きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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“苺香様と慈様とアリサさんの放ったそれぞれの魔法は、ひとつの太陽となって、悪意でまとまる魔法の霧を完全に晴らしたのである。”
 …ランプの日記帳(のちの聖典・きららファンタジア)より抜粋


第55話:エトワリアのジャック・ザ・リッパー

 

 

 

「まさか、私一人に5人がかりで来るとはな……」

 

 あらかじめ持ってきておいた抗毒薬を飲み干して、瓶を無造作に投げ捨てる。視界が悪い霧の中、頼れるのは己の戦いの勘だけ。

 

 

「こんなに早く駆けつけてくるとはな……」

「なんと見苦しいことか。自分がお目汚しになっていることをご自覚した方がよいのでは」

「重役は重役らしくご出勤なされよ。街の人の命程度が何だと申し上げるのか」

「流石は賢者。腕力だけは右に出るもの無しですな」

「貴女は私が悪人にでも見えるのか? 驕るな」

 

 

「やかましい! 驕ってんのはどっちだ。

 あとな、なんの罪もない街の人を暴力で脅かしている奴は普通、悪人って言うんだよ!!」

 

 神経を逆撫でする言動しかしない、ヒゲの生えたみすぼらしい男が……5人。兄弟以上とかそういうレベルじゃない。まるでコピーしたかのように、ほぼそっくりな5人を前に戦闘体勢をとる。

 コイツが……街を混乱に陥れた元凶、霧の中に隠れる指名手配犯・セレウス………!! 

 

 

「私の街で悪事を企んだことを後悔させてやる!」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 今こうして複数のセレウスと敵対している理由。それは、確か指名手配を発布してから1時間とちょっとくらいのことだったか。

 衛兵の一人が、大慌てで私の屋敷の門を叩いてきたかと思えば、耳を疑う報告をしてきたんだ。

 

『ローブをまとったヒゲ面の男が、暴力行為を働いている』

 

 すぐさま支度を済ませ、忍と穂乃花を警備兵やクロモン達に任せると、報告で受けた場所まですっ飛んでいった。かなりの速度で走っているハズなのに、それがとても長く感じた。一刻も早く駆けつけて市民を守らなきゃいけねーのに………!

 そして、やっとのことでたどり着いた先―――霧が濃くなっていたその場所では、ローブの男が、ナイフを片手に市民を脅しているじゃあねーか。

 

『『『召喚士とクリエメイトはどこにいる。この街にいるはずだ』』』

 

『はぁ? 知らないよそんなこと! もうここから離れたんじゃないの?』

『そもそも、お前は誰なんだよ!』

『怪しい格好して、アンタこそ疚しいコトでも考えてるんじゃないの!』

 

『貴様、私がおっしゃる事を否定する気か? 使えない女だ』

『貴様は質問には質問で返す流儀でもお持ちしているのか? 無礼だ、改めろ』

『黙れ、見た目で全てを判断出来るほど偉いと驕る小物が』

 

『きゃああ!!』

『うわぁぁっ!!?』

『ぎゃああ!?』

 

 ……いや、脅しているというより襲っている、といった方が良いな。奴の言動は理不尽そのもの。思い通りにならないと癇癪を起こす子供みてぇな理由で街の人に暴力をふるいやがる。

 街の人々の悲鳴が響く。それを聞いた私は、腹の奥のマグマのような怒りが煮え滾るのを感じた。それ以上その音を聞いていられずに突っ込んでいく。

 

『させるか!』

 

 すぐさま市民達と男の間に割り込んで、拳を振るう。拳圧で風が起きて、霧が吹き飛んだ。

 

『『『『!!!?』』』』

 

『じ、ジンジャー様!?』

 

『市長命令だ! 私は今からこいつらと戦うから、出来るだけ早く、周りと協力して逃げろ!!』

 

『で、ですが……』

 

『早く行け! ここは私が治める街だ!これ以上怪我人を出されてたまるか!!』

 

 そこでやっと、街の人たちが避難を始めた。私に付いてきた金髪メイドの数人は、街の人の混乱を抑えつつ、避難誘導をしている。

 それを見たローブの男は、3人から5人に数を増やして私を取囲もうとする。毒使いだと分かっていたから、持ってきていた毒の抗体を服用する。

 

『八賢者ジンジャー……まさか、こんなに早く駆けつけてくるとはな……』

『なんと見苦しいことか。自分がお目汚しになっていることをご自覚した方がよいのでは』

『重役は重役らしくご出勤なされよ。街の人の命程度が何だと申し上げるのか』

『流石は賢者。腕力だけは右に出るもの無しですな』

『貴女は私が悪人にでも見えるのか? 驕るな』

 

『やかましい! 驕ってんのはどっちだ。

 あとな、なんの罪もない街の人を暴力で脅かしている奴は普通、悪人って言うんだよ!!』

 

 

 己の所業をこれでもかと棚に上げた戯言を一蹴して、いつでも拳を放てるように構えた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 先に仕掛けてきたのは、セレウスだ。

 二人の霧の分身がナイフを向けて突っ込んできた。

 それらを軽く受け流して回避する。何かが塗られている可能性のある刃には触れないように。

 

「無駄だ―――“斑蛇腹(まだらじゃばら)”」

 

「!!」

 

 受け流したはずの刃が、うねった軌道でこの身に迫る。確実に人間の関節の可動域を超えた動きだ。それも一人だけじゃない。5人がほぼ同時に放ってきたのだ。

 

 持ってきたバットを抜き、ナイフの数々を弾く。そしてその勢いのまま、セレウスの分身の一体に向けて振り抜いた。

 

 

「“骨砕き”!」

「“霧裂き”!」

 

 

 バットの一撃はセレウスの反撃をたやすく破り、奴の体にモロに的中する――――――が、やはりというべきかあるべき筈の手応えがない。まるで、空振りでもしているかのようだ。

 

 

「“猛打衝(もうだしょう)”!!」

「“霞初月(かすみそめづき)”!!」

 

 

 私の大地を揺らすほどの猛撃とセレウスの弧を描く斬撃が衝突し、再び私が競り勝った。……しかし、敵をぶっ飛ばした感覚は手にやって来ず、ただ風が巻き起こるだけだ。そこで確信に至れる。

 

 ……やっぱり、コイツは分身のみに戦わせている。本体はどこかに隠れ潜んでいるはずだ。コイツらと戦っている限り、埒が明かねぇ。

 

 

「……ハッ! どいつもこいつも手応えが全くねぇな! そんなにこの私が怖いか!!」

 

「貴様など恐れるものか。このまま体力の限界まで削れば良い事。我が刃からは逃れられぬぞ」

 

「なら分身におんぶに抱っこじゃあなくて本体も出てきたらどうなんだ?」

 

「頭を使って戦うとはこうするのだ」

 

 

 気に入らねぇ精神だ。自分だけ安全なところからチクチクと攻撃する。姑息という言葉が一番ピッタリきやがる。だが、それが面倒なのは確かだ。この手の奴は本体を探すのが手っ取り早いが今の私にそれができるかと訊かれれば首を傾けざるを得ない。私がこの場を離れた途端、セレウスが市民を害そうとするのは目に見えている。

 だとするならば―――コレを使ってもいいだろう。

 

 

「…!? “煙霞(えんか)”!!」

 

「それ!!」

 

 

 私が何かを手に持ったのを確認するやいなや、全身を霧化させて逃げようとするセレウス。だがこれは攻撃するためじゃねぇ。

 その正体は、ローリエがメイド長を通して私に預けた信号弾だ。ボタンを押して投げるだけという簡素なものだが、それが私の腕力と組み合わさると、意味をなすようになる!!

 

 思いっきりぶん投げた信号弾は、みるみるうちに地上との距離を離し、シルエットが小さくなっていったあたりでボカンと赤い光の花を咲かせた。

 

 

「信号弾………!? だが、遅い!」

 

 

 攻撃の準備かと思い逃げの態勢をとっていたかと思えば、信号弾と知るが早いか、攻撃の態勢を取り始めた。狙いは………私の後ろにいる、メイド達―――避難誘導中を狙うつもりか!!

 セレウスを先回りするかのように、彼女たちを庇うかのようにメイド達の前に立ち塞がり、バットを構える。

 

 

「かかったな、八賢者! 狙いは最初から貴様よ!」

 

「―――! 分かってる、よ!!!」

 

 

 懐に突然現れた分身を蹴り飛ばす。

 だが、その時間が少し危なかった。そのスキに他の分身を取り込んだのか大きくなったセレウスから少し目を逸らしたのだ。

 視線を戻したときに見えたのは倍の大きさになったセレウス。全力で攻めているが、明らかに先を見通した攻撃だ。ちょいと調子を崩されようが関係ない。力を温存しているスキを突いて、私の全身全霊を込めて霧ごとすべてを吹き飛ばしてやる。

 

 

「“豪熱魔球(ごうねつまきゅう)”!!!」

 

「“瞬技(しゅんぎ)霧々舞(きりきりま)い”!!」

 

 

 熱を含む光の打球、バットのフルスイング。

 霧化魔法を最大限に利用したかのような斬撃の連打。

 

 その二つが、激突した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ジンジャーとセレウス×5が激突するよりも少し前。

 クリエメイトと賢者の助手・アリサを引き連れたきらら達一行は、再びジンジャーの屋敷の前まで来ていた。

 

 当然門には門番がいたが、彼もまたオーダーの影響を受けていたためか、カレンが前に出た途端タジタジになってしまい、門番を果たさなくなってしまっていた。

 

 

「き、金髪様のお供ということなら、どうぞお通りください!」

 

「アリガトウゴジャイマス。それでは、みなさん行きマショウ!」

 

「いいのかなぁ……」

 

 ジンジャーの市長官邸。その屋敷の広い……一般家庭の全敷地の何倍も広い庭にさしかかったところで、アリサがきらら達に話しかけた。

 

「……ここまで、ですね。」

 

「アリサさん?」

 

「申し訳ありませんが、私はここから先へお供する事は出来ません」

 

「「「!!!?」」」

 

 突然の戦線離脱の宣言。どういうことかとランプが問い始める。

 

「ど…どういう事ですか!?」

 

「私は、とある目的のため神殿と協力しています。クリエメイトの護衛を担ったのはそのためです。しかし、皆さんはジンジャーさんと敵対し、クリエメイトを帰そうとしているんですよね?」

 

「は……はい。もし避けられないというのなら、戦うこともあるかもしれません。」

 

「そうなった際、私が皆さんと同じ立場にいることは出来ませんので」

 

「協力、してくれないんですか……?」

 

「クリエメイトの命は守ります。ですが、それとこれとは別です。皆さんへの恩義もありますから、ジンジャーさんと戦う時は私はどちらにもつかないことを約束します」

 

 あまりにもまともな理由だった。

 本来、神殿側・きらら側・第三勢力の三つはお互いが敵対しているのだが、ある特徴で2つに分けられる。

 それは―――『クリエメイトを生かすか、否か』。

 きらら一行は勿論のこと、神殿側もクリエを得るために、またクリエケージ内でもクリエメイトを生かし続ける必要があるため、生け捕り必須なのだ。しかし、第三勢力はクリエメイトを殺すことを前提としている。他の2勢力と反りが合わなくて当然である。

 アリサは神殿側についている。クリエメイトは生かさなければならないという点ではきらら達と同意見だが、それでも本来はきらら達と敵対する立場なのだ。ソラが呪われた件はアルシーヴから固く口止めされている。故にいざとなったら戦わなくてはならないのだ。

 

 

 だが、人間いきなりこんなことを言われて「はいわかりました」と納得するように出来ていない。

 

 

「そんなこと言うなよ! アリサは私を守ってくれたし、エトワリアのこと色々教えてくれたじゃあないか!」

 

「ねぇ……どうしても、ここで別れなきゃいけないの………?」

 

 陽子がアリサを引き止めようとする。綾は不安げに、かつ少々の寂しさを込めて念を押した。二人の手を握ったアリサは、それとは対象的に後悔もしていないといった顔つきで、朗らかな笑顔でこう返す。

 

 

「立場がありますから。でも、これから私達が戦うわけじゃありません。ですのでお気になさらずに。ヨーコさん、アヤさん、お二人に会えてとても幸せでした……」

 

 

 それに、とアリサは二人から手を離す。

 

 

()()()()()()()()()()()()()……!!」

 

「「!!!?」」

 

 

 霧が濃くなっている。

 セレウスの襲い方を分析していた彼女達は、その言葉の意味を分かっていた。すぐさま陽子と綾はきららの側に集まった。

 

 アリサが周囲に風を放つ。霧が乱れて、きらら達とやや離れた場所に集まり、やがて男の姿となった。

 

 

「やはり現れましたね、セレウス……!」

 

「霧の中に現れる殺人鬼……ジャック・ザ・リッパーそのものデス……!」

 

「え…? じゃっく……?」

 

「ジャック・ザ・リッパー。昔のイギリスに出たっていう人斬りだよ」

 

「言ってる場合か! セレウスが仕掛けてくるぞ!」

 

 

 カレンの言葉の中にでてきた単語に戸惑うきららと補足するアリスをマッチが叱咤する。確かに敵の前でする話ではないが、肝心のセレウスはただ距離を少しずつつめるのみであった。しかもアリサが武器を構えた途端歩みを止める慎重っぷりである。

 

 

「……? 仕掛けてこない?」

 

「話は済んだか? おそらく最期になるであろうからな。言いたい事は言っておけ」

 

「随分と舐めた言動してますね」

 

「これは余裕というものだ」

 

 

 その表情と態度からして、虚勢を張っているわけではなさそうだった。また、先に攻撃して来ないところを見るに、先手を譲るつもりなのだろうか。ともあれ、セレウスは勝てると踏んでいるのだろう。

 

 

「……“ウィンドベール”」

 

 

 ならばとアリサが発動させたのは、気流操作の魔法。周囲の風を操って、鎌鼬を起こしやすくする。風属性魔法の威力を高める効果もある、攻防一体の魔法である。

 

 

「“渦巻霧(うずまきり)”」

 

 しかし、セレウスが発動させた霧を集める魔法で戦況は拮抗する。渦のように集まる霧は、アリサのウィンドベールでは散らしきれない。

 

(これだけで凌げるほど甘くはないか。

 でも……炎は通用するのか……?)

 

 セレウスの霧化魔法は、風だけでなく高熱も弱点ではあるのだが、それはもちろん湿気を上回るほどの火力が出ればの話である。そして、アリサは自身の炎魔法の最大火力でセレウスの霧を蒸発させ切れるか確信が持てなかった。

 

 しかし、自分本位なセレウスがアリサを待ってくれるはずもない。

 

 

「―――“水鎌霧(みずかまきり)”!!!」

 

「―――っ!!?」

 

 

 セレウスが仕掛けてきたのは飛んでくる水の斬撃。三日月のようなそれらは、霧による視界の悪さも相まって対処の面倒くささが増す。そんな厄介な飛ぶ斬撃の目指す先は――――――非戦闘員のクリエメイトたちだ。

 

 すぐさまウィンドベールで軌道を逸らそうとする。だが全てを逸らしきることができない。大方の刃は明後日の方向に飛ばすことはできたものの、まだいくつか残っている

 

 

 襲いかかる水の刃は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――きらら達の目の前に現れた、炎の壁にぶち当たって蒸発した。

 

 

「「!!?」」

 

「アリサさん! 手伝います!」

 

 

 そう言うのはきらら。彼女ならば、攻撃を防ぐ力を持つクリエメイトを召喚するなどわけない話だったのである。アリス達より一歩前に出て、クリエメイトを即座に召喚し防御魔法を使用したのである。

 

 炎が晴れた時、きららのそばにいたのは………二人。

 一人は、濃紫色のチャイナドレスを纏い灰色のローブを頭からかぶったピンクのウェーブヘアーの女性。

 そしてもう一人は、アリサのよく知る人物であった。

 

 

「苺香さん!!?」

 

「お力添えします、アリサさん!」

 

 

 そう、苺香である。『オーダー』された時に着ていた白鳥のようなドレスはそのままに、光の魔力を携えている。きららの『コール』で魂の写し身として召喚されたことで、戦えるようになったのだ!

 

 

「それで、もう一人の貴女は………?」

 

 

 そんな苺香とは対称的に一向に何も喋ろうとしないもう一人の女性にアリサがおずおずと尋ねる。そこで、ようやく彼女が口を開いた。

 

 

「………佐倉(さくら)(めぐみ)。教師()()()女よ」

 

()()()……………?)

 

 

 慈の発言の一部に引っかかったアリサだったが、戦闘中ゆえに今はそれ以上追及しないことにした。

 

「手を貸していただけますか!」

 

「勿論よ」

 

「何人現れようと無駄なのだ!

 “雲合霧集(うんごうむしゅう)”!!」

 

 

 セレウスが霧を集めて姿をくらます。その霧の濃さたるや、1メートル先どころか手を伸ばした掌の輪郭さえ見えないほどの濃さだ。

 セレウスはこの隙にアリサ・苺香・慈の後ろへ回り込み、更にきららの横をすり抜け、視界の効かなくなったクリエメイトから先に始末しようとする。5対1は望んで戦うが、1対3では真正面から戦おうとしない。とことん姑息で卑怯な男である。

 

 

 ―――しかし、セレウスの脳裏に浮かんでいたそんな作戦は、叶わなかった。

 

 

 

 

「ぬおぁっ!!?」

 

 

 きららの脇をこっそり通ろうとした直後、巨大な魔法の波動が凄まじいスピードでセレウスに直撃し、霧の体を散らしたのだから。

 

 意識の外からの攻撃に対応出来なかったセレウスは、攻撃が飛んできた方向を見やる。そこには、クリスタルを構えた苺香とこちらに指をさしているアリサがいた。

 

 

「ほ、ホントに当たりました……!!」

 

「信じて下さりありがとうございます、苺香さん」

 

(ば、バカな!!? まさか、霧だらけで視界に頼れないこの状況で、このセレウスの位置を正確に把握いたしたというのか!?)

 

 

 アリサのウィンドベールは周囲の風の動きを察知することで、隠れた敵を探すことにも向いている。攻撃も想像しているよりも簡単なのだ。ゆえに攻防一体。

 

 だがセレウスは諦めなかった。

 己の霧の魔法とそれを駆使した変幻自在な戦術。それは誰にも負けることなどないという矜持が、セレウスに「諦めて降参する」という選択肢を与えなかった。

 

 

(―――筆頭神官さえも凌駕しうる私の魔法が、あんな小娘に破れる訳がないのだ!)

 

 

「調子に乗るなよ……“五里霧中”!」

 

「「「!!?」」」

 

 

 セレウスの霧化魔法派生術、『五里霧中』。それは、霧を薄める代わりに自身の体をカメレオンのように変化させて、敵の視界から逃れる高度の水属性隠密魔法である。全身の風の流れに気を配り、ウィンドベールに引っかからないように気を配るのも忘れない。

 透明マントを全身で包んでいるような術の出来に、アリサも苺香も慈も、セレウスの姿を見失った。

 

(ククク………早いところ、クリエメイトやランプの命を頂戴してくれる!)

 

「慈さん! 噴水の石垣の前です!」

「―――――――――ッ!!?」

 

 しかし、きららのパス探知は誤魔化せなかった。

 

ゴオオオオォォォッ!!!

 

 慈がきららの指示通りの場所にフラスコを投げれば、叩きつけられて割れたフラスコから背の高い炎が燃え上がる。セレウスは驚きと焦りのあまり術を解除し姿を表した。

 

 

「な…なんだこの熱量はッ!? ()()()()()()()()()ッ! す、すぐに火をお消しにならなければ!!」

 

 

 今、戦っているのは霧で作られたセレウスの分身だ。痛覚などはなく、痛みや熱さなどの都合の悪い触覚は持ち合わせていない。ただし、強風で形を保てなくなり―――強力な炎に炙られると分身を構成する霧が蒸発してしまう。

 

 

「そうか……セレウスの分身は霧でできていたのか! 霧が蒸発してしまえば、セレウスが分身を作って襲ってくる事ができなくなる! 迂闊だったなセレウス……いま、お前は言っちゃいけない事を言った!!」

 

「!!!? し、しまっ―――」

 

 

 マッチに指摘され、慌てていたが故の己の大失態を悟るも、口に出した言葉はもう引っ込めることはできない。

 

 

「―――“イグニッション”」

 

 

 アリサが攻撃魔法の準備行動に移る。それは、炎属性魔法の火力を爆発的に上げる補助(バフ)魔法だ。全身に炎が舞い、足元に紅い魔法陣が浮き上がる。

 

 

「―――お遊びはお仕舞いです

 

 

 苺香が微笑む。だがそれは、セレウスから見たら高位の悪魔が丁度いいオモチャを見つけ、これからそれで遊んで(いたぶって)やろうと考えているかのような笑みにしか見えない。こんな事を苺香に言えば凹む事確実だが、彼女の目つきが災いしているので、ある程度は仕方ない。

 

 

「これで終わりよ、セレウス」

 

 

 慈が虚ろな目でセレウスを見据える。生者にはない、光のない眼差しに、セレウスは尻込みしたくなる。まるで地獄から舞い戻った死人のそれだと思った。セレウスの目と感性だけはどうやら正常のようだ。

 

 

 三者三様のトドメの姿勢。セレウスは、逃げることはしなかった。だがそれも、「ここで逃げたら私の誇りが消える」という、自己中心的な理由からであった。

 

 

「わ、私を……私をそんな目で見るなァァァァ!!!

 消え失せろ! “幻影霧揉矢刃嵐(きりもみやばあらし)”!!!」

 

“フレアドライブ”―――!!!

そりゃーーーー!!!

はああぁぁーーーーっ!!!

 

 

 

 飛び交う斬撃が、嵐の様に暴れ回るセレウスの必殺技。

 それに対抗するは、アリサが放った巨大な剣のような炎、苺香が放つ光の極太レーザー。慈の投げたフラスコが変化した降り注ぐ炎の雨。

 

 

 三人の少女の必殺技が一つに合わさる。太陽のような光と熱を帯びたそれは、セレウスの霧の刃の嵐を鎧袖一触と言わんばかりに打ち破って、セレウスに迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…………お…おのれ!!

 ただの小娘どもの分際で……よくもこの高尚なるセレウスの分身を!!!

 私が負けるはずがないのだ!!! ただの人間なんぞよりも! 何十倍も! 価値ある私が、こんな女ごときに―――」

 

「いいえ。あなたは負けたの。こんな女にね」

 

 

 怒りとともに本性を撒き散らしたセレウス。少女達を悩ませた、分身の一人が高熱と強力な光の魔法に晒されて、欠片も残さず蒸発していく。

 

 消えゆくセレウスの分身。慈の皮肉の混じった一言は、確かに蒸発寸前の魔法の霧を通して、セレウスの本体に伝わった。

 

 

 




キャラクター紹介&解説

ジンジャー
 街の人々を守るため、都市で暴れ回るセレウスの分身達と戦い時間稼ぎをしてみせた八賢者にしてきららファンタジアの姉御。この出来事が切欠で、ジンジャーに救って貰った人々やジンジャーの戦闘の勇姿を見た街の人々の中から『親衛隊』が結成される。信号弾を約束通りブン投げたため、ローリエが動く。『あとは任せろ』と言わんばかりに。

アリサ&桜ノ宮苺香&佐倉慈
 ジンジャーの大きな庭にて、セレウスの分身と激戦を繰り広げ、勝利を収めた賢者の助手&クリエメイト。きららと共に不意打ちを防ぎ、火力で押し切った。なお、この戦いで庭がメチャクチャになり、アリサだけがジンジャーに謝罪する。

ありさ「ごめんなさいでした!」
じんじゃー「まー確かに残念だったがよ、クリエメイトを守るためだったんだろ? それに、庭ならまた整えりゃいい!」
めいどちょー「あ、ハイ、ソウデスネ……」

セレウス
 ジンジャーだけを警戒した結果、きらら達に(分身とはいえ)敗北してしまった男。難癖をつけて市民をいたぶり、ジンジャーをおびき寄せて数で袋叩きにするつもりだったが、予想以上に粘られる。きらら達との戦いでは、分身が蒸発される直前に本性が漏れ出てしまっている。



セレウスの技
 大体が「霧」「霞」にちなんだ言葉だが、「〜きり」で終わる言葉を思いついた順に書き並べた感じ。最後の必殺技は「キリモミヤマアラシ」にしようと思ったがどこかで聞いたことがあるのでちょっと変えた。

ジャック・ザ・リッパー
 別名・切り裂きジャック。殺害方法から切り裂く者(リッパー)と呼ばれるようになった。1888年にイギリスで連続発生した猟奇殺人事件および犯人の通称。世界的に有名な未解決事件であり、現在でも犯人の正体についてはいくつもの説が唱えられている。


△▼△▼△▼
ローリエ「お、からすちゃんとくっしーちゃんじゃん。今夜ヒマ?」

烏丸先生「ええと? 予定はない、ですけど…」
久世橋先生「烏丸先生、そこはウソでも『予定が入ってる』と言うべきです。大体、貴方はなんなんですか!イキナリ口説きにかかるなんて……」

ローリエ「おいおい、口説いていると決めつけるのは心外だな。生徒の模範たる先生がそれでいいのか? ………口説いてるんだけどね」

久世橋先生「そ、それも一理ありますね。決めつけるのは良くな………って! やっぱり口説いてるんじゃないですか!この変態!」

ローリエ「CV.大○沙○」
久世橋先生「何をわけの分からないことを!」

次回『(悪意)が晴れる街』
烏丸先生「See you next time! また次回!!」
▲▽▲▽▲▽


きららファンタジアに登場する作品群の中の、次の作品の中で、最も皆様が好きな作品は?

  • まちカドまぞく
  • 球詠
  • アニマエール!
  • 幸腹グラフィティ
  • 落ちこぼれフルーツタルト
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