きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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“目の前で、誰かが死にかけていたとしよう。貴方なら、どうするだろうか? 俺の知っている世界なら、十中八九みんなが我関せずの態度で無視するだろう。俺はそうなりたくない。絶対に。 ”
 …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
  第5章・草案より抜粋


第40話:呪いの裏の不死鳥

 禁呪オーダー。

 

 別の世界から、クリエメイトの実体を直接召喚し、クリエケージなどの楔で縛り付ける大魔法。

 呪われたソラを救う為に、クリエメイトから大量のクリエを奪う事を考えついた時に、必要になる魔法。

 

 そんな大魔法がなぜ、私以外の者の手によって行われているのだ……!!?

 私は、街道の中間点に出来上がっていく、()()()()()()()()()()()()()を信じられない気持ちで見つめていた。

 

 

「アルシーヴちゃん。俺……ちょっくらあそこ行ってくる」

 

 すぐさま行動しようとしたローリエの手を掴む。

 こんな事態が起こってなお、迷わず動ける彼を評価したいが、ちょっと待ってほしかった。

 

 

「ま……待て、ローリエ……」

 

 この男は、一人で何でも出来るのだろう。幼い頃からそうだ。ソラが盗賊に攫われたあの日も、私に何も言わずに助けに行った大馬鹿だ。

 今回の件も、一人であのカジノに乗り込むに決まっている。

 

「まさか、一人で行くつもりか…?」

 

「あの建物さ……例の件が関わってるだろ、確実に」

 

「!!」

 

「俺だけで何とかする。それとも……相棒にハッカちゃんが来てくれるのか?」

 

 それを言われると辛い。

 ソラの封印については、私とローリエの他にはハッカしか知らない。しかし、ハッカは夢幻魔法と種族の危険性から秘蔵されている。流石に彼女を連れ出す訳にはいかない。だからと言ってソルトに話すには重大過ぎる秘密だ。

 

 

「……ところで、このローブの少女は?」

 

「そう言えば、ソルトも気になっていました。彼女は誰なのですか?」

 

「あー……えっと…」

 

「アリサです。行商人だったんですけど、大雨でみんなバラバラになっちゃったんです。」

 

「そうだったのですか。」

 

 黒いローブの少女が名乗ったのをソルトが納得した所で、ローリエが私にだけに聞こえる小声で再び呟く。

 

「……例の件の重要参考人だ。丁重にな。」

 

 ―――と。

 なるほどな。私達は帰って、アリサという少女からソラの事件の犯人について訊けということか。その間にあの建物はローリエが調査する、と。

 

 勝手で、ずるい男だ。

 お前はそうやって、進んで独りになろうとする。まぁ……彼に単独行動を命じている私が言えたことではないがな。

 

「出来るだけ早くに、助っ人を送る。それまで、無理はするなよ」

 

「俺は無理しないさ」

 

 最後に釘を刺すと、返事をしたローリエはさっさと山道を降りて行ってしまった。

 

「アルシーヴ様……良いのですか?」

 

「釘は刺しておいた。すぐに助っ人を送るためにも、一旦神殿へ戻るぞ。……それから、アリサも、私達について来てくれ」

 

「分かりました」

 

 

 出来るだけ早くローリエの助っ人を確保する為にも私達三人は、すぐさま転移魔法を使い、神殿まで戻った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 神殿に戻ってきた私は、まずソルトに任務終了と待機の旨を伝えて帰らせた後、アリサと共にソラが封印されているソラの展望室へ向かい、入り口の鍵を掛けた。

 

 

「さて、ローリエからはソラ様の事件の重要参考人と聞いている。話せる事を話して欲しい。」

 

 適当な椅子を二つ見繕って片方に座ると、アリサも空いている椅子に座る。そして、ローブのフードを取ると、きっと前を向いた。

 

「えっと……私は、呪術師のアリサ・ジャグランテと申します。

 この度は……兄が、ご迷惑をおかけ致しまして、誠に申し訳ございませんでした。」

 

 そうして、礼儀正しく頭を下げる。

 しっかりした礼節を持っている事に舌を巻きそうになりながらも、少しずつ情報を引き出していく。

 

 

「『兄が迷惑をかけた』というのは……?」

 

「ソラ様が呪われたのはご存知でしょうか? 兄がその呪いをかけた、と告白しまして………」

 

「証拠はあるか?」

 

「はい……これを…………」

 

 アリサは、持っていた袋から、虫――いや、ローリエが作った虫型魔道具だな。それを取り出し、四角い箱と繋げた。ただ、虫の形が形なのか、汚物でも触っているかのようにつまみながら扱っている。

 

 

「……………その魔道具の形状に不満があったら言ってくれ。あのバカにきつく言っておく」

 

「お気遣いなく……」

 

 無表情でそう答えながら四角い箱のスイッチを入れると、部屋の壁に映像が映し出された。

 

 

『これは………!!? すごい作りだな……!』

 

 それは、木製の内装をバックにし、興味深そうにこちらを覗く、茶髪の男の映像だった。

 

「……この男が?」

 

「はい。兄です。」

 

『これを作った人が聞いてくれることを期待して、メッセージを残したい。

 きっと、あなたがこのメッセージを聞いている頃には、私はもう死んでしまっているだろうから』

 

 アリサに目配せをすると、悔しそうに首を振る。どうやら、アリサの兄・ソウマ氏からはもう話は聞けないようだ。

 映像へ再び目を向けるとこちらに向かってソウマ氏は語り始めた。

 

 妹の命を人質に取られ、ソラ様に「クリエが減る呪い」をかけたこと。

 自分を脅してきた女が、「不燃の魂術」という禁呪をその身に施していること。

 「不燃の魂術」は、不死身になると共に、肉体年齢を操作することが可能になる呪術であるということ。そして、それを身に宿した者とそうでない者の見分け方。

 ……そして、ソウマ氏を脅した女の目的が、エトワリアを滅ぼすこと。

 

 

 映像の彼の、必死な顔からして、彼が本気で、誰かに伝えるつもりでこのメッセージを残したことは明らかだ。

 

 

「実行犯の裏の黒幕に、不燃の魂術か……」

 

 

 はっきり言って、衝撃的もいいところだ。つまり私は、この「エトワリアの滅亡」を企む女とやらに体よく利用されていたという訳だ。なんと、舐めた真似をしてくれたものだ。

 それに、「不燃の魂術」が関わっていたとは。術の性質そのものは全て知っていたが、ここで出てくるとは思わなかった。

 黒幕の女がエトワリア崩壊を目論んでいるのであれば、先程見たあの「オーダー」も、この黒幕、もしくはその配下の者が行ったことだろう。

 

 

「情報提供、感謝する。貴方が持ってきた情報は、極めて有用なものだった。」

 

「いえ……顔を上げてください、筆頭神官さま。私としましても、兄の仇を討ちたい一心で、ここまで参りましたから」

 

 そう言うアリサの顔は、まさに真剣そのもので、兄を殺めたのであろう黒幕の女に対する殺意をひしひしと感じる。

 

「現在、ローリエがあの建物を調べている。アリサには、ここで待機して貰いたい。護衛は付けよう」

 

「いいえ、筆頭神官さま。それよりもっと良い提案がございます」

 

 

 黒幕の女とやらは、ソウマ氏を口封じしたことから、アリサも口封じをしに来ると踏んで、神殿で守ろうと発言したのだが、アリサはそれを蹴って予想外の提案をしてきた。

 

 

「ローリエの助っ人に私を選んでください」

 

「……それが何を意味するのか分かっているのか?」

 

「勿論です。」

 

 ローリエの助っ人にアリサを選ぶこと。それは、保護したばかりのこの少女を神殿の人間として扱うことであり、黒幕の女に狙われる危険性を高めることでもある。

 

「……許可できないな。何故、そんな事を考えついた」

 

「私が兄の仇を討たずしてなんとすべきか、考えた結果です。それに私は天涯孤独の身。未練などありません」

 

 

 私に宣言するアリサは、どれほど凄まじかったか。瞳には復讐の炎が宿り、威圧はシュガーやソルトと同年代とは思えない程に大きかった。何が彼女をそうさせたのか。

 

「……ローリエの指示には従え。独断専行した結果、命の危機に晒されても庇い立てはしないからな」

 

「…………ありがとうございます」

 

「では最初の仕事だ。転移魔法は使えるか?」

 

「は、はい、一応………」

 

「なら良い。実は私は、あの建物を知っている。今から言う情報をメモして、ローリエに伝えて欲しい。」

 

「はい」

 

 

 小さな体に見合わぬオーラに押される形で、私はそう答え、突然現れたあの建物の情報を教えた。

 とはいえ、アリサはまだ不確定要素だ。今回の件を通して、使えるかどうかを判断しなくてはならん。

 ソラの呪いの裏で暗躍する不死鳥の女。女神の復活の邪魔はさせぬぞ……!!

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ……油断していなかったと言えば嘘になる。

 思えば、あの時から様子がおかしかった。ぼやける視界で、おぼつかない思考回路で、痛みに耐えながらさっきまでの事を思い出していた。

 

 

 

 いつも通り、バイトの為に店に来たと思ったら、周りの景色がガラリと変わっていた。

 

 フローリングの床は、赤とオレンジが基調のカーペットの床に。

 蛍光灯の白色電灯は、暖色系の光を放つシャンデリアに。

 木製の机と椅子は、ルーレット台と毛皮(ファー)がついて、より豪華に。

 

 自身が場違い感を感じるほどの高級感と落ち着いたオトナな空気に戸惑うばかりで。

 それでも奥へと歩いていったのは、見慣れない空間を確かめる為なのか…見慣れた、けど安心しそうなあの店を探したからなのか…それともただ、誘虫灯に蝶や蛾が誘われるかのように、なんとなくだったのだろうか。

 

「くーー!!」

 

 そこで出会ったのは、二本足で立つ、赤い目をした黒い猫のような愛らしい生き物。私を見つけると、興奮したようにこっちに向かってくる。

 ……そして。

 

 

「くーー!!!」

 

「ぐっふ………!!?」

 

 

 私の鳩尾(みぞおち)に、体当たりをかました。

 それは、あの可愛らしい見た目からは到底想像出来ないような威力で。

 軽自動車あたりに()ねられたら、こんな感じなんだろうな、って思える程に強烈で。

 私のお腹が、あっという間に熱くなった。

 

 あり得ないくらいに、体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。

 

 

 全身の骨が痛む。

 口の中が鉄の味でいっぱいになる。

 足腰が言う事を聞かない。

 視界までぼやけてきた。

 

「くー!」「くーくー!」「くーー!」

 

 いつの間に増えたさっきの猫たちのくーくー煩いはずの声が少し遠くなってきて、私もう死ぬんだ、って思った。

 

 

 その時。

 

 バンッ! バンッ!

 

 何かの破裂音のような音が聞こえた。

 

「くー!?」

「くーー!」

「くぅっ!?」

 

 目の前でぼやけた猫たちが次々と消えていく。

 夢でも見ているのだろうか?

 

 

「もう大丈夫だ、お嬢さんッ!」

 

 声が聞こえてくる。男の人の声だ。でも店長の声でも秋月くんの声でもない。誰だろう?

 

「何故って? ……俺が来た!! もうちょいの辛抱だ、間に合ってくれよ……ッ!!」

 

 

 お腹が温かい。

 さっきの猫の突進とは違う。心の底から暖まるような、安心できるものだった。

 

「あな、たは………」

 

 やっとの思いで顔を向けると、かろうじて明るい緑の髪の男性が見えた。まだ不安そうな表情だ。

 

「良かった。だが、まだ喋らないで安静にした方がいい。回復魔法をかけたばっかりだ。」

 

 魔法? そんな物があるのでしょうか? それとも、夢だから何でもありとか?

 でも、それを聞いて、助かったと確信したためか、急に睡魔が襲ってきた。

 

「『ブレンド・S』のスティーレの皆がやって来たっつーのか……!」

 

 意識を手放す直前、彼がなにか言った気がしたが、聞き取れはしなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 時は少々遡り。

 ローリエとアルシーヴ、ソルトとアリサが、急激に造られていく巨大な建物目撃した頃。

 その「急造されたカジノのような建物」内………その、最深部のオーナールームにて。

 

 黒革のベンチに座る二人の人間が密談を行っていた。

 

 

 一人は、オレンジの髪を腰まで伸ばし、高級感溢れるローブを身に纏った手足のスラッと伸びた美女。

 

 もう一人は、身長190センチほどもありながら、明らかなメタボ体質と言っても過言ではないほどに丸々と太り、成金趣味の服装をした大男。

 

「『オーダー』はうまくいったみたいですねぇ。」

 

 女は上機嫌に言う。しかし、男の方はその女の顔をチラチラと見ていて、身長差・座高差ともに男が勝っているのに、女の顔を伺っているかのようだった。

 

「しかし……『オーダー』を使った魔術師三人がクリエ枯渇で死んだんだぁな……アルシーヴの魔力の総量はバケモノなんだぁな………!」

 

 男が締まらない口調でそう報告すると、女はフンッと鼻を鳴らす。

 

「アナタの雇った魔術師がそれだけ木っ端だったってことじゃあなくて?」

 

「うっ……反論できん…。でも、『オーダー』は成功。クリエメイトもじきに始末するんだぁぁぁな!!」

 

 女の言ったことは、思い切り的を射ていた。男は、この時のために金にモノを言わせ、魔術師を雇ったのだ。しかし……報奨金があまりに法外だったため、普通の魔術師には怪しまれたのだろう。その結果が、雇った魔術師三人の「オーダー」の反動による自滅だ。

 図星を突かれた男は、追及されてはたまらないと、これでもかと強引に話を逸らした。女はそのあまりの露骨さに眉を(ひそ)める。

 

 

(……しょせん、金を稼ぐしか能の無い俗物か。配下に加えたのは失敗だったかもねぇ)

 

 彼女は、男を全く信用していなかった。しかし、()()()()()で金が不足していた時、工面して貰ったのも彼だ。取り返しのつかない短所が彼女に露見した時、既に男は彼女の幹部だったのだ。

 女は、自分に人を見る目がなかったと諦念のため息をつきつつ、彼に命じた。

 

 

「それじゃ、ここは頼みますよ、ビブリオ。クリエメイトと召喚士、そして賢者。出来るだけ多くの邪魔者の排除を任せたわ。」

 

「お任せください、ご主人様!

 オラとご主人様に歯向かう奴ら全て、このビブリオが始末してやるんだぁぁぁな!!!」

 

 

 誇らしげに大笑いする男には、オーナールームから転移した、不死鳥の如き女がどのような表情をしていたのかなど、知る由もなかっただろう。

 




キャラクター紹介&解説

アルシーヴ
 アリサから事情を聞き、黒幕の不死鳥を認識した筆頭神官。アリサからの提案は飲み込んだが、今回の「オーダー」でできた建物を知っているようで、遣いを任せた。黒幕に備えこそするだろうが、「オーダー」を行わなければ、ソラは封印されたままだろうし、エトワリアが滅ぶだけなので、より慎重に「オーダー」を行うだろう。

アリサ
 黒幕への復讐に燃える呪術師の少女。アルシーヴへ要求を押し通す代わりに、実力チェックを課されている。なお、本人は知らない模様。

オレンジ髪の女&メタボ男(ビブリオ)
 ともに拙作オリジナル敵キャラ。ビブリオの詳細は次回以降にて。



目の赤いクロモン
 とあるクリエメイト視点で登場した、クリエメイトを害するクロモン。クリエメイトを見つけるなり興奮して攻撃をしかけてくる。どうも様子がおかしい。

とあるクリエメイト
 ビブリオが金で雇った魔術師の命がけ(強制)の「オーダー」で呼び出された女性。攻撃性マシマシのクロモンに殺されかけるが、明るい緑髪の謎の男性(ヒーロー)によって助けられる。彼女が誰なのか? ヒントは撒いておきましたが、正解は次回のお話と、次章名とともに発表する予定。

もう大丈夫!
 数年前から一躍有名になったアニメ「僕のヒーローアカデミア」に登場するヒーロー・オールマイトの決め台詞。CV三宅さんから発せられるそのセリフは、聞いた人に安心感を等しくもたらす。



△▼△▼△▼
ローリエ「……クリエメイトが召喚された。まずは一人、かろうじて間に合ったが、他の人の命も危ないな、コリャ……! 皆を助けるため、出し惜しみはナシで行くぜ!
 そして、カジノにきららちゃん達も合流。ちょびっとばっかし気まずいけど……クリエメイトのため、贅沢は言ってられねぇってか!?」

次回『一人目のクリエメイト』
ローリエ「ぜってぇ見てくれよな!」
▲▽▲▽▲▽

次のうち、もっとも皆さんが好きな人は?

  • 大宮勇
  • 佐倉恵
  • 二条臣
  • 飯野水葉
  • タイキックさん(♀)

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