転生者が奇妙な日記を書くのは間違ってるだろうか   作:柚子檸檬

4 / 22
ハーメルンに今作を3話くらい投稿したら
何も宣伝していないのに勝手にお気に入り数が増え始め
お気に入り数が4000件を突破した。
あなたならどうする……?
正直プレッシャーで潰されそうですはい


というか投稿遅れてすいません



リュー・リオンは笑わない その1

 私、リュー・リオンは罪人だ。

 親友も仲間も守れずに一人生き残ってしまった罪人だ。

 激情のままに疑わしき者達を殺して回り、オラリオのいたるところに被害を出した罪人だ。

 復讐鬼と化した自分を見て貰いたくないという自分勝手な都合で主神(アストレア様)を都市外へ避難させた罪人だ。

 

 そして復讐を遂げた私に残ったのは虚無感だけだった。

 何故あの日、自分も皆と共に死ねなかったのか。

 何故あの日、あの路地裏で死ななかったのか。

 私に残っているものなんて何もないというのに。

 

 ―――私達のために戦ってくれてありがとう。

 

 彼女(シル)のその言葉に救われた気がした。

 涙を流したのなんて何時振りだろうか。

 私には彼女達が命を賭して守ったものを彼女達の分まで見届ける『義務』がある。

 それが私が今を生きている『理由』になる。

 もう過去だけを見て後悔ばかりしているのをやめよう。

 

 そうして私が『豊穣の女主人』の従業員になってからもう一年以上が経った。

 

 それなりに仕事が板についてきたとは思う(主に配膳と皿洗い)。

 今日もいつものように開店準備をしていつものように滞りなく業務をこなしていき、外は夕日に染まっていった。

 そろそろ仕事を終えた労働者達やダンジョン帰りの冒険者達がどっと押し寄せてくる頃合いだろう。

 

「いや~やってるかーい?」

 

 来たのは胡散臭い男神だった。

 『ヘルメス・ファミリア』の主神ヘルメスといえばちゃらんぽらんで掴み所のない性格で有名だ。

 ファミリア運営を放って勝手に何処かへ行く主神に、団長として就任したばかりの『万能者(ペルセウス)』ことアンドロメダも気苦労が絶えないだろう。

 

 ただ飲みに来ただけならいつもの事だが、今は何故か子どもを連れている。

 年齢は12か13程度の黒髪黒目の少年。

 軽装で長いワインレッドのマフラーをしている以外はごく普通に見える。

 いや、服の内側にちらりと見えた金属の輝きはおそらく鎖帷子のもの。

 

 『ヘルメス・ファミリア』の新人だろうか。

 まさか『通りすがりの少年に絡んだ挙句この店に連れてきた』なんて事は無いだろう。

 

「いやあの……場所さえ教えて貰えればいいんですけど……」

 

「ハハハ、子どもが遠慮する事は無いさ。今日は俺の奢りだよ」

 

「えぇ……(面倒な事になってきたなァ)」

 

 少年は露骨に嫌そうな顔をしている。

 傍から見れば酔っ払いに連れまわされている哀れな少年にしか見えない。

 

「じゃあ……焼き鳥の盛り合わせとオレンジジュースで」

 

「おや、お酒は飲めないかい?」 

 

「お酒は変な味がするんで苦手なんですよ……(もう二度とマッコリなんて飲まんぞ……)」

 

「そういえばまだ名乗って無かったね。俺はヘルメス、君は何て名前だい?」

 

 まさか名前すら知らない少年を連れまわしていたとは、幾らヘルメスがちゃらんぽらんでも知らない子どもを酒場に連れて来るだなんて、頭がイカレてるんじゃあないだろうか。

 

「ジョシュアです」

 

「うん?」

  

「俺の名前はジョシュア・ジョースターです。両親や友人からはよくジョジョって呼ばれてます」

 

「!?」

 

「……へえ、じゃあ俺も君の事をジョジョって呼ばせてもらうおうかな」

 

 ミア母さんが少年の名前にやけに過敏に反応した。

 あの人がこんな風に心底驚く姿を見るのは初めてかもしれない。

 それにへらへらしていたヘルメスも名前を聞いた途端に少年を見る目が変わった。

 

「あの、俺の名前がどうかしました?」

 

「気にしないでいいよ。ほら、オレンジジュース」

 

「はあ、ありがとうございます」

 

 ミア母さんは誤魔化すように少年の前にオレンジジュースを置いて、調理に戻っていった。

 少年のソワソワした態度を見る限り、私には田舎からやってきたおのぼりさんにしか見えない。

 しかし、この二名が目をかけるとなると否が応でも気になってくる。

 

 酒と料理も届いてしばらくした頃、客の入りが増えて目を離さないようにするのが少し難しくなってきた。

 

「それでジョジョ君。ここは綺麗所が揃っているわけだが……ぶっちゃけ、誰が好みだい?」

 

「何ですか突然」

 

「だってこういう酒の場では素面じゃ喋れない事を気軽に喋るのが楽しいんじゃあないか」

 

「(俺は素面なんだけどなァ)いや~みんな美人で甲乙つけ難いですねハッハッハー」

  

 無理をしているのが丸わかりな態度だった。

 年端もいかない少年に何を言ってるんだか。

 

 結局ヘルメスは眉間に皺を寄せたアンドロメダに見つかって、そのまま引きずられて店を出ていった。

 何やら格好つけて意味深な事を言っていたような気がするが、首根っこ掴まれて引きずられていたので酷く滑稽に見えた。

 

「おーいリュー、これ運んでおくれ!」

 

「あ、はい!」

 

 駆けようとした瞬間、足の付け根に違和感が走った。

 今まで気が付かなかったがポケットに何かが入っている。

 はて、ポケットに何か入れていただろうかと隙間の時間を見つけて確認をしてみた。

 

「これは……封筒?」

 

 ポケットに入っていたのは何の装飾も無いありふれた白封筒だった。

 こんなものをポケットにしまった記憶はない。

 こんなことをやりそうな人物といえば先程までいたヘルメスだが、あの男神でも私に気づかれずに懐に封筒を忍ばせる何て真似はまず不可能だ。

 

 私は恐る恐る封を開けて中の手紙を手に取った。

 

「は……?」

 

 思わず手紙を落としそうになったくらいに動揺した。

 それだけ手紙の差出人が衝撃的だったからだ。

 

―――――――――――――――――

 

 親愛なる我が眷属 リュー・リオンへ

 

 返事が遅れてしまって申し訳ありません。

 貴女は今、息災ですか?

 『豊穣の女主人』でのお仕事は順調でしょうか?

 新しく出来たお友達とは喧嘩ばかりしていませんか?

 一度貴女と会ってまた改めて話をしたいと思っております。

 

 女神アストレアより

 

―――――――――――――――――

 

「アストレア……様……」

 

 思わず口に出ていた。

 内容は簡素だったものの、筆跡はアストレア様のもの。

 今日来た客の中で初見の人物はあの少年ただ一人。

 まさかあの少年はアストレア様の関係者だったのか。

 私は即座に封筒を処分し、手紙をポケットに仕舞って動いていた。

 

 戻った時には例の少年は食事を終えて既に店を後にしていた。

 オラリオの規模を考えれば、見失ったら探すのが難しくなる。 

 私はシルに急用が出来たと伝えて少年を探すことにした。

 

 あの少年がただのアストレア様の使者であればいいだろうが、もしあの少年が『アストレア様を捕らえた何者か』の使者であるのなら、あの手紙は私を誘き出すためのもの。

 もし筆跡を真似ていたのだとしたら、内容などいくらでも捏造できる。

 最悪の事態だけは何か何でも避けなくてはならない。

 いつものエプロンドレスから冒険者時代に着ていたような全身を覆い隠すローブに着替えて少年の後を追った。

 

「レラレラレラ♪」

 

 幸いな事にあのマフラーのお陰で少年はすぐに見つかった。

 食事をして気分が良くなったのか、少年は妙な歌を口ずさみながら薄暗い夜道を歩いている。

 私の思い違いだったらそれでいいのだが、そこまで楽観的ではいられない。

 手遅れになってからでは遅い。

 

「おっ、小銭めっけ」

 

 何というか、どこまでも年相応の少年に見える。

 人通りも少なくなってきているというのに少々不用心ではないか。

 オラリオの暗黒期は終わったとはいえガラの悪い冒険者は数多くいるのだからもう少し警戒した方が良いだろうに。

 もしかしたらただの杞憂だったかもしれないと少し気分が緩んできた。

 

 そして彼は拾った小銭を――――

 

「フンッ!」

 

 ――――こちらへと投げつけてきた。

 

 私はとっさにコインを避けて得物に手をかける。

 気づかれていた?

 だとしたら一体いつから?

 

 こうなれば少々手荒な事になってしまうだろうが、それは『覚悟』していた事。

 素早く意識を奪ってから拘束して話を聞けばいい。

 

「『グーグー・ドールズ』ッ!」

 

 少年が何かを叫ぶ。

 まさか魔法が使えるのか。

 私は何が起こってもいいように身構えた。

 

「え……?」

 

 少年は大げさに叫んだというのに私には何の変化も――――いや待て道端にこんなに大きな岩が落ちていただろうか。

捨てられた酒瓶の大きさは自分の身の丈よりも大きかっただろうか。

 目の前にいる少年は自分より数倍大きかっただろうか。 

 

 否、少年は巨大化などしていない。

 自分の身体が小さくなっているのだ。

 

 ┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛

 

 このままではマズいと身を翻して逃げようとした。

 しかし、体格差は目測で見ても5倍以上はある。

 体の小ささを活かして身を隠しながら逃げるしかない。

 

「そんでもって『蛇首立帯(スネック・マフラー)』!」

 

「なっ!?」

 

 少年が首から外したマフラーがまるで蛇のように自在に動いて私の身体に巻き付いて拘束する。

 この瞬間、私が取った対応が失策だったと歯噛みする。

 足掻こうにもこれでは手も足も動かない。

 魔法を使おうにも今からでは遅すぎる。

 

 少年はマフラーを引っ張って私を引き寄せた。

 その衝撃で私の顔が露わになってしまった。

 

「全く、せーっかく人が良い気分で帰り道をあるいてたってのによォ~~ッ。どこの誰だって話だよ。とりあえず波紋流して気絶させてしかるべきところに突き出し……」

 

 不機嫌そうな少年は私の顔を見た途端に固まった。

 そして後悔するかのようにもう片方の手で頭を抱えている。

 私には何が起きているのかさっぱり分からない。

 

「マジかよ……ハァ~お姉さんに何て説明すりゃいいんだコレ。でもスタプラとかで攻撃しなくて良かった」

 

「あの……」

 

「あ~リュー・リオンさんですよね? すいませんけど付いてきてもらいます。それと、出来れば抵抗はしないで欲しいです。そうじゃないと『グーグー・ドールズ』があなたを襲っちまう」

 

 少年は私の言葉を遮った。

 『グーグー・ドールズ』とやらが何なのかは知らないが、少なくとも今すぐにどうこうされるわけではないらしい。

 どちらにせよ抵抗は無意味だと思い、現時点では様子見に徹する事にした。

 

 そのまま少年に連れて来られたのはごく普通の宿屋の一室。

 机と椅子とベッド、そして亀が一匹いるだけの部屋だった。

 そして少年は亀の前に立った。

 

「じゃあ行きますか」

 

「行くって何処へ……」

 

 次の瞬間、私は少年ごと亀の背中へと吸い込まれた。

 

「は……?」

 

 私は今日、一体何回絶句しただろうか。

 飾りっ気のない宿屋の一人用の一室がそれなりに調度品が揃った生活感ある空間に変わっている。

 

「あら、おかえりなさいジョジョ。遅かったですね」

 

「すいません、ちょっと予定が早まりまして」

 

「予定?」

 

「『グーグー・ドールズ』解除」

 

「はうあ!?」

 

 マフラーに巻き付けられていた私は突如元の大きさに戻り、思いっきり尻餅をついてしまった。

 元に戻すなら前もって言って欲しい。

 

「え、リュー?」

 

「アストレア……様……?」

 

 聞こえてきた声でまさかとは思っていたが、私の主神である女神アストレアがそこにいた。

 そしてアストレア様はジト目で少年を睨む。

 

「成程、予定が早まったとはこういう事ですか。ジョジョ……貴方はもう少し女性の扱いというものをですね……」

 

「そんな事言われても、メモ書いて同封したのにまさかつけられるとは思いませんでしたし、暴れられたら面倒ですし」

 

「やり方というものがあるでしょう。はあ、後でお説教ですからね」

 

「はーい。二人は積もる話もあるでしょうし俺は外に出てますね。ジョシュア・ジョースターはクールに去るぜ」

 

 私は二人のやり取りを困惑しながら眺めている。

 そして私を連れてきた少年は本人が言った通り上から出ていった。

 そして改めてアストレア様と向き直る。

 

「何故……」

 

 汗が噴き出る

 喉が渇いてきた。

 言葉が思うように出てこない。

 

「何故戻ってきてしまったのですか!!?」

  

 言ってしまった後で思わず口を覆った。

 頑張って絞り出した言葉がこれだった。

 そもそもアストレア様を都市の外へ逃がしたのは私の我儘だ。

 目を背けるのは止めようと思っていたのに、自分の罪が目の前に現れたらこれだ。

 きっと失望されただろう。

 だとしたらもうそれでいい。

 私にはそんな価値は無いのだから。

 

「リュー」

 

 何と言われるだろうか。

 慰められるだろうか、それとも憐れまれるだろうか。

 それならいっそ罵倒された方が良い。

 

「少し、痩せましたか?」

 

「へ?」

 

「ちゃんとご飯は食べてますか?」

 

「あ、はい」

 

「『豊穣の女主人』でしたっけ? ちゃんとお仕事は出来ていますか?」

 

「……はい」

 

「貴女は不器用ですからね、それが心配でした」

 

「えっと……」

 

「シルさんでしたか、友人との仲は良好ですか?」

 

「は、はい……」

 

 アストレア様は優しい眼差しでこちらを見ながら取り留めのない話を続ける。

 それが私を酷く居た堪れない気分にさせた。

 

「ごめんなさい」

 

「えっ」

 

 アストレア様は私に向けて深く頭を下げてきた。

 悪いのは私なのに、何故貴女が謝るのですか。

 

「貴女一人を残してしまって、貴女一人に全てを背負わせてしまって、ごめんなさい」

 

「違う!」

 

 私は叫んだ。

 

「私は誰も守れず、貴女を遠ざけて復讐鬼に成り果て、貴女の、『アストレア・ファミリア』の正義に泥を塗った! 悪いのは私です! 貴女が謝る必要などない!」

 

「あの日、私は貴女の言葉に甘えてしまった。私も同罪です」

 

「あれは私の我儘だ! 挙句……私はブラックリストにも載って……もう、冒険者ですらないのです……」

 

 アストレア様が今どんな顔をしているのか見たくないその一心で、私は目を伏せてしまった。

 そんな私の手を、血にまみれてしまった私の手を、アストレア様は優しく温かい手で包み込む。

 

「たとえ冒険者で無くなっても、リューが私の大事な眷属である事に変わりはありません」

 

 彼女の優しく温かい言葉に思わず崩れ落ちそうになる。

 アストレア様は崩れそうになった私をそっと抱き寄せてくれた。

 駆け出し時代に無理をしてボロボロになった私をこうやって抱き寄せてくれたことがあったのを思い出す。

 

「私を……許してくださるのですか……?」

 

「勿論ですよ」

 

「私は……まだ貴女の眷属でいていいのですか……?」

 

「当たり前です」

 

 自分勝手かもしれない

 けれど、私はずっと誰かに許して欲しかったのかもしれない。

 

 誰かに我が身を預けるのは久しぶりだった。

 誰かの前で思いっきり泣くのも久しぶりだった。

 そしてこんなに安らかに眠ったのも本当に久しぶりだ

 

 安眠し過ぎて仕事には遅れてしまい、ミア母さんにはどやされてシル達やその他同僚には昨夜から行方不明だったことを心配されて誤解を解くのに手間取ってしまった。

 

 自業自得とはいえ、何故起こしてくれなかったのですかアストレア様。

  




ヘルメス「ジョシュア・ジョースターか……果たして彼は『剣姫』のような英雄足りえるか否か……」

アスフィ「何でもいいですけど仕事してくれませんか?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。