きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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“――なにジロジロ見てるんですか? この駄犬”
 …桜ノ宮苺香


第47話:ポジティブ・レボリューション

 目の前で起こった光景に、全く理解が追いつかなかった。行動ができたのは、救出したにも関わらず苺香さんのパスが不安定でおかしかったからで。

 

 

「今の小娘は、オラが『死ね』と言ったら死ぬ。普段なら出せない力で、躊躇なく自分のノドをかっさばくだろぉぉな。」

 

 

 感情が消え去った表情と赤い瞳でこちらを見つつ、ナイフを構える苺香さんを見ても、目の前のビブリオという人が何をしようとしているのかが理解出来なかった。

 

「命令だ小娘。

 ―――賢者を殺すんだぁぁな。勝てそうにないと判断したら、すぐにノドをかっ切っても構わん。

 オラは……こっちのガキ共をなぶり殺すッ!!」

 

 ビブリオの命令と共に、苺香さんがローリエさんに襲いかかる。ローリエさんは、彼女の刃に当たらないように、かつ彼女を消耗させないように攻撃を受け流す。

 苺香さんのナイフの使い方は、素人そのもの。ただひたすらに急所を狙っているようで、分かりやすい。ただし、普通のクリエメイトが繰り出すよりも素早く攻撃しているからか、二人の戦況は硬直状態にある。おまけに、自分の首にナイフをつき立てられないように気を配らなければならない。

 

 

「きらら、前!!!」

 

「―――っ!!」

 

 マッチの声にすぐさま乃莉さんと一緒に防御態勢を取る。

 ――直後、大きな棘つきの鉄球が、乃莉さんの盾に食い込んだ。

 

 

「ううーーーっ……!!」

 

「くっ……!!」

 

「うおおおおおおらァァァッ!!」

 

 くるみさんがビブリオに攻撃するも、直前で弾かれてしまう。

 

 

「チッ……! 青葉!」

「駄目です! 魔術師もバリアの中にいます!」

 

「無駄だ! オラが雇ったこの魔術師がいる限り、オラに傷はつかねえんだぁぁな!!」

 

 確かに、魔術師のバリアが攻撃を防いでいるせいで、こちらからの攻撃はほぼ通用しない。

 

 

「きらら、あんなハイクオリティのバリアをずっと出し続けられると思うかい?」

 

「マッチ?」

 

「……あ! あの魔術師、目が赤いです! つまり、洗脳されて力を使い続けてるということ………!?」

 

「あぁ。『やめろ』と命令しない限り、あの魔術師は倒れるまであぁやってバリアを出し続けてるだろうさ。」

 

「だからどうしたんだぁぁぁぁな、このクソ雑魚どもが!!」

 

「させない!」

 

 

 ヒントをくれたランプとマッチ。二人の間に割って入って、魔力のバリアでビブリオの攻撃を弾く。

 

 

 ……それにしても。

 

「傭兵さん達といい苺香さんといい、みんな『サブジェクト』で無理矢理従わせて……人をなんだと思ってるんですか!」

 

「ガキが、偉そうに説教か!? なら教えてやるんだぁぁな……………人は、自分(オラ)がのし上がるための道具だ!踏み台だ!!かませ犬だ!!!」

 

 

 乃莉さんと一緒に盾でモーニングスターの猛攻を弾いていく。

 

 

「人間、腹の底で何考えてるか分からねぇだろ!? だったら使い倒して、踏みつけて、二度と歯向かえねぇように調教する! それが()()()()()()使()()()なんだぁぁな!!!!」

 

 

 

 

 ――――――プチン、と。

 

 

 不快な程に大笑いするビブリオの言葉は―――私の中の何かを断ち切った。

 

 

「―――っ!!

 あなたみたいな人を……許すわけにはいかない!!!」

 

 

 全身の血液が沸騰したみたいに熱くなる。まるで、砂漠で男盗賊と戦ったときと同じみたいだ。

 それに呼応する形で、体が軽くなったような気がした。

 

 まっすぐビブリオに向かうと、いつもより早く走ることが出来ている事に気づく。

 

 

「バカめ、ぶっ潰れるんだぁぁな!!」

 

 

 ―――私に襲いかかる鉄球が、何だか遅い。

 

 

「「「!!?」」」

 

 

 最低限の動きで躱せば、ビブリオだけでなく、ランプやマッチや、『コール』した三人も驚いた顔をしていることに気づく。

 目の前のビブリオの顔を蹴ってみれば、直前でなにかに止められた感覚こそあるものの、ビブリオをよろめかせることに成功していた。

 

 

「なっ……!? なんなんだァァァな今のはッ!!?」

 

「きららさん、今……!」

 

「え?なに? 何かあった、かな?」

 

「……物凄いスピードでビブリオに近づいていってたよ。目で追えなかった。いつの間にそんな技を覚えたんだい?」

 

 

 着地してからランプとマッチに聞けば、そんな風に返ってくる。

 目で追えないスピード? それって、まるでカルダモンみたいだ。

 私自身、自分を強化する力なんて心当たりがない。でも、もし今この場で覚えたのであるならば、これ程心強い力はない。

 

 ソルト戦から、私が言われていたことだ。『コール』だけでは、私自身が無防備になってしまう。それを解決できるかもしれないからだ。

 

 

「ディーノさん! こっちへ来てくれ!」

 

 

 そんなことを考えていると、思わぬ方向からディーノさんへ声がかかる。声の主を見てみれば、それはローリエさんだった。苺香さんの持っているナイフをはたき落とし、明後日の方向へ蹴り飛ばしながら、新たにナイフを取り出そうとしている苺香さんの動きを警戒している。

 

「どうして!?」

 

「苺香ちゃんを救える可能性がある!」

 

 麻冬さんが問えば、まるで確信を得ているかのように答えが返ってくる。ローリエさんにとって、ディーノさんが苺香さん奪還の切り札に見えるのだろうか。

 

 

 

「………ディーノさん、お願いします」

 

 

 私も、ローリエさんの考えには賛成であり、同意見です。何故なら……パスが、そう伝えているから。

 相変わらず感覚的な話になっちゃうけど……苺香さんとディーノさんの間には、特別な絆がある、ように思う。その力ならば、もしかしたらビブリオの『サブジェクト』をも何とかすると思ったから。

 

 

「えええええっ!!? 本気デスかきららサン!? わ、ワタシにはそんな……」

 

「行ってやれ店長。桜ノ宮を救えるチャンスなんだぞ?」

 

「苺香さんが大好きな店長ならぁ、愛の力でなんとか出来るんじゃあないですか〜?」

 

「店長ならできるって!」

 

「しゃんとしなさい、店長。男でしょ?」

 

「応援しています、店長!」

 

 最初は渋っていたディーノさんでしたが、秋月さんやひでりちゃん、夏帆さんや麻冬さんや美雨さんが背中を押してくれる。

 

 

「―――分かりマシたよ、行ってきマス!! 苺香サンを取り戻すために!!!」

 

 

 そんな声援に勇気を貰ったのか、ディーノさんは苺香さんとローリエさんの元へ走り出した。

 

 

「させるかってんだぁぁ―――ぬおおっ!?」

「あなたの相手は私です!!」

 

 もちろん、ビブリオが邪魔しようとするのは想定内。さっきの強化の魔法とクリエメイトの攻撃で、少しでも注意を逸らします。

 

 

「オラの、邪魔をっ、するなぁぁぁ!!」

 

「それは……こっちの台詞ですッ!!」

 

 ディーノさんが勇気を振り絞って苺香さんの元へ駆けつけていくのを、こんな人間に邪魔されたくない。

 

 その一心で、目の前の巨漢に何度も攻撃を仕掛けていく。

 攻撃といっても、ダメージは与えられなくていい、ディーノさんに攻撃が飛んでいかないように、攻撃するふりをして防御であったり注意を逸らしたりするタイプのものだけど。

 

 

「そらっ、最後の一本! 今だ、ディーノさんッ!!」

 

 やがて、ローリエさんのその声が聞こえる。

 ビブリオのモーニングスターを弾き飛ばしてから声のした方を見れば、ディーノさんが苺香さんの元まで辿り着き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「苺香サンっ!!!」

 

 

 最後のナイフを手放されて、無防備になったのであろう苺香さんを抱きしめていました。

 

 それと同時に、ビブリオが指輪だらけの左手を苺香さんにかざす。

 

 

 

 

スティーレ(ワタシ達)には貴女が必要です、苺香サンっ!!!」

道具(お前)は黙ってオラに従えぇぇッ!!!」

 

 

 二人の男性の声が、部屋に響いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 そこは、今までで見たことのない、生まれ育った日本家屋とはまるで違う、洋画のような世界でした。

 白と金色と赤色が上品に彩られた洋室の中、わたしはただ椅子に座り、目の前の紅茶から立ちのぼる湯気を見ている。何度か席を立とうと思いましたが、席を立つ理由がどうしても思い出せず、立ってもすぐに席に座ってしまいます。

 そこに、突然謎の音が入り込んできました。

 

 

あるところに、ひとりの女の子がいました。

 

 

 同時に、前方にモニターが現れ、映像が流れ出しました。

 それは、ひとりの女の子の物語でした。わたしはそれを、映画でも見ているかのような気分で見ていました。

 機械的だけれども、どこか温かいような声が、子供に絵本を読み聞かせる母親のように語りかけます。

 

 

女の子は和の伝統あふれるおおきな家で、蝶よ花よと育てられました。

 でも、女の子に友達はできませんでした。…それは何故でしょう?

 

『あの、■■■■■■さん……その顔は……』

 

『怖い、ですか? 笑顔のつもりですけど……』

 

『うっ…!』

 

【―――そう。その女の子は…目つきがとても悪かったのです。

 

私も仲間に入れてください!

 

『ひっ……ご、ごめんなさぁぁぁぁぁい!!』

 

『ええっ!?』

 

あまりに怖い目つきに、友達はみんな怯えてしまい…

 

『すげー! ■■■■■■の髪、静電気やべーぞ!』

『タワシウニだ!』

 

『ど……どうしてそんなことを言うんですか?

 

『ギャアアァァァアアアアアアアアアアアア!? 怖ええええええええ!!!』

『メデューサだ! タワシウニじゃなくてメデューサだ!! いやあぁぁぁぁぁ!!』

 

いじめっ子達も、その目つきに一言添えるだけでみんな逃げていきました。野良猫さえも、表情ひとつで逃げられる始末。

 

 

 ただ、物語の主人公になっている女の子に何となく見覚えがあるのが気になります。名前が聞き取れないのと顔と表情以外が真っ黒なシルエットになっているのもあり、どうして親近感が湧くのかがいくら考えても分かりません。

 

 

そんな彼女にも、夢がありました。

 海外旅行に行くことです。

 お金はありましたが、独りで何もできなくなる事を恐れて、自分でバイトをすることを決意したのです。

 

 

 そこからシルエットの少女は、バイトの面接を次々に受けていきます。

 ですが……なんと言いますか……。唯一見える目や口、その表情が、お世辞にも「爽やか」とは言えなくて、面接官さん達を威嚇しているように見えてしまいます。そんな面接時の表情が祟ったのか、結果はいずれも好ましいものではありませんでした。

 

 

来る日も来る日も、バイトの面接に落ちる日々。しかし一つの出会いが、それを変えました。

 

 

 その女の子は、バイトの面接に落ちたためか、ため息をひとつつきながら、喫茶店の窓を鏡代わりに目つきを見ながら悩んでいました。

 すると突然、喫茶店から金髪の男性が飛び出てきて―――

 

好きデス!!!

 

『えええええええええええええええっ!!!?』

 

 

 鼻血を出しながら女の子に告白したところで、フィルムが燃え尽きたかのように映像が消えました。

 なんだか微妙なところで映像が消えてしまって、不完全燃焼のような気持ちを味わいながらも、何か大切なことを忘れてしまっているような気がする。そう思っていると。

 

 

 

 

 

『外で大事な人が待ってますよ』

 

 

 どこからともなく私を呼ぶ声がしたのでそちらを向くと、そこには黒髪の和服美人がいました。

 

 

「…どちら様でしょうか」

 

『それはないでしょう!? 共に過ごした家族じゃありませんか!』

 

 

 家族。そう言われましても、こんな綺麗な身内なんていましたっけ―――

 

 

 

『桜ノ宮愛香(あいか)。苺香の姉ですよ』

 

「あっ――――――」

 

 

 和服美人が、わたしに抱きついてきました。その時に鼻をくすぐった香りや、不思議な温かさ。そして、愛香・苺香という名前。全てを体感した瞬間―――

 

 

 

 

 

 ―――じわっ、と。

 今まで忘れていた記憶が、脳裏に染み付くように蘇ってきました。

 

 

『さっきの物語は、今まで苺香が経験してきたものですよ』

 

 生まれてからの記憶。

 目つきで怖がられた記憶。

 髪の毛の静電気に関する、思い出したくないトラウマ。

 

『いやな記憶もあるみたいですけど、それ以上に良い記憶があるはずです』

 

 元気が貰えるような夏帆さんとひでりちゃんとの記憶。

 頼もしい先輩である麻冬さんや秋月さん、オトナな美雨さんとの記憶。

 店長さんとの出会いや、思い出の数々。

 

 すべてが戻ってきて、ようやく思い出せました。

 私が、スティーレのホールスタッフの()()()()()だという事に。

 

 

「お姉さん……!」

 

『思い出せたみたいですね? さぁ、戻ってあげてください。あなたの店長さんがそれを望んでいます』

 

「あの、どうして分かるんですか、私がここにいる事……?」

 

『私が「苺香が思う桜ノ宮愛香」だからです。厳密には愛香そのものではありませんが……私のこと、大事な家族と思ってくれてたんですね』

 

 

 お姉さんの言ったことはよく分かりませんでしたが、わたしは戻らなければならないみたいです。

 でも、テーブルと椅子と紅茶以外が気がつけば消えてしまって、周囲が真っ暗になっています。このままでは、どこへ行けばいいのかわかりません。

 

 

 

スティーレ(ワタシ達)には貴女が必要です、苺香サンっ!!』

 

「あっ………店長さんの声……!!」

 

『さぁ、声のした方へ行きましょう。椅子から立って歩くだけですよ』

 

 

 お姉さんが差し出してきた手を取ると、不思議と椅子から立ち上がろうとする気力が貰えて、気がついたら椅子から立って、お姉さんに連れられて真っ暗な道の中歩き続けていました。

 

 

「お姉さん、ありがとう、ござい、ます………!?)

 

 

 

 どういうわけか、言葉が喉から出にくくなり始め、全身に力が入らず立つことが少し困難になった時―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅーん………?」

 

「苺香サン!!」

 

「へっ!?」

 

 

 ―――わたしは、店長さんに抱きしめられていました。

 

 

「えと…は……離れてくれますか?

 

ブハァッ!?!?!?!?!?

 

「「「「「店長ーーーーーーーッ!!!?」」」」」

 

 ちょっと息苦しさを感じたのでそう言ったら店長さんが倒れました……

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 やった!……のか? これ。

 ディーノさんが苺香ちゃんに抱きついたと思ったら、鼻血を吹き出してぶっ倒れた。

 

 はたから見ればディーノさんが死んだようにしか見えないんだけど。そんでもって心配しているであろう苺香ちゃんの表情も「大丈夫ですか?(笑)」みたいな顔にしか見えないんですけど。

 

 

 俺が苺香ちゃんと戦っている時に思いついたのは、ディーノさんの力を借りる、いわば「苺香サンの愛を取り戻しマス!(声マネ)作戦」である。

 ビブリオに操られている状態の苺香ちゃんの攻撃は、一言で言うなら「センスがあるだけのド素人」であった。愛香ちゃん(お姉さん)が薙刀を使っていたこともあってか、磨けば日本武道はそこそこ良い所行きそう。まぁ、茶道や華道の方が似合ってそうだし、本人は外国好きだけどな。

 そんな素人の攻撃をかわしたり受け流したりするのは俺からすれば簡単。ジンジャーの猛攻の方が5000兆倍はキツかった。完成された武道の動きの瞬間火力が頭おかしいんだもん。カルダモンとフェンネルまでジンジャー側で参戦した時は地獄を見たね。

 

 ……話を戻そう。作戦内容というのは、俺が苺香ちゃんから武器をすべて取り上げる事から始まる。突き出してきた手からナイフを叩き落としたり、新たに取り出したナイフをしっかり持たれる前に叩き落としたり、隠し持っているナイフの予備(ストック)を奪い取って明後日の方向へ投げ捨てたりする。

 攻撃もそうだが、自害にも気を配らなければならなかったので精密な魔道具を組み立てる時以上に気を遣った。ゆえに、武装解除させる過程で苺香ちゃんの色んなところを触っちゃったのは勘弁してほしい。そんな余裕なかったし。

 で、次にディーノさんを呼んで、苺香ちゃんと対話させる。『サブジェクト』の解除条件はおそらく二つだ。

①術者の無力化あるいは魔道具の破壊。

②術をかけられた本人が精神的に解除。

 ①が魔術師バリアがあって不可能であった以上、②一択での解除となるが、これが途轍もなく難易度が高いと思われる。自力での脱出はほぼ無理だろう。故に、苺香ちゃんがスティーレで働くきっかけを作った店長(ディーノ)さんに助力してもらおうと考えたのだ。

 

 ディーノさんがこっちに来る際、ビブリオが邪魔してきたが、きららちゃんがそれを阻止する。その時点で、もしかしたら上手く行くのではと思った。

 『サブジェクト』を使うビブリオが苺香ちゃんの元へ向かうディーノさんを邪魔しようとしたということは、「もしかしたら洗脳を解かれるかもしれない」とほんの少しでも思ったからだ。

 

 

 

 ―――そして、ディーノさんが苺香ちゃんに抱きつき「貴女が必要デス」と言った結果が……

 

 

「はぁぁ……苺香サン…………」

「店長さん! しっかりーー!!!」

 

 

 ……これである。何ともしまらない洗脳解除だったが、俺が両手で(マル)を作ってみれば……

 

 

「「「「「「やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」」

 

 

 スティーレの店員とランプとマッチ、「コール」されたクリエメイトときららちゃんが湧き上がった。

 

 

「ありえない……ありえない……オラの『サブジェクト』が…あんな、あっさり………」

 

 皆が喜びに満ちる中ビブリオを見てみれば、そんな事をうわ言のように呟いている。そして、急に顔を上げ、左手の赤い宝石の指輪に右手で触れる。

 

 

「クソォッ!! こうなったら、召喚士達をこの『サブジェクト』で―――」

 

 

 すぐさまパイソンの引き金を引いた。ほぼ反射的であった。

 弾は魔術師のバリアに弾かれるかと思ったが、なんとバリアが起動することなく、ビブリオの左手の指と右の掌を貫き、指輪を弾き飛ばした。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 手ぇ! オラの手えええええええええええええええええッ!!!?」

 

 

 豚のような悲鳴をあげるビブリオをよそに、『サブジェクト』のトリガーになっていたであろう赤い宝石の指輪を拾い、ポケットにしまう。これでもう、『サブジェクト』を悪用することは出来ない。

 魔術師はどうしたかというと、いつの間にか倒れていた。近づいて軽く診てみれば、重度のクリエ不足に陥っている。死ぬ一歩手前で本能がセーブをかけ、気絶したのだろう。医療機関で治療を受ければまだ助かる。運のいい奴だ。

 

 ……さて、と。

 

 

「な、なにしてるんだぁぁな! そこのお前! 早く立ち上がって、バリアを張るんだぁぁな!! さっさと……ひっ!!!?」

 

 ようやくコイツを料理できるぜ。まだ苺香ちゃん達の帰還問題があるけど、それもコイツから聞き出そう。

 

「俺の質問に答えな、ビブリオ。『オーダー』した苺香ちゃん達を繋ぎ止めている()は何だ?」

 

「そ、それを言えば、た、助けてくれるんだぁぁな?」

 

「いいから早く言え」

 

「小娘の手錠!! 小娘の手錠を壊せば……クリエメイトは元の世界へ戻れるんだぁぁな!!!」

 

 苺香ちゃんの手錠?と振り返ってみれば、確かにまだ苺香ちゃんの手首に何か金属質な手錠がついたままだ。きららちゃんに目配せすれば、彼女が頷き、苺香ちゃんに近づく。きっと、きららちゃんの魔力で壊してくれるだろう。

 

 

「い……言った! 言ったからた、助けて…助けてほしいんだぁぁぁなぁぁぁぁぁ……」

 

 

 ビブリオが土下座のまま何度も己の頭を叩きつける。

 俺はそれを、ただ無表情で……無の感情でそれを見ていた。

 考えているのは「何を言っているんだコイツは?」という呆れだけ。

 

 

「俺は最初に言ったはずだ。『やめれば許してやる。苺香ちゃんに手を出したら命を取る』ってな………」

 

「ひっ………!?

 か…金をやる。オラの持っている、金……ぜんぶ……

 だ、だから………」

 

「所詮は金だけの男か…」

 

 ビブリオの命乞いには耳を貸さず、ただ目を見てやれば、ビブリオは目を逸らした。でもそれで十分だ。

 

 ビブリオにパイソンを向ければ、クリエメイトたちの息を呑む声が伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、俺の視界に、誰かの手が映り、パイソンを持っていた俺の手を掴む。その人を撃つのは待てよ、と言っているかのように。

 

 その手の主を追うように顔を向ければ、そこにいたのは、意外というべきか、予想通りというべきか。

 

 

「………ディーノさん」

 

「ローリエサン。ちょっとだけ、ワタシのお話にお付き合い願えマスか?」

 

 

 ディーノさんはさっき苺香ちゃんのドSに見惚れていたのが嘘であるかのような、真剣な表情で俺を見ていた。

 

 

「……………いいけど、鼻血は拭けよ」

「えっ!? ……アハハハ、申し訳ありまセン」

 

 ―――けどほんとしまらないなこの人。




キャラクター紹介&解説

桜ノ宮苺香
 姉の愛香の記憶とディーノの声によって、洗脳状態から戻ってきたCV.和氣さんのドS担当。中盤の苺香がいた不思議な空間や自分の事を忘れていた事はいわば「サブジェクトの効果」のようなもので、それから解放されていくさまを苺香本人の視点から書いた。この解説なしで伝わった人はスゴイと思う。なお、今回のサブタイトルは苺香ちゃんのキャラソンから採用。

桜ノ宮愛香
 苺香の姉。苺香とは違いタレ目で優しげな印象を与えるが妹のことになると薙刀を取り出して和風ホラーの殺人鬼みが増す。また天然Sなところもあり、ディーノをお茶&煎餅責めにもした。
 拙作では苺香の『記憶』として登場。『オーダー』で呼び出せなかったぶん、ここで登場させることができて満足。

ディーノ
 苺香サン大好きなCV.前野氏のイタリア人店長。彼の声がなかったら、苺香ちゃんがどこへ行けばいいか分からず、記憶の中で迷子になっていただろう。喜べ店長、苺香サンが助かったのは店長のお陰だぞ。あと、ローリエに話があるようだが……?

秋月紅葉&神崎ひでり&星川麻冬&日向夏帆&天野美雨
 ディーノの背中を押したスティーレの店員たち。彼らの想いもまた、苺香救出に役立った。

きらら
 ビブリオへの怒りから自強化の魔法を覚えた原作主人公。自分の速度を重点とした加速魔法は、かの『最速の八賢者』を彷彿とさせる。これが、のちの『きららフォワード』である(アウト)。

ローリエ
 苺香絶対傷つけないマンとビブリオ絶対殺すマンを兼ねる主人公。今回ばかりは大真面目に戦った。その過程で苺香の太ももに装備されていたナイフの予備を奪って捨てたり、苺香の手首を握ったり、苺香の手を払ったりしたが、いつものローリエの意図的な行動ではない。違うよ。

でぃーの「なに苺香サンにべたべた触ってるんデスか!」
まふゆ「うわぁ……そういう目で戦ってたの?」
みう「良くないと思います」
あきづき「お前…」
きらら「えぇっ………」
らんぷ・ひでり「「さいてーですね!」」
ろーりえ「違うっつってんだろお!?!?!? 今回ばっかりは大真面目だわ!!!!!」
かほ「信用ないよねー、ろーりえさん」

ビブリオ
 金が全てだと思った結果がこれだよ! な悪徳商人。負の成功体験を捨てなかった報いがここに来たというべきか、因果応報というべきか。金だけを集め、人をこき使い、操ろうとまでした結果が皮肉にも誰もいなくなってしまったのは、定番の小悪党の末路に似たものがある。



ジンジャーとローリエの特訓
 第6話参照。といっても具体的な表記はなく、修行していたという手抜きも良い所な修行でしかなかったが、ジンジャーは基礎練を積んでから実践というやり方くらいは踏んでいそう。もちろん、体力がなかった頃のローリエにとっては地獄そのもの。なお、ジンジャー&カルダモン&フェンネルの組手で大地獄を見た模様。特にフェンネルは日頃の鬱憤を晴らすが如く容赦がなかったらしい(ローリエ談)。



△▼△▼△▼
麻冬「ビブリオを倒し、苺香の手にはめられた手錠もきららが壊す。そろそろ私達もエトワリアや、きららさんやランプちゃんやマッチ、ローリエさんやアリサちゃんにもお別れを言わないといけないわね。
 ……この世界のことはきららちゃん達が何とかするべき事。でも…もし、『コール』で呼ばれたのなら……協力くらいはしてあげるわ。」

次回『オーダー(ブレンド)の終わり』
麻冬「おにーちゃん、おねーちゃん、またきてねっ☆」
▲▽▲▽▲▽

次のうち、もっとも皆さんが好きな人は?

  • 大宮勇
  • 佐倉恵
  • 二条臣
  • 飯野水葉
  • タイキックさん(♀)

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