きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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今回のお話は、個人的に書きたかった番外編です。
オーダーが終わった後のスティーレ、その様子はいつもより繁盛していて……?


※2021/6/12:本文の誤字を修正しました。誤字報告ありがとうございます。


第48.5話:インスタント・マイヒーロー

「…また来たの? 物好きね。いま満席だから、どこか空くまで待ってれば?」

 

 属性喫茶店・スティーレ。

 今日は、いつも以上にお客さんが多い。私は、そんな人達に、いつも通りにツンデレの接客をする。

 

「こちら、ご注文のエサになります。せめて綺麗に食べてくださいね」

「おにーちゃん、これが会計だよ!」

「もうちょっと待っててね。お姉さんとのや・く・そ・く。」

「注文は決まりましたか? みんなのアイドル・ひでりんが聞いちゃいますよ?」

 

 ―――みんなもなかなか、忙しそうだ。今日一日だけで、二日分のお客さんを、苺香ちゃんや麻冬さん、美雨さんやひでりちゃんが応対する。料理作る秋月くんと店長が大変そうだなぁ。

 

 

「夏帆ちゃーん! 注文いいー?」

 

「ひ、ヒトの名前を気安く呼ばないでよね!」

 

 私もまた、お客さんに引っ張りだこで、注文と料理を運ぶので忙しいんだけどね。

 

 

 ……そうして、客足が落ち着いてきて、私達は交代で休憩を取れるようになった時、ちょっと店長に聞いてみることにした。なんで、今日はこんなに繁盛してるのか。

 

「ねぇ、店長」

 

「なんデスか夏帆サン?」

 

「今日って、なんでこんなにお客さん多いの?」

 

「い、いえ……ワタシにはさっぱり。ただ、『昨日はどうしたんだ』とか、『臨時休業だったか』とかよく言われマシたが……」

 

 う〜ん、店長もこの事態の原因をよく分かってない、って感じなのかな。臨時休業の話はよく知らないけど。

 

「昨日、臨時休業だったの?」

 

「通常営業のつもりだったのデスが……昨日は、店が閉まっていて誰もいなかったそうなんデス。お客様から聞きマシた。ワタシも昨日のことはよく覚えていなくて……」

 

「なにそれ。昨日の事くらい、普通忘れなくない?

 昨日、私は学校だったし―――」

 

「昨日は祝日デスよ?」

 

「…え?」

 

 スマホを立ち上げ、カレンダーと画面を見比べる。今日が土曜日で、その日にちをカレンダーから探してみれば………確かに、前日が赤いインクで記されていて、祝日であることが伺えた。

 お、おかしいな。祝日なら、どんなゲームやったとか、何時まで徹夜したかとか、覚えているはずなんだけど。おじいちゃんおばあちゃんじゃあるまいし…………

 

 ………

 ……

 …

 

 ……あ、あれ?

 

 

「う、ウソ……?」

 

「……夏帆サン()、思い出せまセンか?」

 

「う、うん……私()って……?」

 

「さっき神崎サンにも聞いたんデスが、昨日の事は覚えていまセンでした。」

 

「そんなことある……?」

 

 

 店長や私みたいな、アニメやゲームのために徹夜する人が、今日何日だっけって忘れかけて日付を確認することはあっても、ひでりちゃんまで忘れるなんて。

 

 

「理由がわからないのが、より不気味デスね……

 スタッフの健康管理にも気を配らないといけないのに……」

 

「ちょっと私も聞いて回ってみていい?」

 

「大丈夫デスよ、夏帆サン。これは店長であるワタシの責任問題デス」

 

 いつも寝ながら仕事して麻冬さんや秋月くんに怒られてる店長が言っても説得力ないなぁ。

 

「じゃあじゃあ、私と店長で聞いて回ればいいじゃない!」

 

「良いんデスか?」

 

「もちろん!」

 

 私としても、気になる事があるしね。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「体調ですか? ご覧の通り元気です!

 え、昨日、ですか……? えーと……きっと、元気だったと思います。」

 

「昨日かしら? そうね、大学……もなかったし、過去の見逃したニチアサを見てた……と思うわ」

 

「体調? 心配してくださってるんですか?

 ふふ、大丈夫ですよ。あーでも締め切りが近づいてきてますから……こんなことなら昨日進めれば良かった……」

 

 

 苺香ちゃんも麻冬さんと美雨さんも、似たように「昨日のことはあまり覚えていない」と言った。

 皆おんなじ事を言うので、指し示してあるのかとさえ思ったほどだ。

 

「え、体調? 問題ねーけど……昨日のこと? そんなことを考えてるヒマがあったら買い出しにいってくれないか? 買うモンはここにメモってあるから」

 

 

 秋月くんには、何故かメモを押し付けられておつかいを頼まれるし。お店が忙しくなくなったのもあって、引き受けざるを得なくなったし。まぁ、妙にスッキリしない気分を紛らわせられるかもとは思ったけどさ。

 

 いつもスティーレが御用達にしている業務スーパーはすぐ近くにあるので、車や自転車は必要ない。あまりに多く買い出しに出る時は店長のを出すこともあるけど、今回は調味料と香辛料の買い出しなので、問題ない。

 

 

『腸炎ビブリオに注意!

 手はこまめに洗おう!』

 

 

 自動ドアの隅に貼ってあった、長い間日に晒されたからか少し変色した張り紙にふと目が映る。

 そこに書かれていた注意喚起を目にした途端、また妙な感覚に襲われた。

 何だろう、この気持ち。モヤモヤして、感情の名前が分からないからより一層気分が沈む。

 

 

「……いけない、早く買って来ないと!」

 

 モタモタしてると秋月くんあたりを怒らせてしまう。さっさと買い出しを終わらせるべく、スーパーの中に入ることにした。入口にあったアルコール除菌はちゃんと使った。

 

 

 メモを見ながら、目当ての品を探し歩く。

 

「粉チーズに、バジル。タイム………えーとタイム、タイム………はあった。次は…」

 

 メモを目で追っていくと、タイムの下にはローリエと書かれていた。

 

 ローリエ。

 ローリエ……

 ローリエ―――

 

 

「!!?」

 

 

 体が固まった。理由は分からない。

 目当ての品は、タイムのすぐ近くに置いてあった。それを、カゴに入れればいい。そのはずなのに。

 体が―――動かない。

 

(な、なんで…? ただの香辛料でしょ?)

 

 ただの、香辛料のはずなのに。その名前が、不思議と私の中に引っかかる。でも、その理由が分からない。一体どうして?

 

 

『人はな、一度あったことは忘れないのさ。ただ、()()()()()()()()だけ。

 「飯を食べた記憶はあっても、何を食べたか思い出せない」みたいなことがあるだろ? アレと一緒さ』

 

 

 知らない人の、でもどこかで聞いたことあるような声が聞こえた、気がした。

 

 彼は、一体誰なの。

 この声は、どこで聞いたの。

 どうして、こんな記憶が今、出てくるの。

 

 幻聴なのかもと思った。聞こえるはずのない声が聞こえるし、体はどうしてか動いてくれないし、気分がどうにも悪い…というか変な感じがするからありえなくはない。

 でも、私の直感が『それはない』って言っている。心当たりがまったくないはずなのに。まるでワケが分からない……

 

 

 

 

ブーッブーッ

 

「ふおわぁぁっ!!!?」

 

 ビックリした。いきなり、ポケットが震える。

 それが私のスマホのものだとわかると、落としそうになりながらも手に取って通知を見る。あまりにモタモタしてたから、秋月くんを待たせてしまったのかもしれない……!

 

 

「……なんだ、ゲームの通知かぁ」

 

 

 それは、SNSで発表された、インストールしてるゲームの一つにて「新キャラが出るよ!」という通知だった。秋月くんからの催促とかじゃなくて良かったけど、地味に心臓に悪い。

 

「……あっ、また開いちゃった」

 

 それは、体がスマホゲーをやっていくうちに覚えた一連の動作。習慣に刻み込まれた無意識の動作をしたあとで買い出し中なのを思い出して開いたお知らせを閉じようとしたときだった。

 

 

 

 通知に添えられていた画像の中に、その人はいた。

 緑色の髪に、左右非対称の色をした―――オッドアイ。整った顔つきに優しい笑み。文を読めば新しいガチャに実装されるキャラであることは確か。

 

 だけど。

 

 そのキャラを見た瞬間、私の奥から何かが放出されたような感覚を覚えた。

 きつく締められていた記憶の蓋が徐々に緩み、その中にあった記憶が飛び出てきたかのような……、

 

 

「―――――――――っ、!!」

 

 

 飛び出てきた記憶は、ファンタジー色が強かった。

 日本では見られないようなカジノ、イタリアのレストランの厨房、コミケのブース、そして…ガラスの大窓がついたビルの最上階にある和室。そこで起きた様々な記憶。

 

『くーー!!!』

『ぐっふ………!!?』

 

 小さな猫のような生き物に、軽自動車が突っ込んできたかのような体当たりを受けたこと。

 

『あな、たは………』

『良かった。だが、まだ喋らないで安静にした方がいい。回復魔法をかけたばっかりだ。』

 

 その直後に、緑色の髪でオッドアイの男の人に助けられたこと。

 

『いやいやいやいや夏帆ちゃんよ、ビアンカが主人公を何年待ったと思ってるのよ。男としてはさ、待ち続けた幼馴染の気持ちを汲んで答えてあげるべきでしょーよ』

ローリエさんこそどうして頑なにビアンカを勧めるのよ。清楚で、献身的でいい人じゃない、フローラ。あとイオナズン使えるし、実家から仕送り貰えるし』

 

 その人と、推しを巡ってゲーム談義をしたこと。

 

『君達は、いつも通り接客して、いつも通り料理を振る舞って、いつも通りの日常を過ごして欲しいんだ。』

『今の危険な状態で呼ばれた君達を、早めに帰すのが、今の俺達の仕事であり……使命なんだ。』

 

 私達全員を()()()()()()()と、約束してくれたこと。きららちゃん達と一緒に戦ったこと。

 

『帰った後で、いい思い出を思い出せるようになるように祈ってる。

 夏帆ちゃん………イイ女になれよ。5年後くらいにお茶でもしようぜ』

 

 ―――そして、最後に私にそう声をかけて、送ってくれたこと。

 

 

 あぁ、そうだ。

 

 全部…全部、思い出した……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ロー、リエ、さん……………」

 

 

 目の前が滲む。鼻がツーンと痛くなる。喉が腫れたようにうまく呼吸が出来なくなりそうだ。胸が、圧迫感を覚える。

 どうして……今まで忘れちゃってたのかな?

 私を、ヒーローのように救ってくれたのに。

 

 ……でも、もう大丈夫。

 だって、思い出せたんだから。

 

 

「あり、がとう……」

 

 

 私を助けてくれてありがとう。

 みんなを探すのを手伝ってくれてありがとう。

 守ってくれて、ありがとう。

 

 その言葉を伝えることは、おそらくもう出来ないけれど。思い出すことができて、本当に良かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後スティーレで待っていた秋月君は、戻ってきた私を見るなりうろたえて、店長と苺香ちゃんを呼びに行った。何事かと思ってみれば、鏡に映った私の目は真っ赤に泣きはらした後だった。

 3人に色々質問ぜめにされた。エトワリアの事を話したけれど、信じてくれなかった。まるで、「そんなもの知らない」とでも言うかのように。他の皆も私のように思い出すかもと考え、それとなく仕掛けてみたけれど、ついに皆がエトワリアについて思い出すことはなかった。

 

 

「……はぁ。

 みんないい加減、思い出してくれてもいいのに」

 

 バイトが終わり、家に戻った私はスマホのRPGゲームを立ち上げている。久しぶりにログイン以上のことをするゲームだ。ストーリーモードのエンディング前で止めていたから、ラスボス戦からだったけど、ゲーマーにとっては朝飯前だった。もともと難易度の高いやつじゃあなかったしね。

 

 そして、エンディングのテロップを流し読みしている。

 

 

『私にとってのあの人ってなんなんだろう。

 あの人をもっと知りたいのに、謎めいていて欲しい。

 そばにいたいのに…私だけのものになったら、きっとがっかりする。』

 

 ヒロインの台詞に、タップする指が止まる。しっかり読んでからタップすれば、ヒロインの執事らしき人の、らしくない口調の台詞が流れた。

 

『お嬢。俺は……そういう人をなんて言うか知ってます。』

 

 ……!!

 

『本当ですか!?』

 

『はい。

 ―――ヒーロー、って言うんすよ。そういう人のこと』

 

 

 やけに軽い言葉に、ゲーム内のヒロインだけじゃなくて、私も腑に落ちたみたい。

 

「……ふふっ、ヒーロー、かぁ。」

 

 

 ローリエさん達の……エトワリアでの思い出を胸に抱いて―――

 

 ―――私、良い女になってみせるよ。

 

 




―――エトワリア、召喚の館にて

くれあ「開きますよー!」
きらら「お願いします!」
らんぷ「楽しみです!どんなクリエメイトが来てくれるのか…!」

きらら「あっ…ゲートが金色に!」
くれあ「これはひょっとするかもです!」

かほ「………。」
くれあ「や、やりました!!」
らんぷ「きたーーーーーー!!!!」
きらら「落ち着いて、ランプ。この人にオーダーの記憶はないから、一応初めましてだよ――」


かほ「―――()()()()()()、きららちゃん、ランプちゃん。日向夏帆、ナイトとして力を貸すよ」

次のうち、もっとも皆さんが好きな人は?

  • 大宮勇
  • 佐倉恵
  • 二条臣
  • 飯野水葉
  • タイキックさん(♀)

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