転生者が奇妙な日記を書くのは間違ってるだろうか   作:柚子檸檬

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8月中に投稿したかったけど無理でした。
ちょっと遅いけどUA30万突破ありがとう。
これからもよろしくお願いします。


『千の妖精』は気に入らない

 (レフィーヤ・ウィリディス)(ジョシュア・ジョースター)の出会いは最悪のそれと言っても差し支えない。

 

 あの日、私は憧れのアイズさんに直接話しかける練習をするための写真を手に入れるために一部のマニアに有名なブロマイド屋に行っていた。

 恥ずかしいからサングラスとマスクとローブで正体を隠してだ。

 

 しかし――――。

 

「えっ、売り切れ!?」

 

「ああ、『剣姫』は人気だからねぇ。ついさっき売り切れちまったよ」

 

「次の入荷は!?」

 

「ここの入荷は不定期だよ」

 

 そういえばここの店は店主が趣味でやっているから定期的な入荷は無いと聞いた事があった。

 

 せっかくいい天気だというのに私の気分は曇天だ。

 

「失礼。あの、これもください」

 

 私がぐぬぬとしていると横から紅いマフラーをつけた同年代の少年が割って入ってきた。

 仕方ないと思って私はしぶしぶとレジを譲る。

 

「毎度どうも。……ああ、この子が最後の一枚を買ってったんだよ」

 

 店主の思いがけない一言に天はまだ私を見捨てていないのだと歓喜した。

 どうにかして彼からアイズさんのブロマイドを譲ってもらいたい。

 

「あ、あの! さっき買った『剣姫』のブロマイドを譲ってもらえないでしょうか?」

 

「嫌です」

 

 即答だった。

 もうちょっと考えてくれても良くないだろうか。

 

「倍! 購入価格の倍出しますから!」

 

「断る」

 

 彼は心底鬱陶しそうに私の提案を断った。

 こうなったらこちらもなりふり構ってはいられない。

 

「分かりました。5倍出します!」

 

「10倍」

 

「は?」

 

 こいつは何て言いましたか?

 10倍、つまり2万ヴァリス。

 ちょっといい武器が買える価格になっちゃうんですけど?

 これだと確実に予算オーバー。 

 それは吹っ掛け過ぎじゃあないでしょうかね?

 

「じゅ、10倍はちょっと……」

 

「じゃあさっさと諦めて帰ってくれ、変質者と一緒にいていらん誤解をされたくない」

 

「はぁ!?」

 

 私はこの時、頭に血が上って自分が変装していたこともすっかり忘れていた。

 

「あ、やべッ! 逃げるんだよォォォーーーーーッ!」

 

 少年Aは逃げ出した。

 

「ま、待ちなさい!」

 

 しかし私にまわりこまれた。

 術師とはいえレベル2の身体能力を舐めないで欲しいですね。

 でも思った以上にすばしっこい。

 何処かのファミリアの冒険者なのか、それとも何か格闘技でもやっているのか。

 

 でもこの際どうだっていい。

 とりあえずとっ捕まえて変質者の汚名を返上させてみせます。

 

「ちっ、仕方ねえ」

 

 逃げるのを諦めたのか、少年は足を止めた。

 

「『ジェイル・ハウス・ロック』ッ!」

 

 彼はまるで呪文でも唱えるかのように叫んだ。

 しかし、私には分かる。

 彼からは魔力の流れを感じない。

 つまりこれはただのブラフ。

 

 ――――私の頭の中が真っ白になった。

 

「……あれ? 私、何してたんだっけ?」

 

 そうだ、そういえば……。

 

「ブロマイド屋に行って……」①

「そうだ、マフラーの子に先を越されてて!」②

「その子の事を追いかけて……」③

 

 

「……あれ? そういえば私、何でここにいるの?」①

「そうだ、アイズさんのブロマイドを買いに行って……」②

「マフラーの子に先を越されてて……!」③

 

 

「……あれ? 私、何してたんだっけ……? う~ん……」①

 

 私はその後、夕食まで帰ってこなかった事に心配して探しに来たリヴェリア様に回収されるまでそこで彷徨っていたらしい。

 

 

 

 

 あれから半年以上経過しているけど、あの少年の正体はさっぱり分かっていない。

 ふと思い返してみたけれど、あれは魔法というより呪詛(カース)の類なんでしょうか。

 

「本当、結局あれは何だったんだろうなぁ……」

 

「どうしたのレフィーヤちゃん? またアイズさんの事?」

 

 談話室でダレてた私に話しかけたのは友人のリーネちゃんだった。

 種族やレベルが違えどこういった同世代で同性の友人というのは貴重だ。

 

「そうなんですよリーネちゃん! アイズさんがモンスターをあっという間に切り裂いて……」

 

「ふふ、羨ましいなぁ。私はまだレベル1のままだから……」

 

 その言葉に重い気持ちになった。

 レベル1では遠征の荷物持ち(サポーター)にすらなれない。

 私はレベル2である事と、自分の魔法である召喚魔法(サモンバースト)が評価されて遠征への同行を許されているけど、リーネちゃんはレベル1な上にスキルが発現しているわけでもない。

 当然、遠征では居残り組だ。

 

「レフィーヤちゃん。私ね、次の遠征で結果を残せなかったら冒険者辞めようと思うんだ」

 

「そんな!」

 

 リーネちゃんの言う遠征はレベル1やレベル2のランクアップを目的としたもの。

 勿論私やリーネちゃんも参加したことがある。

 しかし、リーネちゃんは付いていけず、よく途中でリタイヤしていた。

 

「私って才能無いのかなって。最近は『ステイタス』の伸びも……」

 

「辞めてぇんなら辞めちまえばいいじゃあねえか」

 

 突然の物言いに顔を上げると、そこにいたのは『凶狼(ヴァナルガンド)』の二つ名を持つ狼人(ワーウルフ)、ベート・ローガさんがこちらを見下していた。

 私はこの人の乱暴な物言いが嫌いです。

 

「強くなるのを止めた雑魚に居場所はねえ。とっとと故郷にでも帰れ」

 

「そ、そこまで言う事無いでしょう!? もっと言葉に気をつかったって……」

 

「そうすれば事実が変わるのか? 優しい言葉でも掛けてやればこいつは強くなれんのか?」

 

 言い返せなかった。

 結果を出している私が慰めてもただの上から目線によるもの。

 本当の意味で彼女の気持ちを分かってあげられるわけじゃあない。

 

 黙っていた私にベートさんはつまらなそうに鼻を鳴らしてその場を去った。

 私は何て言うべきだったのか分からなかった。

 それが悔しくて仕方なかった。

 

「こんにちは、此度は……」

「うるせえ邪魔だ」

「ああ、やっぱりダメだったよ……」

 

 ベートさんは話しかけてきた相手を無視して何処かへ行ってしまった。

 今度はこちらに歩いてくる足音がする。

 ベートさんに無視された相手でしょうか。

 

「あの、今回の遠征に加わらせて貰う『ジョシュア・ジョースター』っていいます」

 

「あっ、これはどうもご丁寧に……」

 

 なんだか何処かで聞いた事ある声だなと思って顔を上げたら、そこに居たのは例のブロマイドを買っていった少年だった。

 

「あ……あな……」

 

「穴?」

 

「あ、あなた! あの時の!」

 

「あの時ってどの時ですか?」

 

 今更しらばっくれるとは白々しい。

 今ここで成敗してくれる。

 

「あの、どうしたんですかこの人」

 

「いや、普段はこんな娘じゃあないんですよ……。レフィーヤちゃん、どうしたの? なんだか数年来の敵を見るような眼をしてるけど」 

 

「この人だよ! 私を錯乱させたのはこの人!」

 

「はぁ? 何の事だよ……?」

 

「ちょっと二人とも落ち着いて!」

 

 リーネちゃんが仲裁に入るも、私の熱は収まらない。

 というか何処までとぼける気なのか。

 それとも本気で覚えていないのか。

 それはそれでムカつく。

 

「ブロマイド屋で! アイズさんのブロマイドを! 買っていったでしょ!」

 

「ブロマイド? …………あー(そんな事もあったような、なかったような)」

 

「思い出しましたか!? なら言う事があるでしょ!」

 

「え、ああ分かったよ。和解の印にほら」

 

 少年はそう言って鞄から何かを取り出した。

 それは私が欲しがっていたアイズさんのブロマイドだった。

 しかもご丁寧に傷がつかないよう透明な袋に入っていた。

 

「これ、くれるんですか?」

 

「うん、もう使わないし」

 

 もう使わない?

 モウツカワナイ?

 まさかッ! アイズさんのブロマイドを使って夜な夜な自分の劣情を……!?

 アイズさんのブロマイドであれやこれやしてうらやまけしからん。

 

 僅か2秒でその結論に至った私は下がろうとしていた溜飲が脳天を突き破るかの如く上がってきた。

 

「な、何に使ったって言うんですか!?」

 

「え、そりゃ顔を覚えるためにブロマイド買ってたんだけど……」

 

 ただの考え過ぎだった。

 私の勘違いだったと思い知って今度は怒りではなく羞恥で顔が真っ赤になる。

 

「レフィーヤちゃん、流石にそれは無いよ……」

 

 リーネちゃんにも呆れられてる。

 もう死にたい。

 

 

 

 

 よりにもよって遠征のチーム分けでこの子と組む事になるだなんて。

 リーダーがラウルさんで他にはリーネちゃんと前衛志望のリチャードさんと、ジョシュアって子を考慮しなければ結構手堅い編成なのに。

 

 第一なんで所属ファミリアも明かさない他所者を遠征のメンバーに組み込むのか、その理由が分からない。

 

「じゃあ行くっすよー!」

 

「が、頑張りましょうね?」

 

「足だけは引っ張るなよ」

 

(ああ、前途多難ッスね……)

 

 気に入らない事に、実際は足を引っ張るどころか活躍していた。

 身体能力はレベル1では上位に位置する程度には高く、身の丈には少し大きな剣も上手く使いこなしている。

 

 問題なのは時折全体が光ったり謎のシャボン玉でモンスターを攻撃している事だ。

 

 あれ何?

 魔力は感じないし詠唱もしていないから魔法じゃあないよね?

 そういえば極東の島国には仙術という魔法とは違ったものがあるとリヴェリア様に聞いた事があるからその系統なんでしょうか。

 なんでそれをよりにもよってあの子が使えるんだろう。

 

「ひっ」

 

 気が付いたらリーネちゃんがニードルラビットの群れに絡まれていた。

 あの鋭い角はウォーシャドウの爪よりも鋭くて岩くらいなら簡単に貫いてしまう。

 囲まれて串刺し肉になった冒険者も少なくないと聞く。

 とりあえず突破口を開いてあげないと。

 

「【解き放つ一条の光 聖木の弓幹(ゆがら) 汝 弓の名手なり 狙撃せよ 妖精の射手 穿(うが)て 必中の矢】」

 

 私が使える魔法の中でもっとも速い【アルクス・レイ】でニードルラビットの群れを穿つ。

 詠唱が終わって魔法を唱えようとしたその時だった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 目の前の対処が終わった彼がニードルラビットの群れに突っ込んでいった。

 マズい、もう間に合わない。

 

「避けてくださいッ! 【アルクス・レイ】ッ!」

 

「え? な――――うわっ! 危なッ!?」

 

 【アルクス・レイ】は追尾する魔法だけど私自身が自由に操作できるわけではないので目標の手前にいれば当然巻き込まれる。

 しかし、上手く躱してくれたみたいだった。

 

「オイコラ! 戦闘中に私怨晴らそうとすんな!」

 

「違いますよ! 大体避けろって言ったじゃないですか!?」

 

「直前に言うなよ! 当たるところだっただろうが!」

 

「当たってないじゃあないですか!」

 

「そこ! 喧嘩してたら置いてくッスよ!」

 

 リーダーのラウルさんに怒られてしまった。

 何もそこまで言わなくたっていいじゃあないですか。

 私は戦闘中にフレンドリーファイアかます程器の小さいエルフじゃあありません。

 

 私は何やってるんだろうか。

 よくよく考えたら向こうから和解しようと持ち掛けていたのにそれを不意にしたり、それを踏まえて私が言いたい事をぐっと飲みこめばギスギスした空気にはならなかったかもしれないのに。

 

 10階層入り口で私達が休憩を取っていた時にはわりとやらかしが多かったことに気が付いて自己嫌悪に陥った。

 よくいる高慢なだけのエルフとは違うと思いたかったけど、種族の性質って中々変わらないのかな。

 

 彼は食パンを齧りながらラウルさんやリチャードさんと話をしていた。

 男同士って意外とすぐに仲良くなるイメージがある。

 さっきはリーネちゃんとも少し話をしていた。

 

 やっぱり避けられてるんだろうなぁ。

 

 それとさっきから食パンだったりチーズだったりハムだったりを塊のまま齧っているけど、それならスライスしてサンドイッチにでもした方が食べやすいんじゃあないかと思うんだけど。

 

「ねえリーネちゃん。さっき何喋ってたの?」

 

「んぐっ。……ちょっと相談に乗って貰ってたの」

 

 リーネちゃんは食べていたパンを飲み込んでから少し恥ずかしそうにして話し出した。

 

「強くて羨ましいなって言ったら『こんなのまだまだだ』とか『今だってモンスターと戦うのは恐い』とか」

 

 冒険者は慣れた辺りが一番危険だと色んな人からよく教えられた。

 慣れは慢心となり、慢心は油断によく繋がるからだ。

 

「『恐がるのは恥ずかしい事じゃあない』とか『恐れを知って、それでも一歩を踏み出すのが大事』とか、か。私と同じレベル1なのになんでこんなにも違うんだろうって思っちゃった」

 

 確かにその辺のレベル1とは違う『凄み』がジョシュア・ジョースターという少年にはある。

 

「ちょっと恥ずかしいけど、私にもあんな風に勇気があったらベートさんに『辞めたきゃ辞めろ』って言われなかったんだろうなって思ったら途端に情けなくなって」

 

「リーネちゃん、それは違うと思うよ」

 

 彼女が吐露する中、自然とそんな言葉が口から出てきた。

 

「リーネちゃんはリーネちゃんだよ。羨ましくても妬ましくてもその人みたいになりたいと憧憬を持っても何が正解かなんて誰にも分からない。だからリーネちゃんがなりたいように、やりたいようにするのが一番なんだと思う」

 

 かくいう私だってアイズさんに憧れて魔法剣士になりたいと思っている。

 魔法もまだまだだけど、これだけは譲らないし譲れない。

 

 話を聞く限り、ジョシュア・ジョースターは私が思っているほど悪辣な人物ではないかもしれない。

 ならちょっとくらいは話し合ってみてもいいかもしれない。

 

「あの……」

 

「じゃあそろそろ行くッスよ!」

 

 タイミングが悪すぎた。  

 次の休憩となると辿り着ければ『リヴィラの町』になる。

 もう道中にモンスターがいない時でもちょっと話しかけてみるに作戦をシフトしなければ。

 

 ただ、そう思うように事が運ばないのがダンジョンだった事をすぐに思い知る事になる。

 

「ナルヴィ!?」

 

 ラウルさんが驚くのも無理はない。

 引き返してきたのは先行していたナルヴィさんのチームだったからだ。

 ナルヴィさんのチームの内2名が重傷で他の仲間に背負われている。

 他のメンバーも動けはするけど怪我は負っている。

 

「ごめんラウル、私らはココでリタイアするわ! というかあんた達も逃げた方がいいかも!」

 

 奥の方から聞こえる唸り声、というかこれは最早咆哮の領域だ。

 その姿を見て何故ナルヴィさん達が引き返してきたか理解した。

 

 インファント・ドラゴンだ。

 

 階層主がいない上層では最強を誇るレアモンスターでレベル1やレベル2が集団になってかからないと倒せないほど強い。

 それにその蒼い姿に絶句した。

 インファント・ドラゴンは本来赤っぽい色合いをしている、つまり目の前にいるのは世にも珍しいインファント・ドラゴンの強化種ということになる。

 

「レフィーヤ、魔法の準備を! 他は時間稼ぎ頼むッス!」

 

「はい! 【ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へ(きた)れ】」

 

 逃げるのには遅すぎたと判断したラウルさんは素早く簡潔に指示を出して私の護衛に入った。

 この階層での敵はインファント・ドラゴンだけじゃあない、他にもハードアーマードやシルバーバックのような難敵も多く出てくる。

 私が確実に魔法を使うためにはラウルさんが私を守るしかなく、それ以外の3人でインファント・ドラゴンをどうにかするしかない。

 

 ただのインファント・ドラゴンであったなら、時間稼ぎくらいならあの3人だけでも出来たかもしれない。

 しかし、目の前にいるのはそれの強化種、もしかしたらレベル3が出張らなければいけない案件になる可能性もある。

 

「ガッ―――」

 

 リチャードさんの構えた槍はあっさりと折られて、彼と共に壁に叩きつけられた。

 

「――――かはっ」

 

 リーネちゃんがメイスで叩くも、全く効果は無く、羽虫を払うかのように吹き飛ばされた。

 

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか───力を貸し与えてほしい】」

 

 これが私を『千の妖精』たらしめる魔法。

 

「【エルフ・リング】」

 

 ジョシュア・ジョースターは作り出したシャボン玉ごと尻尾で薙ぎ払われて、リチャードさんと同様に壁に叩きつけられた。彼の剣もその衝撃で壁に突き刺さる。

 

 そうしている間にも新しく出現したオークをラウルさんが切り倒した。

 

 私が今、出来る事はあのインファント・ドラゴンを確実に仕留める事。

 そのために詠唱を続ける事だけ。

 それしか出来ないのが辛かった。

 

「気持ちは分かるッスよ」

 

 ラウルさんは私の心を見透かしたように言った。

 しかしその眼は私ではなく戦況を見ている。

 

「俺も仲間を見捨ててるみたいでいい気分じゃあない。でも、戦いにおいては仲間を信じるしかない事も多いッス。なら、自分がやるべき事をきっちりやって前線で戦っている仲間に報いるのが筋ってもんじゃあないッスか?」

 

 その通りだ。

 私は杖を再度力を込めて強く握る。

 

「【――――終末の前触れよ、白き雪よ】」

 

 私の詠唱に呼応するかのようにジョシュア・ジョースターが立ち上がった。

 まだ薄っすらだが目に見えるほどに光り輝いている。

 まるでまだ生まれたばかりの太陽が必死になって光を届かせようとしているように。

 

「震えるぞハートッ!」

 

 射られた矢の如く彼はインファント・ドラゴンに迫る。

 

「燃え尽きる程ヒートッ!」

 

 宙に跳んでシャボン玉を出して視界を封じる。

 

「刻むぞッ、血液のビートッ!」

 

 僅かに残った視界の外から顔に回し蹴りを放って怯ませる。

 

山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライヴ)ッ!!」

 

 そして渾身の拳による一撃をインファント・ドラゴンの顔面に叩き込んだ。

 不用意に近づけばミンチにされるドラゴン相手に殴りかかる冒険者もそうはいない。

 ただ、彼はがむしゃらになっているように見えて、重い一撃は最初だけで、次からはちゃんと隙を作ってからのヒットアンドアウェイに切り替えている。

 

 インファント・ドラゴンは先程殴られて気が立っているのか彼に釘付けになっていた。

 

「グォォォォォォォ!」

 

「ッ! 危ねぇ!」

 

【黄昏を前に風を巻け】  

 

 ラウルさんの言ったように、今は彼を信じるしかない。

 

「なっ────」

「ぐうぅっ!」

  

 インファント・ドラゴンによる攻撃をリチャードさんが盾で受けて彼を庇った。

 

「ほら! さっきみたいな攻撃をもっとバンバンしろ!」

 

「でも、リチャードさん。腕が折れて……」

 

「仲間を守って攻撃を受けるのが前衛の役目だからよ。それに俺が攻撃するよりもずっといい」

 

「二人とも、来るッスよ!」

 

 ラウルさんの一喝で二人はインファント・ドラゴンに向き直った。

 

「全部受けてたら持たないッスから、避けられる攻撃はなるべく避けて! ジョジョは攪乱でリチャードは避けきれない攻撃を受けるッス!」

 

 攻撃してくるモンスターをあしらいながらも指示を出す口は休まない。 

 

【閉ざされる光、凍てつく大地】 

 

 詠唱ももう少しで終わり、私の周囲に魔力が渦巻く。

 魔方円もその輝きをましてきた。

 

 そして――――インファント・ドラゴンが私を見た。

 

 ここにきて奴はこの場で私が最も危険な敵だと理解してしまったのかもしれない。

 

「マズい! 二人とも、レフィーヤを守るッス!」

 

 ラウルさんもそれに気づいて指示を出す。

 

 だからこそ誰も彼女の踏み出した一歩には気が付かなかった。

 

「ギ――――ガァァァァ!?」

 

 インファント・ドラゴンの眼に剣が突き立てられた。

 今目が覚めたばかりなのか、それとも機を窺ってたのかは分からない。

 でも、リーネちゃんがファインプレーを決めてくれた。

 

「【吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】」

 

「詠唱終わったッスよ! 逃げるッス!」

 

 ラウルさんが声を張り上げた。

 既に限界だったリーネちゃんをジョシュアが担いでリチャードさんとともにラウルさんと合流。

 

 私が今から召喚するのはオラリオ最強の魔導士であるリヴェリア様の魔法。

 実戦でやるのはこれが初めてだけど、弱音を吐いてなんていられない。

 皆が稼いでくれた時間を無駄にしたくないからこそ限界(マインドゼロ)ギリギリまで込めてそれを解き放つ。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】」

 

 展開された三つの氷結晶から放たれるのは時さえも凍らせる絶対零度の吹雪。

 インファント・ドラゴンは逃げる事すら叶わずその周囲ごと凍結し、生命活動を停止した。

 

 私の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 目が覚めたのは『黄昏の館』にある自室だった。

 リヴェリアさまの魔法は思っていた以上に消費が重たくてマインドダウン程度で済ませるつもりがマインドゼロを引き起こしてしまった。

 

 リチャードさんは利き腕を骨折、リーネちゃんは全身を強打して、二人ともしばらくは私と同じで安静にするように言われてしまった。

 ジョシュア・ジョースターは骨にこそ異常はなかったらしいけど、皮膚が裂けていて出血が酷かったと聞いている。

 

 でも悪い事ばかりではなかった。

 私を含めてラウルチーム3名全員が偉業を達成してランクアップ可能になっていた。

 なら彼ももしかしたら、というか一番動き回ってたのは彼だしランクアップしてなかったらおかしい。

 

「おーいレフィーヤ、見舞客が来たでー!」

 

「ロ、ロキ様!? 突然何ですか、せめてノックくらいしてください!」

 

 この神様は悪い(ヒト)ではないんだけど、正直結構苦手だったりする。

 特に隙あればセクハラをしてくるから中々気が抜けないところとか。

 

「それで何の用ですか?」

 

「そんなに身構えなくてええやん……ってさっき見舞客来た言うたやないかーい!」

 

「見舞客……まさかアイズさ――――」

 

「普通にちゃうで。おーいジョジョ、レフィーヤ起きとるでー!」

 

 ちょっと待って、意外過ぎる人物の来訪に心の準備が出来てないんですけど。

 

「し、失礼します……」

 

 彼はおそるおそる私の部屋に入ってきた。

 その姿はさながらダンジョンの罠に警戒する冒険者の様。

 

「ほな、後はお若い二人でごゆっくり。あ、分かっとると思うけどレフィーヤに手ぇ出したら全力で消すから覚悟しときや」

 

 口は笑ってるけど目は笑ってないのが恐い。

 それに私と彼は別にそういう間柄じゃあない。

 それに初めては出来ればアイズさんが……と、今はそういうのは置いといて。

 

「とりあえず座ったらどうです?」

 

「は、はぁ」

 

 私に言われるがまま、彼は近くにあった椅子に腰かけた。

 なんというか、そわそわしていていかにも落ち着かないように見える。

 

「今回の事はちょっと、言い過ぎたと思います、ごめんなさい」

 

「え?」

 

「譲って欲しいとしつこく頼んだ私が悪かったって謝ってるんですよ……」

 

「ああ、そういう事ね」

 

 そう言った彼は鞄から何かを取り出した  

 というかアイズさんのブロマイドた。

 

「ほら、これ。前は渡せなかったから改めて渡すよ」

 

 そういって私が欲しかったブロマイドを差し出した。

 

「本当に貰っちゃっていいんですか?」

 

「いいから渡したんだけどな。にしても本当に『剣姫』が好きなんだな」

 

「ええ、それはもう。だってアイズさんは小さい頃から、確か7歳の頃から冒険者を始めて、知ってますか? ワイヴァーンを倒してランクアップしたんですよ。あ、そういえば私も種類は違うとはいえ竜種を倒してランクアップしたからこれは何かの運命染みてますよね? 私とアイズさんは出会うべくして出会ったってカンジですよね。それとアイズさんの凄いところといえばなんといっても剣捌き。中層くらいのモンスターなら一瞬のコマ切れになっちゃうんですよね。私も魔法剣士になったらあんな風になりたいなぁ。それとアイズさんと代名詞とも言える風魔法も凄いんですよね。ゴライアスくらいならもうソロで倒せちゃいますよ。あとあと、クール過ぎてちょっと恐いかもっていう人もいるんですけどね、アイズさんはああ見えて結構可愛いところも多いんですよね。これがまたギャップになってアイズさんの凄さを引き立てているというか、まさにバニラの甘味を塩で引き立てているみたいで本当にアイズさんはカッコ可愛くて。もうアイズさんサイコーで。サイコーといえばアイズさんってファンクラブもあるんですよね。残念な事に私はまだシルバークラスなんですけどいずれ私もプラチナクラスの会員になって、ああ、これがそのカードなんですけどね。なんか凄いハイテクな技術が使われてるカードらしくて。ってアイズさんの事でしたよね……」

 

 これでもかというくらいアイズさんの事を聞かせたら途中で『なんかもうお腹いっぱい』とウンザリした顔で帰っていった。

 

 ちなみにブロマイドはいい感じの額縁が手に入ったので、それに入れて飾っている。

 




アンタレス……ジッパー……う~ん、何かひらめきそう。
ひらめいたからなんだって話ですけどね。

次回からまた日記に戻ります。

怪文書は気づいたら増えてるかもしれないゾ。
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