きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者 作:伝説の超三毛猫
…ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
第6章より抜粋
(クソッ! なにが『こんな女に負けた』だ!!
どこまでも私を愚弄しおってあの女ァ!!!)
言ノ葉の都市・とある高層建築物の一室。
そこでは、青年セレウスが瞳を閉じたまま、慈の言葉への怒りに表情を染めていた。内心は嵐の海の如く荒れ狂っている。己の敗北を未だ認められないのだ。
いつもの冷静なイメージの面影はまったくない。分身たちがジンジャーとの戦闘中でなければ丁寧な物腰すらもかなぐり捨てて、周囲のところ狭しと積み上げられている魔導書に八つ当たりをしていただろう。
セレウスという男は富裕層と呼ばれる家庭に生まれた。両親や周囲の人間が持つ選民思想は、セレウスにもしっかりと受け継がれた。とりわけ、セレウスは人一倍自尊心が強い少年だった。神殿に新人神官として入学した時も「私はエリートだ」「トップに私がいるのは当然だ」といった思想が性格に染み込んでいた。
だから、アルシーヴが筆頭神官の第一候補であることが許せなかったし、彼女と親交の深いローリエもまた許す事ができなかった。
『あの女がこの私よりも優れているはずがない。何か良からぬ事に手を染めたからに決まっている』
『そして、魔法をまともに使えないミソッカスが、他の馬鹿どもに持ち上げられていい気になっているのが気に食わない…!』
実際にはアルシーヴの成績は彼女自身の正当なる努力の賜物であることに間違いはなかったし、ローリエはその女癖から女性神官には恐れ(笑)られ、男性神官からは勇者(笑)と尊敬されていただけであり、また発明品の実用性も確かであったので、それらの感情は的外れだったのだが、セレウスは
そして、アルシーヴやローリエを貶めるために暗躍を始めた訳だが、もとより事実無根の感情からきた疑惑。うまく行くはずもなかった。
しかも、その時の情報集めに法から外れた手段を用いていた事が明るみに出たため、セレウスは神殿から追い出されたのである。
だが………この手の傲慢な人物にありがちと言うべきか。やはりセレウスは、己の過ちを認めはしなかった。
『…なぜだ。なぜアルシーヴとローリエが守られ、私だけが追放されなければならないのだ………!!
やはり…神殿
―――とまで思う始末である。
はっきり言って救いようがない。
それからというもの、セレウスは有り余る自尊心を燻ぶらせたまま人との交流を避け、一室の中に引きこもる日々を送っていた。数年前にドリアーテが彼の
そして―――今。
ドリアーテから敵対者殺害の命を受けて霧化魔法を展開し、神出鬼没に襲い続けていたセレウス。だが、一度も戦果をあげられないばかりか、分身……及びそれを構成していた霧を蒸発させられて、霧化魔法は弱体化を受けてしまったのだ。しかも
『オラァ! どうした? 気合が全くこもってねぇな、張り合いがないぜ!! そんなんで私に勝てると思ったかよ!!!』
(!? し、しまった! 余計なことを考えたせいで、ジンジャーに競り負けた!!)
しかし、その魔法の弱体化がジンジャーとセレウスとの戦いにおいて一瞬の気の緩みとなり、勝敗を分かつ決め手となった。ジンジャーの豪熱魔球がセレウスの瞬技・
(すぐに立て直さなければ!)
再び意識をジンジャーとの戦いに向けるべく、瞳を閉じた、その瞬間――――――
パリィン!!
「がッ!!?」
突然、セレウスの上半身を激痛――激痛というレベルでは済まないかもしれない痛みだが――が襲った。
それは、今までに感じたことが無いほどの痛みであった。何の脈絡もなくその身を走った限りのなく鋭い苦痛に、セレウスは体勢を崩し、魔法の維持もできなくなる。
(一体、何が…………!?)
もんどり撃つ度に襲いくる痛み。その原因を手で探ろうとして……セレウスは信じられないものを見た。
「ば…か、な………血、だ…と………!?」
己の手にべっとりとついた鮮血。それを見た途端掠れる声で絶句する。その間も、自分の体から赤いものが流れる感覚がしてきた。
どういう訳があって、何があったのかは全くわからなかった。なぜ、自分はこんな大怪我を負って、無様に床に転がっているのか?
ひょっとして、知らぬ間に誰かが部屋に侵入してきたのか?―――否、それはない。いくら分身に意識を向けてるセレウスといえど、本体がドアの開く音を拾うくらいはできるはずなのだ。それに、周りには自分以外誰もいない、隠れている様子もないようだ。
ならば、先ほど穴が空くように割れた窓の外から何かしてきたのか?―――よく調べれば分かるかもしれないが、今のセレウスにそんな余裕などあるわけがない。
分からないことだらけで本格的に恐怖が芽生え、状況に混乱してきたセレウス。
だが、そんな彼でもかろうじて確信出来る事が一つだけあった。
……それは、このまま何もしなければ間違いなく自分が死ぬ、ということ。それだけは避けなければならない。
(何も………何も、分からないが……まずは、この部屋から出なければ……ッ!
ここにいては、回復も安心して、でき……ない………)
恥も外聞も捨てて、床や魔導書が血に濡れることも厭わずに部屋を這うセレウス。その速度は芋虫が尺を取りながら動くよりもゆっくりであった。セレウスは最後の力を振り絞ったが………しかし。
パリィン!!
窓に二つ目の穴が空く方が、セレウスが部屋の出入り口に辿り着くよりも……早かった。
先程よりも鋭い激痛が全身に走ったかと思えば、悲鳴を上げる時間もなくセレウスの頭に霧がかかり、その手から意識がすり抜けて落ちていった。
◇◆◇◆◇
「…………よし、ミッションコンプリート」
スコープ越しにみすぼらしい男……セレウスと思われる男が動かなくなったのを確認してスコープから目を離せば、見渡す限りの街の景色が、霧に遮られる事なく俺の目に届いた。それは、セレウスの悪意と言う名の霧が、都市から晴れたことを意味していた。
このローリエ、現在地はというと―――言ノ葉の都市の周囲を囲う城壁の、そのてっぺん。見張り台にて、
今までどこで何をしていたのか。どうしてここにいてセレウスを狙撃したのか。それを1から説明するとしよう。
まず、ジンジャーにセレウスの事を報告した後、メイド達を口説きついでに「ジンジャーの直属の部下で、それなりに偉い奴は誰か」と聞いて回った。そこで俺はメイド長ことリリアンちゃん(本人は名前を呼ばれるのが恥ずかしかったようだが、俺には関係ないね!)と出会う。
次に、リリアンちゃんを連れ出してデートという体裁を取りながら、彼女や街の人達に「ここら辺で背の高い建物かヒゲの生えた青年を見なかったか」と聞き回った。途中でアリサからドローンを通して
その後は、リリアンちゃんとの別れ際に信号弾等をジンジャーに渡すよう伝えて……俺は霧が及ばない、かつセレウスがいると思われる建物を狙撃できる所まで移動。
あとはジンジャーの信号弾を確認できた瞬間に部屋の中にいた霧の男ソックリの奴に向かって引き金を引くだけ。アリサがきららちゃん達と合流していたのは彼女に貸したドローンを通して確認済なので、セレウスがそちらに現れていたとしても抜かりはない。まぁ、分身を倒していたようなので急いで狙う必要もなかったワケだが。
そうだ。ジンジャーに報告くらいしないとな。
ルーンドローンの一つを、ジンジャーの目の前に移動させる。
「やっほー、ジンジャー。感度良好かな?」
『うおっ!!? 見慣れねぇ機械から声が……ってその声はローリエか!? おい、何があった!?』
「え、何がって―――」
『そんな小っちぇえ体にされて……誰かから変な魔法でもかけられたのか!?』
……そんな訳ないでしょ。ジンジャーは俺の魔道具をなんだと思ってるの?
「違うよ。今俺は城壁の見張り台にいんの。音声をこの魔道具を通してジンジャーに伝えてるだけ。まぁ、少し前に作った携帯電話あったろ? アレの応用だ」
『そ、そうか……無事でなによりだ。それより、さっき街を包んでた霧が一気に晴れたんだが何か知らないか?』
「セレウスなら俺が今討伐した」
『はぁ!!? ちょっと待て、早すぎるだろ!? さっきの間にセレウスの居場所を見つけて、取り押さえたって言うのか!?』
「今から言う地点に出向くか人を回すかしてくれ。そこで怪我を負ってるヤツがセレウスだ」
そう前置きしてセレウスがいる建物(おそらく宿屋か借家だろう)の名前と場所、階層、城壁側から見て右から何番目かなどの情報を述べていく。報告を終えれば、ジンジャーから「メイド長を派遣するから、案内してやってくれ」と連絡が入る。
『私はすぐに官邸に戻るからな。………あと、ウチのメイド長が世話になったみてーだな。お礼を期待してろよ?』
―――と残して走っていった。その件は違うってのに………
涙を我慢しながら城壁から降りて、件の背の高い借家の前で待っていると、リリアンちゃんと衛兵部隊がやって来た。詳細を話し、部屋を調査をさせれば大怪我を負ったセレウスと奴の身元証明の道具が運び出される。
あらかた確認作業が終わったあたりで、リリアンちゃんに声をかけられる。
「ローリエ様、少しお尋ねしたいことが」
「ん、なんだリリアンちゃん? モテる秘訣か? 逢瀬の約束か?」
「それについてはまた後程。私が聞きたいのは、セレウスの傷についてです」
彼女は、至極真っ当な目で俺を見る。
「あの傷は、剣や槍で刺されたのとは種類が違います。血の量からして致命傷でした。もう少し手当が遅ければ死んでいたでしょう。今も予断を許さない状況です。
―――いったい、どのような方法でセレウスを撃破したのですか?」
……うーん。
その質問はなかなか答えづらい。というか答えてしまっていいものか。俺としては、拳銃の存在はあまり広めたくはないし、構造や理論については絶対に教えられないと思っている。現に『パイソン』や『イーグル』、『ドラグーン』の設計図は俺の頭の中にしかないし。
「詳しく教えることは出来ないが、この力はアルシーヴちゃんやソラちゃん、そして賢者の皆のために使うことを約束しよう」
とりあえずこう答えてみる。これで納得してくれるなら良し、具体的な説明を求められても拳銃の概要をサラッと話し、何故秘密にするのかを口が酸っぱくなるほど並べ、内緒にする約束を取り付ければ何とかなりそうな気がする。
「…分かりました。ローリエ様がそうおっしゃるのであれば、信じることに致します」
「分かってくれて助かるよ」
リリアンちゃんはそう言って恭しく一礼すると、衛兵隊と一緒に牢獄病棟(警察病院のようなものだ)へセレウスを運んでいった。
……さて。俺もジンジャーの市長官邸に向かうとしましょうかね。
元々俺達はドリアーテとビブリオの手がかりを探しに来たんだし、もしかしたらきららちゃんとジンジャーのファイトに間に合うかも………でもなぁ。
リリアンちゃんの件の誤解、解けるかなぁ。ジンジャーのことだから、弁明する前に殴りかかってきそうで怖い。
屋敷の庭に辿り着いた時、アリサが現れてこちらに話しかけてきた。
「ローリエさん。セレウスの討伐、お疲れ様でした」
「おう。そっちもお疲れ様、だ。
ところでこの庭…だよな?……ひでー有様だな」
「う…セレウスの分身を撃退するのに必死でつい……ジンジャーさんは謝ったら許してくれましたが……メイドの皆さんに合わせる顔が…」
「大丈夫。リリアンちゃんなら文句は言わんさ」
「……リリアン?」
「メイド長の名前だ」
アリサのフォローをする過程でメイド長の名前がリリアンであることを話せば、アリサがうつむいて「また女の人をナンパしてたの…?」とボソッと呟いた。そこ、聞こえてるぞ。ナンパじゃあないの。セレウスの居場所を突き止めるのに必要なことだったの。リリアンちゃんを本気で口説くのはドリアーテを滅ぼした後にするわ。
「それで、この後はどうしますか?」
「書類をちょっと拝借して、住民票とビブリオの悪行の証拠を集めよう。ついでに何か見つかるかもしれない」
「………ジンジャーさんの手助けはしないんですね。」
「あれはジンジャーの仕事だ。それに……ドリアーテを倒す鍵になりそうだからね、きららちゃんとランプは」
あと、君は彼女達の義理立てとしてジンジャーときららちゃんとの戦いには参加しないのだろう?ドローン越しに聞いたぞ―――と言う前に、アリサは驚いた面持ちで俺を見て、食い気味に尋ねた。
「え、あの人達がドリアーテを倒す鍵、ですか!?」
「まずきららちゃんは『コール』が使える。伝説の召喚魔法の使い手だ、仲間にしないという選択肢はありえない。
そしてランプは―――新たな聖典の作者になり得る」
「!!!?」
「さァーて、とっとと調べに行こうぜアリサ。書類関係の資料室はあっちだな」
困惑するアリサを誘導するように先頭を歩き屋敷内に入ると、クリエケージやシノと穂乃花のある部屋とは別方向の資料室に向かって進んでいく。
◇◇◇◇◇
「どうして、ランプが『新たな聖典の作者』になると思ったんですか?」
資料室に入り証拠探しを始めて数分後。ふとアリサが、俺に向かってそんな事を聞いてきた。
「ソラちゃんとランプがそっくりだからだよ。二人とも、聖典の登場人物がこれ以上ないってくらい大好きなんだ」
「そうなんですか? でも、いくら似てても実力が伴わなければ意味がないと思うんですけど」
俺の答えに対してそう反論するアリサは的確だ。だが……それは、
「確かにな。だがそこで、聖典学の成績が生きてくる。ランプは、聖典学だけ見れば、成績はトップだ。当時のアルシーヴちゃんやソラちゃんよりも優れてるんじゃあないか?」
その代わり、他の学問の成績が聖典学にほぼ全部持ってかれてる形でズタボロだけどな。
「聖典は女神がクリエメイトの様子を書いたもの。例えばクリエメイトに理解と情熱があり、女神候補生たるランプがクリエメイトとの日々を日記に書いたとしたなら……それはもう立派な聖典といっていいだろう」
「………!!!! そ、それは…!!
今すぐ筆頭神官さまに報告すべきなんじゃあ……!?」
ランプの可能性を話せば、アリサは分かりやすく動揺してそんな事を口走る。兄のしでかしたソラちゃんの呪いを解けるとあっちゃあ、まぁ、気持ちは分からなくもないが―――
「ダメだ。落ち着けアリサ」
「でも……!!」
「まだ第三勢力がいる。ドリアーテの正体については推測を語ったが不確定な上、まだ何か仕掛けてこないとも限らない。
『ランプの可能性』……この情報は、
「!!! そ、それもそうね……でも、どうして私に教えてくれたの?」
俺がランプの可能性をアリサに教えた理由。
知る人間は少なければ少ないほどいいとは言ったが、それなら誰にも話さなければいいだけの話である。それにも関わらず、俺はアリサに教えることにした。その理由。それは―――
「いざという時、
「
――――――――――わかった。」
俺達と第三勢力の戦いは、勝利条件と敗北条件が明確にされていると言っても過言じゃあない。
勝利条件は、ソラちゃん・アルシーヴちゃん・きららちゃん・ランプが生存したまま、ドリアーテを倒すこと。
敗北条件は、前述の4人の誰か一人でも再起不能になること。特にランプが再起不能にされると致命的だ。新たな聖典の力がなくなり、そのままなし崩し的に世界滅亡、なんて十分あり得る。
故に、あの二人の命は丁重に扱わなければならない。きららちゃんは今までの賢者たちとの戦いを経て強くなっているはず。俺はその間にドリアーテに繋がる手がかりを見つけなくては―――
「ローリエさん、なにか落ちましたよ」
「……ん?」
突然、アリサからそう声がかかる。なにか落ちた、という言葉に従って床を探していると、一枚の紙のようなものが手に触れた。
―――それは、住民票であった。元々は処分されるはずだったのが何かの間違いで保管され続けていたのだろう、埃が被りに被っている。
埃を手で払えば、最も求めていた名前が、忘れるはずのない顔写真と共にそこに記されていた。
「―――アリサ。これを見てくれ。ビンゴだ。」
「―――え? これ……」
「―――『ドリアーテ』。手がかりどころか、大当たりを引いたようだ。」
年数は、ざっと
キャラクター紹介&解説
ローリエ
セレウスを
メイド長/リリアン
拙作で初めて命名された、ジンジャーのメイド長。名前で呼ばれる事を恥ずかしがっており、ジンジャーもその気持ちを汲んでメイド長呼びしている。ローリエの情熱的な口車に乗ってしまい、本名を教えた。セレウス狙撃の後処理も行う。ちなみに、セレウスについては「ジンジャー様に手を出したクソ野郎ですので、死んでも構いませんが、ジンジャー様が後で困るだろうから殺しはしない」と思っている。
ジンジャー
ローリエの迅速な仕事に驚く八賢者。ローリエの報告を受けた後は、メイド長のお礼参りを約束した後、市長官邸に戻りきららと激突する。アリサが謝罪してきたので、庭の件は許した。
セレウス
―――
△▼△▼△▼
きらら「私の力は、なんの為にあるんだろう? …ずっと考えていたことでした。答えは、まだ出ません。すぐに出してはいけないのかもしれません。私は、後悔したくありませんから。守りたいものを、指の間からこぼしたくありませんでしたから。」
次回『この力は、みんなの為に』
カレン「See you next time! Bye!!」
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