きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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前半はたまちゃん視点、その後ローリエ視点でお送りします。


“彼には、彼なりの事情があると知ってしまった。だが、例えそうであっても、クリエメイト達に仇なすというのならば、躊躇はしないつもりだった。”
  …ローリエ・ベルベット 著 自伝『月、空、太陽』
   第7章より抜粋


第61話:珠輝とナット、時々歌夜

 ローリエさん達の聞き込みの結果、関先輩を見つけ出して、情報を共有したあと、もう一度聞き込みを再開しようとしたその時、問題が発生したとローリエさんが皆さんに言ってきました。

 

 

「ここの人達、なんかおかしい。同じ事しか喋らなくなっている」

 

 

「いやぁ、知らないなぁ。」

「いやぁ、知らないなぁ。」

「いやぁ、知らないなぁ。」

「いやぁ、知らないなぁ。」

「いやぁ、知らないなぁ。」

 

 

「……確かに、奇妙なことになってますね。歌夜様の事だけでなく、クリエケージの情報も誰からも出てこないなんて……椎奈様、あやめ様、どういうことか分かりますか?」

 

 まるでゲームのテストプレイでバグったかのように、同じ事しか喋らなくなっている方々。男の人だけじゃなく女性の方も「いやぁ、知らないなぁ。」と言ってきたことに違和感を抱いていると、部長さんと関先輩が答えてくれました。

 

「一言一句同じ反応でしたね。」

「あー……やっぱりそうなのかなぁ…」

「おそらく情報収集自体が上手く進行しない状況になっている可能性があります。まさかこんな形で進行不能バグが出てくるとは思いませんでしたが…」

 

 

 まさかとは思っていましたが、また進行不能バグがこの世界でもう一度出てくるなんて……!

 きららさん達が不思議そうな顔をしている中で、ローリエさんだけが納得した様子ですけど…バグとか分かるんでしょうか?

 

「えーと、二人がなんの話をしているのか詳しく分からないんだけど……」

 

「単純な話です。オーダーの影響によって、情報収集が不可能になっているんです。」

 

「…手立てが無いということなのでしょう。単純な話とは思えませんね。」

 

「いや、そうでもない。人に聞けないなら、それで探しようはある」

 

 

 藤川先輩の探す手がかりである聞き込みが出来ない以上、打つ手がないように思えた時、そう言ったのはローリエさんでした。

 

「歌夜ちゃんがいそうな場所を考えればいいのさ。彼女がエトワリアに来たとき、何に興味を示すかを考えればいい。」

 

 な、なるほど……それなら、藤川先輩のいそうな場所をある程度探せます。でも、その方法は私達なら探せたとしても、初対面のきららさんやナットさん、フェンネルさんやローリエさんが探せないんじゃないでしょうか?

 

「ローリエ……居そうな場所ってどうやって考えるんだ?」

「少し想像してみたまえ、ワトソン君」

「いや誰がワトソン君だよ」

 

「例えば、たまちゃんを探すとなった場合。おじさまの多く集まる場所を探し回ってみるといいだろう。」

 

 ―――おじさまの集まる場所!!?

 

「そんな所があるんですか!?」

 

「―――とまぁ、こんな思考実験を歌夜ちゃんバージョンでやってみることだ。そうすれば、自ずと答えが―――しいては方向性が見えてくる」

 

「―――っ! わかりました! 楽器屋さんです!」

 

 なんか私を例に使われた気がしましたけど、ローリエさんの言うことがなんとなく分かりました―――と言おうとしたら、先にランプちゃんが答えを一つ挙げました。流石、私達の知識が豊富と自負するだけありますね。誰にも言ってないパパ関連のことも当たり前のように言い当てたし……

 

 

「おおー、いいね。手本にしたいくらいの模範解答だ。

 ………この根本の町に楽器屋や演奏の場が無い事に目を瞑ればな」

 

「なっ!?」

 

 楽器屋がない、ですか……ランプちゃんの楽器屋さんは良い案だと思ったのですが…無い、となると音楽や珍しい音が好きな藤川先輩の行き先に見当がつかなくなってしまいます……

 

「そうですか……ならば考え直さないといけませんね…」

 

「ご、ごめんなさい。わたし…」

 

「い、いや、意見を出してくれるのはありがたいよ。ともかく最初から整理し直そう。」

 

「そうだな。思考実験その①。『歌夜ちゃんはこの状況を受け入れてるか、否か?』」

 

 

 藤川先輩がこの状況を受け入れられてるか、ですか…………それについては、戸惑いよりも興味の方が大きいと思います。しかも、音関係の事に……。

 

 

「…ふむ。まぁ、たまちゃんがそう言うのならそうなんだろうね。確かに、歌夜ちゃんが異世界召喚程度でビビるキャラじゃないからな…」

 

 思ったことをそのまま言えば、ローリエさんが概ね同意してくれました。思考実験その①なるものが終わったので思考実験その②に移行しますが、そのテーマは……

 

「次の思考実験は……『藤川先輩が興味を持つもの』、でしょうか?」

 

「そう、ですね。やっぱりSiguna(シグナ)様が興味を持つのは音関連なのは間違いないんですよね?」

 

「はい。そこは確定で良いと思います。

 ですが、楽器屋などに関係しないとなると、少し難しいですね。」

 

「うーん、この世界で藤川さんが興味を持ちそうな音ってなんだ? やっぱり、独特なやつ?」

 

 藤川先輩が興味を持つ、楽器屋関係以外の音がなかなか浮かんできません。部長さんや関先輩も、思いつくのに苦戦していらっしゃるようです。

 そこで声を上げたのも、やはりローリエさんでした。

 

 

「じゃあ、アレだな。クロモンの鳴き声」

 

「クロモンの鳴き声、ですか?」

 

「あぁ。ありゃあ、聖典の人たる君らにとっちゃあ、なかなか珍しいタイプじゃあないかな? …サンプリングすれば、使い道は結構ありそうだし……」

 

「……もしそうだとすれば、クロモンの群れに自ら突っ込んでいくことになりますよ?」

 

 ローリエさんと部長さんのやり取りで血の気が引いていく。そ、それって、いくら藤川先輩でもかなりマズいのでは…?

 

「………いやいや、いくらなんでも、クロモンに囲まれてちゃ、気付くと思うんだが…………」

 

「ダメです!! 藤川先輩、音に集中するとモアイと般若を足して2で掛けたような顔になっちゃうんですよ!!?」

 

「意外とぶっ刺すね本田さん…でも、本気モードの藤川さんならありえるかも」

 

「オイオイ、言ってる場合かよ? その藤川さんって子さ、クロモンの群れに突っ込んでったのか? なら今頃襲われてんじゃあねーの?」

 

 

 ナットさんの投げやりな一言は、身も蓋もないですけど、的確に藤川先輩の状況を表しているように聞こえて、私達だけでなく、きららさんやランプちゃんの顔からも血の気を奪っていきました。

 

 

「と…とにかく急ぎましょう!!

 先生や椎奈様の推測通りなら大変です!!」

 

「あ、それじゃあ、頑張ってね〜。オッサンはここで待ってっから」

 

「何を寝ぼけた事を言っているんですか!!!

 ナットさんも行くんです!!」

 

 ランプちゃんが大慌てで町の外―――クロモン達の群れをよく見かけた場所へ歩いていって、それに付いていく形で、皆は町を後にする事になりました。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 藤川先輩を助けに行く行軍は、先頭がフェンネルさん。その次にきららさん。その後ろから部長さん、関先輩、ランプちゃん、マッチと続いてローリエさん、そして殿をわたしとナットさんが歩く、という形になりました。

 というのも、ナットさんが『殿が良い』と盛大にゴネたからです。ローリエさんが反対していましたが、『オッサンの本音は譲れない』と粘った上に藤川先輩の安否を早めに確認したかったのもあり、ナットさんの近くにわたしとローリエさんがつく事を条件に先を急ぐ事にしました。

 

 

 ナットさんを見れば、ランプちゃんに叱責された時の嫌々そうな表情と、疲れたような表情がない混ぜになっていて、表現しづらい仏頂面になっていました。

 ……えへへ、おじさまのこういう複雑な表情も素敵ですね。元の世界に帰った時に再現できるように観察しなくっちゃ―――

 

 

「……おい珠輝ちゃんよ。そんなにジロジロ見つめて、オッサンの顔になにか付いてんのか?」

 

「!!!!」

 

 き、気付かれてしまいました! 流石に、ちょっと失礼でしたよね。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「まったく……こんなくたびれたオッサンの何が良いんだよ?」

 

「良いに決まってるじゃないですか! むしろこのちょうど良い枯れ具合が魅力的なんやもん!!」

 

「そこまで熱くなる程かよ…」

 

 もう少し欲を言うなら、性格的にもっとしっかりして欲しかったです。そうすれば、パパの次くらいには素敵なおじさまだったかもしれへんのに……

 

 

「はぁ……お前みたいなのと話してると、姪っ子を思い出すよ……」

 

「え? ナットさん…姪っ子さんがいらっしゃるんですか!? こんなおじさまが身内なんて羨ま…じゃない、どんな人が訊いても良いですか?」

 

「お前今羨ましいって言おうとしたか。……まぁいい。

 姪っ子―――エイダはね、妙に俺に懐いた子だったよ。なんでそこまで俺を好くのかわからねぇくらいにな。珠輝ちゃんくらいの年になるのに『結婚するならおじさんみたいな人が良い』なんて言ってきてね。俺みたいな男は総じてロクでなしなんだからよせばいいのにさ」

 

「なんでしょう。その姪っ子さん……エイダさんと代わってほしくなってきました。ちなみに、ご両親は?」

 

「とうとう欲望を隠さなくなったなコラ。

 ……エイダの両親はもういない。俺のせいでな」

 

 

 ……え?

 今、なんて言いました?

 エイダさんのご両親が、もういない……?

 

 

「…………それは、」

 

「あっと、誤解のないように言っておくが、オッサンが二人に何かした訳じゃねぇぞ。ただ、俺への報復を、俺の身近な人間にされたってだけだ。

 こう見えてオッサン、昔は色々物騒な仕事してたかんな。恨みを買う覚えなんて掃いて捨てるほどある」

 

 

 物騒な仕事、と言いました。具体的には何だかよく分かりませんし、想像もつかない。なにせわたし達の住む世界は平和すぎてそんなものが必要とされてないから。だから、何が起こってしまったのかを理解することが出来ない。

 というか……それよりも、エイダさんのご両親の話から一気にヘビーになったせいで、話の半分も落ち着いて受け止められているか自信がありません。事情はよく分からないですけど、ナットさんへの仕返しを、ナットさん自身にしないでご家族を狙うなんて、陰湿にもほどがあります。

 

 

「え、エイダさんは、どうして、無事に……?」

 

「そん時たまたま余所のお友達の家に遊びに行ってたんだと。俺も仕事から帰ってきた時には全てが終わってた。

 その後俺は今までやってた仕事をやめたよ。兄貴と義姉(アネ)さんの忘れ形見を守る為―――いや、違うな。俺は……」

 

「………?」

 

 ナットさんがそこから先を口にすることはありませんでした。ですが、すごく……後悔しているような顔をしていました。わたしは…大好きなおじさまのその表情だけは、好きになれませんでした。

 

 

「だからオッサンは『何もしていない人』なのさ。あの時も、これからもそうさ。生まれた時から面倒臭がりだったけど、エイダの両親の事があってからは何だか全部がメンドくさくなっちまってね。

 さっきは初対面で『マダオ』なんて言われたっけなぁ。『まるでダメなオッサン』略して『マダオ』だってな。まぁ……まさしくその通りさ。」

 

 

 だから、おじさまの全てを諦めたかのような目を……どうしても、否定したかった。

 かつて……藤川先輩が掲げていた、『創作は自分の為に行わないといけない』って持論を認めたくなかった時のように。病弱だった頃の裕美音の冷たくなりかけてた心をなんとかしたかった時のように。

 

 

「…話しすぎたな。ともかく珠輝ちゃんよ、こんなオッサンはほっといて―――」

 

「おじさまはダメなおっさんなんかじゃありません!!!」

 

 

 ありったけの声でナットさんに呼びかける。

 おじさまは、気だるげな目を見開いた。今まで、見た事のなかったような驚きの表情だ。

 

「わたしは…おじさまとは出会ったばっかりで、どうしてそんな話をしてくれたのかは分かりませんが……おじさまが…ナットさんが全く悪くない事や…エイダさんを大切にしてる事くらいは分かります!!」

 

 わたしの声に皆さんが振り向く気配を感じるが、そんなものは関係ない。

 

「確かに、お兄さんとその奥さんを亡くされた事は気の毒だと思ってます! でも、ナットさんにはまだ姪っ子(エイダ)さんがいるじゃないですか!! 

 それとも、エイダさんが『何もしていない』ナットさんを好きになると思っているんですか!!?」

 

 

 少なくとも、そのエイダさんがナットさんを好いていないなら、冗談でも『結婚するならおじさまみたいな人が良い』なんて言うはずがありません。

 わたしが幼い頃からおじさまの劇画を描き続けておじさまやパパを好きになったように、エイダさんがナットさんを好きになったのにも理由があるはずなんです。

 

 

「………はぁ。珠輝ちゃんよぉ、分かったから声を抑えてくれ。あと、藤川さんを助けに行くんじゃあなかったのか?」

 

「そうですけど、ナットさんを放っては―――」

 

「分かった分かった。続きは藤川さんを助けてからにしようや。」

 

 

 ……納得いきませんが、藤川先輩を待たせるのも良くないですね。わたしが大声を出したせいで皆さんもこっちを見てしまって歩みが止まっています。仕方がないから、追及を一旦終わらせることにしました。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 「ご迷惑をおかけしました」と、たまちゃんがいきなり大声をあげてしまった事を謝罪すると、再び歩みは始まる。

 それにしても―――オッサンにそんな身内と事情があるとはな。たまちゃんとオッサンの前を歩いていたから、そんなつもりはないのにほぼ全部聞いてしまった。だが、それを口にしないのは良い男の嗜みだ。

 

 そう思っていると、クロモンの群れが見えてきた。

 

 

「今までの群れの中で一番大きいですわね……」

 

「フェンネル、ローリエ、ナット、少し珠輝達を任せてもいいか? 僕達が先行して別ルートで偵察してくる」

 

「……ええ、ちゃんと守ってみせます」

「うーす、了解」

「メンドくせぇなぁ……」

 

 マッチの提案を(約1名ほど嫌々だが)引き受けてたまちゃん達の護衛につく。その間に、きららちゃんとランプとマッチで偵察―――もといパスを使ったクリエメイト探しに向かった。

 暫くして、二人と一匹が戻ってくる。どうやら、目的の人―――藤川(ふじかわ)歌夜(かよ)を見つけたようだ。曰く「藤川さんを見つけた、けど襲われているわけでもなく、逃げる様子もない」とのこと。まぁ、歌夜ちゃんのことだから、クロモン相手にサンプリングの収録という名の拷問でも強いているのだろう。あの子は厳しいからな。ちょっとの雑音や音圧不足&オーバーでリテイクしまくっている事だろう。ちょっぴりクロモンが可愛そうだ。

 

 

「半分くらい外れて欲しかったですが…まぁいいでしょう。しかし、クロモン…多いですね。」

 

「藤川さんが真剣すぎて、戸惑ってるのか。でも、私達が助けに行ったら間違いなく襲ってくるだろうな…」

 

 歌夜ちゃんは、クロモンの群れのど真ん中、そこにある岩に腰掛けて、俯いて何かを操作しているようだ。

 

「この数だと全部を何とかするのは難しいかもしれませんね……」

 

「私達八賢者がクロモン達を引きつけますわ。そのスキに貴方達で救出なさい。」

 

 ただ、群れの数が今までよりも遥かに多く、きららちゃんが『コール』を使っても全員を相手取れるかは難しいほどであった。強気に囮を名乗り出るフェンネルでもそれは変わらない。俺が助太刀するにしたって限界はあるし、何より面倒だ。

 歌夜ちゃんを救出するために防御力のあるフェンネルと殲滅力が最も優れた俺が組んで足止めをするのは一見合理的だ。他に良い手がないのは明らかだし……

 

 

「はぁ〜〜〜〜………メンドくせぇ。ンな回りくどいコトすんじゃねえよ。ちょっとオッサンに任せな」

 

「「「「「!!!!?」」」」」

 

 

 なんと、ここでそう言ったのは、ナットであった。あの面倒臭がりのオッサンが、である。そしてそのまま、クロモンの群れへつかつかと歩いていく。

 ま、まさかあのクロモンの群れをオッサン一人で? いくら実力が底しれなくても、限界がある!!

 

 

「待ってください、ナットさん! いくら何でも無謀です!」

 

「そうですわ。一般人を無謀と分かっていて行かせはしません。戻ってきなさい!」

 

「考え直すんだ、ナット!」

 

 きららちゃんやフェンネル、マッチの制止を気にもとめず、群れへと進んでいく。

 

「くー!」

「くくー!!」

 

 そして、案の定それに気づいたクロモン達が警戒立って―――

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――ッ!!!」

 

「「「!?!?!?!?!?」」」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 ……と、効果音でも出すべきプレッシャー―――いや、そんな生温いモンじゃない。良く言って闘志、悪く言って殺意……そんな覇気をクロモンの群れに放ったのだ。あのオッサンが。

 あまりに濃厚な覇気に、咄嗟に武器を構えていた。きららちゃんも震える足に鞭打ったのかランプやマッチの前に出て、フェンネルも腰に下げているレイピアに手をかけた。SNS部の3人は足がすくんで動けない。

 直接覇気を向けられたわけでもないのに、近くにいるだけでこの有様なのだ。では、直接覇気を向けられたクロモン達がどうなったのか? ………考えるまでもない。

 

 

「くー!!!!」

「くー……」

「くー!? くー!!!」

「くぅ……」

 

 ―――案の定、ほぼ全てのクロモンが力なく倒れるか逃げていく。気絶半分、逃走半分といったところか。まぁ、助かったといえば助かった。

 それを確認したオッサンは、すぐに威圧を引っ込めて、こっちを向くと困ったように笑った。

 

 

「いやー心配かけて悪かったね。オッサン、小さい頃からクロモンにだけは嫌われててな。年をとったらなんとかなるかもーと思ったんだが、こりゃあ一生クロモンを抱き上げられねーな!」

 

 

 ……果たしてそんな言い訳の通じる人間が何人いると思っているんだか。今の威圧は、ハッキリ言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。フェンネルもその言い訳を信じている様子はない―――

 

 

「そ、そうなんですか…大変でしたね、ナットさん。でも、だからって無茶はしないでください!」

「す、凄いプレッシャーでしたよ、ナットさん。それ引っ込めて近づいていけば、クロモン達にも好かれたんじゃ…」

「おやぁん???」

 

 

 なんか奇跡的に二人も(きららちゃんとたまちゃんが)いた。

 マジか。その理由信じちゃうんだ。そう思っていると、その一言で警戒が解けたのか、椎奈ちゃんとあやめちゃんも口を開く。

 

 

「せめて一言言ってください。ビックリしたではありませんか」

「なんだよ、オッサンすげーじゃん! あたし、オッサンのこと誤解してたよ」

 

「誤解なんてしてねーよ。オッサンはすごくない。ただの面倒臭がりさ。ただ、姪っ子のことを良く言ってくれた子がいたんでな。たまたまやる気が出ただけさ」

 

「えっ……!? はわっ、そ、それってうちの…こと……?」

 

「お前以外に誰がいんだよ」

 

 

 何たることか。ナットが、たまちゃんを中心にあっという間に打ち解けていったのだ。あの、人間関係すら面倒臭がりそうなマダオでは考えられないような行動である。やっぱり、たまちゃんに家族の話をしたことが影響しているのだろうか。

 推定怪しい人が同行者たちと打ち解けていくさまを見て、俺はフェンネルと顔を見合わせた。

 

 

「ひょっとして、このナットという人……悪い人ではない、のでしょうか………?」

 

「分からん。少なくとも只者じゃあないはずだけど………」

 

 

 分からないことを深く考えてもしょうがない。とりあえず、本来の目的を達しようじゃないか。

 気絶したクロモン達を踏まないように歌夜ちゃんが座っていただろう場所へ行くと、案の定歌夜ちゃんが腰を抜かして座り込んでいた。音のサンプリングをしている最中にオッサンの底知れぬ覇気を受けたんだ。こうなって当然だ。

 

 

「………立てるか? SNS部の皆が待っているが……」

 

「…あはは、ごめんねお兄さん。私、ちょっと腰が抜けてるかも。いきなりあんなプレッシャーで驚いて、転がり落ちた拍子にどっか打ったみたい」

 

「やむを得ないか………ちょっと運ぶぞ」

 

「え、ちょ………きゃっ!」

 

 

 戸惑う歌夜ちゃんをそのままお姫様抱っこする。恥ずかしいかもしれないが、女の子の運び方はこれ一択、それ以外は論外と相場が決まっている。そのままSNS部の皆ときららちゃん達のものまで歩いていった。

 

 

「おーいみんな。歌夜ちゃんは無事だ。ただ、どっかのオッサンのプレッシャーのせいで暫く腰が抜けて歩けないけどな」

 

「ほらね。やっぱりナットのやり方は強引だったんだよ」

 

「しょうがねぇだろ!? なら馬鹿正直にあの数のクロモン達と戦った方が良かったってか? 冗談じゃねぇぞ、メンドくさ過ぎて死ぬわ!!!」

 

「わ、わぁ……藤川先輩がお姫様抱っこされてるの、初めて見ました………」

 

「あ、あの、本田ちゃん。あんまり見ないでくれると助かるんだけど………」

 

 マッチもマッチでナットのやり方が最善じゃないと判っていたようだが、そんな事は重要ではない。重要なのは歌夜ちゃんが悠○碧(あおちゃん)ボイスで照れていることだ。しかも、その表情を至近距離で見ることができている。この上ない役得だ。

 

「あの、お兄さん? 下ろしてくれると嬉しいなって、思うんだけど………」

 

「ならもう一度聞くようだが…立てるかい、今?」

 

「う、う〜ん……ちょっと、自信ない、かな?」

 

「じゃ、もうちょいこのままね」

 

「なっ!!?」

 

 下ろして、と真っ赤になった歌夜ちゃんが抵抗するも、まだ本調子じゃないみたいだ。今下ろしたら、彼女が躓いて転ぶ危険性があるが―――

 

 

「………フェンネル?そのレイピアをしまうんだ。

 話をしよう。待ってくれ、プリーズ」

 

「邪な男にクリエメイトは任せられませんわ。早く藤川歌夜を解放しなさい!」

 

「あれ、なんで俺が悪役みたいになってんの?」

 

「いやぁ、はたから見たら悪役だよ? お兄さん?」

 

「……ローリエだ。歌夜ちゃん、でいいのか? 流石にそう言われると泣くぞ? 俺もう20歳になるけど泣くぞ?」

 

「いい加減に観念しなさい、ローリエ」

 

 オッサン以外の全員から離せコールをされたので、仕方なく歌夜ちゃんを下ろすことにした。しかし、未だ回復していないので歌夜ちゃんはフェンネルが背負うことになった。泣きそう。

 

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 さり気なくナットと珠輝のやり取りを耳にしてしまった主人公。今回はナットの威圧で腰が引けた歌夜をお姫様抱っこするというとんでもない役得を得たが、勿論コイツがそれをし続けることが許されるはずもなく、儚いラッキーイベントとなってしまった。

本田珠輝
 「ステラのまほう」の主人公らしく、人の意見に真っ直ぐぶつかる実直さをこれでもかと見せつけたファザコン女子高生。ナットが自身の姪について話してくれた事については、「どうして話してくれたんだろう」という戸惑いこそあったものの、「エイダと仲良くなれそう」という気持ちが勝っている。

藤川歌夜
 クロモンのボイスのサンプリングをしてたらいきなり殺気をぶつけられるという凄まじいとばっちりを食らった自由人のSNS部音響担当。ペンネームは『Siguna』。拙作ではとばっちりを受けたせいでローリエにお姫様抱っこされることに。しかし、SNS部の前でそんな姿を晒すのを耐えられるはずもなく、フェンネルのおんぶを希望した。

ろーりえ「こんなイケメンにお姫様抱っこされたってのに、何がお気に召さなかったんだ?」
かよ「自分でイケメンなんて言ってちゃ世話ないよ…?」

ナット
 エイダという姪っ子の存在と家族関係、そして自身の過去がある程度明らかになったダメなオッサン。彼も彼なりに悩みを抱えて(?)おり、それの解決を今まで諦めていた。珠輝の必死の説得の甲斐もあり、歌夜救出に一役買うことにした。ちなみに、クロモンに嫌われる体質は本物らしい(本人談)。



△▼△▼△▼
ランプ「Siguna様も見つけた事で、SNS部の皆様が揃いました! しかし、クリエケージはどうしても見つかりません……」
ローリエ「いや、まだだ。クリエメイトは全員揃っちゃいない」
ランプ「え! でも、他に召喚されそうなクリエメイトは………あ!裕美音様!!」
ローリエ「その通り! 正直俺はBLは苦手なんだが………彼女とも合流しなくっちゃあな。」

次回『教祖ユミーネに会いに行こう』
ランプ「次回もお楽しみに!!!」
▲▽▲▽▲▽

きららファンタジアに登場する作品群の中の、次の作品の中で、最も皆様が好きな作品は?(決戦投票編)

  • がっこうぐらし!
  • きんいろモザイク
  • 夢喰いメリー
  • ゆるキャン△
  • まちカドまぞく
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