転生者が奇妙な日記を書くのは間違ってるだろうか   作:柚子檸檬

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平成最期の投稿になります


六頁目

 #月@日

 

 『ロキ・ファミリア』から派遣されたのは『超凡夫(ハイ・ノービス)』の二つ名を持つラウル・ノールドさんだった。

 オッス口調見た目は平凡でもレベルは3で冒険者歴は5年とそれなりの実力者ではあると思う。

 あんまり荒々しくない男の冒険者と話すのは多分ラウルさんが初めて。

 正直あんまり好スタートを切れたとは言い難い。

 ゴブリンを10体くらい倒した辺りで精神的に限界が来てしまい、まともに歩けなくなった。

 前世だって動物であれ人であれまともに傷つけた事なんて無かった弊害かもしれない。

 肉を斬る感触、飛び散る血、魔物の断末魔、そしてその後に死体から魔石を取り出す作業が俺の正気度をガリガリと削っている気さえしてくる。

 相手がダンジョンが生み出す魔物であっても殺生をしている事に変わりない。

 日記を書いてる今でさえ嫌な感覚が残っている。

 ゴブリン5体で限界だと口に出してしまった。

 ラウルさんは「最初何て大抵こんなもんっスよ」と励ましてくれたけど、自分で自分が情けなくなった。

 期待してくれたお姉さんの所にどんな顔して帰ればいいんだろう。

 鍛えてくれたリオンさんに何て言えばいいんだろう。

 行って来いと背中を押してくれた両親に何て言えばいいんだろう

 時間を割いて付いてきてくれてるラウルさんにも申し訳なかった。

 食事が喉を通らなかった。

 

 

 #月=日

 

 今日もダンジョンに潜った。

 ランクアップもそうだけど一日でも早く、強くならなきゃ。

 いつまでもおんぶにだっこじゃあいられない。

 ゴブリンを6体とコボルドを3体で合計9体倒した。

 記録更新。

 

 

 #月~日

 

 お姉さんが心配してくれているけど、3日でへばっていられない。

 ゴブリン8体とコボルド4体で合計12匹倒した。

 記録更新。

 

 

 #月ー日

 

 ダンジョンに潜ってから一週間がたった。

 自分の波紋の呼吸が乱れている事に気が付いた。

 恐怖に飲まれてるんだ。

 『勇気とは恐さを知る事』『恐怖を我が物とする事』

 恐怖を我が物にするにはどうすればいいんだろうか。

 モンスターをもう100体は倒してるのに初日から何が変わってるのかよく分からない。

 お姉さんには少し休んだ方が良いと言われてしまった。

 リオンさんもダンジョンに慣れるまでしばらく鍛錬は休みと言われた。

 でも、ここで甘えたら強くなれない。

 俺の我儘で今こうしてるんだからせめて結果は出さないと。

 返り血を取るために出した『クレイジー・ダイヤモンド』がやけに弱々しく見えた。

 

 

 

 #月*日

 

 ダンジョンに潜ってから今日で2週間くらいだったかな。

 ダンジョンに潜ろうとしたらゴブリンを数匹倒した辺りでラウルさんに「今日はこれくらいにするっス」と言われて飯を奢られた。

 辛いんなら言ってくれと、苦しいなら相談に乗ると言われて泣きそうになりながら色々話した。

 期待に応えたいのに結果が出せていない。

 『ステイタス』を更新して貰ったけど、どのアビリティもまだHには届いていない。

 覚えていないけど他にも感情に任せて打ち明けた。

 そしたらラウルさんも苦笑いしながら色々話してくれた。

 自分が入団した時には既に5歳も下の先輩がいた事。

 自分が最初にダンジョンに潜った時はゴブリンからさえ逃げ出した事。

 後から入ってきたエルフや獣人に並ばれて、抜かれてを何度も経験した事。

 

 人間(ヒューマン)という種族は小人(パルゥム)程ではないにしろ戦闘能力に乏しい。

 人間(ヒューマン)は獣人やドワーフのように高い身体能力があるわけでもない。

 アマゾネスのような戦闘技術があるわけでもない。

 ましてやエルフの様に魔法に秀でているわけでも無い。

 だから『剣姫』や先代の団長(アリーゼ・ローヴェル)さんのように人間(ヒューマン)の冒険者で名を馳せた冒険者は滅多にいない。

 だからレベル4は『人間の壁』なんて一部じゃあ言われてる。

 そんな現実をラウルさんは『ロキ・ファミリア』で見て来たそうだ。

 

 まだたった2週間っスよ? 

 そんな風に顔を真っ青にして歯を食いしばりながら続けてたら折れちゃうっス。

 せっかくそこまで出来る原動力があるのに、もったいないっスよ。

 それにそんなの君の主神も望まないと思うっス。

 

 その言葉で俺は色々考えさせられた。

 俺の原動力って何なんだっただろうか。

 何故冒険者になりたいんだったか。

 

 悩みを打ち明けられたからか、それとも俺の中で心の整理がついたからなのか、少しだけ気分が楽になった。

 まともに飯の味を感じるのも久しぶりかもしれない。

 

 ラウルさんと別れた後2時間くらいオラリオの空をぼーっと眺めた。

 そして自分がまだ生きている事を実感して、少し泣いた。

 

 

 #月☆日

 

 一晩ぐっすり眠った後にお姉さんに思いっきり謝った。

 まあ、けじめみたいなもんだ。

 大口叩いたけど、すぐに結果が出せそうにありません。

 出来れば早くお姉さんを自由にさせてあげたいけど、それはいつになるか分かりません。

 お姉さんが頭を下げて頼み込んでくれたのに不甲斐ない眷属ですいません。

 お姉さんには怒られてしまった。

 

 何で相談してくれなかったのですか。

 何で私を頼ってくれなかったのですか。

 真っ青な顔で大丈夫だと言ってる俺の顔は見ていられなかった。

 

 俺は知らず知らずのうちに出来もしない事を一人で抱え込んでたみたいだ。

 ラウルさんに諭されなかったらもしかしたら意地張って無理してそのまま手遅れになってたかもしれないと思うと少しゾッとする。

 悲しませたくなかった相手を悲しませて何をやってたんだ俺は。

 そうだよな、一番大切なのは一日でも早くレベルを上げる事じゃあ無くて、無事にここに帰ってくる事だよな。

 母さんの言ってた『死ななきゃ安い』って意味を言葉じゃあなく心で理解出来た。

 

 リオンさんにも謝りに行った。

 お姉さんのと同じ謝罪をしたら、リオンさんも折を見て話を切り出そうとしてたみたいで、なんだか悔しそうだった。

 

 私達11人が背負ってたものを一人で背負い込もうなんて思いあがらないでください。

 話せる悩みであれば相談してください。

 後輩一人くらい気にかける余裕はありますから。

 

 ちょっと毒舌気味だったけど、後輩って言われて不覚にもちょっとジーンと来てしまった。

 リオンさんの同僚の生温かい視線が気になったけど、別に良いや。

 

 

 #月$日

 

 今日から心機一転してダンジョンに挑む。

 相変わらず魔物との戦闘は恐いし、生物を斬った感覚は生々しくて嫌悪感が拭えないけど、何だか最後にダンジョンに潜ってた時とは違う気がする。

 上手く表現できないけど、恐怖や嫌悪感と一緒に負の感情じゃあない何か別のものが湧き上がってくるような、そしてそれが精神を削ってたものを抑えてくれているような感覚があった。

 お陰で前よりも冷静でいられるし、ラウルさんのアドバイスを気にしながら戦う事も多少出来るようになった。

 

 まず、多数を一度に相手にしない事。

 複数の敵を相手に取ればその分攻撃を貰う回数も増えるし消耗もきつくなるのだから出来る限り一対一を何度も行うって戦い方が効果的だ。

 魔物が複数いるのを発見した場合は一体を小石などで小突いて誘き寄せて仕留めるのも一つの手。

 

 次にダンジョン内では気を抜かない事。

 魔物はダンジョン内360°至る所から湧いてくるから常に広い視野を持つのが吉。

 

 最後にポーションはちゃんと買っておくこと。

 一応波紋はあるし、スタンドにも『ゴールド・エクスペリエンス』や『ザ・キュアー』のように自分の怪我を治す手段はあるけど、波紋はあくまで自己治癒能力を促進させるものだ。

 それに別のスタンドを使いながら回復するって状況になることだってあるだろう。

 なら手段は多い方が良い。 

 

 そういえば、波紋の呼吸も前ほど乱れなくなってきた。

 お陰で魔物により効果的な攻撃が出来る。

 そして、改めて気づいたのは、剣の切れ味の良さだった。

 多分鬱屈した気分でダンジョンを潜ってた俺が魔物を切れたのはこの剣のお陰だ。

 実家の物置に錆びた状態で置いてあったのを失敬したものだけど、思いの外良い剣だと思う。

 これからの冒険の験担ぎに『幸運(ラック)勇気(プラック)の剣』と名付けよう。

 (オリジナル)とはそんなに似てないけど、こういうのは気分だよ気分。

 でもやっぱり死体切り開いて魔石を取り出すのには悪戦苦闘する。

 返り血を浴びるのも精神的にキツい。

 ラウルさんにも「こればっかりは慣れるしかないっス」と言われた。

 

 

 #月-日

 

 ダンジョンで魔物から魔石を取り出しながら今更ながらにふと思った。

 『スティッキー・フィンガーズ』で良くね?

 周囲を警戒するためとラウルさんがスタンドを見る事が出来るのか確認するために『エアロスミス』を飛ばしてみたら、やっぱりというかラウルさんには見えていなかった。

 見えないとはいえ不審な動きをすれば怪しまれるからバレないようにするのが難しい。

 それは一先ず置いといて、実際にジッパーで開いて魔石を取り出すと死体を切り開く触感に顔をしかめる事は無いし、血が飛び散る事も無かった。

 

 精神的な消耗が増えた点に目を除けばの話だけどよ~ッ。

 

 『スティッキー・フィンガーズ』は強スタンド。

 何度も出したり引っ込めたりを繰り返せばそれだけでもいつも以上に消耗する。

 バレないようにコッソリやるから余計に疲れる。

 精密動作の精度を上げる為の訓練とでも思えばいいのか。

 スタンドの腕部分だけ展開とか出来たら負担減りそうだけど、何故か全身出てきちゃうし。

 

 今日初めてダンジョン・リザードに遭遇した。

 間近で見ると思ってたよりデカくて結構ビビる。

 コボルドよりも断然大きい。

 でもラウルさんに応援されながら危なげなく倒せた。

 ダンジョン・リザードは爪での攻撃は動作が大きくのもあって案外たいしたことない。

 それよりも壁や天井に張り付いてチョロチョロ動き回るのが非常にウザい。

 ラウルさん曰く『飛び道具があると楽』だそうだ。

 弓矢なんて持ってないし、持ってたとしても使った事なんて無い。

 だから次に出てきたのに対してシャボンランチャーを使ってみた。

 いつも剣で切ったり蹴り飛ばすくらいだったから、ダンジョン内で使うのは何気に初めてだ。

 波紋を飛び道具にするためにシャボン玉を使うと思いついたシーザーの発想力は見習いたいもんがある。

 作中では相手を閉じ込めたり回転を加えて速度を上げたりレンズにして太陽光を集めたりと色々な手段に用いてたけど、まだまだ応用が利きそうだ。

 波紋が籠ったシャボン玉を喰らったダンジョン・リザードは天井から真っ逆さまに落ちて気絶。

 そのままトドメを刺して終了。

 ラウルさんは驚いてはいたけど何も聞いてこなかったな。

 気になって逆に聞いてみたけど、スキルや魔法に関して不用意に聞くのはマナー違反だからだそうだ。

 スキルでも魔法でもないんだけどね。

 お姉さんも『ステイタス』に関しては他人に話さないのが普通だって言ってたし、冒険者って思ってたよりも守秘義務が多いんだな。

 

  

 €月+日

 

 今日も今日とてダンジョン探索。

 リオンさんとの特訓が再開したから疲労も倍になった。

 ラウルさんは明日から遠征でしばらく来れないらしい。

 何だかんだでもうじき一月経つだけに、何か寂しいな。

 しばらくは一人でダンジョンアタックか、ラウルさんにはお世話になったな。

 ラウルさんを見てて指導者に大切なのは人格じゃあないかって思えてきた。

 『ロキ・ファミリア』のような大規模の探索系ファミリアはギルドの要請や到達階層記録更新のために数か月に一度大人数でダンジョンに潜るらしい。

 ちなみに『アストレア・ファミリア』の到達階層は41階層。

 リオンさん含めて11人しかいなかったのにこの記録は脅威だと思う。

 少数精鋭って本当にあるんだな、出来れば一度会って話がしてみたかった。

 今は慌てず騒がずじっくりでいいから力を付ける事に専念しよう。

 それでダンジョンから出た後に一緒に飯を食いながら、いつか必要になるかと思ってダンジョンの遠征について色々聞いてみた。

 中々ためになる。

 上位勢の個々の実力もそうだが、なにより指揮を出してる団長のフィン・ディムナの統率力が凄いそうだ。

 俺も戦術や指揮について勉強しようかな。

 でも団員いないし、というか俺が脱駆け出しする方が先か。

 ラウルさんには遠征頑張ってくださいとエールを送った。

 飯は割り勘だったけど。

 帰り際に「しばらくは4階層までっスからね」と念を押された。

 当分はソロだしそんな無茶が出来る程経験積んでないもんな。

 せめて魔力以外のアビリティの熟練度がオールGを超えるくらいはしないと。

 アビリティといえば何気に今日の『ステイタス』更新で器用と俊敏の熟練度がHに到達した。

 力と耐久はもう少しか。

 

 

 €月+日

 

 早速トラブル発生。

 でもトラブルの方からやってきたんだから俺は悪くねぇッ。

 ダンジョン4階層でちょっと色々試しながらゴブリンとかコボルドとかダンジョン・リザードを狩ってたら後ろからサーベルやら斧やら鎖鎌やらを持った無精髭のおっさん達に襲われた。

 「痛い目見たくなけりゃあその剣と稼いだ魔石を置いていきな」とか言ってきたよ。

 リアル追い剥ぎなんて初めて見た。

 生前じゃあこんな典型的な追い剥ぎや恐喝は漫画やドラマでしか見た事無かったから変な意味で驚いた。

 子ども相手に追い剥ぎするなんて程度が知れる。

 ラウルさんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいね。

 非情にムカつくしオラオラしてやりたい気持ちで一杯だけど、騒ぎを起こせばお姉さんやリオンさんに迷惑がかかるかもしれないから、『アクトン・ベイビー』か『メタリカ』でも使って姿を消してさっさと逃走しようかと思ったらおっさん達は鈍器で殴打されて倒れた。

 俺を助けてくれたのは全身が返り血で血まみれになったエルフだった。

 返り血だけじゃあ無くて普通に負傷もしているようだけど、普通に歩いてるみたいだし大したことは無いんだろう。

 起き上がったおっさん達はエルフさんを見るなり慌てて立ち去って行った。

 「子ども相手に恐喝など恥を知れッ」と吐き捨てるエルフさん。

 うーん、俺は運が良かったのか?

 エルフさんはあっけに取られてた俺にさっさと引き上げるように進言してそのままスタスタと地上に帰ってしまった。

 お礼を言うために追いかけたけど見失って結局お礼が言えなかった。

 




FGOにアストライア実装とか予想外

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