転生者が奇妙な日記を書くのは間違ってるだろうか 作:柚子檸檬
□月〇日
今日はちょっとした事件があった。
お姉さんの家に遊びに行こうとしたら途中でならず者3名に捕まってそのまま連れていかれた。
行先は俺と同じくお姉さんの家。しかし、俺と違って遊びに来たわけじゃあ無いようだ。
ならず者3名はあろうことか、俺を人質にしてお姉さんを捕まえるらしい。『ルドラ・ファミリア』がどうの『疾風』がどうのとよく分からない単語はあったものの、要約すればこのクズ3名はお姉さんを逆恨みしていて、恨みを晴らしに来たようだ。
そしてどうやら自分達じゃあお姉さんには敵わないってんで俺を人質に取って嬲ろうって腹づもりらしい。
俺のせいでお姉さんに被害が行くっていうんなら俺が何とかしないと示しがつかない
お姉さんは「私はどうなってもいい。でもその子どもは無関係だから離しなさい」と俺を庇ってくれている。でも、ゲス3名の様子を見る限り子ども一人殺すくらいわけは無さそうだ。もしかしたら俺とお姉さんを殺した後に村で略奪を始めるかもしれない。
そんな事はさせないぞと言わんばかりに俺は『ザ・グレイトフル・デッド』を出して老化ガスを振りまいておいた。
この距離だとお姉さんにも被害が出るかもしれないが、女性は男性より基礎体温が低いうえにカス3名よりガスから遠いからこいつらが
最悪こんなこともあろうかと『エニグマ』でファイルしておいた氷嚢でお姉さんの身体を冷やすって手もあるし。
俺の予想通り、3馬鹿は年寄り姿になって碌に歩く事さえ出来なくなった。
やっぱりプロシュート兄貴はすげえや。
お姉さんも全く老化せずに……とはいえ老化しなさすぎないか?
基礎体温が低いとはいえ全く効果が無いわけではない筈だ。トリッシュは女性である事に加えて冷たいドリンクを飲んでたから老化のスピードは大分遅れていたが、お姉さんは身体を冷やすような事は何もしていないのに。
そのお姉さんは「君の後ろにモンスターがいるから早く逃げなさい! 私の事はいいから!」と必死な声で叫んでいた。
俺の後ろにモンスターなんていないよ。
俺の後ろにいるのは今出している『ザ・グレイトフル・デッド』だけだし(『ザ・グレイトフル・デッド』の見た目は怪物そのものだが)。
まさか――――きさま! 見えているなッ!
色々試してみたら、どうやらお姉さんにはスタンドが見えているようだ。お姉さんにスタンド使いとしての素養があるのだろうか、それとも別に理由でもあるのかは今後検証の余地がありそうだ。
スタンドが見えている以上、事情を話しておいた方がいいと思った俺はスタンドについて説明した。そしたらお姉さんも自分の事を話してくれた。
どうやらお姉さんはマジもんの女神様だったようで昔はオラリオでも力のあるファミリアを経営していたらしく、悪事を働く連中を取り締まっていたそうだ。
だが、お姉さんのファミリアのメンバーは悪い連中の罠にかかってほぼ全滅。唯一生き残ったリュー・リオンという人も、お姉さんを都市外に避難させた後、罠に嵌めた連中に報復しに行ってそのまま音信不通になってしまったそうだ。
思ってた以上に悲惨だった。
どうしよう、かける言葉が見つからない。
とりあえず気絶してるクソカス3名は『ヘブンズ・ドアー』でルドラ・ファミリアとやらの情報が書かれているページを千切ったのちにセーフティーロックをかけてから村の警備員に引き渡した。
俺の『ヘブンズ・ドアー』は岸部露伴先生のとは違ってただ絵を見せるだけじゃあ本に出来ないのが難点。
相手の意識が混濁していて、尚且つ俺が描いた絵を直に見せなきゃ発動できないっていうね。
発動できりゃあ凄いんだけどさ。
絵は独学で勉強してるけどまだまだですよ。
そしてお姉さんは念のために家に連れて帰った。
『エアロスミス』で周囲を警戒してあの3人しかいなかったのが分かっていたとはいえ、今後も刺客が送り込まれないとは限らないしね。
事情を話したら親父と母さんはお姉さんを温かく迎えてくれた。
二人はお姉さんが神様だと既に知っていたみたいだが、襲撃を受けたのには驚いていた。
その割に俺が襲撃犯3名を一人で相手取った事には驚いていないのはどういう事だ。まだ11歳なんだからちっとは心配してくれよ
お姉さんはしばらくはうちで匿う事になったのだが、母さんがチート級に強いとはいえ数の暴力で来られたら村にも被害が出る。
お姉さんは遅かれ早かれこの村を出ていった方が良いと親父は言っていた。
でも逃げて逃げて逃げ続けているだけじゃあお姉さんに安息が無い。
何かいい方法は無いものか。
□月×日
お姉さんの拠点について頭を巡らせていたらジョジョ5部『黄金の風』の影の功労者に行きついた。
その名はココ・ジャンボ。
ジョジョのゲーム
その辺の亀に『ミスター・プレジデント』のDISCをぶち込んだらココ・ジャンボが出来ないかなと思いながら何匹もの亀に試してみたら出来た。『ホワイトスネイク』で初めてスタンド使いを作った瞬間だった。
ただし、本物と違って調教されてないせいかまだスタンドのオンオフは出来ないようだ。それはこれから教えていけばいいだろう。
そして当たり前だが亀の中は家具も何もないただっ広い空間があるだけだ。
家具はお姉さんの家にあったものや、壊れて粗大ごみとして捨てられてるのを『クレイジー・ダイヤモンド』で修復した後に『エニグマ』を使って紙にしてココ・ジャンボの中で解放してやればいい。
原作のように高級ホテルのようなレベルとまではいかないにしろ、人が住むのに不自由しない空間があっという間に出来上がった。
お姉さんに見せたらお姉さんは絶句していた。
オラリオの何処を探してもこんな拠点は無いそうだ。
ちょっと、いやかなり疲れたけどお姉さんの安全確保は何とかなりそうだ。
まさか追手もお姉さんが亀の中の異空間にいるとは思うまい。
□月△日
今日は珍しくお姉さんから頼まれ事をされた。
もしスタンドの中に人探しが出来るものがあれば探して欲しい人物がいるそうだ。
言わなくても予想がつく、報復に行ったっきり音信不通になったリオンって人の行方が知りたいんだろう。
お姉さん自身でも恩恵が途切れたかどうかで生死の判別は出来るそうだけど、恐くて出来ないそうだ。
仮に生きてたとしても生きてる=無事とは限らないしね。
こういう時に頼れるのが『
親父の部屋の棚にあるポラロイドカメラみたいな魔道具をパク……もとい拝借して早速お姉さんの前でやってみた。
俺の腕力じゃまだジョセフみたいにカメラを叩き割れないので、ちょいと格好悪いけど手のひら大の石をぶつけて破壊した。
出てきた写真に写っているのはウェイトレスのような格好をした女性エルフ。
お姉さんの反応を見る限りこの人がそのリオンって人で間違いないようだ。見た感じ大怪我をしているわけでも捕らえられてるわけでも無さそう。
涙を流しながら写真を抱きしめて喜んでいるお姉さんを見て、スタンドの自主練をしておいて良かったと心の底から思ったよ。
問題は生きてると分かっただけで何処にいるか分からない事なんだよな。
クレDでカメラを直しながら念写を何回か繰り返せば居場所くらいは分かるかな。
□月☆日
リオンさんの居場所が分かった。
居場所特定のために念写をしていたら『豊穣の女主人』と看板に書かれている建物がよく写ったから多分そこで間違いない。
それでその建物が何処にあるかを念写したらあの『
オラリオかぁ、お姉さんの話で良く聞いてるけど興味は尽きない都市だったりする。
『
こんな英雄になってみたい。
前世じゃあ何かを成し遂げる前に死んだんだから今世で何かを成し遂げたいと思ってもいいだろう。
ふと思ったんだが、俺がお姉さんの眷属になれば、ファミリア再興の足掛かりになるんじゃあないだろうか。
うーん、俺自身がきっかけっていうのはちょいと傲慢が過ぎるかな?
どっちにしろ眷属が居なきゃファミリアは成立しないわけだし、明日にでもお姉さんに頼んでみよう。
□月@日
お姉さんに眷属にしてくださいって頼んだら普通に却下された。
自分の居場所がバレた事も俺のせいじゃあ無いし、隠れ家作ってくれただけでも十分だと気をつかってくれている。
でもね、何かしてあげないと罪悪感がやばいし、オラリオには単純に興味あるし、お姉さんをリオンさんと会わせてあげたいしとこっちにも色々あるんですよ。
説得してみたものの、お姉さんは俺が子どもだからもう危険な目に遭わせたくないと断固として拒否してくる。
俺を利用しようと思わないのは優しい性格故なのか、それとも一度ファミリアが潰れて燃え尽きちゃっただけなのか、俺個人では判断に困る。
ちなみに両親にオラリオで冒険者になりたいって言ったら「そっか、頑張んなよ」と言われた。
何かおかしくないですか?
普通もうちょっと引き留めたり、もっと大人になってからにしろとか言わない?
今更だけどうちの両親放任主義過ぎませんか?
いやまあジョジョってあんまり両親揃ってまともって例は珍しいからこれが妥当なのか?
□月¥日
ここ数日、ひたすらお姉さんに頼んでみたけどやっぱり駄目だった。
そしてとうとう「オラリオに行ったら他にも主神がたくさんいるからその神達に
他の神々なんて言われても俺はお姉さんしか神様知らないし、お姉さんだから力になってあげたいって思ったのに、他の神様選んだら本末転倒だと言い返したら押し黙って何も言い返してこなくなった。
もしかしてお姉さんは押しに弱い?
□月*日
今日もお姉さんに頼みに行ったら、昨日までと違って眷属になる上で条件を出された。
その内容とは以下の通り。
1、勝手な行動は控える事。
2、無理、無茶、無謀な行動は出来る限りしない事。
3、オラリオではスタンドの使用はともかくスタンドについては無暗に言い触らさない事。
4、俺の母さんに合格点を貰うまで鍛えて貰う事。
4番目の難易度がずば抜けて高い事を除けば別段おかしな内容じゃあなかった。
スタンドについてだって知られなければそれだけで優位に立てるんだから態々言い触らす事にメリットは無い。
とりあえず母さんに相談したら今日からペースを上げてよりみっちり鍛えられる事になっちゃったよ。
さて、俺は果たして合格を貰うまでに五体満足でいられるかな?
――――そして一年もの時が過ぎた。
◆
「じゃあアストレア様。うちの息子をよろしくお願いします」
「はい、あの子は私が責任もってお預かりします」
不思議な力を持つ少年、ジョシュア・ジョースター。
私が出した課題を一年でクリアしてみせた男の子。
結局私はあの子の真摯な言葉に押し切られてあの子を新たな眷属として迎え入れる事にした。
正直な事を言うとまだ自分の中にも燃え尽きずに燻っていたものがあったのかもしれない。でも、そんな自分勝手であの子の運命を捻じ曲げるような真似はしたくなかった。
でも、彼はそれを望んでひたすら力をつけ続けた。
それが私にとってはどうしようもないくらい嬉しかった。
私の中で燻っていたものがどんどん燃え上がるのを感じた。
あんな終わり方は嫌だと私の心が悲鳴を上げているのを感じた。
「あの子には感謝しているんです。多分あの子と出会わなければ、ずっとあの家でリューの生存も知らないまま空虚に生き続けてた」
「言い過ぎですよ、もしかしたら知るのが少し早まっただけかもしれませんよ?」
笑っているのはあの子の母親。
その女性はかつて【
「フーッ、ジョジョもとうとうオラリオに行っちまうのかぁ~。俺の若い頃を思い出すねぇ~ッ」
名残惜しそうに馬車で私を待ってくれているあの子を見ているのはあの子の父親。
その男性はかつて【隠者】と呼ばれた第二級冒険者。
今思えばとんでもない子を眷属にしたわね。
「おねえさーん、もう馬車が行っちゃうよーーッ!!」
あの子の急かす声が聞こえた。
「全くあの子ったら……」
「フフフ、じゃあ私もそろそろ行ってきますね」
リュー、もしかしたらこれから私がすることはあなたへの裏切りになるのかもしれない。
でも、私はもうあなたを独りぼっちにはしたくない。
だから、私はもう一度歩き出します。