きららファンタジア 魔法工学教師は八賢者   作:伝説の超三毛猫

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今回の話は、タイトル通り感謝の話であり、ちょっとしたおまけパートとなります。
時系列は、ソラが女神になってから~女神襲撃事件までの間です。


UA4000突破記念閑話:三人の幼馴染

 最後の書類のサインを確認した私は、羽根ペンを置きふぅ、と一息をつく。筆頭神官はやることが多い。各部署からの報告を受けて政策の指示、女神候補生の教育、女神様の聖典編纂の補佐および歴代女神の聖典の管理………今日はその多忙な日々の中でも、珍しく日が沈みきる前に仕事が終わった日だった。

 

 

「お疲れ様でした、アルシーヴ様」

 

「お疲れ様でした」

 

「ああ。お疲れ、セサミ、フェンネル」

 

 

 常に仕事を補助してくれる秘書のセサミと身辺警護を欠かさず行うフェンネルに労いの言葉をかけ、書斎から出ていく。

 

 

「………二人とも、どうなさいましたか」

 

 

 扉を開けた時、そこにいたのは―――二人の幼馴染だった。

 一人はウェーブのかかった金髪を宇宙がデザインされたヴェールで包んだ、ローブ姿の女性。蒼く優しい瞳と落ち着いた佇まいは、ほぼ毎日のように忍んで街へ抜け出す奔放さがあるとは思えない、美しく儚げな印象を見る者に与える。ユニ様から女神の座を継承した人。名をソラという。

 もう一人は緑髪とオレンジ&金色のオッドアイの整った顔つきが特徴的で、ダークカジュアルな格好に黒い外套を纏った男。背丈は私よりも高く、腕から伺える筋肉は、私に男性的な印象を与える。黙っていれば、神殿……いや、エトワリア一の女好きなロクデナシには到底見えないだろう。彼は八賢者の黒一点で、名をローリエという。

 

 

 私はこの二人とは、幼い頃からの友人だ。幼馴染というやつである。

 生まれ育った言ノ葉の樹の都市で、三人色んな遊びをし、悪戯を仕掛け、魔法を勉強し、時に怒られながらも楽しい時期を過ごしてきた。

 

 ただ……ソラもローリエも、とんでもないトラブルメーカーだったせいで、私が高確率で巻き込まれた。

 ソラは、好奇心旺盛で、自由が好きな人だ。今も神殿を抜け出すのがいい証拠だ。ローリエも、後先考えずに思いついたことはすぐにやるのだ。それが悪戯なら尚更嬉々としてやるだろう。

 

 

 故に、今のように二人が笑顔で揃うと、禄なことがおきないと学んでいる。ふざけ半分で吹き込まれたローリエの『様式美』とかいうやつをソラは信じてしまうからだ。

 

 

「アルシーヴ!」

「アルシーヴちゃーん!」

 

 

 

「「飲まないか?」」

 

 

 二人がぶっこんだこの一言で、私はこの幼馴染たちに他人行儀とはいえ話しかけたことを後悔した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 ―――私は酒は苦手だ。

 

 筆頭神官たるものが、と意外と思うかもしれないし、予想通りだと思うかもしれない。

 

 だが別に神殿の規律だから、とかそんなつまらない理由を述べるつもりはないし、飲めないからという訳でもない。

 

 むしろ、私は酒に強いほうだ。

 言ノ葉の都市に流入してきた十数種類もの様々な酒を飲み比べ、味や風味を楽しみ、それでも頬の紅潮だけで済み、両の足でまっすぐ歩いて帰れるほどには強い。少なくとも酔いつぶれた記憶はない。

 その強さは、酒豪のジンジャーにも太鼓判を押されたほどだ。

 

 

 そこまで酒に強くあるのにではなぜ苦手なのか、というと。

 

 

 

「うみゅぅ………あるしーぶ……」

 

「おいおっさん、つまみとわいんおかゎり………」

 

「はぁ……」

 

 

 誰かと飲むと、殆どの確率でそいつの介抱をせざるを得なくなるからだ。

 

 

 

 

 現在、私は『様式美』を吹き込まれたソラ様と、それをしでかした実行犯のローリエの幼馴染二人が出来上がっていくさまを、共に都市の「屋台」なる露天の酒場でため息混じりに見ていた。

 

 

「………すまないな、店主殿。神殿の重役三人で押しかけた挙句、みっともない姿を露呈させてしまって」

 

「……いや、かまいません、アルシーヴ様。

 今宵のことは、出来るだけ忘れる事にします。」

 

「有り難い」

 

 

 空気の読める店主の粋な気遣いがなければ、女神と賢者のイメージががた落ちする所だった。

 

 

「あるしーぶぅ、おしゃけの減りが遅いわよ!

 もっとのみなさい!」

 

「ソラ様はいい加減自粛なさって下さい。もう呂律が回っていないじゃあありませんか」

 

「そうだぞう、そらちゃん。『さけはのんでものまれるな』っていうし、おれのおやじとおふくろだってそのトラブルからけっこんすることになったんだぞぉ」

 

「現在進行形で酒に呑まれてる奴は黙ってろ」

 

 

 二人は、「女神なんだからお酒くらい飲めないと」とか、「心は酒に慣れた30代だぜ?」とか威勢のいい事を飲む前に言っていたが、結果はご覧の有様である。

 まさか、幼馴染が二人揃って下戸な上に絡み酒だとは思わなかった。お陰で面倒くささが倍増だ。

 

 ソラ様は現在、私に「酔いなさい」と焦点の合わない目と呂律の回らない口で迫っているが、度数の低い果実酒1杯半でこうなるのはいささか弱すぎるのではないか。

 

 ローリエもローリエで、ワイン1杯で聞いてもいないことを喋りだした。驚いて見れば、顔はトマトのごとく紅潮し様子が明らかにおかしくなっていた。

 

 

「アルシーヴ! きいてるのでしゅか!

 そんにゃにわたしはめんどくさい女ですか!!?」

 

「アルシーヴちゃん、おれのおやじとおふくろはな、さけのんでてきづいたらほてるのべっどでふたりきりでねてたんだって。そっからつきあいだしたんだよー!

 さすが、えっちからはじまる恋もあるんだねー」

 

 

 ソラ様、今回ばっかりは面倒くさい女だと言わざるを得ませんよ。

 ローリエ、自重しろ。お前の両親の話なんて聞いてないし、事実だったらただの不祥事だろうがそれは。

 

 仮にも人の上に立つ存在なのに、それが二人も酔っている状況になっても尚、正気を保てる自分が恨めしい。ここで正気を吹っ飛ばせればどれだけ良いことか。

 

 絶対明日あたりに、二人には幼馴染のよしみで忠告しておこう。「絶対に外で酒を飲むな」と………

 

 

「もういーもん! のまないなら、わたしがのんじゃうもん!」

 

「おー! いけー、そらちゃん!!」

 

「まぁせてろーりえ! ―――んっ、んっ、んっ、んっ、ぷはぁーー!!」

 

「お体に障りますよ、ソラ様」

 

「わー! わー!! そらちゃん!!! アルシーヴちゃん、体に触るって! きゃー! アルシーヴちゃんのえっち! けっこんしろー!!」

 

「黙れローリエ」

 

「ううぅっ、世界が回る……」

 

「もうフラフラじゃないですか。仕方ないですね」

 

「サイコーにハイってヤツだァァアーーーーーーーーッ!

 フハハハハハハハハ!!!」

 

「静かにしないか!」

 

 

 ただでさえ酒に弱いのに、コップに残った果実酒を一気飲みしたことがトドメとなって潰れた女神様を背負い、深夜に騒ぎ出す馬鹿一人の手を引っ張りながら、とっとと勘定を終わらせることにした。

 これ以上は、この二人が何かやらかしかねんからな。

 

 

 

 ソラ様を背負い、ローリエに肩を貸しながら、神殿への道を街灯の薄明かりのみを頼りに歩き出す。

 

 ソラ様は既に潰れてしまったため意識はない。ローリエも、肩を貸さなければ、帰ることすらかなわないだろう。

 

 初めて酒を飲んだ時に己の酒の強さが判明した時から、数回はやっていたことだ。二人の幼馴染に飲みに誘われた時からこうなるだろうとは思っていたが、二人が揃って酒が入ると悪い方向に豹変するとは思っていなかった。

 ソラ様が寝落ちしてしまったのことは、酔っぱらい一人に集中して対応できるという点では不幸中の幸いだろう。

 

 

「アルシーヴちゃぁーーん……」

 

「………抱きつくな。あと、胸を触るな」

 

 ローリエが抱きついてきて、胸に男の手がくっついてくる。ソラ様を背負っているため、下手に振りほどくことも反撃することもできない事を知った上で、わざとやっているのだろう。……明日を楽しみにしてろよ。

 

 

 この男は、なぜここまで節操のない女好きになってしまったのだろうか。出会った時は、そんな気配は微塵も感じなかったというのに。

 

 

 彼と出会ったのは、5歳くらいの時だ。

 女神になる前のソラと遊んでいた時、街の広場で一人、なにかを弄くっていたのをソラが見つけたことに始まる。

 ソラが怪しげに見えた彼を見つけるなり、『なにしてるの?』と声をかけたのだ。その時私は、『怖そうだからやめよう』と言った。

 だが彼はソラの呼びかけに対し、まず驚きに目を見開いて、その後すぐ嬉しそうに話し始めたのだ。

 それからというもの、私達は三人で仲良く遊ぶようになった。どんな悪戯も、共にした。

 

 

 ―――あの日までは。

 

 

 その日の夜、私達の元に突然盗賊が現れたのだ。ソラは腰を抜かし、ローリエもあまりの恐怖に逃げ出した時、私は思ったのだ。

 

 この二人を守らなくてはと。

 

 だが当時魔法に長け、天才扱いされていたとはいえ、まだ子供だった私がそいつにかなうはずもなく、腹をナイフで刺され、なにもできないままソラを攫われた。それ以降己の無力さを感じて、魔法の修行に打ち込んだ。

 

 

 その後、ローリエがソラを救出したことを、間もなく帰ってきたソラ本人の口から聞いた。

 数年後に、二人っきりの礼拝堂にて彼自身から事の顛末を聞いた時は、驚きと同時に、無鉄砲な彼への怒りと、親友がいなくなるかもしれない恐怖と悲しみに、気が付けば奴の首根っこをひっとらえていた。

 

 それ以来、私は更に仕事と修練に時間を費やすようになったのだ。

 もう二度と、私の幼馴染を傷つけさせない為に。

 これ以上、私の幼馴染の手を汚させない為に。

 

 

 

「アルシーヴちゃん」

 

「!」

 

 

 ローリエから声がかかる。

 

 

「俺……今度こそ、二人を守るよ」

 

 

 何から、とは言わない。酒が未だに抜けていないようで、目の焦点があっていないように見える。どうせこれもたかが酔っ払いの戯言、と笑いながら流してもいいはずなのに。

 

 彼の発言があまりに心当たりのある言葉だったせいで、その機会を失ってしまった。

 

 

 

 

「ばかなことを言うな。二人を守るのは……この私だ」

 

 

 

 だったら。

 それならば、今くらい正直に返そう。

 どうせこの会話を覚える人など私以外にはいまい。ソラは私の背中の上で眠っているし、ローリエは酔っていて覚えやしないだろう。

 

 

「そのために強くなったんだから」

 

 

 ぽつりぽつりと呟く。誰にも……隣のローリエにさえ、聞こえないように。

 こんなことを喋ってしまったのも、顔が徐々に熱くなっていくのも、酒とつぶれた親友二人が密着しているせいだと、思いたかった。

 

 

 

 

 

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