転生者が奇妙な日記を書くのは間違ってるだろうか   作:柚子檸檬

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ジョジョ5部も終盤に差し掛かって少し寂しい気分。


ひとりのエルフは目の前の壁を見ていた もうひとりのエルフは窓からのぞく星を見ていた その2

 私は何故冒険者になりたかったのだったか。

 

 エルフという種族は排他的で他種との交流を避けて永久にも等しい時を森の中で暮らす。

 私はそれを窮屈に思って里を出た。

 外の世界を見てみたい、もっと色々なものに触れてみたい。

 迷宮都市オラリオはそんな私の好奇心を満たす場としてこれ以上ないものだった。

 『ディオニュソス・ファミリア』へと入団した後、四苦八苦しながらも先人達と共にダンジョンへと潜った。

 苦労があったとはいえ、日々自分の技量が磨かれていくのは楽しかったし、ダンジョンでの冒険はこの先には何があるんだろうと、心躍った。

 

 待っていたのは地獄だった。

 

 後に『27階層の悪夢』と呼ばれる事件。

 『白髪鬼(ヴェンデッタ)』オリヴァス・アクトを中心とした闇派閥による最悪の囮作戦。

 

 何故私が生き残れたのか、私自身よく覚えていない。

 敵や仲間達が魔物に殺され、食われていく様を見て、私の想いは一つだった。

 

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 

 ただ死にたくない一心で私は魔法を唱えて剣を振るった。

 一体何処まで仲間達の事を気にかけられただろうか。

 

 次に気が付いたときには私は病室で寝かされていた。

 話によれば私は一人27階層で立ち尽くしていたらしい。

 あの地獄が終わった事への安堵が私を包み込む。

 そしてしばらくした後に仲間達の死に涙を流した。

 

 フィン・ディムナがそれに気づいて裏をかいた事で闇派閥は一気に弱体化し、『疾風』の破壊活動がトドメとなってオラリオの暗黒期は終わりを告げた。

 

 悪夢は終わった――――そう思っていた。

 再び立ち上がった私はまだ私が悪夢の中にいる事に気づいていなかった。

 

 始まりは、リハビリが終わって新しく組んだパーティでダンジョンを潜った時。

 

 私を残して全滅した。

 

 一度や二度であればダンジョンではよくある不慮の事故だと片づけられただろう。

 ただ、私の場合は一度や二度ではない、立ち直ってから組んだパーティ全てが遅かれ早かれ私を残して壊滅している。

 

 気が付いたときには他の冒険者達からは敬遠されて、同じファミリアの団員ですら私から距離を置くようになった。

 

 いつからか私は『白巫女(マイナデス)』ではなく呪われた存在、『死妖精(バンシー)』と呼ばれる事が増えた。

 

 モンスターに憤りをぶつけても、私の身体が血に染まるだけで、それが晴れる事は決して無かった。

 

 何故私は生きているんだ。

 そう思いながらダンジョンを一人で彷徨うばかりだった。

 

 彼と出会ったのはそんな時だった。

 

 ダンジョンの帰り、彼は他の冒険者3名に武器を向けられていた。

 

 ダンジョンに法律なんてものは存在しない、何があろうと自己責任だ。

 だからこそ冒険者が冒険者を襲う事もある。

 それでも、自分より一回りは下の子どもを狙うとは卑劣極まりない。

 

 丁度いい、少々物足りなかったところだ。

 こいつらで憂さ晴らしをさせて貰おう。

 

 私は杖を構えて男一人を殴りつけた。

 男はそのまま昏倒。

 

「て、てめ――」

 

 反撃の隙など与えない。

 鳩尾に杖を叩き込む。

 二人目は腹を抑えて蹲った。

 

「お、お前、バン――」

 

「黙れ」

 

 最後の一人は隙だらけの顎を殴打。

 男はそのままグラついて気を失った。

 

 私が思っていた程達成感は湧いてこなかった。

 

「クズ共が、子ども相手に恐喝など恥を知れッ」

 

 子どもは終始目を丸くして自分に絡んでいた男3名が倒れていく様を見ていた。

 怖がらせてしまっただろうか。

 当たり前か。

 私が行ったのは彼を助けるという大義名分を掲げた憂さ晴らしだ。

 我ながら何をやっているのだろうかと心の中で溜息をついた。

 

  

「こいつらが起き上がる前に引き上げなさい」

 

 罪悪感で彼を碌に直視出来ず、そのまま逃げるようにその場を立ち去った。

 見たところレベル1の駆け出しといったところだ。

 狩場が違うのだから、ダンジョンでまた会う事もそうそうないだろうし、オラリオの規模を考えれば都市内で遭遇する事もあるまい。

 

 その発想が甘かった。

 

「あの、先日は助けていただいてありがとうございました」

 

 私がデュオニュソス様の警護をしている最中にあの少年はやってきた。

 首に巻いたワインレッドのマフラーは見間違いようもない、私がダンジョンで助けた少年だ。

 何故こう都合悪く出くわすのだ。

 

「助けた?」

 

「ええ、ダンジョンの帰りにガラの悪い冒険者達に絡まれていたので……」

 

 誤魔化しても仕方ないのでありのままをディオニュソス様に伝えた。

 勿論、都合の悪い事は隠してだ。

 

「あの子は一人だけだったのかい?」

 

「はい」

 

 そういえば何故彼は一人でダンジョンに潜っていた?

 上層とはいえ12か13くらいの子どもが一人で挑むのには少々危険だ。

 誰かしら経験者がついてしかるべきだろうに。

 

「君は、どこのファミリアに所属しているのかな?」

 

「ええっと……その……」

 

 彼は目を泳がせた。

 所属しているファミリア名を明かせない理由でもあるのか。

 まさか恩恵無しでダンジョンに潜っているんじゃあないだろうな。

 

「すいません、諸事情でちょっと話せないんです」

 

 神は下界の者達の嘘を見抜く。

 しかし、嘘を見抜けるだけで心を読む事が出来るわけではない。

 今の彼のようにだんまりを決め込まれれば秘めたものがバレる事は無い。

 まあ、不信感を募らせることに変わりはないのだが。

 

「じゃあ質問を変えようか。何故君は一人でダンジョンに? パーティは組まなかったのかな?」

 

「ついてきてくれた人が遠征に参加してしばらく来れなくなったんです」

 

「何処のファミリアの冒険者かな?」

 

「『ロキ・ファミリア』です」

 

 驚いた。

 そういえば先日『ロキ・ファミリア』が到達階層記録更新のための遠征に出たという話を小耳に挟んだ。

 話の筋は通っている。

 

「あの、ディオニュソス様……?」

 

「彼は嘘は言っていないね」

 

 身元がある程度保証されたが、ますます彼の事が分からなくなってきた。

 『ロキ・ファミリア』と繋がりのある名前を明かせないファミリア……さっぱり思いつかない。

 

「ふ~む……そうだ! 『ロキ・ファミリア』の遠征が終わるまでうちのフィルヴィスをつけよう」

 

「えっ……?」

 

「……は?」

 

 突然何を言い出すんだ我が主神は!?

 

「フィルヴィスの実力は私が保証しよう」

 

「いや、そういう事じゃあ無くて」

 

「一体何故そんな話になるんですかディオニュソス様!? それに私にはディオニュソス様の警護や団長としての仕事が……」

 

「別に丸一日警護をする必要はないだろう。それにここ最近は滅多に拠点に顔を出さないじゃあないか。それで団長としての責務を果たしていると言えるのかい?」

 

 ディオニュソス様の言葉に対して私は何も言い返せなかった。

 今、実際にファミリアをまとめているのは副団長のアウラだ。

 私が彼につけばファミリアの運営に支障が出るとはっきり言えないのが辛い。

 

「何か嫌がってるみたいですし、俺はこれで……」

 

「あーッ、ちょっと待ってくれ!」

 

 どうやらディオニュソス様は彼をそのまま帰す気は無いらしい。

 反論する気も失せた。

 もうどうにでもしてくれ。

 

「そういえば名前を聞いていなかったね。私はディオニュソス。こっちがフィルヴィス・シャリアだ。うちのファミリアで団長をしている」

 

「ジョシュア・ジョースターです。長かったら気軽にジョジョって呼んでください」

 

 

 

 

 今更だが、何故私は新人教育の真似事をすることになったのだろうか。

 おまけに他所のファミリアの新人を、だ。

 ディオニュソス様はいい気分転換になるだろうと笑っていたが、私にそんなものは必要ない。

 

「い、いい天気ですね」

 

「ダンジョンに天気は無い」

 

「そ、そうですね。はは……」

 

 さっきからジョースターはこの調子で私に頻りに話しかけてくる。

 下心の有無はどうでもいい。

 どちらにしろ私はこの少年に入れ込むつもりはない。

 どうせ短期間限定でパーティを組んでいるだけなのだから、変に情が湧いても困る。

 

 彼については、腕前に関しては目を見張るものがあった。

 私からすればまだまだだが、身体捌きや剣捌きはそれなりに出来ている。

 一か月でこれなら上々の部類だろう。

 独学でここまで来たのか、それとも師が優秀なのか。

 

 懐かしい気分だ。

 私も駆け出しの頃はああやって色々と試行錯誤しながら何が最適なのか模索したものだ。

 

 あの頃に戻る事が出来たらどれだけ幸せだろう。

 

 そう思っていた私は、ふと肌がざわめくのを感じ取った。

 

「気をつけろ、何か来るぞ!」

 

「は、はいッ!」

 

 現れたのはモンスターであった。

 だが、定石の様な1体や2体ではない。

 モンスターはどんどん生まれ続けて、目測でも10体を軽く超えた。

 それでもなお私達を囲むように増え続けている。

 

 バカな、上層の、しかも4階層で『怪物の宴(モンスター・パーティ)』だと!?

 

「おい、私から離れるなよ!」

 

「はい!」

 

 4階層のモンスターであれば強くてもダンジョン・リザードかフロッグ・シューター程度。

 それくらいであれば大した問題ではないのだが、この数で、しかも駆け出しを連れているとなると話は違ってくる。

 いっその事、彼だけここから逃がしてしまった方が良いかもしれない。

 

 そう思っていたが、彼は思いの外頑張っていた。

 群がってくるモンスターの群れを切り捨て、殴り飛ばし、蹴り飛ばす。

 攻撃の際に一瞬光って見えたのは何かのスキルだろうか。

 

「だっ!?」

 

 他のモンスターに気を取られて反応が遅れたのか、彼は数匹のゴブリンに群がられていた。

 

 それに気が付いた私は周囲のモンスターを剣で払い、即座に道を作る。

 

「くっ、待っていろ! すぐカバーに――――」

 

「『皇帝(エンペラー)』ッ!」

 

 彼は険しい顔でとても短い呪文のようなものを唱えた。

 すると、彼に群がっていたゴブリン共が額から血を流してそのまま落ちていく。

 他のモンスター達は彼が起こした謎の現象に戸惑っている。

 

 今のは一体――――否、今はそんな事を考えている時間は無い。

 何だか知らんが隙が出来た。

 あそこからならモンスターの群れから抜け出す事が出来る。

 

「ついてこい!」

 

「はい!」

 

 ここまで来たら私の魔法で殲滅してしまった方が早い。

 この数だと全ては無理でも逃げるだけの時間を確保するくらいは出来るだろう。

 

「【一掃せよ、破邪の聖杖(いかづち)】」

 

(雷……? 電気って確か……あった、これこれ!)

 

「【ディオ・テュルソス】!」

 

「ふんッ!」

 

 おい待て、今何を投げた!?

 

 彼が投げたのは何かが入った瓶。

 それは空中で割れると中身がモンスターの群れにかかり、それとほぼ同時に私の電撃が炸裂した。

 

 モンスターの群れは炎上した。

 

 こうも見事に炎上したとなるとさっきの瓶の中身は酒やオイルのような可燃性の液体だろうか。

 生き残ったモンスターもいたが、この惨事を見てそのまま蜘蛛の子散らすかの如く逃げていた。

  

「魔石が……泥が……勿体ないなぁ」

 

 いや、炎上させた原因はお前だからな?

 

 礼儀正しい良い子かと思いきや突拍子も無い事をしでかす。

 訳の分からない子だ。

 

 

 

 

 一難去ってまた一難という言葉がある。

 

 それはきっと今の私に当て嵌まる言葉なのだろう。

 

「おおっ、ダンジョン・リザードの色違いだ!」

 

 目の前にいるのは彼の言う通り青い色をした通常とは違うダンジョン・リザード。

 所謂強化種というやつだ

 

 何でこんな駆け出しが来るような階層に強化種が、しかも5体もいるんだ!?

 ある意味インファント・ドラゴンよりもレアだぞ。

 

 昨日の『怪物の宴(モンスター・パーティ)』といい強化種の出現といいこれを偶然の一言ですませていいものなのか。

 

 これではまるで――――。

 

 その思考をすぐさま振り払った。

 もし、それを認めてしまったら私は……。

 

「どうかしました?」

 

「いや、別に……」

 

 強化種とはいえダンジョン・リザード、『怪物の宴(モンスター・パーティ)』程苦戦はしなかった。

 それにしても昨日の今日で中々の成果を出している。

 今の所4階層までと言われているそうだが、1体とはいえダンジョン・リザードの強化種を倒した技量を考慮すれば7階層くらいまでならやっていけそうだ。

 まあ、判断を下すのは私ではないから別に言葉にする必要は無いのだが。

 そもそもこの二日間で彼に何かを教えた記憶が無いな。

 

「そういえば取り分って……」

 

「全部持っていけ。子どもから取り上げる程金銭に困ってはいない」

 

 そういえば昨日は全部燃えてしまって取り分云々の話は無かったな。

 金銭に困っていないのも事実だが、4階層の稼ぎ何て貰っても仕方ないというのが本音だ。

 それに以前彼から魔石や装備を巻き上げようとしていた連中と同類になりそうで気分が悪い。

 

 

 

 

 次の日は特にこれといったことは無かった。

 というよりこれが普通だ。

 この辺であればモンスターが群れで出現する場合は多くても3体程度。

 あの二日間が異常だっただけだ。

 

 しかし、このままでいいのだろうか。

 もし、あの異常なモンスターの出現の原因が私にあるとしたら、彼はまた死の危険に晒される。

 私という死を運んでくる妖精に殺される。

 

 何も変わらないままなのか。

 今までのようにパーティメンバーを死なせて終わるだけなのか。

 

 彼は駆け出しだ。

 おそらく私の悪評については知らないのだろう。

 知っていたらこうやって一緒にパーティを組むことは無かった。

 

「今日もありがとうございました」

 

「ああ」

 

 なんというか、律儀な子だ。

 半ば強引に決められたようなものだというのに。

 

 私はもう少しダンジョンに潜ってから宿に戻ろう。

 そう思ってふと、視界の端に見覚えのある顔を捉えた。

 

 何処かで見たことがあると思ったら、私が()()()3人組の一人だ。

 妙にコソコソと彼の後をつけているのが気になる。

 嫌な予感がして私は後を追った。

 

 私は後を追った事を後悔した。

 

 そこにあったのはあの3人組が彼に絡んでいる場面だった。

 しつこい連中だと身を乗り出そうとして、連中の言葉で足が止まった。

 

「まだ駆け出しだっていうのに『死妖精(バンシー)』に魅入られちまうなんて運がねえなァ~? そうは思わねえか、え?」

 

「近いうちに記録更新か? 一体何人殺しちまったんだろうな」

 

「ファミリアでも孤立してるって話だぜ。団長が孤立って笑えて来るぜ。そうだよな?」

 

 足が動かなかった。

 頭がどうにかなりそうだった。

 普段ならいつもの罵声だと聞き流していた筈なのに。

 

 何故私はショックを受けているんだ!

 何故私は逃げているんだ!

 

「はは……」

 

 乾いた笑いが口から零れる。

 

 やはり、最初からこんな事をすべきではなかったのだ。

 

 組んだのはほんの少しの間であった。

 だが、まるで駆け出しだった頃の私を見ていたようで、楽しかったあの頃を思い出す事が出来た。

 もし、『(かつての私)』に拒絶された時、私は耐える事が出来るのだろうか。

 

 また拒絶されるくらいなら、また失うくらいならいっその事、私から離れた方が良い。

 

 そして私は彼の許へ行くのを止めた。




次回で二人のエルフ編は終了です。
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