いながら突き進む状況にランプが無力感で落ち込むのをユー子がなだめる。

 彼女達ももちろん、作戦に参加しており、それぞれの役目をしっかりと持っている。

 

 

『皆さんには、トオルさんを囲むように陣形を組んで移動して欲しいんです。』

『え? どうしてですか?』

『トオルさんが作戦の要であることは言ったと思います。ギリギリまでソルトに悟られないようにするために、ユー子さんやナギさん、ランプのフォローが必要です。』

………………………………るんちゃんを騙ったアイツ、絶対ヤる……

『……一人だと、トオルさんが突っ走りそうですので』

『…………せやな。』

 

 

 トオルがるん奪還の鍵になると踏んだきららは、ランプやユー子達に対して、彼女のストッパー兼フォロワーを頼んでいる。

 故に、こうしてトオルを守るようにきららの後ろに下がり、きららについていく事が、ランプ達が作戦の遂行に協力している証拠に他ならない。

 

 やがて、水車小屋が目視で確認できるほどの距離になると、ランプがその方向を指さす。

 

 

「あれが水車小屋です!」

 

「ここまで来たらはっきりと感じるよ! あそこにるんさんがいる!」

 

「絶対に―――るんちゃんを助けるッ!」

 

「せやね、ウチももう怖がって逃げてられへん………!」

 

「こんな寒いとこもう嫌だ。さっさと家に帰る!」

 

 

 きららがるんの正確な位置を探知し、確信を持つと、トオル、ユー子、ナギもそれぞれの意気込みをする。

 

 

「ソルト、クリエメイトを開放するんだ!」

 

「そうです! るん様をイジメたら許しませんよッ!」

 

 やがて、一行が水車小屋にたどり着くと、マッチとランプが水車小屋に向かってそう叫ぶ。

 返ってきたのは、呟くような一言だった。

 

 

「……すべて、計算通りです。」

 

「なんだって…………!?」

 

 

 ソルトにとっては、この展開すらも計画通りであったのだ。

 無駄なく最適解を導き出し、合理的に最善策を割り出す。それがいつでもソルトのやり方であった。今回もそれは変わらない。

 

 

「あなた達は、こうしてわざわざ残りのクリエメイトを連れてきてくれた。計算通りです。」

 

 きらら達とは違って、ソルトはクリエメイトを探知する術を持っていない。また、きららがクリエメイトを探し出す何かを持っている事を推測していた。

 故に、予想していたのだ。るんを――クリエメイトを一人確保しておけば、残りのクリエメイトを連れてきらら達がやって来ることを。

 そこを一網打尽にする。それがソルトが今回考えついた計略であった。

 

 全てを計算づくで行い、相手さえも利用する。それがソルトのやり方だったのだ。

 

 

「シュガーと一緒ではこうはいきません。あの子はいつも、想定外の行動をする………でも、今日は違います。もうあなた達の動きは計算済みです。」

 

「くるよ! 気をつけてきらら!」

 

「分かった! 皆、力を貸して……!!」

 

 

 きららが『コール』を使うべく集中したのと、ソルトがハンマーを持って襲いかかったのは同時であった。

 振り下ろされたハンマーは、きららにまっすぐ向かっていき―――

 

「させないよっ!」

 

 呼び出されたクリエメイト―――はじめの持っていた盾に遮られた。小さな体躯に見合わぬハンマーの衝撃が、盾を通してはじめの全身に響く。

 

「えいっ!」

「スキありっ!」

 

 しかし、はじめの影から、ソルトに向かって攻撃した者がいた。

 青葉とねねである。

 

 青葉の魔法の波とねねのハンマーの一撃をジャンプでかわし、距離を取るソルト。

 今度はハンマーをぶん回し、遠心力を利用して風を巻き起こした。

 そのつむじ風が、魔力を持って襲いかかる。甲高い音と共に迫る風の刃達を、はじめの盾が受け止める。そのしかし、その風の刃の大きさと数は、『コール』で強化されているとはいえ、一人のクリエメイトが受け止めきれるものではなかった。

 

 ソルトは、はじめと後ろにいた二人のクリエメイトの消滅を予見していた。しかし、風がおさまった後には、はじめが盾を構えたままきらら達の前に仁王立ちしていたのだ。己が計算ミスを犯したのかと再演算を行うも、答えはすぐに明らかになった。

 

「はじめちゃん、無理しちゃ駄目よ」

 

「でも助かりました、遠山さん!」

 

 はじめの後ろで、僧侶の力を得た遠山りんが、杖の先端を光らせていたのだ。はじめがソルトの風の刃を一身に受けつつも、その後ろでりんがはじめを回復していた。ソルトの攻撃を受け切ったカラクリを一瞬で理解したソルトは頭の中で舌打ちする。

 

 

 しかし、ここで手詰まりになっていては、ソルトは「計算高き賢者」と呼ばれてなどいない。彼女には、現在の不利になりつつある盤面をひっくり返す秘策を既に講じていた。

 

 

「っ………なかなかやりますね、召喚士。でも、すでにあなたについては解析が完了している。

 その力はクリエメイトの力。あなた自身が戦えるわけではありません。」

 

「!!」

 

「つまり……ソルトをあなたが捕まえることはできないのです。」

 

 

 ソルトはそう言うと、突然背を向けて、素早い動きで水車小屋の中に走って逃げていったのだ。中に入ると、ご丁寧に入り口の戸を閉めた。

 ソルトの解析は、ほぼ的を射ていた。「コール」は、クリエメイトを魂の写し身として召喚する魔法ではあるが、成立するにはクリエメイト側の同意が必要になる。つまり、クリエメイトが「コール」の呼びかけに拒否した場合、召喚は失敗してしまうのだ。それを理解した上で「あなたは戦えない」と言えば、それはある種の挑発になりうる。

 

 

「アイツ水車小屋の中に逃げていったぞ!」

 

「追いかけます! ついてきてください!」

 

「待て、ソルトのことだ。何か企んで―――」

 

 逃げていったソルトの背を追いかけるきらら。マッチはソルトの計略を警戒して引き留めようとする。それはマッチの本心ではあるが、()()()()()でもあるのだ。

 

 

『ソルトが現れたら、私がわざとソルトの罠に引っかかりたいと思います。』

『危険すぎるよ、きらら! 致死性の罠があったらどうするつもりだ!』

『ひっ………致死性って………!』

『考え直してくれ、きららさん!』

『大丈夫です、ユー子さん、ナギさん。クリエメイトがかかる可能性を考えると、危険な罠は仕掛けられないと思います。クリエメイトが一人でも欠けたら、クリエを集められないから……!』

『そう……でしょうか……?』

 

 自己犠牲ともいえるこの作戦。結局、ランプとマッチは最後まであまりいい顔はしなかったものの、ソルトがきららを警戒している以上、仕方ないと判断した。

 

 しかし、罠にかからない事に越したことはない。きららはソルトによって閉じられた水車小屋の扉を開き、すぐに中に入ることはせず、何が飛び出してきてもいいように様子を伺った。時間がたっても何かが飛んでくる気配がないことを察したきららは、ソルトに追いつくために、室内に踏み出した――――――その時。

 

 

「あっ………!!!?」

 

 

 きららが踏み出した床が、消えた。

 

 

「ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!?」

 

 

「き、きららさんっ!!?」

 

 

 重力に従い、きららが落ちた先は、地面を掘った後の穴のようであった。

 

 

「き、きららさんが消えてもうた!? なんや、神隠しか!?」

 

「違う! 水車小屋に入ったところに落とし穴があったんだ!」

 

「なんて古典的な手だよ!」

 

 

 きららは、マッチに忠告された通り罠に警戒しながら入った。しかし……閉めた扉を開けた途端、何かが飛び出してくると踏んでいたのだ。マッチの危惧したように当たったら致命傷になりそうなものではなくとも、自分の動きを封じる何かが飛び出してくると思ったきららは、予想した罠がないことに安心して、「家の中に落とし穴がある」という可能性にたどり着けなかったのだ。

 

 

「トオルとマッチはソルトを探し! ウチらはきららさんを引き上げるわ!」

 

「ユー子、ナギ、大丈夫? 手伝おうか!?」

 

「大丈夫だトオル! こっちは任せろ!」

 

 

 とはいえ、きららが罠にかかった事は想定内。ユー子とナギは作戦の鍵であるトオルと空を飛べるマッチにソルトを任せ、きららを罠から出そうとする。しかし、思ったよりもずっときららを罠から引き上げることに戸惑ってしまっている。

 

(助けに行くか………?)

 

 トオルがそう考えた時、更なる予想外の事態が発生した。

 

 

「あれ、みんなどうしたの?」

 

「るん! 無事やったんやね!」

 

 それは、ユー子がるんを見つけたことがきっかけだった。

 るんは、いつもの様子でユー子に歩み寄ってくる。

 しかし―――

 

「おい、待てって。なんだかおかしいって。」

 

「そうだよ。だって―――」

 

 

 異変を最初に感じたナギとマッチが声をあげる。どうしたことかと残りのメンバーが顔を上げると……

 

 

「トオル、来てくれたんだー。」

「ナギちゃん、もしかして痩せた!?」

「えっとー、どこに行こうかなー。」

「ほらほらー、ユー子ちゃんこっちだよー。」

 

「多すぎるよ!!」

 

 

 そこにあったのは、るんが何人にも増えて、ランプやクリエメイト達に群がっている光景だった。

 

 

「帰ったら何食べようー? やっぱりお寿司かな。」

「どうしよう……源三さんが、動かないの……」

「バルサミコ酢~!」

「ポプテピピックに栄光あれ~!」

「ダーリン! 来ちゃった♪」

「それは残像だよ。」

「ふたりとも~! ふ、ふれんちですぅ~!」

 

 

「るん様が、いちにーさんしーごーろくななはちきゅう………ま、まだまだ増えてます!?」

 

「ソルトの変身魔法だ! この中の誰かが本物のるんだよ!」

 

「いくらなんでもこの中からすぐに本物を見つけるのは無理だろ!?」

 

「うっ………うぅ~………っ。」

 

「ど、どのるんが本物なん!? どないしたらええの!?」

 

 

 まるで忍者の影分身のように増えるるんに、ランプたちは困惑するばかりである。そうして手をこまねいている間に、るんの群れは一行をまるで逃げ道をふさいでいくかのように囲んでしまっている。

 

 

「まずい……囲まれた! 早く抜け出さないと!」

 

「でも、この中の誰かが本物のるんさんなんですよ!? 無理矢理抜け出したとして、もし傷つけてしまったら……!」

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃあないだろ!

 ……って、どんどん逃げ場がなくなってきてるよ!」

 

 マッチの言う通り、わらわらと群がるるんに皆がじりじりと追い詰められていくが、ランプの懸念のせいで誰もるんの群れにつっこむことができず二の足を踏んでいる。本物のるんを見分けられるきららはいまだソルトの落とし穴の中。このままでは、偽物のるんの群れに捕まってしまう。

 

 そしてそれは、ソルトの作戦の成功を意味していた。

 

 

「計算通りです……クリエメイトであるかどうかを見極められるのはやはり召喚士しかいない。

 ソルトの変身を見た彼女たちは、二人のるん―――本物とソルトが出てくることは想定したでしょう。ですが、その想定を超える状況、大量のるんを揃えれば動揺する……計算通りです。」

 

 本物のるんを見極められるのはきららだけであるが、彼女は既にソルトが仕掛けた落とし穴の中。

 もし、きららが行動不能になれば、残りの一行は囲まれるほどのるんの群れに動揺し、全ての判断が遅れる。

 それもまた、ソルトの計算内であったのだ。

 

「クリエメイトたちに逃げ場はありません。あとは捕まえるだけ……ソルトの勝ちですね。」

 

 作戦の成功を確信したソルトは、小屋の裏口で、ひとりほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ!! 皆さん! その中に本物のるんさんはいません! 本物は小屋の裏手ですッ!!!」

 

「……っ!!?」

 

 

 それと同時、きららが落とし穴の中からありったけの大声で叫んだ。

 

 きららは、落とし穴の中にいながら、パスを探って本物のるんの居場所を探り当て、それを仲間に知らせた。ソルトの作戦を、理解したから。

 本来ならば、ソルトがきららに目を向けている隙にトオルがソルトを捕らえる手筈だった。しかし、仲間達の困ったような動揺するような声しか耳に届かず、トオルやランプの作戦完了の合図が聞こえてこなかった。だから、なにか想定外の事態が起こったのだろうと考えていた。

 そこに、わずかながらソルトの声が聞こえてきた。「計算通り」とか「大量のるん」とかしか聞こえてこなかったが、それで十分。きららは、すぐさま本物のるんを探し始めたのだった。

 

 

 そして、その声は、仲間たちにしっかり届いた。

 

 

「今の聞いたか!?」

 

「つまり…これみんな偽物のるんなん!?」

 

「………言ったよね。」

 

「と、トオルさん?」

 

「次、るんちゃんを騙ったら――――――ヤるって。

 

 

 きららの言葉が聞こえた瞬間、トオルが怒気―――否、殺気を放ち始めた。

 

 

「………何、この数……。その分、何倍にしても怒っていいよね?」

 

「あ、ああ……うん……」

「え、ええんじゃないかな……」

「こ、こ、これがトオルさんの本気……!」

「凄まじいな、コレは……」

 

 側にいた、ランプ達ですら怯んでしまうほどのものだ。

 ならば、トオルが殺気を向けた対象である、るんの偽物達が感じるプレッシャーの程は?

 

 

「え…えっと………」

 

「くー!」

「くー! くー!」

「くー!!」

 

「こ、こいつら…みんなクロモンだったのか!?」

 

 怒りを向けられたるんの偽物達は、みんな正体―――クロモンの姿を晒して、一目散に逃げ出していく。

 

 

 

「お、おまえたち動揺するんじゃありません! 逃げるんじゃありません!

 それではソルトのかけた変身が解けてしまいます! 他者の変身はソルトのとっておきなんですよ!」

 

 トオルが怒気だけでクロモン達を震え上がらせた様子を見て、我先に逃げ出すクロモン達を引き止めるソルト。しかし、トオルがよほど恐ろしかったのか、クロモン達は一匹たりともソルトに耳を貸そうとしない。

 

「この秘策に対応出来るわけがありません! それに戦力ではソルト達の方が勝って……」

 

 

「………それで?」

 

「ひっ!!?」

 

 

 ソルトの肩に手が置かれる。

 油の切れたブリキ人形のようにぎこちなく振り返ると………そこには、笑顔のまま、オーラとして具現化する程の怒気を放つトオルが。

 

 

「なんで―――るんちゃんを騙ったの……?」

 

「そ…それは……その……」

 

 

 あまりの怒りのオーラに、流石の賢者ソルトも、どうする事もできず。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさーーーーい!!!!!!」

 

 

 トオルに謝る事しか出来なかった。

 こうして、きらら一行と八賢者ソルトの戦いは、きらら達に軍配が上がった。




キャラクター紹介&解説

きらら&ランプ&マッチ&ナギ&ユー子&トオル
 ソルト戦に一日空けていたので、ソルトがしてくるであろう作戦を予測していた主人公一行。しかし、家の中の落とし穴やるんちゃんが大量に出てくることは予想できず、だいたい原作通りの流れに。トオルについては、「お前をコ□す」とは言わせませんでした。だって自爆趣味のパイロットじゃあないんだもの。

村の少女
 原作では、きらら達にクロモンを追い払ったお礼とるんちゃんの情報提供をした地元のロリ。拙作では、「長いオレンジ髪をした、ユー子ばりにスラッとしたお姉さん」に何か言われたようだが……?

ソルト
 原作通りに敗北を喫した八賢者。しかし、このまま原作通りの流れを組んでも面白くないので、次回以降、大幅に流れを変えたい所。



「オレンジの長い髪をした、綺麗なおねえさん」
 村の少女に、『ランプという少女の手助け』をお願いしたという謎の女性。彼女の正体も意図も、全てが謎のままである………今のところは。

るんの大量発生作戦
 ソルトが考えついた、ランプとクリエメイトを足止めしながら確保する為の作戦。偽物のるんの中には、るんの声を担当している福原女史の中の人ネタをいくつか仕込んでおいた。これは完全に作者の遊び心ではあるが、るんならどれも大体言いそうではある。

とおる「るんちゃんは『ダーリン』なんて言わない…! 『ダーリン』を作らせない…!」
作者「え”ッ!!? あ、そ、そうか………と、トオルがダーリンだもんね…」
とおる「は?」
作者「ひっ!!」



あとがき
 次回は『ソルトの策略/発明王ローリエ その③』をお送りします。
 ―――ようやく、きららとローリエが対峙するぜッ!!!(予定←)

先日のフェンネルのイベクエにて、フェンネルの出自に公式と拙作で違いが出ました。公式は流浪の剣士。拙作は騎士の家の令嬢です。この違いはもうこのままでいきたいと思います。それは兎も角、皆様はどっちのフェンネルがお好みでしょうか?

  • 流浪の剣士フェンネル(公式設定)
  • 騎士の家の令嬢フェンネル(拙作設定)
  • どっちも好き。上下などない。
  • むしろ差を作りまくれ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。